第24話 西園寺財閥ご令嬢のご奉公


 その後、メアリーさんからJIAの技術などを聞いた。


 それらの技術の殆どが一般公開されていないだけで、実はその技術はかなり進んでいるらしい。


 主にアメリカとイギリスがその最先端を進んでいるらしいが、ロシアを含めその開発水準を把握出来ていない国も幾つかあるとの事だった。



 一般に知られていない技術の中で、例えばステルス機能がある。


 戦闘機や偵察機、戦車や軍艦などにもそれらは搭載され、レーダーにも感知され難いのは勿論、目視もされ難い代物だ。


 驚く事に、知られたくない建物や施設等、勿論JIAの本部や支部にも使用されているらしい。


 そして、その技術は日々進化しており、メアリーさんがこの家へ乗り入れた車両も、先月搭載されたステルスBOOABAA型と言うらしい。


 これは、電磁パルスEMP攻撃に耐える事の出来るシールド 素材が最新の物で、ごく最近になって開発された素材の物と変更されたと言う。


 もしかしたら……。


 俺が静電気みたいなので携帯を壊そうとしたのって、電磁パルスみたいなのかも?



「そう言えば、悠斗くんに凄く会いたがってる人が居るんだけど」


「え? 僕にですか?」


「あ、悠斗くん、僕って言った!」


「え? ええ、何か変ですか?」


「何だか可愛いわねー」



 そう言って俺を見るが、ちょっとハズいんですけど?



「それより会いたいって人は⁉」


「あ、ええ、灰原さん覚えてる?」


「ええ! 勿論ですよ!」



 灰原さんと言うのは、数年前に俺達が伊豆旅行へ行った時に、沙織さんに頼まれて運転手をしてくれた人だ。

 

 印象としては大人の男って感じ?


 滅茶苦茶凄そうな車に乗って来てくれたっけ。


 タイヤも六輪だったし。



「彼が凄く会いたがってたわよ?」


「そうなんですか! 僕も会いたいですよ~」


「あ、また言った!」


「な、何ですか……」



 そりゃ、年上の人に俺とかちょっと失礼かと思って、言葉選んだだけだけど?



「んー何だか新鮮ね!」


「そうですか?」


「うんうん!」



 そう言って目を輝かせた。


 もう何でもいいや。



「で、灰原さんは何処にいるんです?」


「今も本部に居るんじゃ無いかなー」


「JIA本部? どこだろ」


「最近悠斗くん、警察に連絡したでしょ?」


「警察に?」


「ええ」



 そう言えば、あいつらを車ごと海へ投げ込んだ時だ!



「あ……ええ、まあ」


「あの処理は勿論そのまま警察が行なったけど、事後処理はJIAの彼が担当したのよ」


「えっ? そうだったんですか?」


「そりゃそうよーあんな状況、考えられないじゃない」


「う……ま、まあ」



 確かに車が入り込むには不自然な場所だと思う。



「その時、彼から私に連絡が来てね」


「そうだったんですね」


「あの悠斗がしでかした! って、嬉しそうに話してたわよ」


「し、しでかしたって……」


「そりゃそうでしょー?」


「すみません……やり過ぎました」



 溺れさせる深さじゃ無かったけど、まあ、やり過ぎたかな……。



「でも、四人は薬物常習者だったし、警察にしたら有難かったとは思うわよ」


「そ、そうですか?」


「ね、それってどうやったの?」


「それ?」


「私ね、まだ資料見てないから状況が分からないのよー」


「ああ、実はラリった四人組を車ごと海へ……」


「現状は聞いたんだけどね」


「あ、そっか……」


「どうやってそんな事したの?」



 そうだよね……。


 確かにやり過ぎた感はあるし、メアリーさんには正直に言わなきゃいけないよね?



「えと、国道走ってたから事故起こしたら大変かと思って、上へ弾いてからもう少し空へ上げて、その後海岸へ落としたんだだけど……」


「なっ……何でっ⁉」


「あ、だから危ないと思って」


「いえ、なにで?」


「なにでって……この手、で?」


「えーっ!」



 メアリーさんが驚いて見ているが、でもまあ、これが普通のリアクションだよね?


 裏の人だし隠す事もしないで、そのまま話しちゃったけどヤバかった?



「てか、悠斗くん空飛べるの⁉」


「あ、いえいえ! 高くジャンプ出来るだけ」


「高くって、どの位? ちょっと跳んでみて!」


「え、ここじゃ駄目ですよ!」


「そうなの⁉ 何処なら出来るの?」


「だって、かなり高くだったし」


「どの位?」


「えと、あの時は五千メートルかな?」


「――っ⁉」



 メアリーさんは驚いて声が出ない様だ。


 まあ、高くジャンプ出来るっても限度超えてますよね?


 ええ、分かります。


 あ、五千メートル上がるとかなり寒いです。


 お勧めはしません。



「ちょっと、悠斗くん! その身体見せてくれる?」


「えっ? えーっ⁉」



 思わず退け反った。


 身体見せろって……。


 そりゃ風呂場で倒れて皆に素っ裸見られたけど、メアリーさんにまで見せるの⁉



「ハズイよ!」


「って、脱いでって事じゃ無いけど?」


「あ、そう?」


「ちょっと触らせて!」



 そう言ってメアリーさんが俺の身体を触りだした。


 腕や脚、お腹や肩など弄っているが、くすぐったくなって来た。



「ちょ、くすぐったいよ!」


「あ、ごめん! でも、違いが分かんない……」


「まあ、俺も出来るか微妙だったけど、やってみたら出来たし?」


「普通はやってみても出来ない事よね?」


「あ、うん……多分」



 そりゃそうだよね。



「ね、他に何が出来るの⁉」


「他に? 早く走ったり?」


「どの位⁉」


「あ、計った事無いけど走る車よりは……」


「な……他にはっ⁉」


「他に……あ、例えば家族や知り合いの居場所が分かる!」


「え? どういう事?」


「んー、今はみんなが上の露天風呂に居るとか、近くに誰か来たなーとか」


「な、どうやってっ⁉」


「こう、頭の中に位置が出るの。自分では脳内レーダーって呼んでるんだけど」


「脳内レーダー?」


「何て言うのかな、ぐるぐるアースが頭にある感じ?」


「ぐるぐるアースって、ウェブサイトアプリの?」


「うんうん。他にも、こうやってメアリーさんのステータスや染色体情報、遺伝子情報が読み取れるよ?」


「え……私の?」


「そそ、スキルも分かるんだよねーこれ」


「スキル?」


「あーメアリーさん、三か国語も話せるんだ! バイリンガルって奴? 凄いですね!」


「え……それが分かるの⁉」


「ええ、まあ」



 すると、力を落とした様にため息をついた。



「はあ……」


「あ……どうかしました?」


「いえ……何だか凄い子だったのね」


「あ、僕?」


「うん……前にグレイが化け物じゃ無いだろうなとか言ってたけど、こんな事になるなんて……」


「化け物って……」



 しかもグレイって誰よ?


 聞き覚えあるけど……グレイ……あ!


 まさか、宇宙人⁉


 メアリーさん宇宙人と知り合いなのっ⁉


 秘密組織ってやっぱり異星人と交流があったのか!


 まあでも、こんな俺って化け物かー。


 こんなの地球人じゃ無いよな。


 化け物って言われても仕方ないかも?



