第3話

 ルーヌが承諾をしてから、一ヶ月が経過した。


 この一ヶ月間、ルーヌはミカエラとヒアリングにヒアリングを重ねた。ミカエラの仕草、言葉遣い。彼女に関わるものはなんでも観察し、それを真似る訓練を重ねた。


 そして今日、ルーヌはミカエラとして国中を騙すべく。ある会場の控え室にいた。


「おや。これはこれは公女殿下」


 控え室にて待機していると、ドアを開けて入ってきたヨーセフが挨拶をしてきた。

 対し、ルーヌは振り返り。優しく微笑んで見せる。


「こんにちは、ヨーセフ。外の様子はどうでしたか?」

「皆様、それぞれこの場を楽しんでおりますよ。あなた様が現れるとは思ってもいません」


 ヨーセフの言葉に、ルーヌは「それはそれは」と口元に手を添えながらほくそ笑んだ。その様子を見たヨーセフが手を叩く。


「――素晴らしい。完全にミカエラ様だ。やはり君が適任だったね」

「そう言って良いのはこの後の結果次第よ。勝負はここからなんだから」


 ルーヌはそう言って鋭い目をした。

 腕を組み、この先の展開をイメージトレーニングする。


「しかし君に頼んで良かった。君であれば心配はない。それくらい、今のはミカエラ様によく似ていたんだ」


「それはどうも。ねえヨーセフ、ミカエラ様なんだけど。やっぱりこの場に座るべきなのは、彼女だと私は思うのよ」


 ルーヌはそう言い、友に強く主張した。

 そんなルーヌにヨーセフが肩を上下させる。


「なんだい、急に」

「ミカエラ様と話していてわかったことがあるの。彼女は、周りがよく見えているのよ。確かに目は見えないんだけど、自分の置かれた立場や政治情勢。そして何をするべきなのかがわかっている。今回の、私がこの場にいるのもそう。彼女は自分に力がない事をわかっている。だから、自分の代わりが出来る人に託そうとしている。その覚悟が、彼女にはあるのよ」


 オーガスタ宮殿で世界を見ようとする公女を、ルーヌはそう評価する。


「ねえヨーセフ、あなただけはミカエラ様を見捨てないで。ずっと支えて上げなさい」


 自分が評価した人物を支える立場にある男に、ルーヌはそう告げた。

 すると、彼は呆れたようにため息をして見せる。


「僕は公室補佐官の主任だ。公女様を見捨てる事などあり得ないよ。さて、そろそろ時間だ」


 公室補佐主任官が腕時計に視線を落として、そう述べた。

 それを聞いたルーヌは瞳を閉じ。


「――はい。参りましょう、ヨーセフ」


 と。自身を公女へと移し替える。その様子を見た公室補佐主任官は使用人を呼び、車椅子に腰掛けたルーヌを連れていくよう指示をした。若いメイドが後ろに回る中、ルーヌは耳を澄ませ。勝手に世界が動くのを音で体感した。そして彼女は知る。


 暗い、暗い世界だった。ルーヌが今見ているのは、光のない世界。目から移る世界はもうない。あるのは何もない世界。何かがあるのはわかるのに、見えない世界。その世界でわかるのは、耳から入る情報であった。その耳がルーヌに教えてくれる。車椅子の音を。使用人の足音を。扉を開ける音を。広い空間に出た事を。大勢の人がすぐ近くにいる事を。


「皆様、本日はお集まり頂き。誠にありがとうございます。本日、このベアタ公国の独立記念日式典パーティを二年ぶりに開催する事が出来。長年ベアタ公室に仕えてきた者として。大変嬉しい一日となりました。本日は、このベアタ公国にとって。記念すべき一日となるでしょう」


