第10話 初めてのおつかいとピンク髪の少女
今俺は悠菜に代わって、裏にある自宅のプランターに水をあげている。
これがまた毎年綺麗な花が咲くのだが、今は海外へ行っている母さんが毎日欠かさず手入れをしていたものだ。
このプランターへの水やりは、悠菜が母さんに頼まれたのではあるが、その悠菜は朝から俺の様子見で、ずっと医務室に居たしな。
俺だって、この位は手伝わないとダメでしょ。
「よし、水やり完了っと」
俺はホースをくるくると
さて、沙織さんちへ戻るか。
この後、異星人の対処報告がセレスからあるらしいのだが、これはエランドールの将軍である彼女が陣頭指揮をとっている。
まあ、専門家って言っていたしね。
そう思いながらも、俺はセレスの準備ってのが気になっていた。
あの人、どんな支度して来たんだ?
異星人の欲しい物は、地球の海の水やら大気だと言っていた。
とは言っても、どうしたら良いのかわからん。
まあ、これから家に戻れば話が出る筈だ。
沙織さんの家へ戻る時に、悠菜が消した生垣を立ち止まって良く見てみる。
悠菜がフォークで消した生垣。
力で無理やり消し去った様には見えなかった。
消えた辺りの地面を手で触れて見るが、やっぱりさっぱりわからん。
俺の部屋にも穴開けちゃったしな。
そんな事を思いながら沙織さんの広いガーデンテラスまで戻って来た。
「あ、おにーちゃん! お疲れさまー!」
愛美が俺に気付いて手を振っている。
「ほーい!」
俺は片手を上げながらそれに答えた。
愛美の隣に立っている悠菜と目が合った時に、上げた手でオッケーと合図した。
「ありがとう」
悠菜は俺にそう言うと、そのままリビングへ入ったが、彼女にありがとうと言われた時、俺は少し違和感を感じた。
そう言えば俺、
俺が
今回はあいつの水やりの時間を、俺の付き添いに費やしてしまっていた。
それを俺が代わりにやるのは、まあ自然な流れだと思った。
思えば、悠菜は俺の為にこれまで色々と自分の時間を費やしていたのだ。
それに俺が気づかなかっただけで、本当はもっと大変だった可能性も否定できない。
今回はたまたま俺がそれに気づいただけなのかも?
前に沙織さんが言っていたよな、悠菜は俺よりずっと年上って事。
そんな事を思い出しながら考えていた。
実際の歳は幾つくらいなんだろう。
俺は本当の悠菜の事は何にも知らない。
悠菜だけじゃない。
沙織さんの事だってそうだ。
生まれてからずっと一緒に居たのに、その情報は全て創られたシナリオだった訳だ。
二人とも異世界の住人。
かく言う俺もその……ハーフ?
俺という者でさえ、俺自身良く分かっていないのかも。
こうなったら色々考えても仕方ないな。
分からないものは、このまま考えたってまともな答えは出ないだろう。
体験して経験していくしかない。
ただ言える事は、これまで沢山の人達に見守られて生きて来たって事なのだ。
俺は独りで生きて来なかったという事だ。
「なあ蜜柑、沙織さんとセレスは?」
ガーデンチェアに座っている蜜柑に聞いた。
「あ、お二人は上へ行きましたよ?」
「そ? 沙織さんの部屋かな?」
「恐らく?」
「まだ決行しないのかな?」
すると、不意に愛美が声を上げた。
「あ、結構って宇宙人の奴?」
それだよ。
大事なとこなんだから忘れるなよー。
その為にセレスが準備してこっちへ来てる訳だし。
「そそ。いつやるのかな?」
そう言うと、愛美がリビングへ向かう。
「おねーちゃん、いるー?」
悠菜なら何か分る筈だな。
俺が愛美の後を追いリビングへ入ると、悠菜が丁度こちらへ来る所だった。
「あ、お姉ちゃん! ねね、今日どうするの?」
悠菜はリビングのソファーに座ると、俺達に向かって話し出した。
「元老院へ今回の事前報告する為に、エランドールへ一度戻る事になった」
「あ、そうなの?」
こっちの世界に手を貸す訳だし、その許可なり報告をして置かなければいけないのであろう。
「悠斗が戻って来てから私も行くつもりだった」
「俺を待ってたんだ?」
「え? 悠菜お姉ちゃんも行くの?」
「元老院へは私も直接報告しなければいけない事になっている」
「そ、そうなんだ」
思えば物心ついてからずっと居た悠菜。
それが、今からあの異世界へ行くというのか。
そうか、悠菜も行くのか……。
思わず動揺してしまった。
「戻って来るのはそんなに遅くはならない」
悠菜はそう言っているが、少し表情がいつもと違う感じがした。
そうだよな、俺の観察をずっとしていたからな。
今回だけは数時間ではあるが、俺の監視を解く訳だ。
「こっちの夜までには戻るけれど、それまで何にも無い事を祈る」
悠菜はそう言って立ち上がったが、何事も無い事を祈るとか大袈裟じゃね?
