今までごめんね

栫夏姫

第1話

秋寧あきねってば本当に素直じゃないね」

 美優みゆが呆れ顔をして私を軽く叱るようにそう言った。

「そろそろはっきりさせたら?****君のこと」

 美優に言われなくてもそんなことは分かってる。でも……

「どうしたらいいのか分からないの……」

 消えてしまいそうな声で美優にそう言うと、美優は私の頭をやさしく撫でる。

「今思ってることをそのまま伝えればいいんだよ」

 今思っていることをそのまま……

「分かった…… 私ちょっと行ってくるね」

「うん、頑張ってきな」

 私は屋上を飛び出てあの人がいるはずの教室へ走った。

「****!」

 教室にその人以外に人はいない、言うなら今しかない!




 

「そんな浮かない顔してどうした親友?」

隆也りゅうやか、何でもないよ」

 朝、いつもと同じように学校へ向かっていたら、隆也に肩をつつかれた。

「何でもないってことはないだろ。いつも以上に深刻そうな顔してるぞ?」

「いや、ただ今朝も秋寧にからかわれて疲れてるだけだよ」

 俺と隆也、そして秋寧は小さな頃からの付き合いで、いわば幼馴染というやつだ。

「なんだ、またやられたのか」

 秋寧にからかわれるのは、俺達が高校生になった時から始まり、もはや恒例行事になりつつある。

「それで何をやられたんだ?」

「………聞かないでくれ」

 今日のは今までで一番酷かった。誰にも話したくない……

「柚哉!おはよう!!」

 朝の出来事を思い出し身震いしていると、後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。

「おはようじゃないよ。さっきあっただろ?」

「そうだったね~」

 こいつは佐々木ささき秋寧、俺へのからかいの主犯だ。

 昔は俺と隆也の後を泣きながらついてくるくらいの泣き虫だったが、高校に入ってから俺を重点的にからかってくるようになった。

「秋寧?今日はいったいどんな面白いからかいをしたんだ?」

「今日のはさすがに隆也にも秘密だね。柚哉がいじけちゃうから」

 それから秋寧は目の前に友達でも見つけたのか、俺達を置いて学校沿いの道を走って行った。

「秋寧のやつ変わったよな」

 隆也がしみじみと俺の肩に手を置き、そんなことを言ってきた。

「変わりすぎだよ。昔のあいつの面影すらない」

 人は誰でもいつか変わる。しかし、秋寧は俺らの知らない間に大きく変わってしまったのかもしれない。





 教室に着き、ホームルームまで少し時間が余っていたので、雑談でもしようと隆也の席まで移動した。

 ちなみに、何の偶然か俺達三人は高校も一緒、そしてクラスまでもが同じだ。

「隆也、暇だから来てみた」

「そうだな、俺も暇だ。じゃんけんでもするか?」

「しないよ」

 隆也は時々本気か冗談か分からないようなことを言うのが困りどころである。

「二人とも、つまらなそうな顔してるね~」

 隆也の冗談を軽く流し、空いている前の席に腰を下ろしたところで、秋寧が俺たち俺たちの近くにしゃがみ込む。

「何の用だ?」

「幼馴染に対してその態度はひどくない!?」

 俺は朝のからかいの件で少しイライラしていたのか、そのままの声のトーンで秋寧に話しかけてしまった。

 まぁ、イライラの原因もこいつなんだけどな……

「さっきまで美優と話してただろ?なんでわざわざこっちに来たんだよ」

「二人がつまらなそうな顔してたからお話してあげようと思って来てあげたのに」

 秋寧が頬を膨らませて、不貞腐れているのをアピールする。

「結構だ。そもそもつまらなそうな顔もしてないし、もししてたとしてもお前を頼ることは断じてない。よし、隆也じゃんけんするか」

「今そんな気分じゃないな」

 さっきお前が振ってきたんだろ!?やっぱり冗談だったんじゃないか!