 少し離れた場所で、マイクを持ったヨーセフの声が響いた。その声からルーヌは状況を想像。これから起きるであろう出来事を推測した。


「さて。この記念すべき日を迎えました今日。かつてのように、私達はあるお方よりお言葉を頂きたく思います。皆様、心してお聞き下さい」


 それが合図だった。ヨーセフにバトンを渡されたルーヌはメイドに指示をし。その指示を受け取ったメイドが車椅子を押した。数秒後、ルーヌの耳に大勢の人の驚きの声が入る。


 視線を。大勢の人の姿勢をルーヌは感じとった。そして何より、彼女は音を持って周囲の様子を知る。息を呑む音。驚きの声を上げ続ける者。倒れ込む者の音。様々な音が入り続ける。


 やがて、車椅子が停止し。使用人が離れた。その事でルーヌは自身の前にマイクがある事を悟り。息を整える。目を瞑ったまま、彼女は周囲を見回すように首をゆっくりと振ってから。


「皆様、お久しゅうございます。私は、ミカエラ・オーセ・ベアタ・トルンクヴェスト」


 確かに。そう発した。

 そして、ルーヌはミカエラとして優しさに満ちた笑みを浮かべる。


「この国の公女であり、後に女公としてあなた方と共に歩む者です」


 それが、約二年ぶりにオーガスタ宮殿から国内に姿を見せた――公女の姿となった。


             ☆☆☆



「さすが、この国一の女優ですね。惚れ惚れ致しました」


式典パーティの次の日、ルーヌはオーガスタ宮殿にてミカエラと顔を合わせていた。昨夜行われた式典パーティでの反応は、参加者を仰天させたと言える反応であった。


約二年、その長い期間。一切外に出なかった次期女公となる少女。二年前の悲劇から目を失い、愛する人を失ったその少女に。ベアタ公国の人々は同情を示していた。


 されど、二年前の悲劇が発生した式典パーティにて、悲劇の姫は国中に示したのだ。私は帰ってきた。私はこれから、ベアタ公国の為に尽くす。――と。


「もう。完全に理想のミカエラそのものです。やはりあなたを選んで正解でした。特にあのスピーチ! あのスピーチを聞いた者はベアタ公室に再び忠誠を誓ったにありませんよ! 私は確信を得ました。これからのベアタ公国は前に進み出します。ルーヌ、あなたの功績は大変素晴らしいものですよ! あなたは素晴らしいお方です!」


 ミカエラはそう言い、ルーヌを褒め称える。

 彼女があまりにもルーヌを絶賛するので、ルーヌは彼女を止めようと手を前に出す。


「よ、よしてくださいミカエラ様。そんなに褒められたものじゃないんですから」

「もう! 私とあなたは一心同体なんですから、そんな他人行儀な話し方は止めてください! 本当にルーヌは素晴らしいです! やはりあなたに託してよかった!」


 心の底から嬉しいらしい。ミカエラの絶賛の声は止む気配がない。


「じゃあミカエラ。ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「はい、なんでしょうか。ルーヌ」

「あなた、私のファンだって言ったわよね。あれってどういう事なの?」


 見かねたルーヌは話題を逸らす為、一ヶ月前に聞かされた事を尋ねる事にした。

 すると、ミカエラは「ああ」と思い出す様子を見せると。優しくほくそ笑む。


「ふふ、実は私。お父様と一緒にコッソリ、あなたの公演を見に行っていたんです」


 思わぬ言葉であった。ルーヌは興味を持ってしまい、その話の先を聞いてしまう。


「公王陛下様が、私のを?」

「ええ! 父はあなたのファンでした! 特に三年前の作品。私の曾祖父様をあなたが演じた三日月の夜に。あの作品は本当に素晴らしかったんです。父は言っていたんですよ。あそこに祖父がいるって。あの女優は本当に素晴らしいと、父と一緒に絶賛していたんです」