「そっかぁ~お姉ちゃん、本当に気を付けてね?」
「うん、お姉ちゃん気を付けて」
愛美達が心配そうにそう言うと、悠菜は彼女達に軽く頷いた。
「行って来る」
悠菜がリビングを出て階段を登っていくその後を、慌てて愛美と蜜柑が追いかける。
二階のあの部屋から行くんだな?
そうか……悠菜が異世界へ戻るのか。
俺はそう思いながら二人を見送った後、若干ぎこちなくリビングチェアーに座る。
そして無意識に辺りを見廻した。
壁に掛けられた時計は、既に昼の十一時を回っていた。
夜には戻ると言ってたよな……。
ふと孤独感を感じて改めて思う。
そうだった。
大抵、目の届くところに
ましてや、ここは沙織さんの家だしな。
愛美と蜜柑、三人で留守番って事か。
俺の家に住んでいた時にも、こういう事は記憶にないな。
だが待てよ?
前に初めて異世界へ連れて行って貰った時だよ。
あの時、愛美と蜜柑が行かなかったの? とか聞いてきたっけな。
あれは恐らく、俺達があまりにもすぐに帰って来たからそう思ったんだよな?
という事は、こっちと向うとでは時間の進み方とか違うんじゃね?
それなのに悠菜は夕方には戻るとか言ってたよな。
それって向こうではどの位の時間って事なんだろうか……。
そんな事を思っていると、愛美達が戻って来た。
「お姉ちゃん、行っちゃったー」
寂しそうな顔でそう言って、愛美が俺の横へ座るとその向こうへ蜜柑がちょこんと座った。
「そっか」
暫しの沈黙が流れる。
この馬鹿でかい家に、俺と
辺りを見回して想像してみる。
この家は謎だらけだった。
まあ、来て間もないしそれは仕方ないが、あまりにも広すぎて何処に何があるんだか分からん。
そう言えば、蜜柑は沙織さんの本当の親戚じゃ無いんだよな?
頭の中で蜜柑のステータスを見るが、生物分類上は地球人で愛美と同じだ。
勿論DNAレベルで言ったら違って当然ではある。
間違いなく蜜柑は地球人ではあるが、だとしたら一体何故ここに来る事になったんだろう。
「なあ、蜜柑」
「はい?」
あ、いや待て。
お前、一体何者?
とでも聞くつもりか?
それって、かなり酷くない?
蜜柑は不思議そうな表情で俺を見ている。
「あ、いや。部屋の引っ越しは片付いた?」
「え? んーもう少しかなー」
「そっかー大変だな」
「いえいえー、三階は見晴らし良くて気に入ってます!」
「あ、そうだよね~」
そう言えば、こいつも俺のベッドで寝てたっけな!
「つーか、お前らな、自分のベッドで寝ろよな⁉」
「あ……」
「だってーあんな広いベッド、何だか落ち着かなくてー」
「あ、あたしも……」
「お前が沙織さんにリクエストしたんだろーが」
「それがねー、いざ一人で寝てみるとねー」
「わかるー」
はあ……。
「ねえ、それよりお兄ちゃん。うち、大丈夫かなぁ」
「うちって、家?」
「うん、水やり行ってどうだった?」
どうって言われてもなぁ。
普通に庭に水やっただけだし?
「うーん、プランターに水やっただけだからなぁ。中には入ってないし」
俺は家の中には入っていない。
勿論、戸締りはしてあるが、そう言われると少し心配になってきた。
「ちょっと見に行かない?」
そう言って愛美が俺を覗き込む。
「そうだな、見に行くか」
「うん、みかんもついて来て!」
「おっけー」
ガーデンテラスへ出た俺達は、そのまま庭を突っ切って垣根に向かう。
垣根に空いた隙間を抜けると、さっき水をやったプランターがある。
狭い庭を家沿いに玄関へ向かい、そして住み慣れた家へ入った。
ふと下を見ると足元に何かある。
小さくて四角いキューブの様な金属の置物。
「何これ?」
そう言いながら愛美がそれを跨いでいく。
俺も少し気になったが、特に気に留めずキッチンへ向かう。
沙織さんの家と比べると、かなり小ぢんまりとした家に感じる。
だが、小さくても育った家はやはり落ち着く。
「あー何か落ち着くね~」
愛美がそう言ってキッチンの椅子に座ったその時、テーブルの上に何かを見つけた。
「ねね、お兄ちゃん。これなに? さっき玄関にもあったけど」
俺も同時にそれを見ていたが、蜜柑も不思議そうに見ていた。
小さな四角いキューブの様な金属の置物。
「ここにこんなのあったっけ?」
そう言いながら愛美が触ろうとした。
「待て!」
俺の制止にビクッと手を止める。
「なっ! なにっ⁉」
愛美が驚いた表情でその手を引っ込める。
「そっとして置こう」
何故かそう思った。
「脅かさないでよぉー。なぁに? これー」
遠巻きに見ながら愛美が言うが、当然俺にも分からない。
「多分だけど、沙織さんが置いたんじゃないかな」
自分でそう言って、妙に納得できた。
沙織さんが俺たちの荷物を取りに来た時に、これを置いたに違いない。
害虫避けにも思えるが……。
「あ、そうかもね~虫よけみたいなのかな?」
愛美もそう思った様だ。
だが、そのフォルムはピカピカした金属製で、どう見ても殺虫剤には見えない。
「それは分からないけど、沙織さんのだよ」
そうとしか言いようが無い。
「あ、ちょっとお兄ちゃん、あたし戸締り確認して来るからここで待っててね! 行こみかん!」
「あ、うん」
そう言うと愛美は蜜柑と二階へ向かった。
てか、先ずは一階の戸締りからだろ?