「あっそうですか~!もう美優のとこ行っちゃうもんね!!」

「お~行け行け」

 秋寧が美優のところに行って話を始めたところで、隆也が俺の頭を叩いた。

「痛っ!!何すんだよ隆也!」

「言い過ぎだろ。いくらからかわれてイライラしてるからって言ってもあれはひど過ぎる」

 いや、俺だって少し言い過ぎたと思ってたけどよ…… でもしょうがないだろ……

 でも隆也が言うことの方が今回は正しいか。

「分かった、昼休みにでも誤りに行くよ……」

「それでいい」

 その後、授業の始まりの鐘が鳴り俺は急いで自分の席に戻った。





 4限までの授業が終わり昼休みになると、殆どの生徒が学食を食べに移動する。

 もちろん俺や隆也、秋寧や美優なども学食利用者なので移動することになる。

「ほら、移動する前に言っちゃった方が楽でいいぞ?」

「分かったよ……」

 俺は隆也に言われた通り、秋寧が移動する前に謝ることにした。

「おい、秋寧……」

「何よ……」

 うわっ……!すごい不機嫌だな、まぁ……当たり前か。

「いや、朝あんなこと言って悪かった」

 俺は頭を下げて秋寧が何かを発するまで動かなかった。

「ん~、どうしてもって言うなら…… お昼奢ってよね!」

「分かったよ、好きな物奢ってやる」

 それから、昼飯を済ませ教室に戻ると、何やらクラスの連中がもめていた。

 周りにいたやつに話を聞くと、どうやら5,6限目でやる文化祭の出し物の話し合いを昼休み中に始めたはいいが、意見が真逆の方向だったらしくそれでもめてるようだ。

「食べ物系と遊戯系ねぇ……」

 俺としては正直両方面白そうだからどっちでもいいんだが、そうはいかないんだろうな。

 とりあえず、二人ともヒートアップしてるしちょっと間に入って熱を冷ましますかね。

「まぁ、落ち着け落ち着け。どちらの意見も素晴らしいのは確かなんだから貶し合うなんてことするな」

 それぞれの出し物の話を聞くと、片方の女子はパンケーキを焼いて売りたいらしく、そしてもう一方の男子は祭りのような子供でも楽しめる遊戯広場を作りたいらしい。

 話を聞けば聞くほど両方楽しそうだな。

「せっかく3年生から調理の権利とれたんだから調理部門をやらないと損でしょ!!遊戯広場なんていつでも作れるわ!!」

「食べ物なんて金ばっかりかかって思い出になんねぇよ!それなら遊んで楽しい思い出が残る遊戯広場をやったほうがいいに決まってんだろ!!」

 せっかく落ち着けるように離したのに今度は大声を出して喧嘩を始めた。

「喧嘩するなよ…… どっちも一緒にやっちまえばいいだろ?パンケーキの材料で他にもクレープとか作って売れば基本立って遊ぶ遊戯広場にも合う訳だし、遊戯広場だってその遊戯の景品のパンケーキやクレープの割引券とかを入れれば盛り上がるだろ?そうしろよ。いや、そうしようぜ?」

 すると、今まで大声で喧嘩をしていた二人が俺の方を向き笑顔になった。

「それいいね!!」

 二人そろってそう答え、この喧嘩は無事に決着し、面白い文化祭の大まかな出し物も今決まってしまった。

 怒鳴り声からワイワイとした話し声の変わった教室に戻り、俺は安心して隆也のところに戻った。

「お疲れ」

「俺はなんもしてねぇよ。元々2人の案が面白そうだったからくっつけただけだ」

「普通の人ならあんな事できないって」

 隆也が珍しく俺の事を褒めてきた。なんだ?そんな大したことしてないってのに……

 すると、秋寧と美優が俺の前の椅子に座った。

「柚哉!よくあんな事思いついたね!!すごいよ!」

「お前がお世辞を言うなんて珍しいな」

「お世辞じゃないよ!本心だよ!!」

 秋寧は頬を少し膨らませて俺の肩を掴み、グワングワンと揺らす。

 うおっ…… 飯食った後なんだから勘弁してくれ……

「柚哉君も素直じゃないね…… 褒め言葉くらい素直に受け取ればいいのに……」

 美優がため息をつきながら俺たちの様子を眺めていた。

「これはもう柚哉の性格だから何とも言えないし治らないよ」

「そゆことだ」

 秋寧から解放され、軽く吐きそうなのを堪えて俺は隆也の説明に同調する。

「これで、次の時間は細かな遊戯の内容決めとか、作る食べ物を増やすのかの話し合いになりそうだな」

「柚哉はどっちの手伝いをするんだ?」

「俺はオールラウンダーだからいろんなところを手伝うよ」

 料理も楽しいし、物作りも一回しっかりとやってみたかったし本当に楽しい文化祭になるな!