 しみじみと。ミカエラはかつての記憶を語った。

 それが彼女にとっては思い出深いものなのだろう。目の前で笑うミカエラの姿は、目を失って哀しみに暮れる彼女からすれば久々の笑みにも思えるものであった。


「そうだったのね。でも納得だわ。あなたが私を指定したのはそういう理由なのね」


 自分が呼ばれた理由を知ったルーヌはそう納得すると、ある事を思い出した。


「そういえばミカエラ。それからどうなの? あれから一ヶ月が経ったけれど」


 物のついでと言わんばかりに、ミカエラが抱えていた問題の進展具合を尋ねる。

 すると、先ほどまで明るさに満ちていた表情に、影が生まれた。


「……やはり。ダメです」


 良くない返答である。ルーヌは腕を組み、ミカエラをじっと見つめた。


「震える理由はどうして? 心当たりはある?」

「……ルーヌは、プレッシャーに押しつぶされた事はありますか?」


 苦しそうに胸を抑えながら、ミカエラがそう尋ねてきた。

 ルーヌはゆっくりと頷いて。


「ええ。あるわ。その経験はある」

「……恐らく、私が震え上がってしまうのは。女公になるというプレッシャーに押しつぶされてしまうからなのです。特にマイク、マイクを前にすると聞こえてしまうのです」

「何が?」

「……失望の声、でしょうね。きっと、私に囁かれているであろう失望の声です。ベアタ公国がこのような危機だと言うのに、何も出来ない公女。あの公女がいる限りこの国はダメだと」


俯きながら、公女は自分をそう評価する。勿論、ルーヌは反論した。


「誰もそんな事を言っていないわ」

「でも、失望しているのは確かです。だって、あなたに頼む事になったのは――そういう事なのですから」


 だけども。ルーヌの言葉はミカエラの持つ『絶望』が遮ってしまう。


「ルーヌ。私は目が見えなくなってから、音で周囲を知るようになりました。音というのは敏感な存在なんです。私が世界を知る方法は、この耳と体の感覚だけです。人間は目から入る情報で多くのものを取り入れてきました。その目を失った私は、とても耳が良くなったんです。ですから聞こえてしまうんです。どんな噂だろうと、どんな話だろうと」


公女ミカエラは、そう言うと、哀しみに満ちた様子を見せる。先ほどまであった明るさなどもうここにはない。あるのは自身が抱える『絶望』に負けている娘の姿。


「……そう。それがあなたを苦しめている事なのね」


 ルーヌはミカエラの抱えた問題をそう受け止めると、大きな吐息をした。

 そして、彼女はミカエラにこう告げる。


「ねえミカエラ、あなたは馬鹿なのかしら?」


 それは、ミカエラからすれば大変驚きに値する発言であった。自身の抱える悩みを伝えた途端、「馬鹿じゃないの?」と言われたのだ。だからミカエラは聞き返した。


「い、今なんと……?」

「馬鹿じゃないのって言ったの。あなた、本当に馬鹿よ」


ルーヌの冷めた物言いに、ミカエラはあんぐりと口を開けた。

 あまりにもはっきりと公室を罵倒するので、初めての体験に固まってしまっている。その固まった公女に、ルーヌは一人の大人として。こう告げた。


「いい? あなたは抱えすぎなの。確かにあなたはこの国を引っ張らないといけない女よ」

「え、ええ。ですから! 私はなんとかしようと!」

「そのなんとかしようとして、空回りしてるのが現状なの。あなたはね、一人で抱えすぎ。いい? あなたが当たっている問題はあなた一人で解決出来るものじゃない」


はっきりと。ルーヌはそう告げる。


「ミカエラ、人は一人では何も出来ない生物なの。この私があなたが言う名優と言われるのも、同じ劇団にいる仲間が私を支えてくれているからよ。特にあなたが感動をしたと言った三日月の夜はね、入念の調査と研究。一人一人が必死の努力を重ねたからなの。だからあなたが感動するような作品になった。あれは一人では無理なお話だったの」


