1-2 先生。俺もう死にますコレ。

目を覚ます。

土と砂埃の匂いと感触。

途端にじゃりっとしたものを口内に感じ、唾とともに吐き出す。


「うえ・・・なんか口の中がじゃりじゃりする」


ゆっくりと体を起こす。

地面を見ると、砂と土の入り混じったような乾いた地面。

雑草らしいものは生えていない。


というかなんかさっきからうるさいような。


「へへへ、ようやくお目覚めかよ小僧!」


・・・ん?


・・・・・・・・ん!?


はっきりしない意識をむりやり覚醒させ、周囲を見渡す。

え。なんか囲まれてる?


俺に声を投げかけてきた奴を探す。

囲みの中で俺に1歩だけ近づいた位置に居た。

えーと、あれ、なんかどっかで見たような姿だな。


頭は両側がハゲてて、縦に直線状に髪の毛が逆立っている。あぁ、あれが本物のモヒカンか。

そしていかつい肩パットをしてて、そこにはこんぺいとうみたいなトゲトゲが生えている。

手をあげたりしたときに頭に刺さったりしないのかなアレ。

そしてそいつは手に釘バッドみたいなものを持っている。




どう見てもヒャッハーです本当にありがとうございます。




いや待てや!?

目が覚めたらなんでいきなりこんなヒャッハー野郎どもに囲まれてんだよ俺!?

oi,みす、おい。紀伊店のか調停者!

お前わざとか!?

こんな場所に俺を転生させたのはアレか!?謝らせた嫌がらせか!?

つか即死だろこれ!?死ぬだろ!?

たとえ死ななくても一生奴隷扱いとかだろこれ!?


なんでいきなり異世界転生させられた直後に

ヒャッハーに囲まれて奴隷生活満喫させられにゃーならんのだ!?


いやまだ奴隷ときまったわけじゃないけど。


ともかくどうしたものかコレ。絶対に逃げられねーって。

囲まれてるしなんかバイクっぽいの乗ってるし。


・・・っていうかあるんかバイク!

まて、ここはなんだよ!

異世界転生っつったら剣と魔法の冒険浪漫な世界じゃねーの!?

なんで砂塵と荒野のヒャッハー集団からはじまってんの!?

せめて口笛と荒野にしてくんね!?


などと現実逃避していると、


「おい小僧」


「お、俺か??」


「お前はどこの集落の奴だ?

 どうしてこんな所に居るんだ?

 返答次第じゃまたおねんねさせてやるぜ?

 もちろん身ぐるみ全部剥いだうえでな??」


げひひひひという笑いが響く。

明らかにヒャッハーなひとたちの笑い方に思わず吹き出しそうになるけど懸命にこらえる。

つかそんなことで笑ったら間違いなく死ぬ。殺される。誰かボスケテ。


「・・・お、怒らないで聞いてくれる??」


「あぁん?いいからとっとと話せやボケェ!!」


あ、だめだ。

先生、俺もう死にますコレ。


さて、ここで俺に与えられた選択肢は2つ。

全力ですっとぼけるか、本当のことを話すか。


はっきり言おう。舌先三寸でいいくるめとかできるわけねーから。

そんな交渉能力俺持ってねーから。インドア派なめんな。

だったらもう、どうせ殺されるんだろうから本当の事を話してやろう。


「お、俺、気が付いたらここに居た。ここはどこなんだ?

 俺はどこにいけばいいんだ?なぁ、教えてくれよ」


・・・あれ。

なんか言うべきだと思ったことと違う事いってね?俺。

これ完全に迷子とかそういうのをアピールしてね?

つかなんかもうなにもかもどうでもよくなってきてね?俺。

やべぇ、感情がデッドヒートしはじめた!!


「お・・・おう?いや、聞いてんのはこっちなんだが・・・」


「畜生なんで俺はこんな所でぶっ倒れてたんだよ!

 つか誰だよここに連れて来たやつ!

 せめて自給自足生活できるレベルの場所まで移動させろよ!

 砂と土だけ食って生きろってか!?ミミズか俺は!!!」


「お、おう・・・??」


完全に引き始めている目の前のヒャッハー君をよそに、

俺はどんどんヒートアップしていく。

悪いのはあの調停者とかいうクソ野郎だからもうどうでもいい。


と俺がまだ話そうとしている最中に、ドスの利いた声が響く。


「おい小僧!」


「   ッ!?」


あまりのドスの利いた声に一気に頭の血が引いていき、背筋が凍る。

何か喋ろうとしていた口が凍りつく。

うまく息ができない。

どくんどくんと鼓動が早くなる。


ヒャッハーの輪の一部が割れ、そこから巨漢といっていいほどのでかいヒャッハーな男が現れた。

いや、ヒャッハーじゃないな。スキンヘッドだコイツ。

額には・・・なんだあれ。太陽の入れ墨?ボディペイント?を書き込んでいる。

背丈は俺を軽く凌駕してる。2メートルはくだらないなコレ。

そして巨漢といっても贅肉はほとんどなさそうだ。全身筋肉だコレ。

殴られるだけで俺即死じゃね?これ。


「お前、名前は」


「な・・・なな・・・なままままえ・・・??」


あまりの威圧感に口が動かない。

かといって黙ってたら絶対殺される。

言葉になってなさそうでもなんとか喋って相手をするしかない。


「答えろ」


「ゆ、ゆうき!ははは、早坂 裕貴!」


「ほう、お前日本人か」


「・・・え?」


デカいヒャッハーの言葉に思わず聞き返す俺。

今、日本人っつったか??