「それでは、これから文化祭の話し合いを始めるんですが、大まかな出し物についてはさっき柚哉君の提案で決まったので、後は細かな遊戯の内容を決めていきます!」

 それぞれが集まって遊戯の内容を考え、最後に発表して多数決をとるという形になった。

「で、集まったのがいつもの4人と…… お前ら他に友達いないのか?」

「逆だよ。俺たちが集まらないと柚哉が1人になっちゃうだろ?」

「馬鹿にするな、俺にだって友達の1人や2人いるぞ?」

 人のことをボッチみたいに言うなよな。結構傷つくんだぞ?

「そんな事どうでもいいから早く話し合いしようよ~」

 秋寧がしびれを切らしたのかそんなことを呟いた。

 どうでもいい!?こいつ今どうでもいいって言った!?

「確かに柚哉君に友達がいないのは今は関係ないし早く始めましょう?」

 美優まで…… 俺に味方はいないのかよ……

「さて、とりあえずどんな遊戯が人気が出そうなのか考えないとな」

「切り替え早いな!」

「まぁな」

 それから4人で話し合った結果。水鉄砲を使った射的なら危なくないし新鮮で楽しいのではないかという結果になった。

「それでは発表をしてください!」

 結果、輪投げやモグラたたき、後俺らの射的を含めお祭りにありそうな出し物がそろった。

「祭りの屋台みたいだな」

「でも、その方が作るのも簡単で楽しめるよな」

 隆也の肩を叩きそんなことを言ってみたが、まぁ作るのが簡単なのに越したことはないしな。

 次に提案されたのがクレープの他にベビーカステラを作ろうという案だったが、さすがに3品は予算が足りないということで却下になった。

 ベビーカステラ食いたかったな……

「今度4人で作ればいいだろ?」

「なんだお前はエスパーか?」

「何年一緒にいると思ってんだ。お前の考えてることくらい分かるよ」

 さすがは幼馴染だな、こいつに隠し事とかはできない気がした。

「では、来週からの準備がんばりましょう!!」

 代表者がそう声掛けをし、クラスが一つになってそれに賛同する。

 もう文化祭も来週なのか…… 意外と早いもんだな。

 話し合いが終わったということで、担任が少し話をして今日の学校は終わった。

 いつも通り部活も何もないので、そのまま帰ろうとしたら担任に呼ばれた。

「なんですか?」

「いや、伊吹のおかげでクラスがまとまったと聞いたから少しお礼を言おうかなって思ってな」

「別に俺は何もしてないですよ。隆也にも言いましたけど俺が両方やりたかっただけですから」

 すると、担任は苦笑いをして俺に一本のお茶を手渡した。

「褒め言葉くらい素直に受け取れよ?ほら、これやるよ」

「じゃあ遠慮なくいただきます。後、俺は元からこんな性格なんでもう治らないですよ」

 職員室を出て、校門に向かうと隆也が待っていた。

「なんだ、別に待ってなくても良かったのに」

「どうせ家が近いんだから一緒に帰ってもいいだろ?」

 隆也と帰りつつ、ふと文化祭のことを思い出す。

「なぁ、去年の文化祭って何やったけ?」

「お化け屋敷やっただろ?覚えてないのか?」

「あー、やったやった。思い出したわ、確か隆也が本気出しすぎて一般の客泣かしたんだよな」

 去年も俺と隆也は同じクラスで一般の客向けのお化け屋敷をやったのだが、隆也がかなり生き生きしていて、思いっきり脅かしたら客が泣いたなんて事件があった。

「なんでやった出し物は覚えてなかったのにそういう事は覚えてるんだよ!」

「そんなの面白かったからに決まってんだろ?」

 お化け役の隆也が腰を抜かして泣いてしまった客を、控室に連れて来た時は死ぬほど笑ったな……

「今年もそんな楽しい文化祭になるといいな」

 隆也がしみじみとそう言い、俺もそれに同じように返す。

 そんな事をしているうちに2人とも家の前まで着いた。

 ちなみに俺と隆也の家は隣同士、秋寧の家は俺の家の目の前にある。

「明日柚哉の家に行ってもいいか?」

「いいぞ、俺は寝てるけどな」

「たたき起こすから覚悟しとけよ」

 そんな約束をして俺たちはそれぞれの家に入った。

 明日は隆也が来るのか、部屋掃除して早く起きておくか。

「ただいま」

「おかえり、早かったのね」

 玄関に上がると、台所から母さんが顔をのぞかせた。

「話し合いが早く終わったからな。それより明日隆也が来るらしいから部屋の掃除してくるわ」

「あら、寝てるんじゃなかったの?」

 聞こえてたのかよ…… 俺そんな大きな声出してないぞ?