そう思いながら、俺は一階の戸締りを確認する事にした。
隣の部屋へ向かう。
え?
その部屋にある窓の内側にさっきと同じ物がある。
小さな四角い金属の物。
それを触らない様に、内側から窓の施錠を確認した。
横目で四角い物体を見ながら、今度は風呂場へ向かう。
風呂場のドアを開けた途端、俺はギョッとした。
また、あの四角い金属がそこにあるのだ。
一体何なんだ⁉
そう思いながら俺は他の部屋に移動する。
トイレにはなさそうだ。
だが、居間にはそれが鎮座している。
もう、流石に驚かない。
もしかしたら留守番みたいなものか?
侵入者に反応して知らせるとか?
そう思うと合点がいく。
「おにーちゃーん! 四角いのあるよー?」
愛美が階段を下りながら叫んでいる。
やはり二階にもあったか。
「そうかー! こっちにも何個かあったよー!」
そう返事をして愛美の傍へ寄った。
「もしかしたら、ネズミ除け?」
いや、それは違うと思う。
「まあ、沙織さんが帰ったら聞いてみような」
そう言って、俺たちは顔を見合わせた。
「まあ、家が何事も無くて安心した」
「ああ、そうだなー」
愛美が笑顔でそう言うと、俺も心なしか安心感に包まれてはいた。
我が家ってのは安心するのかもな。
「じゃ、帰るか? 帰るかってのも変だけどな」
「うん。もういいね」
先程の四角い物体には触れない様に、俺たちは外へ出る。
外は梅雨入りだと言うのにいい天気だ。
と、言うより今日はやけに陽射しが強い。
「今日は暑くなりそうだね~」
「そうだなぁ」
俺は答えながら空を見上げた。
まるで真夏の様な青い空だった。
「ねえ、お兄ちゃん! 今年の夏も何処か行きたーい!」
同じように空を見上げていた愛美がそう言った。
去年は伊豆へ行ったっけ。
「ああ、そうだなー沙織さん次第かな?」
一応保護者だしな。
「うん! ねえ、この間の水着覚えてる?」
そう言えば、この前水着で家に居たっけな。
「ああ、覚えてるよ?」
見ると、愛美が顔を覗き込んでる。
「もう忘れていい! えっち!」
「はぁ?」
「みかん、行こ!」
何なんだよ
愛美と蜜柑は先を歩いて行く。
難しいな
セレスが言ってた様にこれがお年頃って奴か?
俺はその後姿を見ながら二人の後を歩いていった。
沙織さんの家のガーデンテラスまで来ると、ここの広さに改めて実感する。
「やっぱり、ここって広いよねー」
先を歩いていた愛美が不意に両手を広げてそう言うと、ニコニコして振り返った。
何だよこいつ、怒ってたんじゃないのか?
だが愛美も同じことを感じたようだ。
うちの家の真裏にある訳だが、沙織さんの家から見た裏には、他の家が五件程面している。
その面している所には高い生垣がある。
だが、都合よくその高い生垣は、それらの家々の北側に面している為なのか、日照権とか面倒な問題にはなっていない様だ。
そして、沙織さんの家の敷地が余りにも広い為、高い生垣に囲まれていてもその中央にある母屋には十分な陽が射し込む。
俺は周りを囲んでいる生垣に何気なく目をやった。
その時、生垣の上に陽の光に輝く何か金属の様な物を見た。
何だ? あれ。
俺が生垣の上を見つめていると、その様子を見ていた愛美が声を掛けた。
「お兄ちゃん? 何見てるの?」
そう言われた俺は光る何かを指さした。
すると愛美もそれに気づいた様だ。
「あれ、なぁに? 光ってるね」
俺は頷きながらも、それをもっと近くで見たくなった。
「何だろうな、あれ」
その光っている物へ近寄るが、傍へ行くと反射が変わり光を失う。
しかも、生垣が高すぎてその物自体が見えない。
「上にあるから見えないなぁ」
そう言って少し離れると、愛美が声を上げた。
「あっちにもあるよー?」
そう言われて指さした方を見ると、その光っていた物があちこちにあった。
規則的に等間隔で生垣の上にある。
もしかしたら、俺の家にあった奴と同じ物か?