「お前ら、こいつはおれの預かりだ!

 どうせ今日はこのまま帰るんだ、真っ直ぐ帰還するぞ!」


「へ、へい!」


デカい男の一声で、ヒャッハー達が俺の囲みを解いて各々隊列を整え始める。


「あ・・・あの」


「俺はサニーカイザーだ。カイザーでいい」


「あ、は、はい。カイザーさん」


「もう一度聞く。お前は日本人か?」


「あ、は、はい。そうです。でもなんで日本人と?

 この世界にも日本が?」


「この世界、と言うか。

 なるほど、間違いなさそうだな」


「・・・??」


なんだかよくわからんけど、どうやら命拾いしたようだ。

いや、連れ去られてるような状態なのは変わらないんだからまだ拾ったとは言えないかコレ。




●●●




俺は、巨漢に連れられて彼らのアジトへと入っていく。

どうやらこの巨漢、このアジト・・・正確にはこの周辺を縄張りとするこいつらの隊長らしい。

まぁ明らかに存在感違うし?つかでけぇし。


そんなわけで俺は巨漢の部屋に通された。


「さて、改めて自己紹介しておこうか。

 俺はサニーカイザー。この13番地区を収める13番隊隊長だ」


「お、俺はユウキ」


「お前も地球で死んだ後にこの世界に目覚めたクチか」


「え・・・あ。もしかして」


「あぁそうだ、俺はアメリカのロスにいた。

 ぶっ殺されて気が付けばこの世界だ」


ぶっ殺されてっていうのがすさまじく気になるがスルー。

ともかく彼も俺と同じ転生者だということがわかった。

だから、俺をこうやって助けてくれたんだろう。


彼、カイザーと呼ぼう。カイザーは俺にこの世界にきた経緯を尋ね、

俺は知ってる範囲で全部答えた。

どうやら彼とは多少異なる状況のようだが、おおむね同じような感じらしい。


「俺は3年・・・いや5年か?

 この世界じゃ年数なんてろくに数えやしねーから曖昧になるな。

 まぁともかくそれくらいにこの世界で目覚めた。

 お前の言う調停者とやらとは話してねぇ。

 しかしその調停者ってのは神のことだよな。

 やはり神はおわしたか・・・」


一人で納得してなんか祈りだした。胸前で十字を刻んで祈る。

キリスト教とかよく知らんけど、あれが正しい祈り方なんかね?


「俺は元々ボクサーやっててな。

 こっちの世界でもその腕っぷしで生き延びられた。

 しかも前より頑強な肉体になってな、ほぼ負け知らずよ!」


ムキっとすさまじい力瘤を見せてニヤリと笑うカイザー。

つかその腕で殴られたら絶対死ぬ。やべぇコイツ。


「んでまーそうこうしてるうちに隊長を任されるくらいにはなったっつーわけだ」


ヒャッハーをまとめる隊長になれるとか、どんだけ強いんだよコイツ。


「で、だ。

 お前も転生者なら、持ってるだろ?絶対」


「持ってる・・・って、何を?」


「とぼけんな、ギフトだよギフト」


「ぎ、ギフト?送りモノなんて俺目覚めたばかりでなにもないぞ?」


「馬鹿野郎そうじゃねぇよ。

 『ギフト』っつー特殊な力だよ」



カイザー曰く、この世界には神に愛された一部の人間には『ギフト』という異能が与えられ、

その異能によって出来る事がさまざまにあるらしい。

内容を教えることはしねーがと前置きしつつ、カイザーもギフトを持っているらしい。


「で、どうなんだよ。

 転生者ならまず間違いなく持ってると思っていいんだぜ?」


「うーん・・・」


確かに神様っぽい奴に会ったし、お詫びにってことでこの世界に転生させられた。

しかしどういう状態で転生させられたのかは聞いていない。

そもそもギフトなんていう単語自体初めて聞いたわけだし。


畜生あの野郎。ちゃんとそこんとこ説明しろよな!



------


★とある場所★


「へくちっ!」


「あら風邪?調停者のくせにだらしない。

 どこぞの青い星で遊びほうけて菌でももらったんじゃないの?」


「うっさいな。きっと僕を崇めてる誰かが噂してるだけだ」


「・・・崇めてもらえるようなことしてた?」


「なにを!?

 僕がどれだけ苦労してるか知らないくせになんてことを!」


「はいはいドジって青い星で犠牲者だしてあの星系の管理人にめちゃくちゃ怒られてましたわよね200年ほど立入禁止だそうでご愁傷様ですわ」


「ぐぎぎぎぎ・・・」


-------



はぁ、文句を言っても始まらない。

そして現状わからんもんは分からん。


「貰ってるかもしれないけど、なんの説明もなかったんだ。

 だから全く分からない」


「そうか・・・なら仕方ねぇ」


カイザーが立ち上がり、誰かを呼びだした。


「おい、こいつを部屋に案内してやれ。

 それで明日になったらどこか適当な集落の近くまで送ってやんな」


「へ、へぇ、了解しやした」


「い、いいのか?そこまでしてもらって・・・」


「なに、折角の同郷仲間に出会えたんだ。これくらいさせろ。

 まぁ、ギフト持ちで役に立てそうだったら俺様の右腕にしてやろうかと思ってたんだがな」


それでギフトの事を聞いてきたのか。

まぁ、右腕になることもやぶさかじゃないが・・・少なくとも今の俺はおめがねには適わなかったってとこか。

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