「客が来るんだ、寝てるわけないだろ」

「ほんと素直じゃない子ね」

「あんたに似たんだよ」

 そう言って俺は2階の自室に入った。





「秋寧、今朝のはさすがにあんたも悪いところあったよ?いくら柚哉君が謝りに来てくれたからって……」

 美優が私の頭をワシャワシャと弄りながら私を叱る。

「これじゃあ本当に嫌われちゃうよ?」

「それは嫌!!」

「じゃあなんで素直に柚哉君と話しに来たって言えないのよ……」

 溜息交じりの声で美優は私の頭から手を離し、今度は頬っぺたを摘んで遊び始めた。

「これが私の性格なんだからしょうがないでしょ?」

「しょうがないでしょって…… ここだけは秋寧と柚哉君が似てるところよね。一番似ちゃいけないところだけど」

 私だって最初は普通に話しかけようとしたわよ…… でも、あいつの前に立つとどうしても違うことが口から出ちゃうの……

「毎朝毎朝、柚哉君の家に行ってからかってるのだってだた会いたいからでしょ?」

「うん……」

 どうしよう…… これじゃあ本当にあいつに嫌われるかもしれない……

「美優?明日私の家に来て!相談に乗ってほしいの……」

「しょうがないな~、いいよ行ってあげる」

「ありがとう!!美優大好き!!」

「はいはい…… どうして私には素直になれるのよ……」





「柚哉ー!!来たぞ!」

「うるさいなぁ…… 分かってるよ」

 次の日の朝、隆也が玄関に上がってきて俺を呼ぶ。

「お、寝てなかったんだな」

「しょうがないから起きたんだよ。とりあえず上がれよ、飲み物持ってくるから。何がいい?」

「なんでもいいよ」

 一番困るやつだろそれ…… まぁ適当に持っていってやるか。

「隆也君いらっしゃい」

「あ、お邪魔します!」

「昨日柚哉ったらね、隆也君が来るからって部屋の掃除してたのよ?」

 母さんのやつ、余計なこと言いやがったな……

 台所まで丸聞えだよ。部屋に行ったら隆也になんか言われるんだろうな……

 部屋に飲み物を持っていくと、案の定隆也がニヤニヤと俺を見てきた。

「俺の為に部屋の掃除をしたらしいじゃないか、それに朝早く起きて俺を待ってたってのも聞いたぞ?」

「うるさい!ほら、これで良かったか?」

 隆也に飲み物を投げ渡し、隆也の近くに座る。

「おう、サンキュー」

 それから昼までゲームなどをしてたら昼近くになっていた。

「隆也君!お昼作ったから一緒に食べましょ?」

「あ!ありがとうございます!!」

 昼飯を食べていると、母さんが隆也にいろいろと質問し始めた。

「柚哉学校でうまくやってる?」

「大丈夫ですよ、それに昨日なんてもめていた文化祭の話し合いをうまく治めたんですよ!」

「へぇ~!すごいじゃない!!でも、どうせ俺の手柄じゃないとか言ったんじゃないの?」

