第4話 黄金の女性将軍とユーナの奇跡

 大学を出て、待ち合わせの駅へ向かっていたその途中、俺はふと気が付いた。


 そういや、お茶菓子とか用意した方がいいよな?


 気分を害されて外交問題にでもなったら大変だし。



「なあ、悠菜。今日来る人って、好みとかわかる? 何かお茶菓子とか買っていこうぜ?」



 横を歩く悠菜に問いかけた。



「好みは知らないけれど、恐らくコーラは飲ませたら駄目」


「ふ~ん。コーラ苦手なのか」



 まあ、俺が子供の頃、飲むのを勧めない大人もいたっけな。


 骨が溶けるとか、お腹が出るとか言われたっけ。


 健康フリークか?


 それとも炭酸が苦手?


 ま、適当に飲み物は用意しておくか……あ、緑茶が良いかもな! 


 そういや、夜に来るとか言ってたけど夕飯はどうすんだろ。


 地球の食べ物って口に合うのかな。


 その時、急に頭の中に妹の気配を感じた。


 この感じは前にもあったが、いつからだったのかは覚えていない。


 だが、今はその情報がハッキリと理解出来る。


 愛美達がすぐ傍まで来てるか。


 そんなことを考えながら歩いていると、更に愛美の気配が強くなってきた。


 間違いない。すぐ後ろまで近付いて来ている。



「わっ!」



 背後から背中を軽く叩かれて振り向くと、やっぱり愛美だ。


 蜜柑と二人でニコニコしていた。



「よお!」


「お兄ちゃん、びっくりした?」



 愛美は目をキラキラさせながら、俺の顔を覗き込んで来る。



「うん、びっくりした」


「嘘だぁ~昔からあたしが脅かしても平気そうだったもんね~」


「蜜柑もお疲れ~」


「お兄ちゃん、お疲れ~」



 そう言って蜜柑が微笑む。


 そう言えば子供の頃、友達数名とかくれんぼをした時にだって、愛美だけは隠れた場所がわかったっけな。


 あの頃は、血の繋がった兄妹とはそういうものだと気にもしなかったが、実際には血は繋がって無かった訳だし、これがハイブリッドな俺の能力なのだろうか。



「ねえ、お姉ちゃん、何か食べてこうよ~」



 今度は悠菜の腕を掴んで甘えている。


 可愛い妹よ、悠菜の手強さはお前も知っているだろう?


 悠菜が他人の意見を尊重などするか?


 無表情で、今夜は来客が来るから駄目だとか言うんだろうな。


 目の前で二人が話しているのを、俺は呆れて見ていた。


 まあ、一方的に愛美が話しているが。


 しかし、この三人が並ぶとかなり目立つらしく、歩く人がチラチラ見てる。


 確かに二人は特徴あるからな。


 蜜柑は日系イギリス人だし。


 特に悠菜は大学へ入ってからは激変した。


 大学デビュー後の今は、銀の髪と銀の瞳。


 その長い銀髪も前みたいに束ねたりしてないから、目立つ事極まりない。


 高校時代は黒ぶちの重そうなメガネっ子ですよ?


 それが、今じゃあれですから!


 そんな事を思いながら、俺は悠菜と妹達を改めて眺めていた。


 すると、駅周辺って事もあってか、かなりの人がこっちをちらちら見ていた。


 ちょっと待て、周りの目がかなりあるぞ?