「あ、いえ! ごめん!」


「あ、良いんですよ。でも、メアリーさん宇宙人と知り合いだったんですね」


「え? えーっ?」



 そうだよな……俺は地球育ちのエランドール生まれなんだよね。


 そう思って左手の指輪を見ながら右手の腕輪に触れた。


 すると、音も無く俺の両脇に盾と剣が現れた。



「これは俺を守護する盾と剣なんですよ」


「え……どこから……?」


「普段は見えないけど、常に俺の傍で守護しているんです」


「そ……んな……」


「あ、つい最近なんですけどね、これ使える様になったの」


「それで沙織さんは帰ってしまったのね……」


「あ、いえいえ! これを使えるようになったのは、沙織さん達が帰った後なんです!」


「え? じゃあ、本当にごく最近ってか、昨日⁉」


「あ、使えるようになったのって、今朝じゃん!」


「え……」


「何だか色々あり過ぎて……」



 沙織さん達が帰ってから滅茶苦茶色々あったしな。



「その盾と剣は何に使うの?」


「んー取り敢えずは異星人襲来の時?」


「でも、異星人ってそれで倒せるの?」



 メアリーさんは疑心暗鬼の様だ。


 まあ、実は俺だって倒せるとは思って無いけど、倒さなきゃSPイベントが消える訳だ。



「そこが問題なんですよねー」


「え……」


「やっぱさ、ドデカい宇宙船とかで来ると思いません⁉」


「ええ、まあ」


「しかも、十とか二十とかの編隊で来るらしいし」


「そんなに⁉」



 そんな事をセレスが言っていた。


 海の水とか大気を奪いに来るとか?



「まあ、そこをイーリスと一緒に考えようと思ってたんですよ」


「イーリスってあのピンクの子?」


「ええ、あいつ、ああ見えて凄いんです」


「そ、そうなの?」



 まあ、メアリーさんのリアクションは分かるよ。


 あのイーリスが凄いレアキャラだって事は、エランドールの人じゃ無いと分かって貰えないよね。


 でも、あいつこそ今のこの地球で、一番の能力者じゃないかな?



「あいつこそ化け物なんですけどねー」


「えーっ!」


「あいつね、時空を捻じ曲げて移動するんですよ?」


「時空をっ⁉ どういう事っ⁉」


「あ、詳しい事は分かんないですけど」


「そ、そう……」


「でも、あいつが来た奴らを時空に止めて、そこを俺がバーンって……」



 あ、俺って言っちゃった!


 時空に止めるとか訳分かんないよね?



「バーンって……」



 あ、そっち?


 でもその反応は分かります。



「あいつが、ピーンで僕がバーン、らしいです」


「そう……なの?」


「ただ、これだけじゃ何だか心細いから、ちゃんとあいつと計画を練ろうかと思ってたんです」


「そうね、それが良いと思う!」



 ですよねー?


 俺も来週だと思うと落ち着いて居られない。



「でもね、実際にこうして悠斗くんと会って話して見て、あなたの事が少しだけ分かった気がします」


「え?」


「私も沙織さんをよく知ってる訳じゃ無いけど、あの人は絶対に悠斗くんを誰よりも大切に想ってる」


「あ、はい……」


「そんな悠斗くんが、その力を間違えた使い方する訳無いわよね」


「え、ええ……まあ」



 ドキッとした。


 ムカついてあいつらを海へ投げ込んじゃったし……。



「悠斗くんのご両親が、新JIAへの資金提供をする会社の代表をしているのは話しましたよね?」


「あ、詳しくは聞いてませんけど大まかには」


「その会社の本社を日本へ移転させ、海外本社は支社となり、ご両親は帰国します」


「あ、そうなんですか!」



 父さんたち帰って来るんだ!


 愛美と一緒に居られて良かったじゃん、父さん。



「沙織さんが戻った際の計画は、既に出来上がっていましたからね」


「そうだったんですか」


「新JIAとなった事で、ご両親への保護指令が発動され、同時に資金源となる会社を海外へ起こす事になったのです」


「ああ、そこはチラッと聞いてます」


「そうでしたね。各国の組織に対応する為、どうしても資金源になる会社が必要となったのです」


「そうでしたか」


「この度、沙織さん方が戻られた事により、JIAとしては第二フェーズへ移行しました」


「それが、両親の帰国とか?」


「はい。本社の移転とご両親の帰国、愛美さんの啓聖大学への入学です」


「愛美が俺の大学へ?」


「あ、蜜柑も入って貰います」


「ああ、そうなるんですね」



 やっぱりそのまま蜜柑が愛美のボディーガードって訳か。


 まあ、愛美と一緒に居てくれるし俺としても安心だよ。



「悠斗くん、きちんと話しておきますけど……」


「あ、はい?」


「今のJIAは悠斗くんとその家族を護る為だけに存在しているという事です」


「え……えーっ⁉」



 そんな秘密組織が俺の為にっ⁉



「沙織さんと悠菜さんが異世界へ戻った後、悠斗くんを保護する為に沙織さんが用意した組織なんですよ」


「や、やっぱそう言う事なの⁉」


「その為、数多くの海外組織とも連携をとっています。以前のJIAのコネクションを利用してますけど、それも含めて沙織さんがJIAを買収したのです」


「そうだったんだ……」


「まあ、この様子だと、悠斗くんを護る為と言っても、その身では無くて事後処理が主な仕事になるでしょうけどね」



 そう言ってメアリーさんは微笑んだ。


 ああ、海岸へ投げたあいつらとか……。



「あ、そっか……何だかすみません」


「いえいえ、ご家族皆さんを護る為にもJIAは存在しているのですけどね」


「それで蜜柑を愛美に……」


「新JIAとしての初任務が、彼女による愛美さんの保護でしたね」


「そうだったんですか」


「まあ、オレンジにしても初任務だったんですけどね」


「オレンジ?」


「ええ、あの子のコードネームはオレンジなんです」


「え……何だか安易じゃない?」


「ま、まあ、沙織さんが命名したんですけど」


「あははは! あの人らしいや!」



 思わず今までの沙織さんの天然ぷりを思い出して笑ってしまった。



「やっぱり安易ですよね⁉」


「ええ、凄く」


「ですよね……」


「あ、メアリーさんもコードネームなんです?」


「ええ、そうなんです。あ、灰原さんはグレイって言うんですよ」


「えーっ! そうだったんですか!」


「ええ」


「さっき、メアリーさんがグレイが言ってたとか言うから、宇宙人と知り合いなのかと思いましたよ!」


「え? ああ! それでさっき変な事言ってたんだ⁉」


「うん!」



 そうだったのかー!


 グレイだから灰原さんかー!


 やっぱり安易じゃない?



「新しくなった今のJIA職員、みんなが悠斗くんの成人を心待ちにしてたんですよ」


「えーっ!」


「とは言っても、上層部を知っている方々だけですけどね~」


「あ、そうなんだ」


「特にグレイ、そしてケントとイオも早く会いたがってますよ」


「ああ、他にも居るんですね!」


「ええ! イオなんて、悠斗くんをずっとストーカーしてるんですよ?」


「えーっ⁉ ストーカー⁉」



 な、何だとーっ⁉


 ヤバい所見られてないか⁉



「勿論、悠斗くんの保護が目的なんですけどね」


「あ、ああ……」


「イオは優秀な通信部員で、あちこちに設置してある監視カメラを独自で解析出来ちゃいます」


「へ、へー……」



 絶対にヤバいでしょ?