 あんたもエスパーかよ。だが、俺の手柄じゃないのは確かだから間違ったことは言ってないんだよな。

「よく分かりましたね。俺たちがいくら褒めても俺は何もやってないの一点張りなんですよ」

「昔からこの子はそうだもん、ほんと誰に似たのかしらねぇ?」

「あんただよ」

 それからは、成績のことなど何気ないことだったので安心して昼飯が食えた。

 隆也が本を買いたいと言ったので、昼から俺たちは本屋に向かうことにしたのだ。

 俺も漫画の新刊買いたかったしちょど良かったかな。

「あ、本棚の並び変わってる……」

「なんて本だ?一緒に探してやるよ」

 俺たちの家の近所のこの本屋は、ちょくちょく本棚の位置や並びを変える変な店だ。

 30分ほど探したのち、無事隆也が探してた本が見つかり今会計をしているところだ。

「一緒に探してくれてありがとな」

「俺の欲しい本を探すついでだっただけだ」

 俺の探してた漫画の位置も変わっていたから好都合だった。

 会計が終わり、2人で本屋の隣にある喫茶店で一休憩入れることにした。

「お前またカフェオレか」

「苦いの苦手なんだよ。お前はよくブラック飲めるな」

「受験の時に飲みまくってたら好きになった」

 それからは買ってきた本をそのまま読み、ちょうど隆也が本を読み終わったタイミングで俺の肩を叩いた。

「お前さ、好きなやつとかいんの?」

「お前は女子か?どうしたいきなり」

「いや、なんとなく気になってな」

 好きなやつねぇ……

「気になってるやつはいるな」

「お!誰だそれ?」

 すると、隆也は身を乗り出し興味津々という様子でそう聞いてきた。

「教えねぇよ!」

「なんだよ~、つまらないな~」

「お前はどうなんだよ」

 隆也は少し考えて、閃いたような顔をして口を開いた。

「いないな」

「いないのかよ!!じゃあなんであんなに考えてたんだよ!!」

「お前の反応を見てみたくて」

 本当に良い性格してるよこいつ…… 悪い意味だけどな。

「そうかよ、じゃあ帰るぞもう本読み終わっただろ?」

「おう、もしかして怒ったか?」

「そんなわけないだろ、何年お前の幼馴染やってると思ってんだ。もう慣れたよ」

 それからまた暫く俺の家で雑談をして、いい感じの時間になり隆也は家に帰って行った。





 そして休みが終わった日からの文化祭の出し物の準備は、特に大きなトラブルもなく無事に完成させることができた。

「で、文化祭当日なわけだけど…… この人気ぶりは何だ?」

 俺たちのクラスには予想以上の一般客が訪れ、ついには外で並び始める客まで出てしまった。

「いや、こんなに来るなんて予想もできなかったな」

 隆也がホットケーキを焼きながら苦笑いをしている。こいつのところの行列もすごいな……

「お兄ちゃん!クレープ一つ!!」

 おっと、こっちにも客が来たか。てかクレープ作るの楽しいな!