 あいつなんか二度見してるよ。


 二度見する瞬間ってコントじゃ無けりゃ見かけない。


 リアルで見るとちょっと笑える。



「お兄ちゃん! 早くー行くよー!」


「はいよー」



 ああ、諦めて帰るのか。


 まあ、悠菜に軽くあしらわれたのであろう。



「で、お惣菜か何か買ってくんだろ?」



 俺はそう聞きながら二人の後を追う。



「うん、クレープ買ってからね~」


「え? クレープだと?」



 ほう。


 悠菜を口説き落としたか。


 見事だな、わが妹よ。


 だが悠菜は案外、愛美には優しいのかも知れない。


 クレープ屋に着くと早速、ショーケースの中とメニューを見比べながら、愛美と蜜柑が楽しそうに話してる。


 その横で無表情でスッと立っている悠菜。


 うーん……対照的だな。


 まあ、ああ見えて悠菜の年齢は、俺よりずっと上らしいし当然か。



「わたしこれかなー」


「蜜柑もう決めたの⁉ あ、お兄ちゃんは何にする? あたしが決めていい?」



 にこにこしながら聞いてくる。


 一つに決められなかった訳ね。



「ああ、任せるよ」


「うん! 任せて!」



 そう言うと、ショーケースの向こうにいる店員さんへ、背伸びしながら話しかける。



「えとね、ショコラ生クリームとぉ~、マシュマロオレオショコラ生クリーム! それから、これ! いちごバナナ生クリームで! お願いしまーす!」



 片手を高々とあげて一気に言い放つ。


 その様子を見ながら、俺はそっと悠菜に耳打ちした。



「で、悠菜は何にしたんだ?」


「愛美に任せた」



 なるほど。


 あいつの今食べたいクレープ、トップスリーって事か。


 暫く待った後、店員さんからクレープを受け取ると、俺たちは近くのベンチに腰かけた。



「あそこのクレープ屋さんね、この前蜜柑とみてた雑誌に載ってたの!」


「へ~そうなんだ?」


「うん、だから、いつもは凄く混んでるんだけど、並ばないで買えて良かったね~」


「ああ、並んでまで買おうと思わないからな~」


「えーっ! 何言ってるの、お兄ちゃん! 並んでも価値はあるんだよ?」


「そ、そうなのか?」


「そーなの!」


「あーはいはい」


「で、お姉ちゃん、今日誰が来るの~? あ、お兄ちゃん一口頂戴」



 愛美が俺のクレープにパクつきながら悠菜に聞く。



「将軍」


「へ? しょーぐん?」


「へ~将軍さまかぁ~暴れん坊的な? あ、もう一口頂戴」



 意外な返答に俺は固まる。


 モグモグしていた愛美はそう言うと、更に俺のクレープに食いついた。


 もう少し驚かないのかおまえは。


 しかも、暴れん坊って、それはそれで困るでしょ。



「将軍って、なんだよ……」


「暴れん坊では無い……と思っている」


「いや、そこじゃなくて、あ、そりゃあ、暴れん坊じゃない方が良いけど」


「この件は、詳しい専門の方に伺った方がいいとの判断で、信頼できる将軍を呼んだ」



 淡々と悠菜が答える。


 将軍って軍事的な?


 まさか、戦争とか?


 しかも規模はデカすぎる。


 人類未曾有の宇宙戦争とか、将軍率いる異世界戦争?


 いや、そうならない為の手段を考えるわけだな。


 しかも、将軍って事はやっぱり武骨なおじさんなんだろうな。



「でさ、でさー! その将軍様は何食べたいかな~お土産買っていこうよ! ねえ、蜜柑は何食べたい?」


「わたしは何でもいいかなー」


「好みは知らない。コーラは駄目」


「コーラ苦手なんだ~? 炭酸系がダメって人居るもんね~」



 まあ、愛美の言う通り、炭酸系が苦手って人も多い。


 武骨なおじさんであれば、炭酸ジュースは似合いそうも無いかな?


 かく言う俺も若干炭酸は苦手だ。


 あ、いやおじさんでは無い。



「じゃあさ、デパ地下行こうよ! あたし、シュウマイがいいな~よし、蜜柑いこー!」



 そう言うと、勢いよく立ち上がった。


 お前が早く焼売食べたいだけか。


 だが、立ち上がった愛美に、悠菜が自分のクレープをスッと差し出す。



「あ、食べていいの⁉ お姉ちゃんありがとー!」



 差し出されたクレープを受け取ると、嬉しそうに又ベンチに腰掛ける。


 俺は横に座りなおした愛美を横目に、彼女を見ている悠菜に話しかけた。



「でさ、悠菜。その将軍は、何時頃うちに来るんだ?」


「ゲートが見えにくくなる時間だと想定すれば、恐らくは午後七時頃」


「ゲートって?」


「簡単に言ったら次元転移装置」


「そ、そうか」



 沙織さんの家で見た魔法陣みたいな奴か?