「そうそう! 大学のフードコートで絡んで来た男達!」


「え?」


「あれらを交わしてたの動画で見たわよ!」


「あ、あれっ⁉」


「凄い反射神経だとは思ったけどね~まさか、序の口だったとは」


「あ、あははは……」



 沙織さんにちょっかい出してたからなあいつら。


 あの時は何だか無性にムカついた。



「イオは開発にも興味を持って色々やってるようですけどねー」


「そうなんですね」


「ええ、口癖は生悠斗に早く会いたいー、ですよ」



 生悠斗って……。



「ぼ、僕も早く会いたいです」


「あーやっぱり新鮮!」


「え?」


「悠斗くん、私の前ではずっと僕って言ってくれない?」


「え……えー」



 そこは考えておきます。



「私ね、イギリス支部にずっと居たから、日本の男の子と話した事あまり経験なくってー」


「あ、ああ……そっすか」



 メアリーさん……こう見えてうちの母さんより年上かな?



「あ、そう言えば悠斗くん」


「はい?」


「西園寺さんと知り合ったのはどういう経緯で?」


「え? 西園寺さん?」


「ええ」



 確か最初に会ったのは、大学のフードコートだったよね?



「えーと、最初は五十嵐さんと偶然知り合って、その後、大学で五十嵐さんに再会した時に紹介されたんだけど」


「あー五十嵐さんですか……最初に彼女と会ったのはどちらで?」



 五十嵐さんはコンビニじゃない?


 あ、いや違う!


 大学のフードコートでぶつかりそうになった時か!



「彼女とは大学のフードコートだった!」


「そうですか……」


「どうかしました?」


「西園寺財閥がJIAの職員をボディーガードやセキュリティとして、以前から派遣雇用としているのはお話ししましたよね?」


「ええ。あ……あーっ!」



 西園寺財閥って!


 西園寺さんの⁉


 そうだ!


 だからあんなリムジンだったり、お婆さんが大学の理事長だったり!



「な、なにか?」


「西園寺さんって、もしかして西園寺財閥ーっ⁉」


「え……そこ? てか、今気づいたのっ⁉」


「あ、はい……今気づいた」


「うそっ!」


「いや……セレブだなーとは思ってたけど、財閥のご令嬢とは……」


「五十嵐さんだって財閥とはいかない迄も、それでも地元では有名なご令嬢でしょう?」


「えーっ⁉ そうだったの? 有名だったのか……」


「ええ……知らなかったの?」


「そりゃ、冷蔵庫三台もあるとか聞いてたけどさ……」


「冷蔵庫?」


「あ、いえ……」



 そうだよ、彼女達に初めて会った時……。


 冷蔵庫が家に何台もあるって聞いて金持ちは違うなーって……。



「悠斗くん、案外鈍感なのね……何だか意外だわ」



 イヤーッ!


 ハッキリ言わないでーっ!



 しかし、沙織さん……。


 悠菜とエランドールへ帰った後の事を考えて、そこまで準備してくれていただなんて……。


 沙織さん突然帰っちゃったって思ったけど、ずっと前から俺達家族の事を本当に想ってくれてたんだな。



「あーそれとね、悠斗くん」


「はい?」


「西園寺夫妻がお会いしたいそうよ」


「え……西園寺さんのご両親がっ⁉」



 友香さんのご両親か……何だか緊張が半端ないんですけど!



「いえいえ、友香さんのお爺様とお婆様って言った方が分かるかしら?」


「え? お爺様とお婆様って」



 友香さんのお爺さんとお婆さん?


 友香さんってお婆ちゃんっ子なの?


 あ、お婆さんってうちの大学の理事長さんだよね?


 そしてお爺さんはイルカが居る水族館持ってるんだっけ⁉



「友香さんのお爺さんとお婆さんが、僕に会いたいの?」


「ええ、沙織さんがJIAの所有権を得る為にお会いした方々です」


「そうだったんだ?」


「ええ」



 そっか……JIAの実質的な所有者だったのか。


 もしかしたら、沙織さんが半ば強引に取引して、仕方なく譲る事になってたとか?


 それってかなり気まずくない?


 しかもさ、友香さんのお爺さんとかお婆さんとは言え、そんな大物さんと会うとかめっちゃ緊張する!



「会わなきゃ駄目だよね?」


「え? 嫌なの?」


「い、嫌って言うか何か、どういう話して良いか分かんないしさ」


「ああーそう言う事?」


「うん」


「悠斗くんがそんなに構える事は無いとは思うけど?」


「そ、そうかな……」



 だって西園寺さんが実権を握ってたJIAを、沙織さんが事実上買収したんじゃん。


 乗っ取ったとか、横取りとかってなると、俺の印象かなり悪く無い?


 実は異世界から地球へ来ていて、その関係者を護る為にJIAを買収しちゃったんだよね?


 友香さんのお爺さんとお婆さんも、そんな沙織さんの事をどう思ってるんだろう……。


 普通ならいい気分じゃないよね?


 でもさ、沙織さんを悪く思われるのは嫌だな……。


 そうだ!


 二人に会ってみて、沙織さんを悪く思っている様なら、出来るだけ誤解を解こう!


 友香さんのお爺さんとお婆さんに、沙織さんを悪く思われたままって言うのは嫌だもんな。


 ここに残った俺の事はどう思ったっていいさ。


 いっその事、JIAを西園寺さんに返しちゃう?


 折角、沙織さんが嫌われてまで用意してくれたんだけどさ。


 あ……JIAと関係を切ったら、メイドさんや蜜柑とも関係が切れちゃうのかな……。


 それは嫌だな……。


 取り敢えず、二人に会ってから決めた方がいいよね?



「メアリーさん、俺、二人に会うよ」


「そう? 私、西園寺さんが悠斗くんの成人を心待ちにしていたのも、沙織さんから聞いていたしね」


「そうだったんですか」


「ええ。まあ、悠斗くんが会うのを嫌だって言っても、あの方たちなら押しかけて来るだろうけど」


「え……っ?」


「まあ、そう言う方なのよ」



 そ、そんな……。


 我が強い人なのかな……。


 金持ちって財力にモノを言わせて、何でも自分の思う様にするのか⁉


 そう言えば、友香さんが言ってたっけ!


 いずれ親が許婚を探してくるとか!


 きっと、人の心より財閥としての威厳と言うか、尊厳と言うか良く分かんないけど、そんなのがあるのかな?


 友香さんの許婚を探して来るって話も、到底俺には納得出来ないし、全面的に衝突しそうな予感……。


 でも一度は覚悟を決めて会わないと駄目かー。



「分かった。ちゃんと会って話しするよ」


「じゃあ、悠斗くんの都合が良いのはいつ?」


「え、まあ、いつでも?」


「あらそう? じゃあ、そのようにお二人には伝えるけど、いいのね?」


「うん、引き伸ばしても憂鬱になるし」


「あら、やっぱり嫌そうねー」


「嫌って言うか、気が重いだけですよ」


「そっかーじゃあ、尚更早めに会った方が良さそうね」



 そう言うとメアリーさんは携帯を見始めた。


 スケジュールを確認してる様だ。



「じゃ、ちょっと確認して来るわね?」


「え、ええ」



 そう言ってメアリーさんは部屋を出て行った。


 広いリビングに独り残された俺が、どうしたものかと考えたのもつかの間、直ぐにメアリーさんがリビングへ戻って来た。



「今からこちらへ見えるそうよ?」


「えーっ⁉ い、今からですかっ!」


「それほど悠斗くんに会いたかったって事ね」


「そ、そうなんだ……」



 どうする⁉


 西園寺財閥の誰だっけ?


 会長さんだっけ?


 まあ、友香さんのお爺さんとお婆さん何だよね?