 ルーヌはそう言い、ミカエラが上げたルーヌの功績について、そう発した。


「ねえミカエラ。人は決して一人じゃ何も出来ないの。あなたは、一人で凄く頑張ってる。でも、あなた一人の頑張りじゃ限界があるの。それを理解しなさい」


 彼女はそう諭すと、ずっと話を聞き続けている公女の手を取った。


「ねえミカエラ。私とあなたは一心同体だと思うのだけど」

「一心同体?」

「そう。二人のミカエラ。影武者のミカエラと本物のミカエラ。この国には二人のミカエラがいるのよ。私は偽物のミカエラ。あなたは本物。私の役目は、あなたが表舞台に立つまでの時間稼ぎ。だから――あなたの問題は私の問題なの。あなたの恐怖は、私の恐怖なの」


 ルーヌの言葉に、ミカエラが驚きに満ちた顔を見せた。

 その顔に向けてルーヌは告げる。


「だからミカエラ、まずは一緒に問題にぶち当たりましょう。そうね、まずはあなたの状況を見たいわ。ねえ誰か! 私達を演説室に連れて行ってくれない!」


 ルーヌは外で待機している衛兵に聞こえるよう、声を張り上げた。数秒後、外で待機しているメイドが姿を現し。ルーヌの指示に従ってミカエラを連れ出そうとする。


「ル、ルーヌ」

「大丈夫。私が側にいるから。ほら、一緒に頑張るわよ、ミカエラ」


ルーヌのその言葉に押されるように、ミカエラはルーヌと共に演説室へと向かいだした。



                ☆☆☆



 友であるルーヌの行いは、ヨーセフからすればとても愉快と言えた。


 何せ。当初は拒否反応を示していた悪友が、今ではミカエラの指導を行い始めたのである。しかもその指導はミカエラの為に徹底されたもの。ミカエラの弱点を分析し、その弱点を克服する為の計画を立て。実行しているのである。特に印象的なのはルーヌはよくミカエラと会話をする事だ。その結果、二人の距離は縮まり。暗い影に満ちていたミカエラの表情が明るくなっていった。二年前に比べ、心の底から笑うようになったのだ。


 これを、愉快と言わずしてなんと言うのだろうか。


「いかが致しました? ヨーセフ殿」


 だからこそ、隣に立つアークロ王国の大使の指摘にヨーセフはハッとした。


「これは失礼をしました。少し、良き事がありまして。それを思い出しておりました」

「ほう。それはそれは。あなたとは長い付き合いですが、珍しいお姿を見ましたな」


 はっはっは。――と大使が笑みを見せた。

 その笑みに「恐れ入ります」と微笑むと、ヨーセフは本題に入る。


「それで大使。私に話とはいったいなんでしょうか? もしや悪いお話ですかな?」

「いやいや。とても良いお話ですよヨーセフ殿。実は、我らが第二王子のイーデン様がある事を希望されているのです」


 大使の言葉に、ヨーセフは目を細める。これはアークロ王国からの政治的要請だ。


「どのような希望でしょう?」

「ズバリ。あなた方の姫君とのお時間ですよ。ミカエラ様が二年ぶりに外に出られたと知り、イーデン様は大変お喜びでした。是非、我が王子の希望を叶えさせて頂きたいのです」


大使の要請に、ヨーセフは驚きの顔をしてしまう。そのヨーセフの顔に向け、大使は持っているグラスを掲げ、静かに微笑んだ。


「如何でしょう? 我が王子はご心配されているのですよ、何せ王子は、あなた方の姫君を大変気に入っておられますからな」



               ☆☆☆

 


 それから、半年の月日が経過した。


 ミカエラはルーヌの指導の下、自分の中で眠り続けている恐怖と戦う日々を続けた。ミカエラが恐怖に取り憑かれるのは、国に関わる事をする時。現段階でその反応がよく出るのは演説の時である。その為、ルーヌが取ったのは恐怖に慣れるという作業と成功体験。