何と無く、質感と大きさが同じ様に思えた。
「さっき、家にあったのと同じ物かも?」
そう言うと、愛美が声を上げる。
「えー⁉ やっぱりネズミ除け?」
いや、そうじゃないよ……愛美。
「ネズミ除けじゃないと思うけど、家にあったのと似てないか?」
「んーわかんない」
愛美はもう興味が無いように答える。
「暑くて喉乾いちゃったー、みかん何か飲まない?」
「何か飲む?」
そう言いながら二人はリビングへ消えた。
まあ、考えても分かんないけどさ。
生垣の上の留守番する機械だな。
きっと異世界のシステム技術だろう。
機能は全くの不明だが。
ネズミ避けでは無いと思う。
リビングからダイニングへ向かうと、そこにはダイニングチェアーに座り、美味しそうに喉を潤している愛美と蜜柑がいた。
「今日はマジで熱くなりそうだな」
そう言いながら二人の前に座った。
「うんうんーもう夏なのかなぁ」
「例年に比べて気温が高いって、テレビで言ってるー」
グラスを置きながら蜜柑がそう言う。
梅雨入り宣言してから数日経っていたが、夏本番ってのはまだ先だと思っていた。
数年前から昔の季節と若干ずれて居る感じはある。
桜の季節に雪が降る地域があったり、木枯らしが吹き始めてから急に暑くなってみたり。
まあ、日本は特に大問題にはなっていないが、世界規模では色々と問題も多いようだ。
環境問題とか言われてはいるが、俺にはどうしようもない。
この地球の気の向くまま、それに順応していくしかない訳で……。
おっと、話が大きくなってしまった。
「ねえ、お兄ちゃん。昼ご飯何にしよっか?」
そう言われて時計を見るともう正午じゃないか。
「もうそんな時間か!」
そう言うと、やれやれという顔で俺を見た。
「誰かさんのせいで朝ごはんが遅れたからね~」
そう言って、愛美はニヤニヤしている。
はいはい、そうでした。
「はい。すみません」
何も反論出来ない。
「とくに腹減って無いし、何でもいいよ、俺は」
そう言うと、俺も何か飲もうと席を立つ。
「そうだよねー悠菜お姉ちゃんも居ないし」
「そうですねー」
思えば、この三人だけってのも滅多にない経験だ。
空のグラスに紙パックの飲むヨーグルトを注ぐ。
「それ、好きだねぇ」
愛美にそう言われて気づいたが、無意識にこれを飲んでいた。
「ああ、何となく飲んでたわ」
昔から乳酸菌飲料を好んで飲む傾向にある。
「おかげで、あたしもそれ好きになったけどねー」
そう言えば
「お兄ちゃん、お昼ご飯はどうする? 朝が遅かったから、二時か三時頃でいい?」
「ああ、そうだなー」
「じゃあ、お昼はあたし達に任せてー」
「うん、お昼は愛美と一緒に作ってみる!」
「それじゃ二人に任せるよ。頼むわ」
そう言って空のグラスを軽く濯いで
「出来上がったら呼ぶから家の中にいてね~」
そう言って愛美はキッチンへ立った。
「わかった。部屋にいるよ」
俺は部屋に戻る事にした。
あの噴水の部屋だ。
そう言えば、今朝は金魚の餌やってないや。
そう思いながら階段を上がった。
♢
アウトローと訳される場合もあるが、そちらの意味は罪等を犯しその身を追われたり、組織からの保護を受けられなくなった者を言うらしい。
ともあれ、その出会いは突然だった。
悠菜達が異世界へ戻ったその日、俺は愛美と蜜柑の三人で留守番していた。
三人での遅い昼食を済ませた俺達は、広々としたリビングでまったりとした時間を暫く過ごしていた。
その後暫くして……午後四時を過ぎた所だったと思う。
セレスに何かこっちのモノでも買ってあげたいな。
それに、悠菜にも……何が良いかな。
「なあ、ちょっとコンビニ行って来るけど、何か買って来る?」
「んーあたしは特に良いけど? みかんは?」
「私も特に……」
「んじゃ、そこのコンビニでセレスと悠菜に、何かお菓子でも買って来るよ」
「はーい。気を付けてねー」
「知らない人に声かけられても相手しないのよー?」
「お……おう」
それはお前が小さい頃に母さんに言われてた事だろ!