 もしかして、孫娘が泊り込んでる事に気が気じゃ無いのかも⁉


 よく考えたらそれが普通じゃん⁉


 しかも、沙織さんが組織を乗っ取った、その元凶が俺だもん。


 急いで来るってのも納得がいく。



「な、何時ごろ来るんです?」


「さあ、直ぐ向かうって言ってましたけど?」


「す、すぐですか……どうしよう、メアリーさん!」


「どうしようって、一応友香さんにお知らせしたらいいかしら」


「俺は⁉ 首洗って待ってろとか言って無かった⁉」


「どうしてそうなるのよ! 何もお二人は悠斗くんを討伐しに来る訳じゃ無いのよ?」


「そ、そうかな……」


「取り敢えず友香さん達に教えておくね」


「あ、はい」



 そう言うと、メアリーさんは携帯でメイドさん達に連絡をしていた。

 


「あ、メアリーさん。これで知らせる事出来ますよ?」



 俺はそう言って、リビングの壁に付いたタッチパネルを指差した。



「え?」


「それに触れて話すと家の皆に聴こえます」


「え、これ? 便利ねー!」


「でしょー? 僕にとっては不可欠なシステムなんです」


「そうなんだ?」


「ええ。迂闊に露天風呂に入り込まない為にね」


「あ、なるほどね~」



 そう言ってメアリーさんはニヤニヤしてタッチパネルを触った。

 


「皆さんにご連絡です。今夜、西園寺会長夫妻がお見えになる事をお伝えします。細かな訪問時間は分かりませんが、悠斗くんへ一刻も早い面会を希望されていた為に、この様な急のご訪問となった事を報告します。連絡は以上です」



 流石メアリーさん、要点だけを簡潔に伝えたな。



『愛美了解しましたー! あ、みかんとイーリスもでーす』


『朝比奈と夜露も了解しました!』


『五十嵐ですー、友香ちゃん温泉モードなので聞こえてませーん!』



 メアリーさんが不思議そうな表情で俺を見た。


 ああ、その事を忘れてたよ。



「温泉モード?」


「メアリーさんあのね、友香さん、温泉モードになっちゃうと周りの声が聞こえないの」


「え? 何それ!」


「んーまったりモードって言うか、ボケーっとしちゃうのよ」


「な、大丈夫なの? のぼせてるんじゃないの?」


「いや、お腹空いたら正常に戻ると思うんだけど」


「えーっ⁉ そんなのって……危なくない?」


「まあ、未来が一緒だから大丈夫かと?」


「そ、そう?」


「ええ」



 まあ、実際にあの状態を見ないと理解はし難いかもね。



「皆さんのお返事を受け取りました。では、友香さんへの伝達は五十嵐さんにお任せします」



 インターフォンを触れてそう言ってから、メアリーさんが俺を見た。



「ええ、いいと思います」



 俺がメアリーさんにそう言うと、同時に五十嵐さんが返事をくれた。



『五十嵐了解しましたー!』


『夜露です、私も友香お嬢様と一緒におります』



 俺が頷くとメアリーさんも軽く頷いた。



「了解しました」



 そうだよね、夜露さんも一緒なら安心だね。



「じゃあ、友香さんは未来と夜露さんに任せるとして、会長さん達におもてなしとか……」


「そうね……紅茶があれば私が淹れますけど?」



 紅茶か……ここで飲んだ事はあるけど、何処にあるのかさっぱり分からん。



「あるとは思うんだけど、何処だろ……愛美に訊いてみる」


「あ、朝比奈なら知ってるかも?」


「あーそうですね! 食事の支度もしてくれてるし、知ってるかも知れませんね」



 俺とメアリーさんがそんな事を話していると、直ぐに彼女の気配がした。


 そう、俺の脳内センサーが察知したのだ。



「はい! 私がお茶の準備を致します」


「あ、朝比奈さん!」



 見ると、バスローブを着た朝比奈さんがダイニングへ入って来た。


 急いで降りて来たのだろう、頭にはバスタオルを巻いている。

 

 これが大人の女性か!


 あ、いや、地球人のね。


 沙織さんやセレスのこんな姿は見た事あったけど、家族以外の女の人のこんな姿には免疫は無い。



「朝比奈さん、先ずは服を着て下さいよ! まだ時間もあるし」


「はい! すみません! 直ぐに支度をしますので!」



 そう言うと、彼女は足早にダイニングを出て行った。

 


「何だか、悠斗くん凄い環境ね~」


「え、ええ、まあ」


「まるでハーレム?」


「いやいやいや、違うでしょ!」


「あらそ?」



 まあ、女の人がこんなに居る事は無かったけどさ。


 でも、ハーレムとは違うでしょ?


 誰一人俺の彼女でも何でも無いし……。


 いいさ……俺は永遠に沙織さんが好きなんだから!



  ♢



 朝比奈さんがメイド服に着替えて暫くすると、メアリーさんの携帯が震えた。



「あ、見えたみたい! ちょっと出迎えに行って来るわね」


「え、あ、はい!」



 ここのセキュリティによって、初めての人は戸惑う筈だ。


 恐らくは可視化出来なくて困惑しているのだろう。

 

 しかし、いよいよ会長夫妻のお見えか……。


 あー憂鬱じゃん!


 メアリーさんが迎えに行ったとしても、俺が玄関迄は出迎えないと失礼だよね?


 そう思うと足早に玄関へ向かった。


 しかし、改めて見ると広いよな……ここ。


 まるでホテルのロビーじゃんね。


 すると、玄関の外に人の気配を感じた。


 脳内レーダーは明らかに数名の侵入者を察知している。


 何だか凄い能力だよな、我ながら。



「どうぞ、こちらです」



 そう言いながらメアリーさんが玄関ドアを開いた。



「ああ、お邪魔しますよ」



 歳は六、七十代か……背筋はピンとしているが、年配のお爺さんが入って来た。



「あ、どうも! 霧島悠斗です!」


「お? 君が悠斗君かね! いやーすまないね、突然!」



 そう言って二歩三歩と近寄って来た。



「あらあら、悠斗さん? 初めまして、西園寺です」



 続いて年配の女性も入って来た。


 そして、お爺さんの横へ並ぶと深々と頭を下げた。


 この人が大学の理事長なのか。



「あ、初めまして! どうぞ、お上がり下さい!」



 そう言ってスリッパを探すと、既に玄関に並べてあった。


 俺の横にはいつの間にか朝比奈さんが立っていた。



「あ、朝比奈さん! どうもありがとうございます」


「いえ」



 そう言って彼女は頭を下げた。



「では、失礼しますよ」


「夜分にすみませんね、お邪魔しますね」



 二人が俺の後を歩いて来る。


 だが、何だか二人が怪しい動きをしている。


 見なくても俺の脳内センサーが察知しているのだ。


 爺さんが何かしようとしているのを、お婆さんが必死に阻止している様だ。


 もしかして、背後を狙われてるっ⁉


 だが、俺には潜在的な研ぎ澄まされた反射神経がある筈だ。


 しかも、盾のたっちゃんも発動する筈っ!


 だが、めっちゃ緊張する!


 いっそ、このまま温泉に案内しちゃう?


 温泉マジックで腑抜けにしちゃえば?


 お年寄りって温泉好きでしょ?


 はい、分かってますって、ちゃんとリビングへ案内するってば。



「こちらへおかけになって下さいね?」



 そう言ってソファーへ勧めると、事もあろうか爺さんがソファーを指し示した俺の手を握って来た。



「悠斗くんっ!」


「え⁉」



 な、なにーっ!


 何すんの、この爺さんっ!