 まず、ルーヌはミカエラの側に付きっきりで居続け。ミカエラの問題と一緒に戦い続けた。スピーチの練習で震えているのであれば、すぐには止めさせず。少しずつ慣れさせた。


 その結果。ミカエラは少しずつ。時に傷ついていったけれど、その度にルーヌとヨーセフが支え。彼女は前に進み。そして、スピーチの練習を開始した。


「うん。最初の頃に比べたらだいぶ良くなったわ。凄いじゃない」


 スピーチを終えたミカエラを、ルーヌは歓喜の声を持って出迎えた。

 ルーヌが発した拍手にミカエラは感謝の言葉を述べる。


「ありがとうございます。ルーヌの指導のおかげです」

「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない。お世辞の言い方がわかってることで」

「ふふ。本心ですよルーヌ。本当に、ルーヌのおかげで。だいぶ前に進めました」


ふふふ。とミカエラは笑みを浮かべる。そんな彼女が思い出したように。


「そういえばヨーセフから聞きましたよ。アークロ第二王子のイーデン様とお会いする事になったとか」


「ええ。向こうの王子の希望でね。ヨーセフから聞いたけど、イーデン王子とは面識があるんだって?」


「はい。あの事件の前に、何度か手紙のやりとりをしていた仲です。とても素直で、聡明な殿方なんですよ。良き友でございます」


 ふふ、とミカエラは遠い国の王子についてそう述べる。

 だけども、それを聞いたルーヌはため息をした。


「ねえミカエラ。この会合の意味をわかってるかしら?」

「はい? どういう意味でしょうか?」


 念の為と思い尋ねると、思った通りの返答がやってきた。

 まだ若すぎる公女の天然ぶりに呆れたルーヌは今回の会合の意味を教える。


「いい? イーデン王子はあなたが好きなのよ。イーデン王子があなたに逢うと決めたのは、あなたが表舞台に出るようになったからなの。イーデン王子、あなたに逢いたくてしょうがないの。今回の会合は、あなたとデートしたいからって事なのよ」


 ため息交じりに、ルーヌは今回開かれる会合の意味をそう説いた。

 すると、思わぬ言葉だったのだろう。

 ミカエラは大変驚いたように両手で口を覆った。


「ま、まさか」

「まさかも何も無いわよ。あなたね、結構美人なんだからね? ベアタ国内でも、アークロ王国でもお似合いのカップルって言われてたのよ? 向こうの王子美形だしね」


 ルーヌはそう言って肩をすかしてみせた。

 そんなルーヌにミカエラが動揺しながら。


「で、でしたら。ルーヌの役目は大変なものになりますね。わ、私を好いている方となんて」

「は? なに言ってるの。ここまで言ってるんだからわかりなさいよ。行くのはあなたよ」


 と。逃げの姿勢を示しだしたので。ルーヌはジトッとした目をする。

 案の定、ミカエラが鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。


「は、はい?」

「将来の旦那さんになるかもしれない男なんだから、他の女が行ってどうするのよ」


「ちょ、ちょっと待ってくださいルーヌ! わ、私に行けと言うのですか? 私は――」


「あなたはもう、十分に仕事が出来る状態のはずよ。将来の旦那と会うんだから、あなたが行きなさい。これは決定事項です」


 駄々をこねる子供を突き放すように、ルーヌはミカエラの逃げ道を封じた。

 でも、それでもミカエラは首を大きく振る。


「む、無理です! 無理ですよルーヌ! そ、そんな事を言われてしまったら……」

「大丈夫、緊張している姿を見せれば男は可愛いと思ってくれるわ。顔を赤くしてモジモジしていれば男は自分がエスコートしないといけないと思うものよ」


「ル、ルーヌ! あなたは!」


「ふふ。ごめんごめん。でも、これはあなたの将来に関わる事なんだから。あなたが行きなさい。大きなデビューになるけれど、あなたなら出来る。私は信じてるからね」


 もう一人のミカエラはそう言い、本物のミカエラの背中を押した。

 背中を押されたミカエラは必死に抗議をしたけれど、結局。彼女が行く事になったのは言うまでも無い。

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