家を出た俺は、一人で近くのコンビニへ向かっていた。
妙に湿度が上がって居るのが体感で分かる。
それ以外にも何か違和感を感じたが、それが何なのかは特に意識しなかった。
今日は暑かったからなー。
そう思いながらも、俺は
それはちょっとした解放感にも似ていた。
例えば小学校高学年になって、初めて独りで風呂に入った時の様な気分。
独りで出掛けるなんて、初めてだな。
これまで俺の傍にはいつも悠菜が居た。
物心ついた時には既に悠菜が傍にいたのだ。
俺が異世界で生まれ、ここに来てからずっと、悠菜の監視下にあったからだ。
監視と言うより、ずっと保護されていたと思う。
この前の夜、アイスを買いにコンビニへ行こうとした時も、結局は悠菜と愛美達が後から来たしな。
それにしてもセレスには何が良いかなー?
とは言っても購入場所はコンビニである。
大したものは期待して欲しくない。
セレスの様子だと、今回の地球の危機に最善を尽くしてくれている筈だ。
いやセレスだけじゃない。
悠菜も沙織さんも俺の為に異世界へ戻ってくれている。
俺には何も出来ないのか……?
いや、きっと俺にだって出来る事がある筈だ。
異世界の三人は俺の為に凄く親身になってくれている。
俺が生まれてからずっとだ。
両親もこんな俺を大切に育ててくれた。
だとしたら、俺は愛美や育ててくれた両親や友達の為に……。
何でも良い、出来る事をしたい。
何か出来る事を……。
心からそう思った。
俺に出来る事って何だ?
何かしてあげたいけどな……。
そんな事を考えたその時、ふと、さっき感じたいつもと少し違う緊張感を感じた。
脳内サーチに付近の電磁異常を感知したのだ。
これは……そうか、カミナリでも近いのか?
雨も降りそうだし……あ、降って来やがった!
家を出た時に少し感じていた湿度の変化から、一雨来そうだと予測は出来ていたが、突然激しい夕立にあったのだ。
アスファルトの匂いと言うのだろうか、もわーっとした匂いが辺りに立ち込めていた。
だが、激しく降る雨により、その匂いを感じる事もすぐに無くなる。
かなり向うの空に陽射しが見えているが、俺の頭上を真っ黒な雲が空を覆い、局地的に雨を降らせていた。
マジかよ!
これがゲリラ豪雨⁉
改めて空を見上げると、実にこの一帯にだけ雲が低くそこにある。
こんなにも雲が低くあるのは見た記憶がない。
手が届きそうだった。
急に妙な違和感を全身で感じたその直後、すぐ真上で刺すような激しい光と大気を震わす轟音を同時に感じた。
更に激しさを増した雷雨に下を向き、少しでも雨宿りが出来そうな場所を探す。
だが、ここまで来たらコンビニへ急いだ方が良いのかも知れない。
やがて見えたコンビニに急いで駆け寄り、店舗に沿って突き出た
俺はたまらずそのドアの中へ飛び込んだ。
その時だった。
目の前に年配の人が転びそうになっているのが見えた。
ヤバいっ!
あの人の後頭部は間違いなく床に叩きつけられる!
そう頭のどこかで分析しながらも、俺の身体は想定外の素早さでその人の下へ潜り込む。
同時に俺はその人を抱え込んだ。
しかし、濡れた床が滑って体制は立て直せない。
その人を抱えて崩したバランスはどうしようもなく、視界がグルっと大きく回転した。
その時回転した視野の中に、黄色い何かが見えた気がしたが、今は抱えた人の保護が俺の優先事項だ。
だけど絶対にヤバい!
何か対処をーっ!
うわっ!
ゴンッ!
いってぇぇぇー!
大きな音と同時に何処かで黄色い悲鳴が聞こえた。
俺は滑って転んだ拍子に頭を床に思いっきりぶつけ、辺りに大きな音をたてたのだ。
だが、抱え込んだその人の外傷は無い様だ。
瞬時に抱えたこの人らしきステータスが表示され、それを見ると精神異常以外は問題無い事は分かった。
精神異常と言ってもこんな状況だ。
見知らぬ男に行き成り抱き抱えられたら、誰でもびっくりするだろうね。
焦りと戸惑いの感情が強いだけで他に異常は無い。
だが、俺自身の自動防御は未熟だったようだ。
頭の保護は後回しになっていた様で、俺の身体的外傷が感じられたが、とにかくこの人に一言声を掛けないとマズい。
「だ、大丈夫ですか?」
案外こんな状況でも冷静に声を掛けられるものですね。
「あ、あら! どうもすみません!」
どうやら転びそうなのを俺が助けたと、この人は理解してくれている様だ。
こんな所で変質者だと騒がれても面倒だ。
その人はゆっくりと濡れた床に立った。
年配の……お婆さんだった。
ひとまず何とも無くて良かった。
仰向けになって後頭部を強打した俺は、何か身を支える物を無意識に手探りしていた。
同時にズキンズキンと脈に合わせて頭部に痛みが襲って来るが、直ぐに傍にある硬い物が手に触れた。
それを杖代わりにしながらゆっくり横を向き、肘をついて上半身を起こした。
その時どういう訳か、自分の今の姿が前に雑誌で見た人魚像の銅像のポーズに似ていると、その時何故か感じてしまった。
ちょ、ハズイっ!
