1-10 じゃ、俺の名前を1発で当てたら、考えてもいい

アリサさんに呼ばれて既に決着のついた戦場へやってくる俺。

そこかしこにヒャッハーの躯が転がっていて、また吐きそうになる。

それだけじゃない。

硝煙の匂い。

排気ガスの匂い。

焼け焦げた肉の臭い。

血の匂い。

吐しゃ物の匂い。

死を連想させそうな嫌な臭いだらけの場所。


これが、殺し合いの現場。


そう思うと足が震えた。

手が震えた。


俺がこれを起こしたんだと思うと、目の前が暗くなりそうだった。


1歩間違えればあの同棲させてもらっている子たちがこうなっていたんだ。


よろよろとアリサさんがいるらしい場所へと向かうと、

ずざーっと1台のバギーが横にやってきた。

そして車の窓ごしに俺の肩を掴んできた。


「大丈夫?膝の上に乗る?」


「い、いや、大丈夫」


「無理しなくていいのよぉ?

 お姉さんが慰めてあげるからぁ」


とても魅惑的なお誘いだけど、

流石にジュリアさんの膝の上で戻すとかシャレにならない。


大丈夫、どうしても必要なときはお願いするから、

と出来る限りの笑顔を向けて、アリサさんの居るほうに向かう。


「やだ健気!おねーさん更に好きになっちゃいそう!」


この人本気なのかジョークなのか分からん。







「すまないね、こんな所に呼び出して」


「いえ・・・」


俺が到着すると、そこには両肩両足を何回も撃ち抜かれたサニーカイザーと、

未だに銃を向けて一切油断していないアリサさんが居た。


「カイザー・・・」


「お、おう、お前、たのむ、この人にいってくれ、俺を助けろって」


「は?いや、何言ってんの?」


「同郷人だろう?それに1度は助けたじゃねーか。

 だから俺を見逃してくれよ!」


・・・いや、何言っちゃってんのコイツ。

俺をダシにここを襲おうとしてたんだろ?

逆を言えば俺ごと殺すつもりだったんだろ?或いは奴隷?


しかもお前、到着した時に小僧どうたらジャップどうたら言ってたよな。

なんで助けてもらえると思ってんの?


「アリサさん」


「なんだい?」


「ギルドに賞金首もっていくときってさ、

 生きてても死んでてもいいのか?」


「おい!小僧!!」


「あぁ、どっちでも構わない。

 が、生きたままでもだいたいその場で処分される」


「そか。

 じゃあアリサさんの楽なほうでいいよ」


「オーケー」


アリサさんがにやりとしながら銃をリロードし、

銃口をカイザーのこめかみ辺りに突きつける。

俺はそいつに背を向け、立ち去ろうと歩き出すが・・・


「お、おい、まってくれよ、なぁ!小僧!

 俺がお前に何をしたっていうんだよ!助けて1日歓迎したじゃねーか!おい!!」


ぴたりと足を止める。

確かに1日助けられた事には変わらない。


あの時、この世界に降り立った時にコイツが居なきゃ、

確かに俺は異世界転生開始直後にゲームオーバーだった。


「・・・そうだな」


だったら。


「じゃ、俺の名前を言ってみろ」


「は・・・」


「俺の名前は は じゃねーぞ。ざんねんだったな」


「じゃ、持ち運びやすいようにさせてもらうとするかね」


「ままままてまて、まだ言ってねぇ!」


「じゃー早く言え。

 次のお前の言葉を答えって事にする」


「・・・」


サニーカイザーが黙りこくる。


俺は確かに名前を教えた・・・はずだ。

教えてなかったら教わってねぇ!ていう答えでもまぁ、正解にしてやるつもりだけど。

いや、教えたな。

そもそも聞いてきたのこいつだったわ。

だからまぁ、少しでも俺に対して同郷人とかそういうのでもなんでもいいから、

思う所があるんだったら名前くらい覚えるだろ、と思ったんだが・・・。


脂汗かきながら必死に思い出そうとしている所を見ると・・・。

お前にとって、おれはその程度の人間だった。

ま、そういうこったろうな。


「10、9、8,7・・・」


「ハセ!」


「・・・」


「ハセだろ!なぁ!おい!」


「それはどっちだ?ファミリーネームか?ファーストネームか?」


「ファーストネームだ!!」


「・・・」


俺は黙って背を向け、掌をひらりとする。


「お、おい、まて、待てよハセ!!小僧ーーーーー」


パン。


叫び声が途切れる。


俺は振り向かない。

いや、怖くて振り向けない。


俺の決断がアイツの最期を決めた。

それが分かるから、振り向けない。


気が付けば膝をついていた。


気が付けばまたその場で戻していた。


「よく頑張った」


いつの間に来ていたのか、銃を撃ったであろうアリサさんが俺の横に座り、背中をさすってくれていた。

吐くだけ吐いて胃の中がすっきりしたと同時に、喉がひりついて痛い。


「アリア姐ばっかりずるーい!」


なんて声が聞こえたかと思うと、何かが俺に覆いかぶさってきた。


「むご!?」


「頑張ったね少年ー。よく頑張ったよー。ほらハグしてあげる、ご褒美!」


してあげるっていうか既にしてるよね!?

っていうかとても良き感触が顔面を包み込んでいるんですが本当にありがとうございます!

って、まってまってジュリアさんが俺の吐しゃ物で汚れる!汚れる!まだ顔ふいてない!


「む、ごご、ごご」


「え?汚れる?

 いいのよぉ気にしないで」


ぽんぽんと優しく背中を叩いてくる。

それにいまの声、いつもとジョークなのか本気なのかよく分からん言い方と違って、

なんだか優しくあやすような感じだった。


だからかな。

現金なものでそれだけでなんかほっとしたのか脱力する俺。

そのままジュリアさんの胸の中で意識を手放してしまった。



--------------


★アリササイド★


奴は撃ち殺した。

これでこのエリアは多少はマシになるだろうか。

何にしてもこれで依頼達成だ。


他の雑魚どももほぼ殲滅完了している。

何人か生き残りも居るが、こいつらにはアジトの場所でも聞き出した上で

ハンターズギルドにでも任せればいい。


ジュリアに抱かれて気を失った少年を見る。


妙に真面目で子供らしくない。

まぁ、子供といっても未成長なだけで13歳か14歳くらいなんだろうが。

見た目は12歳にも満たないような子供なんだけどね。


一体今までどんなところに居たというのか、

死屍累々なこの場面に一切慣れていない。

そのくせ、こんな立派な防壁に門、そしてボウガンまで作り上げた。


「ほんと、なんなんだろうね、君は」


苦笑しながら視線をジュリアに戻す。

・・・はじめの母性あふれる表情はどこへやら。

抱きしめてる間にだんだんにやけた表情に変化していくジュリアから少年をひっぺがす。


「あん」


「ったく、顔が獣になりかけてたぞ」


「えぇー。

 ひどぉいアリサ姐ー!」


なんにしても、

この少年が勝敗を・・・いや、この集落の生存を決したと言っていい。

ひとときとはいえ、これで悪漢の脅威は取り除かれる。


「さて、これからどうするかね」


少年に向けた言葉なのか、自分自身に向けたものなのか。

自分でもよく分からず苦笑しながら、

少年を抱きかかえて集落へと戻ることにした。

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