 咄嗟に構えたが、脳内に爺さんの情報が一瞬で流れだした。


 接触した事で新たな情報を書き換えたのだろう。


 この人に俺に対する悪意など見当たらない。



「沙織さんから全て聞いている! 立派に成人したんだってね!」


「え、え? ええ、まあ?」


「あらあら~」


「どうかね、地球の暮らしは!」


「えーっ?」


「お水は合いましたか~?」


「何か不自由は無いかねっ⁉ でも、ご両親はもうすぐ帰って来るらしいよっ⁉」



 俺は爺さんとお婆さんを交互に見るが、後ろのメアリーさんが下を向いているのに気付いた。


 彼女の肩が震えている。


 もしかして、笑いを堪えてるっ⁉


 さては、こういう人って知ってたのか!



「あ、だ、大丈夫です! 何も不自由何て感じてませんから!」


「そうかい⁉ 本当かい⁉」


「我慢強い子なんですよ~」


「え?」


「そうなのかっ⁉ 我慢してるのかい⁉」


「いえいえいえ! 取り敢えず、お掛けになって下さいよぉ」



 そう言って二人をソファーに勧めたが、後ろのメアリーさんが目に入った。


 ちょ、あの人完全に笑ってるし!


 彼女は堪え切れずに声を殺して笑っていた。


 ♢


 俺の前に西園寺財閥の会長夫妻が、どういう訳か目を輝かせて座っている。


 やっぱり、沙織さんが強引にJIAを乗っ取ったのが原因だよね?



「あ、あのー何だか、すみません……」


「ん? 何を謝っているのかね?」


「あらあら~」



 爺さんは不思議そうな顔で俺を見た。


 だが、その眼光は怪しく光っている。


 お婆さんは優しそうな表情だが、やっぱりその思考は読み取れない。



「いえ、あの、沙織さんが西園寺さんのJIAを無理やり買収した訳で……でもっ! それは僕達家族を想っての事なのでっ!」



 見ると、爺さんはゆっくりと腕を組んだ。



「で、ですから、もしも西園寺さんがJIAを元に戻したいとお考えであれば、すぐにでも……」



 そうなんだよな。


 沙織さんが言う俺の成人って、俺には家族の皆を護る義務もあるって事かも知れない。


 だとしたら、この二、三年JIAが家族を守ってくれた訳だから、これからは俺が護らなきゃいけないんだろうね。



「待ちなさい、悠斗くん」


「は、はい……」



 すると、静かに爺さんが組んでいた腕をほどいた。



「確かに、JIAは西園寺が筆頭者として運営をしていたが、何も私共だけの組織では無かったのだよ」


「あ、はい」


「難しい話は端折るが、CIAやMITの様に本国の政府から資金が出ていた訳では無く、時の政治家や幾つかの財閥、或いは個人の資産で賄っておったんだ」


「え、ええ」


「いつしか、JIAは資金を出した者の都合の良い組織となってしまった。日本国民を脅威から護ると言う、当初の概念は薄れてしまったのだ」


「そうだったんですか……」


「わしの若い頃は、仲間が皆日本を愛しておってな。外国の組織や国内のテロ集団に対抗出来るように、強固な秘密結社をと考えて創立したんじゃ。表の組織だと結局は政府に勝てんからな」


「あ、そうですか……」



 そう言うと爺さんはお婆さんと目を合わせた。



「そんな時に、沙織さんと悠菜さんが現れたんじゃ」


「そうでしたね~本当に、突然~」


「あ、ええ」


「二人が枕元に立ってた時は、本当に腰が抜けたわい」


「でしたね~」


「えっ! 枕元ですかっ⁉」



 あの人達、突然この二人の寝てる所へ行ったのかよ!


 夜に忍び込んだって事っ⁉


 まあ、あの二人なら出来そうだけどさ。



「ああ、夢枕に立たれたとはこう言う事かと思ったわ、わははは!」


「私は女神様かと思いましたよ~」


「ああ! 何度も話したが、それはわしもじゃ!」


「あ、あははは……」



 俺は苦笑いしか出来なかった。


 しかし、沙織さんと悠菜……思い切ったな。


 二人共お年寄りだし、下手すりゃ心臓止まったりしちゃうでしょ!



「あの時は驚いたが、話を聞けば、自分達に代わって君達の家族を護る組織が欲しいからと……」


「ええ、ええ~枕元に立ったまま話していましたね~」


「と、唐突ですよね……」


「だがな、そう言うあの方の銀色の目に引き込まれてしまってな」



 悠菜か……。



「端的に要点を話してくれたお陰で、そんな状況でも理解するのに時間は掛からなかったんじゃ」



 てか、要点しか言いませんよね?


 しかも、無表情でしょ?



「な、何だか情景が目に浮かびます……」


「そうかい? 一方の沙織さんは、本当に女神の様に微笑んでいたな」


「ですから~あの方は女神様ですよ~」


「やっぱりまだそう思うか?」


「ええ~あの方は、悠斗さんを守護されている女神様なんですよ~」


「そうか、そうだろうな」


「あ、あははは……」



 俺にとっては初恋で初キス相手で、間違いなく女神様なんですよ。


 くっそー沙織さんの唇思い出しちゃったぜ!



「その後、悠斗くんの生い立ちを聞いたんじゃ。沙織さんと悠菜さん達の遺伝子を受け継いで生まれたとな」


「ええ~悠斗さん、大変でしたね~」


「あ、いえ、僕は何も大変じゃ無いんです! むしろ、沙織さんや悠菜や、両親が大変だった訳で……」


「そ、そうか……」



 そう言うと、爺さんとお婆さんは顔を合わせてしまった。


 な、何かマズい事、俺言った?



「あ、いえ、本当にずっと傍で見守ってくれていて、大変だったと思うんです」


「悠斗さん……」



 お婆さんが優しい目つきで俺を見た。


 爺さんも俺をじっと見ている。


 な、なにっ⁉



「ご両親にしろ、沙織さんと悠菜さんにしろ……本当に君を大切に想っていたんじゃな……」


「え、ええ。それだけは僕、分かっているつもりです。帰ってしまった二人には何にも恩を返せませんし、それだけが今も心残りです……」



 そうなんだよな。


 恩返し何て何が出来るか分かんないけど、返しきれない程の愛情を感じてる。


 両親にはこれからでも恩を返そうと思えば出来るだろうが、帰った二人にはもう何も出来ない。



「恩など返さんでも良い。あのお二人はそんな事は望んでおらんよ」


「え……?」


「そうですよ、悠斗さん~そんな事を考えたらよく無いわ~?」


「そ、そうでしょうか……」


「育ててくれたご両親にも同様じゃよ?」


「え?」


「その内、君のご両親がこっちへ帰って来るじゃろ?」


「あ、はい」


「そのご両親だって、育ててくれた恩など返さんでもいいんじゃ。そんな事は望んじゃおらんじゃろ」


「え……」


「いや、恩を感じる事は大切じゃよ? だがな、その恩を親に返そうとする事は無いと思うんじゃよ」


「そうですか?」


「恩を返すんじゃ無くてだな……その、なんだ……」


「愛して差し上げる事ですよ~」



 言葉に詰まった爺さんに、お婆さんが優しく俺に微笑んだ。



「あ、愛して?」


「そうじゃ。してあげたいと思う、精一杯の事をしてあげたら良いと思うんじゃ」


「してあげたいと思う精一杯の事ですか……」


「他から聞いている限り、君はそれが出来ていると思っとるんじゃが……」


「ええ~そうでしたね~」


「え?」



 そう言われても、俺は何もしちゃいないよね?