めっちゃハズいんですけどっ!
転んだ事よりも、そのポーズに対して急に恥ずかしさが込み上げて来た頃、コンビニの女性店員さんが声をかけて来た。
「あの、大丈夫ですか? お二人共お怪我はありませんか?」
人魚のポーズを見られるのが、転んだ事より何よりも恥ずかしかった俺は、直ぐに姿勢を変えようと膝を立てた。
「ええ、ええ。私はお陰様で……」
そうお婆さんが言うと少し安心した。
「あ、俺も大丈夫です! すみません!」
俺もそう答えたが、恥ずかしくて女性店員さんを見られないでいた。
杖代わりにして掴んでいたのは、
【足元が滑ります。ご注意下さい】
と、そう書かれた立て看板だった。
うわっー!
滅茶苦茶恥ずかしいじゃん!
それを見て、なおさら滅茶苦茶に恥ずかしくなって来た。
まだ足元が濡れていて滑る。
「本当に大丈夫ですか?」
「庇って戴いて……お兄さん、大丈夫ですか?」
定員さんとお婆さんが心配そうに聞いてくる。
「はい! すみません、ありがとうございます」
俺はそう言うとその店員さんを見た。
そして、目が合った。
アルバイトの学生だろう。
高校生だろうか。
黒ぶちの大きな眼鏡をしていて、学園ドラマの委員長っぽい感じだ。
中学生の頃の悠菜にも少し似ていた。
その店員さんの心配そうな表情を見て、少し恥ずかしさも和らいできた。
他の客は見て見ぬ振りをしているが、今はそれが有難くも思える。
すぐにでもこの場から離れたいと思ったが、店に入って転んでそのまますぐ出て行くのも、やはり恥ずかしく思えた。
今出て行けば一瞬の恥。
ここに居るだけ、その分が恥。
そんな事も思っていたがセレスに何か買わないと……。
その店員さんとお婆さんへ軽く会釈して、ふらふら店内を歩いてみるが、特に何を買おうと決めていた訳でもない。
そんな自分自身が妙に浮いた感じに思えた。
外を見ると、あれほどの豪雨が今は小降りになっている。
俺は極力目立たぬように店内を見て歩く。
適当なスナック菓子を手当たり次第両手に持った。
セレスだったら何でも珍しいと思うよな?
今なら雨も小降りだし帰られそうだ。
レジには先程の店員さんが立っていたが、さっきの事は何も触れずに対応してくれた。
俺はレジからの離れ際に、再度店員さんへ会釈して外へ出ると、やっと気まずい状態から解放された。
だが頭を下げるとさっきぶつけた後頭部が痛む。
思い切りぶつけたもんな。
ビニール袋二つに分けられたスナック菓子を持ち、店の外で空を見上げるとまだ厚い雲が真上にあった。
だが雨は降っていない。
ゆっくり濡れた地面を見ながら歩き始めた。
すでに雨は嘘の様にあがり、夕日が鮮やかに西の空を染め上げていた。
コンビニが見えない位に離れると、その距離に比例して恥ずかしさは消えていく。
だが、ぶつけた後頭部は更に痛みだした。
いてて……。
かなり強くぶつけたけど大丈夫かな?
これまで頭をあんなに強くぶつけた事は無かった。
まだガンガンしている。
さっきの豪雨で道路はまだかなり濡れており、俺は水たまりを避けて歩く。
ふと先を見ると、少し向こうに何かある。
濡れて光る歩道を、何かがそこを塞いでいた。
何だ?
あのピンク色のモノは……?
ボロ布とピンク色した、頭髪の様なものが見える。
昨日の夜に俺が着ていたバスローブの……いや、そこまでショッキングなピンク色では無いが、それでも髪の色にしてはかなりの違和感があった。
ピンク色を凝視しながら俺はゆっくりと近寄る。
え……やっぱ髪の毛がピンク⁉
マジか!
て、こいつ裸じゃないか!
瞬間的に心臓が激しく脈打つ。
ボロボロの布切れを
恐る恐るその顔を覗き込む。
その時、俺の脳内ではこの子のダウンロードが始まっている事に気付いた。
だが、これまでとは何か違う。
ダウンロードがまだ出来ていない感じだ。
今まではダウンロードして直ぐにインストールが行われていたが、まだインストールが始まっていない。
この子のログが流れて来ないのだ。
小学生か⁉
だ、大丈夫なのか?
息をしているのか確認したい。
まさか、死んでないよな⁉
そんな事を思いながら、全身をよく見てみる。
見る限りではそれらしき傷は無さそうだ。
真っ白な肌には擦り傷一つ見当たらない。
まずは意識があるか確認しないと!