 簡単に言って貰っても何だか分からんが、まあ目立たない様に来るんだろうな。


 しかし、将軍ってジェネラル?


 何だか物々しくなって無いか?


 すると、悠菜の残りを食べ終わった愛美がスッと立った。



「じゃあ、早くお迎えの支度しなきゃね! 蜜柑も手伝って!」


「らじゃ!」



 そして俺の食べかけのクレープを愛美が見つめる。


 狙ってるのか?



「もう、いいや。お兄ちゃん、早く食べちゃってー! あたし何か飲みたくなっちゃった」



 そう言われて愛美を見上げると、悠菜も立ち上がってこちらを見た。



「あーはいはい」



 俺は残りのクレープを強引に頬張り、慌ててベンチを立った。



   ♢  


 駅で待ち合わせて、四人でデパ地下へ寄った帰り道。


 俺の右隣を歩いているのは妹の愛美。


 これまで俺を育ててくれた両親の子供、正真正銘の地球人だ。


 愛美の向う側には蜜柑が歩いている。


 彼女は常にこの位置に居る事が多い。


 日本に来たのが中三の時だから、もう三年目になるのかな?


 そして俺の左側は監察官の悠菜。


 そうです。


 俺が阻喪おそそをしないか監視してます。


 保護監査官とでも言うのか?


 幼いころから常に同級生として傍にいた存在だが、彼女は異世界エランドールの人だ。


 高校までは大人しく目立たない感じの容姿ではあったが、この事実を俺に明かすまでは、あえて目立たない様にしていたらしい。


 長い髪が光に反射してキラキラと銀色に輝いている。


 目にも銀色のカラコンまで入れてるし。


 これがまた妙に似合っている。


 結構スタイルも良いしな。


 そうなんだよ。


 磨けば光る女の子だと見抜いてましたよ。


 口調や性格は以前と変わりはないが、見た目だけでもこんなに変わったのは新鮮でもある。


 そして俺の右手には、デパ地下で愛美が買い込んだお惣菜の類。


 左手にはペットボトルやら紙パックの飲み物類。


 肩にはショルダーバッグを掛けてます。


 昔からこの扱いは変わってないな。


 大抵気づくとこうして荷物持ちをやらされている。


 両サイドを歩く三人とは、妙なアンバランスを感じながら家の前まで来た。



「やっと……着いた」



 玄関の前まで来ると、思わず心の声が漏れた。



「お兄ちゃん、お疲れ様~荷物ありがとね~」



 愛美はそう言うと、お惣菜が入った袋を俺から受け取り玄関を開ける。



「沙織さーん、たっだいまー!」


「は~い! みんなおかえりなさ~い!」



 リビングの方から沙織さんの声が聞こえる。


 悠菜と玄関へ入ると、そこに見慣れない形状の履物があった。


 これ、沙織さんの? サンダル?


 今まで見た事無いけど……。


 だが確かに俺の脳内では見慣れないログが表れている。



「来ている」



 そう言って、悠菜はリビングへ向かっていった。


 来てる?


 ってこのログが?


 あ、将軍?



「あら? お客様?」



 先にリビングへ入った愛美が声をかけた。



「お邪魔しております。私はセレスティア・リリー・カルバンと言います」



 愛美の声に答えたのであろう、リビングからそう聞こえた。

 

 ん?


 女の人か?


 ってことは、沙織さんのお友達?


 そしてその声を聞いた途端、俺の脳内に普段は見ないステータスが現れた。


 セレスティア・リリー・カルバン?


 確かに上位にはそう表示されている。


 そして、沙織さんと悠菜の二人と同じ様に、俺と染色体が似ている箇所が幾つもあった。


 もしかして、もう一人の染色体提供者?