 思ってるばかりで何も出来てない。


 買い被りもいいとこだよ。



「会長ご夫妻、発言をお許し下さい」



 不意に、俺の後ろに立っていた朝比奈さんが頭を下げた。



「ん? 何かね?」


「朝比奈さんですね~? どうぞ~?」



 すると、一歩前へ出て来た朝比奈さんが深々と頭を下げた。



「ありがとうございます」



 そう言って、またもう一歩前へ出る。



「私は、昨夜からこちらへご一緒させて頂き、夜露や友香お嬢様より悠斗様の人となりを色々と伺っております」


「ほう、それで?」


「この私自身も悠斗様のお優しさに、己の心が乱されたのも事実です。私には悠斗様がこれまでお会いした方とはまるで違った、何か特別な方に思えてなりません」


「ふむ」


「あらあら~」



 な、何ですか朝比奈さん!


 そんな庇ってくれる様な言い方してくれなくても!


 て、照れくさいんですけど⁉



「沙織さまと悠菜さまがどの様な方なのかは、私には存じ上げませんが、間違いなく悠斗様はそのお二人の愛情を、受け継いでいらっしゃると思います」


「何故そう思うんじゃ?」


「はい。お二人の愛情をお受けになった悠斗様だからこそ、こんな私共にでさえ無償の愛情を与えて下さっていると考えます」


「沙織さん達に受けた愛情を、今度は彼が君に与えてくれてると?」


「はい!」


「悠斗さんはちゃんとお返し出来てるのね~?」


「はい!」



 えーっ!


 そ、そんな記憶ありませんけどっ⁉


 そりゃ、人として少しは優しく出来ないかなーとか思ってますけどっ⁉


 めっちゃ恥ずかしいじゃん!



「ふははは! これじゃよ、悠斗くん!」


「ええ、ええ~」



 お爺さんとお婆さんが嬉しそうにそう言った。



「え、いや、そんなに……」



 そんなんじゃ無いですってば……。


 俺、何にもして無いですって!



「こうやって、ご両親や帰られたお二人に与えて貰った愛情を、今度は自身の周りに少しずつでも返す事。これこそが理想の連鎖じゃよ!」


「全くその通りですよ~?」


「理想の連鎖?」



 何だか、凄い思想の持主なの?


 これが大財閥の会長さん思想なの?



「与えられたから与えてくれた人に返すのでは無く、それを他の人へ出来るだけ返していく……これこそが理想では無いか?」


「え、ええまあ」



 確かにそれが出来たらいいんだろうけど、俺には返したくても返せない人が居るんだよね。


 でも、この二人が言うのも分かる。


 恩返しが欲しくて沙織さんや悠菜が、俺達に愛情をもって接してくれていた訳じゃ無い。


 上で露天風呂に入っている友香さんだって、恩を返して欲しくて俺達が寂しいと思って、ここへ来てくれた訳じゃ無い……。


 あ、あの人は確かに温泉好きだけどさ。


 みんな、優しいんだよ……。



「そうは言っても、理想はあくまでも理想じゃ……。じゃがな、理想を追い求める事は罪では無かろう?」


「ええ、そうですよね」


「わしらはな、沙織さんと悠菜さんに出会ってから、そんな理想を思い描いたのじゃ」


「ええ~とても素敵な事だと思いますよ~」


「思えば、家内とこうやって理想を語る事は、かれこれ随分と無かったからな」


「そうですねぇ~」


「昔は良く語ったものじゃよ」


「はい~」



 そう言って会長夫妻は悦に浸っている。


 何だか思ってた人と違った……。


 もっとこう、強欲な人種かと勝手に想像してたよ。


 でも、友香さんのお爺さんとお婆さんだしね。


 友香さんは凄く優しい心の持ち主だし、このお爺さんとお婆さんあっての彼女かもね。



「悠斗くんが地球人の啓子さんと、沙織さんや悠菜さんともう一人、異世界の人との混合種だと言うのは既に聞いておる」


「あ、そうですか……」


「しかも、悠菜さんともう一人の方は、遠い昔に地球で暮らしていた古代人だと言うでは無いか」


「あ……そうですね」



 古代人か……。


 そう考えた事は無かったけど、普通はそうなるよね。



「そんな二人の悠斗くんに対する思いは、今のご両親に負けない程じゃろうて……」


「そうですね……」



 確かにそうだ……。


 そう言えば、二人の種の存続は解決して無いんじゃないか?


 俺があの二人に子供を授けるとか、そんな事考えられないけどさ。


 しかも、そんな事を二人は望んで無いだろうし……。


 でも、このままでいいの?



「そうそう、真理さん?」


「はい」



 お婆さんがそう呼ぶと、メアリーさんが座りながらも背筋を伸ばして返事をした。


 え?


 メアリーさん、マリさんなの?



「愛美さんと蜜柑さんの姿がみえませんが?」


「はい。今は入浴されてますが二人共、心身に異常はありません」


「あら、そうですか~」


「そう言えば、友香が来とるんじゃろ?」


「はい、お嬢様もこちらの大浴場に……」



 そうじゃん!


 この人達、友香さんのお爺さんとお婆さんじゃん!


 何か、ヤバくね?



「大浴場とな?」


「はい。お嬢様は夜露を同道しておられます」


「そうか、そうか」



 ちょ、お爺ちゃん、それでいいの?


 孫娘がこんな男の家のお風呂入ってんすよっ⁉


 しかも、寝泊りしてんっすよっ⁉



「友香が悠斗くんの家へ行くと聞いた時は、何事かと思ったがな」


「ええ、ええ~本当に~」


「はい。JIA本部でもこれほどの好機は想定外でした」


「わしの手を放れた君らにとっては好都合だった訳じゃな、わははは!」


「ですから、それも全て女神様のお導きですよ~」


「そうじゃったかー!」



 そう言えば、メアリーさんが西園寺さんと何処で知り合ったのか、さっきも訊いてきたっけな。



「だが、悠斗くんが思った通りの子で安心したわい」


「私はあの方々のお子様であれば心配ないと、あれ程申し上げたじゃないですか~」


「うむ……しかし、この目で見て話してみないとだな……」


「これで安心したでしょう~?」


「うんうん」



 何だか気に入って貰ったって事でいい?


 随分と過大評価されている感じはするけど、いいよね?



「あ、いや、まだじゃ!」


「あら~?」


「え……」



 な、何ですかーっ!


 西園寺会長は腕を組むと少し下を向いたが、ハッと顔を上げると俺を見た。


 な、何なのっ?


 鋭い眼光だ。


 表情もかなり険しい。


 眉間に深いしわが盛り上がり、爪楊枝なら二、三本は挟めそうだ。


 横に座るお婆さんも、さっきまでは優しそうだった表情だったが、今は困惑した感じで爺さんを見ている。


 そっと目を逸らしてメアリーさんを見ると、彼女も困惑した表情でお爺さんを見ていた。


 すると、脳内センサーに愛美達が近づいて来ている事が確認出来た。


 ヤバいとこにあいつら降りて来ちゃったな……。



「お話は済みましたか~?」


「お話し中失礼します!」



 そう言いながら愛美と蜜柑がリビングに入って来た。



「ん? お嬢さんは……」


「あ、霧島愛美です! 初めまして!」


「私、影浦蜜柑です! まなみの保護任務に就いています!」



 そう言って、愛美と蜜柑が老夫婦に深くお辞儀をした。



「おおっ! 愛美さんと蜜柑さんか!」


「あらあら~随分と素敵なお嬢さんになりましたね~」



 二人はそう言って目を細めて微笑んだ。



「どうも、夜分に失礼して申し訳ない。西園寺です」


「ごめんなさいね、突然お邪魔して~」


「い、いえ! どうぞごゆっくりしていって下さい~」


「ご挨拶だけでもと思いまして!」



 二人がそう言ってダイニングへ行こうとすると、爺さんが二人に声を掛けた。

 


「あー、友香はまだ風呂かね?」


「あ、友香さんも直ぐにみえると思います~」


「はい! 私達、友香さんと一緒に出て来ましたので!」


「そうですか……では、少し待つとしよう」



 そう言うと爺さんはお婆さんと顔を合わせた。


 げっ!