「はいよ!危ないから気を付けて食べろよ?」

「うん!ありがとう!!」

 俺からクレープをもらった小学生くらいの少年は、笑顔でその場を離れていった。

 うん、小さな子は素直でかわいいな!いや、そういう意味じゃないけどな。

 それから2時間近くクレープを作り続けてやっと交代の時間になり、俺と隆也は休憩をもらうことにした。

「はぁ~、意外と疲れたな……」

「俺もう暫くホットケーキ見たくないや……」

 隆也に至ってはホットケーキが嫌いになりかけてる……

「二人ともお疲れ様!!」

 声が聞こえた瞬間、首筋に冷たい感覚が走る。

「冷たっ!!なんだよ秋寧か…… お前らも休憩なのか?」

 首筋に当てられた缶ジュースを受け取り、一気に流し込む。

「そうだよ!暇なら4人で一緒に回らない?」

「別にいいぞ」

 そして秋寧、隆也、美優、俺といういつものメンバーで文化祭の出し物を見て回ることになった。

「てか、秋寧と美優は何をやってたんだ?」

「看板もってそこらへんを歩き回ってたよ」

 美優がたこ焼きを食べながら俺の質問に答えてくれた。

「意外と楽そうなことやってたんだな」

「まぁね、あんまり疲れないですんだわ」

 だから秋寧のやつあんなに元気だったのか。

「おら隆也、たこ焼き買ってきたぞ」

「サンキューな」

 その後俺らはお好み焼き、アイス、焼き鳥などの完全に食べ歩きのようなことをしていた。

「なんか食べてばっかだな……」

「まぁ、去年はお化け屋敷やってて休憩ももらえなかったしこれも楽しいよ」

「お前の場合はもらえなかったんじゃなくて、泣いた一般客を泣き止ませるので休憩がなくなったんだ。勘違いするな、俺はしっかり去年も休憩をもらってる」

 隆也の肩に手を置き、確認させるように耳元でそう言ってやった。

「あ、その話知ってる!確か結局休憩時間が終わっても泣き止まなくて、柚哉が休憩時間を返上して隆也の穴を埋めったってやつでしょ?」

「えっ!?」

「馬鹿!何言ってんだ!!」

 確かに休憩時間を返上して仕事をしたのはそうだが、隆也の穴を埋めるっていうか、困ってたから出てただけでだな……

「お前そんな事してたのか!」

「別にお前の為でもなんでもねぇよ、休憩もらったはいいけどろくな物がなかったから戻ってきて仕事をしてただけだ」

 すると、隆也が俺の頭を拳でグリグリとやり始めた。

「そんなこと言っちゃって、実は俺のために出てくれたんだろ?やさしい奴め~!!」

「痛いっての!!やめろ!」

 そんなばか騒ぎをしていると一般公開終了の鐘と放送が入った。

「おら!終わりだとよ、片付け行くぞ!」





 片付けも粗方終わり、クラスの皆は打ち上げの事などを話し合っていた。

「柚哉君は絶対に来てよね!今回の出し物は柚哉君がいなかったらできなかったんだから」

 クラスの代表が俺のところに来てそう言ってきた。

 正直打ち上げとか苦手なんだよな……

「いいじゃないか、たまには行こうぜ」

「隆也がそういうなら行くか……」

 なんか隆也に流されたみたいになったけど別にいいか、言われてみればたまにはこういうのも良いかもな。

「ところで隆也、秋寧たちはどうしたんだ?」

「あぁ、なんか屋上で涼んでくるって言ってたぞ。だからさ、打ち上げの場所分からないと思うから待っててやってくれよ。俺はちょっと担任に頼まれたことがあって遅れるからさ」

「分かったよ」

 打ち上げの話が大体まとまったのか、急いで片付けを終わらせ俺に地図を渡して皆先に行ってしまった。

「柚哉君!絶対に来てよね!!」

「分かった分かった、後でな」




 それから30分くらいたっただろうか、廊下から走ってくる足音が聞こえる。

 そして、足音がやんだと思ったら勢いよく教室の扉が開かれた。

「柚哉!」

 そこには汗だくになった秋寧が息を切らしながら立っていた。

「お前いったい何があっ……」

「今までごめんね!!」

 秋寧が俺の前まで寄ってきて、そしていきなり謝ってきた。

「今まで…… からかったり、変な態度とって本当にごめんね…… もう嫌われてるかもしれないけど、これだけは言わせて!柚哉のことが好き!!ずっと前から好きだったの!でも、素直になれなくて…… もう遅いよね……」

 そう言い終り大粒の涙を流して、その場から立ち去ろうとする秋寧のつかみ引き寄せる。

「えっ……?」

「情けねぇな俺は、女の方から告白させたうえに泣かせるなんてな。悪かった、もっと早く気付くべきだった」

「どういうこと……?」

「だから、俺もお前のことが好きなんだよ」

 面と向かって言うと結構恥ずかしいなこれ……

「だって…… そんなそぶり一回も見せなかったじゃん……」

「お前と一緒で俺は素直じゃないんだよ」

「ってことは…… 両想いってこと?」

「そういう事だな」

 すると、さっき泣き止んだはずの秋寧がまた泣き始めた。

「なんでまた泣くんだよ……」

「違うの…… これは悲しくて泣いてるんじゃなくて嬉しくて……」

「なんだよ…… 紛らわしいな……」

 そう言って俺は秋寧の頭をそっと撫でた。

「サービスだ……」

「ありがとう……」

 秋寧が泣き止んだのを確認し、俺たちは手を繋いで打ち上げの会場に向かう。

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