1-6 どうやら喜んでくれているようだがその愛情表現は勘弁しろ!ハゲる!!

2日目。

俺はあの棒を持ってハンターを雇いに向かっていた男にたたき起こされた。


「お前ェ!やりやがったなこの野郎!!」


目覚めるなりいきなり小脇に頭を抱えられる。


「うお、な、なんだよ!?」


そしてなんか頭をぐりぐりされまくっていた。

いてぇんだけど!?


「すげぇだなお前!あんなバリケードに門までこさえやがったんだろ!

 最高だぜ畜生が!!」


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」


どうやら喜んでくれているようだがその愛情表現は勘弁しろ!ハゲる!!



●●●



ようやく解放され、朝飯を食っている最中になんか女の人を紹介された。

赤いロングヘアーな髪で、ちょっと筋肉質だけどすらっとした美人のお姉さんだった。

革のジャンパーに革のズボン、厚底なブーツをして、ライフルを背負っているその姿は、


「・・・ハンター?」


「坊やがあの壁を作ったって聞いたけど、本当かい?」


「え、あ、はい、そうだけど」


開幕坊や呼ばわりされていた。

え、そんなに若く見える?俺。


「見事なものね。あれなら心置きなく後ろを気にせず戦える」


「戦う・・・ってことは、やっぱり?」


「あぁ、彼女はハンターズギルドから紹介された、アリサさんだ」


「アリサだ。よろしくね、坊や」


差し出された手を握り返す。

俺と大差ない大きさの手なのに、俺よりごつごつしていて硬く、力強かった。


「きてくれたんですね、ハンターが」


「あぁ、今日は彼女だけだが、明日にはあと3人は来てくれる手はずになっている」


「私一人でもいいんだけどね。賞金が減るからさ」


などとのたまい豪快に笑う女性。

こんな人がハンターなのか・・・やっぱこの世界よくわかんねぇわ。


「とはいえ相手は確かサニーゲイザーだったか。

 あいつが相手だと一人じゃ分が悪いか」


ハンターというからにはこう、筋骨隆々のむさいおっさんとかを想像してたけど、

こういう人もハンターしてるのか・・・。


「そうだ坊や」


「あ、え?」


「何間抜けな返事してるんだい。

 坊やは壁ならなんでも作れるかい?」


「え、いや、どうだろう。

 そもそも出来る事を知ったのついさっきだし」


「それなら1つ試してみてほしい事があるんだけど、いいかい?」


と言いながら俺を引っ張って外へと連れ出していく。

えちょ、どこにつれて、っていうか力強ッ!?





連れて行かれたのは門を出てすぐ左。

つまりバリケードの表側の前。


「坊や、このバリケードはなかなかだ。強度も申し分ない」


「ア、ハイ。褒められてるんだよな」


「当たり前だろう。これならバイクだろうが車両だろうが跳ね返せる。

 流石にタンクにもなると無理だろうけどね」


タンク・・・って戦車?

マジかよ戦車あるんか。乗ってみてぇ。


「ただ1つ、弱点がある。わかるかい?」


「弱点・・・?」


言われて壁を見る。

数人がかりでやっとこさバリケード1枚を破壊できたのがおおよそ1時間。

そんな頑強でやべー硬さのバリケードに弱点・・・?

いや、あるんだろう。


「うーん・・・」


「わからないかい?」


弱点と言えば、当然破壊されることが加味されていると見ていい。

ならどう破壊する?

タンクには耐えられないということなら耐久度の問題になるだろうが、多分そうじゃない。

じゃなきゃわざわざ口に出して言ってくれたりはしていないだろう。


なら物理的以外の破壊方法。


「あ。そうか、燃やされるのか!」


そうだ、バリケードは木片を素材として使用している。

当然だけど木材は燃える。

これだけ硬くて早々に破壊できないような壁なら、

たやすく燃えることはないだろうけど・・・

油とかの可燃性のもをぶちまけられたうえでなら分からない。


「正解だ。坊やは思いのほか頭もまわるようだね」


なんだか小バカにされてないか?


「褒められてないよな?」


「何言ってんだい、褒めているに決まってるだろう?

 坊やみたいな若い子にしてはちゃんと考えて答えてるじゃないか」


「むむむ・・・」


俺、そんなに若く見えるんか?

おかしいな、俺一応二十歳は越えてるんだが。21なんだが。


・・・まぁ、ハンターのお姉さん、アリサさんに比べたら若いだろうけど。

なんだ、この世界って二十歳はまだ坊やなのか?そうなのか??


「ま、歳不相応なのは間違いない。

 間違いないが私は気に入ったよ!」


「そりゃどーも」


どうやらこの世界だと20歳前後でもおこちゃまらしい。

流石に幼子扱いではないみたいだが、

どう見ても小中学生程度にしかみられていない気がする。

この世界の成人ってもしかして30歳くらいなのか?意外と長寿なのか??


「それで坊や、燃やされかねないこの壁、坊やならどうする?」


どうする、ときたか。

普通なら防火処置を施すところだろうか。

しかしこの世界にそんな都合のいいアイテムがあるとは思えない。

いいとこ表面に燃えにくいものを設置する程度だろう。鉄とか。


でも考えてみたら壁クラフトの出来る俺を連れてきたんだ。

だったら、『俺が出来る事で燃えないようにする』のが正解なんじゃないか?


俺は壁が作れる。らしい。

素材は木くずと鉄材スクラップで問題なかった。

しかし同じ素材で同じことをやれば同じ壁が出来るだけ。

なら、違う素材を使う?たとえば鉄だけとか。


いや、流石にそれはないな。

絶対たりねーし。鉄だけで壁作るとかどんだけ鉄の山が必要なんだていう話だ。

単純に鉄インゴットを積み上げて作るようなものだ。

そんな鉄を用意できるわけがない。


ならどうするか。

他に資材は・・・。


燃えない素材。

燃えない壁。


・・・


はっ!そうか!


「これならどうだ!」


俺は考えうる答えを実際に披露すべく、壁クラフトを使うことにした。

素材は目の前に腐るほどある。

それを用いて、バリケードにぴったり密接するように、というより貼り付けるように、

土の壁を創り上げた。


そう、足元に腐るほどある土だ。

こいつをバリケードの外側手前に作り出す。

イメージとしてはバリケードにぴったり貼り付けるように凝縮した土を壁にする。いわゆる土壁だ。

袋はないけど。


「これでどうよ!」


「どれ・・・」


俺が土で壁を創り上げると、アリサさんが背中のライフルを構え、バリケードに向けて発砲。

ターンという驚くほど大きな音を立てて弾丸が発射される。


「び・・・っくりした」


発砲した後にアリサさんが命中した箇所を確認する。


「・・・驚いたね。バリケードにすら到達できずに弾丸が止まっているよ」


「お、マジで?」


どうせ無制限に利用できるんだし、とかなりの肉厚な土壁にしておいたのだ。しかも凝縮したうえで。

おかげでおれの足元手前はけっこうな穴になっている。

当然土なので雨でも降ればいずれ崩れるだろうけどな。


「合格どころじゃないね、オーバーキルな大正解だ。

 坊や、名前は?」


「ユウキだよ。早坂裕貴」


「ユウキか。改めて私はアリサだ。よろしくね」


アリサさんが手を差し伸べてくる。

俺はその手を改めて受け取り、握手をする。

さっきの時と違い、なんだか今度はしっかりとした握手になっていた。

アリサさんがニカっと俺に笑いかけてくる。不覚にもどきっとした。


・・・おかしいな。俺年下のほうが好みなはずなんだが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る