そっと腕の脈を探ろうと、手を伸ばした。
が、見えそうな裸を何とかこのボロ布で……。
そっとボロ布をその子の身体を隠すようにずらしてそっと腕に触る。
すると、一気にその子の情報が入って来るのを感じた。
だが、すぐにその子がぴくっと動いた感じがして、慌てて手を引っ込める。
気付いたっ⁉
生きていると思うと、かなり安心出来た。
その子はゆっくり身を起こすと、辺りを見回しながらも、ほわんとした表情で俺を見た。
「あんた……だれ?」
日本語だ!
「あ、気づいた? 大丈夫?」
そう聞くと、その子は怪訝そうな表情になる。
「あんたさ、これが大丈夫に見える?」
そう言いながら、その場であぐらを組んで座る。
「あ、ごめん。何処か痛い?」
そう言いながらも、俺も後頭部の痛みがあった。
さっき程の痛みは無いが、それでも少しまだ痛む。
「はぁ~? 見てわかんないの? あたしどっか痛そうに見える?」
まあ、ここに倒れてたらここで転んだのだと思うけど?
「転んだんだよね?」
そう言うと、更に眉をしかめてこっちを見た。
「はぁ~? 転んでここに居るとでも思った訳ぇー? あんた、頭悪いわね! お腹空いてるに決まってんじゃん!」
その子は呆れ顔でそう言うと、ピンク色の髪をした頭を抱えている。
口調からは何処か痛む所は無い様だが、かなりひねくれた性格の子の様だ。
「はぁ~とんでもない奴と絡んじゃったじゃん!」
おいおい、俺のセリフだよ!
しかも、お腹空いてるって言った?
一瞬聞き間違いとも思ったが、確かにお腹空いたと聞こえた。
お腹空いて倒れていたと?
まさかだとは思うけど、行き倒れってやつ?
実際にこんな奴居るのか?
ふと、手に持ったコンビニの袋を思い出した。
「これ食べる?」
そう言ってコンビニ袋を見せた。
「はぁ? 何それ。そんなのが食べ物だって言う訳?」
顔を上げて目の前の袋を見て言う。
確かに、ジャンクなフードかも知れない。
でも、スナック菓子ってこんなもんじゃね?
確かに腹が空いてる時に食べる物じゃ無いとは思う。
コンビニでおにぎりでも買って来いと言うのか?
だが、あそこに戻るのは今は気が引けるし、見ず知らずの子供にそこまでするのも変じゃないか?
しかしこいつ、何様……?
内心不安げに思いながらも、コンビニ袋からポテチの袋を取り出し、それを差し出した。
「な、何だよそれ! 馬鹿にしてんの?」
そう言って俺を睨みつけた。
菓子じゃ納得出来ないと言うのか?
俺がこの子の年頃の時は喜んで食べてた気がする。
寧ろ普通のご飯よりも菓子ばかり口にして注意されてたぞ?
未だに愛美と蜜柑はいつも食ってるし。
「まあ、今はこんな物しか持ってないからさ」
その子は顔を近づけてクンクンと匂いを嗅ぎ始めた。
犬かよっ!
てか、俺に開けろってか⁉
面倒な奴だとは思いながらも、黙って袋を開けてそのまま差し出す。
「なっ! 何それ! 変な匂いがする!」
まあ、ピザ風味のチーズの匂いが、強いちゃー強いけどな。
「食べたら病みつきになるぞ?」
その子は顔だけ突き出し、またくんくんと匂いを嗅ぎ始めた。
こいつ、変わってるな。
犬に育てられたとか?
あ、狼少女か⁉
その様子を見ながら、ヤバい奴と絡んだ事を不安に思う。
「まあ、食べてみ?」
更に袋をそいつの顔に近づけると、その子はビクッと離れた。
「ちょ、ちょっと急に近づけないでよ!」
何をそんなに過敏になるのか。
「食べ物なんだけどね、これでも」
俺が呆れ顔でそう言うと、そいつはそっと近づいて来る。
「わ、分かってるよ! そんくらい」
そう言って手を伸ばし、おずおずと袋に触る。
そして袋を見つめている。
しかし、この子の恰好、どうにかならないかな。
そう思いながら、その子の姿を改めて見る。
殆ど裸だからな。
いくら小学生くらいの子供だとは言え、女の子だしな。
このままじゃヤバいぞ。
辺りを見回すと今は人の姿が見え無いが、その内誰かに出くわすだろう。
「綺麗な色だな。これ……」
そう言いながら袋を見ていたが、ゆっくり袋の端に食い付いた。
「待て待て! そこじゃない! 中身だよ!」
俺がそう言うと、その子はハッとこっちを見たが、怒った顔に涙目だった。
「は、早く言ってよね!」
ふるふると震えていた。
本格的にヤバい奴だな!
そう思っていると、その子が袋に恐る恐る手を入れた。
そして、ゆっくり一つ摘まむと、匂いを嗅いでいる。
「臭いし何か油っぽいな。お前、食えるのか?」
ポテチに顔を近づけて話しかけている。
「いいから口に入れてみろよ」
呆れながらその子に言う。
「わ、分かってるから! これくらい何でもないんだからな! 馬鹿にすんなよな!」
こいつは何を言ってるんだ?