 も、もしかして友香さん怒られちゃう?


 さっき迄あの表情だったし、きっと説教とかするつもりかも?


 すると、脳内センサーに未来と友香さん、そして夜露さんの接近が確認出来た。


 三人は直ぐにここへ来るだろう。


 ヤバいヤバいヤバい!


 あの友香さんが叱られるのは可哀そうだよ!


 俺達の事を想って来てくれているし、こんなに広い家だから泊まっていたって、友香さんの寝顔が見れちゃう訳でも無い。


 しかも、メイドさんが二人も一緒じゃん!


 常にボディーガードしてるんだよ?


 何とか友香さんが叱られるのを阻止しないと!


 そんな事を考えたその時、三人がリビングへ入って来た。



「お爺様! お婆様ーっ!」



 友香さんが嬉しそうに声を上げて、ソファーに座る二人に駆け寄った。



「おおーっ! 友香っ!」


「あらあら~」


「どうして霧島君のお宅へっ⁉」

 


 そう言って、座る二人に抱きつきながら顔を見上げた。



「うんうん、実は悠斗くんが高校生の頃に、わしらは彼を知ったんじゃがね」


「え? 霧島君の事を?」



 友香さんは不思議そうな顔で俺を見た。



「あ、えと、俺はさっき初めて会ったんだけどね?」


「え?」



 そっか、友香さんは知らなかったんだろうね。



「わしらも悠斗くんに会うのは、今夜が初めてだったんじゃがな」


「どういう事っ?」


「その事を今、悠斗くんに話したとこなんじゃよ」


「え? なに? 分かんない」


「友香ちゃん、隠していてごめんなさいね? あの頃、貴女はこっちに居なかったし~」



 そう言ってお婆さんは、友香さんの頭を優しく撫でた。


 そうか、友香さんは未来と海外へ留学してたんだっけ?



「それよりも、友香よ」


「はい?」


「悠斗くんをどう思う?」


「え? どうって?」


「その、なんじゃ、お、おい……」


「なに?」



 爺さんは何故か言葉に詰まると、隣に座るお婆さんにお前が言えと手で合図した。



「友香ちゃん、好きな人は出来たの~?」


「えっ⁉ どうしたの、突然……」



 お婆さんにそう聞かれて友香さんが困惑した表情になると、爺さんと婆さんは顔を合わせ、お互い軽く頷いた。



「お婆ちゃんね、悠斗くんがとても気に入ったわ? お爺ちゃんもそうだって~」


「え……?」



 えーっ⁉


 な、何言ってるの、この人達はっ!


 この流れって、俺と友香さんをくっつけようとしてる⁉


 まさかでしょっ⁉


 家柄つーか、身分つーか、色々釣り合わないでしょ⁉


 そりゃ、友香さんだったら俺には勿体無い位だし?


 でも、世間的に可笑しくないっ⁉


 財閥のお嬢さんでしょーっ⁉


 無理無理無理ーっ!


 二人の話を察した友香さんは、顔を真っ赤にして下を向いてしまった。


 そりゃ、そーでしょ!


 唐突過ぎるし!


 俺だってこの場から逃げたいよ!



「あ、あのっ!」



 立ち上がったついでに、つい声も出しちゃった。



「ん?」



 爺さんがキョトンとした表情で俺を見上げた。



「あの、何か、僕が言える立場じゃ無いかも知れませんけどっ!」


「悠斗さん?」



 優しそうなお婆さんも俺を見上げてる。



「でも、友香さんの、その、け、結婚相手は、やっぱり友香さんが決めた方が良いと思いますっ!」


「え?」


「あ……」



 言っちゃった……。


 友香さんがハッとして驚いた瞬間、夜露さんが声を漏らしたのを、俺は聞き逃さなかった。


 夜露さんは口に手を当てて驚いているが、そんな事はこの際どうでもいい。


 目の前の爺さんとお婆さん、そして抱かれた友香さんが俺を見ている。


 ハッとして辺りを見ると、メアリーさんと朝比奈さんもびっくりした表情で俺を見てた。


 向こうでは愛美と蜜柑が固まってる。


 でもさ、友香さんがあの夜に寂しそうに話してた許婚の件は、俺にはやっぱり納得出来なかったんだよ。


 あの時は養豚場に例えちゃって失敗したけど……。



「わしもそう思っとるよ?」



 相変わらずキョトンとした表情で俺を見てそう言った。



「へ?」


「わたしもですよ~? 友香ちゃんには幸せになって欲しいですもの~」



 そう言ってお婆さんは、友香さんの顔を見ながら優しく頭を撫でた。



「お婆様……」



 友香さんはお婆さんに抱きついて幸せそうだけど?



「あ、あれ?」



 俺、何か勘違いしてる?


 やっちまった?



「結婚相手など、その二人の覚悟が無けりゃ有り得んじゃろ?」


「え、ええまあ」


「若いうちは勢いで何でも出来る気になってしまう。じゃがな、若さゆえにって事も多いんじゃよ?」


「そうですねぇ~」



 お婆さんが爺さんに同意する様に頷いた。



「じゃが、結婚相手を友香に押し付ける気など、これっぽっちも在らせんわい」


「ええ、ええ~」



 呆れた様にそう言うお爺さんと、何度か頷くお婆さんに戸惑った。



「え、だって……あれ?」



 俺は友香さんの顔を見た。



「あのね、お爺様。お父様が、その……」



 ソファーに座るお婆さんとお爺さんの間に入り込み、床にそのまま座った友香さんが言い難そうに二人を見上げた。



「ん? どうした?」


「その内、立派な許婚をお爺様と探して来るから、今は他の者との交際は認めないって……」


「そんな事をっ⁉ あやつが言ったのかっ!」


「うん……ハイスクール行ってた頃かな……それまでは、その……貞操も絶対に守りなさいって……」


「ぬ……」



 爺さんは納得のいかない表情で友香さんとお婆さんを見た。


 貞操って……あれだよね?


 こう言う話って、せめて十五禁にした方が良いですか?



「あ、ほら! 沙織さんと会った後、お爺ちゃんが言ったでしょ~?」



 するとお婆さんが、何かを思い出したかのようにお爺さんを見てそう言うと、少しだけ考えたお爺さんが声を上げた。



「ん? あー、あの事か⁉」



 明らかに思い当たる節がある様だ。



「あの事って?」


「あ、あれはだな、高校生の悠斗くんを知ってから、あいつに話しておったんじゃよ」



 友香さんにそう聞かれたお爺さんは、何だかバツが悪そうにそう言った。



「何を?」


「友香の将来に、悠斗くんはどうかのと、な……」


「えーっ⁉」


「そ、それをあいつが勘違いして、わしが友香の許嫁に悠斗くんを薦めていると思ったんじゃろ⁉」



 慌てて弁解をし始めた。



「そうだったの⁉」


「そうじゃ、そうじゃ!」



 何だか友香さんのお父さんに擦り付けてない?