すると彼女は意を決した様に目を瞑ると、それを口に入れた。
サクッとした音と同時に、その子は口と目を見開いた。
「ひ、ひっくりひた‼‼」
だが、すぐに口の中のポテチを、サクサクと味わっていた。
「味が濃い! でも、すっごく美味しいな!」
そう言って、袋に手を入れもう一つ摘まんだ。
そして、それをまじまじと見ている。
なんだこいつ、ポテチ食べた事ないのか?
「それ、皆食べちゃって良いから。でもその恰好……何か服着なきゃな」
このまま、この格好で居させる訳にはいかない。
「しょうがないだろ! 服が無くなっちゃったんだから」
そう言いながらも、手はポテチを口に忙しく運んでいる。
無くなっちゃったって何か事件に巻き込まれたとか⁉
現在進行形でっ⁉
そう思った俺が彼女を見ると、指を舐めていたそいつと目が合った。
「で? ここ何処?」
今度はそう言いながら辺りを見回す。
「何処って、お前何処から来たんだ?」
そう言うと、その子は俺を睨みつける。
「あのねーあたしが聞いてんの! それに対して、あんたは答えればいいだけ!」
あーそうですか。
随分上から目線だな。
「ここか? 日本だけど?」
皮肉の一つでも言ってやりたくなった。
「ふーん」
だが、意外にも彼女は納得した様だ。
そして立ち上がる。
「何ジロジロ見てんだよ! そんなに珍しい⁉」
そりゃ、珍しいだろ。
お前、裸にボロ布纏ってピンク髪だぜ?
そう突っ込みたい所をグッと飲み込んだ。
大学生だしな、俺は大人だ。
「まあ、そんな恰好で倒れて居るのは初めて見たよ」
さっきの皮肉が通じなかったので、もう一度皮肉っぽく言ってやった。
せめてもの抵抗だ。
「へ~そうなんだ?」
またこれも、意外と素直に受け止めやがった。
だが、ポテチを食べる手は止まらない。
「お前、家あるのか?」
食べながら俺にそう聞く。
「は? あるけど?」
すると、驚いた顔で俺を見た。
「そうなのか⁉ ここじゃ落ち着かないから家に行ってやる」
は?
家に行ってやる?
「家に行ってやるって、俺の家に来るって事?」
びっくりして俺は聞き直した。
「まあ、仕方なくだからな!」
そう言うとその子は既に食べきったのか、ポテトチップスの袋をさかさまにしている。
俺はとんでもない事に巻き込まれた訳だな。
「いやいや、家に帰った方が良いと思うけど?」
「は? これで帰すとか在り得なくない⁉」
「え……」
指を舐めながら
マジかよ……今日は厄日か?
転ぶは変なのに会うわで。
そう思いながらも、この子を改めて見る。
まあ、このまま放っておく訳にもいかないか。
「じゃあ、ついて来いよ。こっち」
そう言って、歩こうとしたが、この子のこの恰好はどうしたものか。
「ちょっと待ってろよ?」
そう言うと、俺はTシャツを脱ごうとしたが、一瞬躊躇して辺りを見回す。
うす暗くなって来てはいるが、誰かに見られたら厄介だろうな。
だが、このままにしてはおけないわな。
仕方なく脱ぎ始める。
「とりあえず、これ着ろよ」
上半身裸になった俺は、着ていたシャツを彼女に渡すが、受け取った途端俺を睨めつける。
「ば、馬鹿じゃないの⁉ こんな湿ったシャツ、着ろって言う訳⁉」
「お前が裸なんだから仕方ないだろ?」
ブツブツ言いながらも、ボロ布の上から着始めた。
そして、着込んだシャツの下から、中のボロ布を引っ張り出した。
その子が小柄な為、俺のTシャツだけでも十分太もも辺りまで隠せている。
これなら全裸よりはずっとマシだろう。
「ふん! 無いよりはマシだな」
そう言って腰に手をやりこっちを見た。
今すぐこいつの親に会わせろ!
どう育てたらこんな奴が出来上がるんだろうか。
「で、家は何処だ?」
「ああ、こっちだよ」
俺はヤバい方向にどんどん向かって無いか?
そして、少女は素足である。
このまま裸足で歩かせる訳にはいかないだろう。
「なあ、おんぶするから」
俺はそう言ってしゃがむと、その子に背中を見せた。
「はあ? おんぶ? あ、あたしを何処連れてく気⁉」
「何処って、俺の家でしょーが⁉」
「さては、さらう気だなっ⁉」
「お前が家へ連れてけって、言ったじゃんか!」
「し、仕方ないな……」
何なんだよ、こいつは……。
これまで捨て犬やら捨て猫を拾った事はないが、こんな子を連れて帰ったらみんなびっくりするよなぁ。
しかしまあ、悠菜が居ないだけで色々大変だな。
そんな事を思いながら、その子をおんぶして家へ帰った。
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