「でもね、お父さんは勘違い何てして無いわよ~? だって、お爺ちゃんは悠斗くんと友香ちゃんをくっつける気よ~?」


「あ、これっ!」



 だがお婆さんがそう友香さんに話すと、爺さんが慌ててお婆さんを両手で制した。



「わ、わしが無理やり何か友香にした事あるか!」


「はいはい~」



 でも、どうやらこの爺さんが発端の様だ。



「じゃああの時、お父さんが言ってたのはこの事だったの?」


「ああ、きっとそうじゃな……友香に許婚など、そんな事する訳なかろう?」


「うん……お爺様とお婆様はそんな事言わないとは思うけど……あの時のお父様は何度も念を押して来たから……」


「そうじゃったのか……」


「それで、友香ちゃんは悠斗くんをどう思っているの~?」



 お婆さんにそう聞かれた友香さんは困った様に下を向いてしまった。



「お、お婆様……私、霧島君とはまだ知り合って間も無くて、そんな……」


「では、友香が悠斗くんを見極めよ」


「え?」


「わしらの気に入った悠斗くんを、友香が見極めるまでこちらに奉公するのじゃ」


「あらあら~」


「え……ご奉公……ですか?」



 お、お爺様っ⁉


 なっ、なにをおっしゃってますのっ⁉



「わしらの可愛い孫娘とは言え、いずれお前は嫁ぐ事になるじゃろう?」


「は、はい……」



 爺さんが少し寂しげな表情で友香さんにそう言った。



「わしらにとっては、悠斗くんがどうかと思っておるのじゃが、それを友香がその目でしっかりと見極めるのじゃ」


「そ、そんなっ!」



 二人の間に座り込んだままの友香さんが、困った表情でお爺さんを見上げた。



「悠斗さんの了承も得ずに、そんな話を進めてはいけませんよ~?」


「あ、それもそうじゃった! すまんのお、悠斗くん」



 そう言って爺さんが今度は俺を見上げた。


 少しは俺の意思を尊重はしてくれるんですね?


 何だか話がどんどん進んじゃって、俺の事は論外かと思いましたよ。



「あ、いえ、て言うか、その」



 そうは言っても、友香さんが家にご奉公って⁉


 どうしてそうなるのっ⁉


 ご奉公って、貧乏人が金持ちに売られるみたいなのじゃ無いの?


 友香さんってめっちゃお嬢様なんでしょっ⁉



「そうじゃな、大学を卒業する迄の凡そ四年間、それだけあれば十分じゃろ?」


「え、えーっ⁉」



 大学生活が今度は同棲生活にーっ⁉



「勿論、直ぐに友香が決断したのであれば、明日にでも帰って来ても良い」


「お爺様……お婆様……」


「友香ちゃんがしっかり悠斗さんにご奉公をして、気に入って頂けたら良いのですけど~」



 それって、俺が友香さんを見極める事になってますけどっ⁉


 立場逆転っ⁉



「あー無理にとは言わん。友香にその気が無ければこの話は無しじゃが……」


「お爺様っ! 私、霧島君にご奉公させて下さい!」


「おおっ!」


「え、えーっ⁉」



 ちょ、ちょっと、友香さんっ⁉


 ご奉公ってあなた、何か変だとは思わないの⁉


 見回すと、皆も呆気にとられた表情で見守っている。


 すると、お婆さんがそっと立ち上がって頭を下げた。



「悠斗さん、友香のご奉公をどうかお許し下さいませんか?」


「え、そんな……ご奉公って……」



 すると、友香さんも立ちあがって俺を見た。



「霧島君、私、結婚とか先の事と思ってて、今も実感は無いんですけど、もっと霧島君の事知りたいです」


「あ、うん……」



 それは嬉しいんだけどさ、ご奉公って可笑しくない?



「どうか、お傍でご奉公させて頂けませんか?」


「お傍でって……」



 何がどうしてこうなるの?


 これがお金持ちの慣わしなの?



「ときに友香や」


「はい、お爺様」


「お前は生娘に間違いは無いか?」


「お、お爺様!」


「答えよ。嘘は許さんぞ?」


「ま、間違いありません……」


「誠か?」


「はい……」


「この通りじゃ、悠斗くん!」



 爺さんはそう言うとすくっと立ち上がった。



「へ?」



 何がこの通りじゃ、だよっ!


 このタイミングで聞くか普通ーっ!


 しかも、処女じゃ無かったら何なんだよ!


 そ、そりゃちょっとはショックだけど?


 相手の男にヤキモチ焼くけど⁉


 でも、結婚には関係無いでしょ!


 あ、いやいやいや、結婚とか考えて無いしっ!



「孫娘の友香には自由にさせてあげたいんじゃよ、どうか悠斗くん、我儘をきいてはくれまいか?」



 そう言って深々と頭を下げた。



「そんな……」


「私からもお願い致しますわ。友香の思う様にさせて頂けませんでしょうか?」



 お婆さんも爺さんの横で頭を下げる。



「老い先短いわしらの我儘じゃよ?」



 頭を下げたまま爺さんが俺をチラッと見た。



「うっ……」



 この爺さん、やっぱしたたかじゃない?

 


「ちょ、ちょっと待って下さい! お兄ちゃんの婚約者って事ですかっ⁉」



 不意に愛美が声を上げた。



「おお、愛美さん。そうか……友香では気に入って貰えんか……」


「あ、いえいえいえ! そうじゃ無くて、びっくりしちゃって!」


「ああ、そうじゃった。わしらはずっと思い描いていたんじゃが、君らには唐突過ぎた様じゃな」


「あたしは友香さん大好きだし、一緒に住んで貰えるのは良いんですけど、お兄ちゃんの婚約者ってのにびっくりで……お父さんもお母さんも居ないのに」


「ん……霧島ご夫妻か。勿論、二人には二年前から話はしておるよ。沙織さんと悠菜さんにもじゃ」


「え……」


「そんな、お爺様……。愛美ちゃん、ごめんなさい。私、そんな事何も知らなくて……」


「い、いえ……」


「でも愛美ちゃん。私、霧島君と初めて逢ってから、何故か凄く気になっているのです」


「友香さん……」


「凄く胸がときめくの……。それも見極めたくて一緒に居たいって思ったの……駄目……かな?」


「愛美ちゃん、あたしからもお願い! 友香ちゃんがこんな風に言うのって初めてなの」


「未来さん……」



 未来がそう言って愛美の手を取った。


 すると愛美は蜜柑を見て寂しそうに言う。



「わ、分かった……。みかんもそれでいい?」


「あ、うん……」



 愛美の顔を見た蜜柑だったが、少し寂しそうに頷いた。


 その様子を見た愛美が未来の顔を見て頷く。


 そして未来の手をそっと振り解くと、愛美は蜜柑の肩を抱いた。


 そうか、愛美は蜜柑の気持ちも察しているのか?


 本当の兄妹じゃ無いからと、何も言えないでいる蜜柑の代弁をして居たんだ……。


 あいつ……本当に優しくて思い遣りのある奴だな……。



「でもお兄ちゃんはずっと、蜜柑とあたしのお兄ちゃんですからね?」



 お爺さんとお婆さんへ向き直ると、そう言ってから友香さんを見た。



「え、ええ」



 友香さんがそう頷くと、釣られた様に夫妻も頷いた。



「あ、でも、そしたら友香さんがお姉ちゃん?」


「え?」



 すると愛美が何かに気づいた様に蜜柑を見た。



「あれ? 何だか、それはそれで嬉しくない? ね、みかん!」


「あ、うん!」


「めっちゃお金持ちの友香さんだよっ⁉」


「あ、これって、お兄ちゃんの逆玉?」


「うんうん! 凄いんじゃない⁉」



 あのー、愛美さんと蜜柑さん?


 俺、結婚とか考えてませんけど?


 俺は沙織さん一途なんだってば……。



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