 沙織さんはセリカって言ってたような……。


 俺も悠菜に続いてリビングへ入ると、長身で長い髪の若い女性が立っている。


 近くに居る沙織さんよりも背が高い。


 何よりも、長い黒髪の半分が黄金に輝き、それが新鮮で凄く綺麗だ。


 見た瞬間、俺とは無関係な人物では無い事を察した。



「貴殿がハルト殿か! それに、ユーナも久しぶりだ!」


「き、きでん? どの?」


「久しぶり」



 悠菜は無表情でそう答えたが、俺にしてみたら貴殿とか殿とか聞き慣れない。


 もしかしてこの人が将軍さまとか?


 女の人が将軍?


 まさかね。


 そして俺に近寄って来たかと思うと、おもむろにハグをされた。



「うわっ!」



 いい……匂い……。


 びっくりしたが身を任せてしまった。


 柔らかな黄金の髪の毛が頬に触れて心地よい。



「ねね、セレスティアさんでしたっけ? とりあえず座りましょう」



 いい香りとハグされた心地よさにうっとりしていたが、愛美が慌てた様子で彼女に声を掛けた。



「これは失礼した! 如何にも、われがセレスティア・リリー・カルバン。そして其方そちらがマナミ殿ですね?」


「いかにもって……」



 そう言うと、セレスティアは俺から離れ、今度は愛美に近寄りハグをする。


 少し名残惜しかったが、ここは愛美が正しい。


 理性が保たれている間に座って貰おう。



「わっ! ちょ、セレスティアさん! 座りましょ?」


「あ、度々失礼した」



 二、三人が座れるソファーへ俺と愛美が座ると、その横へ蜜柑が座った。


 向かい合わせて同型のソファーへ沙織さんが座り、横をポンポンと叩きながら悠菜を見上げる。


 そして、挟むように置かれた一人掛けのソファーへ、セレスティアさんを促した。



「あ、何か飲み物でも?」



 ちょっとした沈黙に、たまらずそう聞いてみた。



「そうね~ここはユーナちゃんにお願いしようかしら~お願いしますね~」



 沙織さんがそう言うと、悠菜はスッと立ちキッチンへ向かう。



「さてさて~まずは、改めて自己紹介ね~まずはセリカちゃんから~」



 あれ?


 彼女の名前って、セレスティア何とかじゃなかったっけか?


 やっぱりこの人が俺に染色体を提供した四人目の人だ。


 そう思っていると、セリカちゃんと呼ばれたその女性が口を開いた。



「承知した。名前はセレスティア・リリー・カルバン。エランドールでは亡き王の遺志を継ぎ、防衛組織を任された将軍ジェネラルの職に就いています。この方はセリカと呼びますが」



 そう言って沙織さんを横目で見たが、そのまま話しを続けた。



「この度、ハルト殿に危険な生命体との接触が想定され、早急に対処した方が良いとの判断で今回は特殊ゲートを使用した」


「それでこんなに早い時間だったのね~」


「ええ、元老院へ承認済みです」


「あらあら~」



 沙織さんがそう言うが、俺には全く意味が分からない。


 愛美も同様だろう、キョトンとした表情で見ていた。


 てか、こんな綺麗な女性ひとが将軍なのか⁉


 声にならずに固まっていると、悠菜が俺達の前に飲み物を置いた。



「ユーナちゃん、ありがとね~」



 沙織さんは悠菜に手を合わせて言うが、彼女は軽く頷きながら隣に座った。



「悠斗くん、この間話したの覚えてる~? 元は地球に生活していた人が居るってお話なんだけど~」



 沙織さんがそう言って俺を見る。



「ええ、言ってましたね?」



 勿論覚えてる。あんな突拍子もない話を忘れるわけがない。



「うんうん! セリカちゃんのご先祖さまがそうだったのよ~? 同じ地球人なの~」


「おおー! そうなんだ! どの辺りにいたんですか?」



 急に親近感が涌いて聞いてみる。


 誰もが経験ないだろうか。


 同郷や同じ学校の卒業生だと、妙な親近感を感じる事を。


 そしてその後は、地元民のローカルな会話が続くのだ。


 俺はつい好奇の表情でセレスティアに訊いてしまうと、彼女はこちらを見て答えた。



「過去に調べた所、こちらではムー大陸と呼ばれているようです」



 ムーだと⁉


 知ってるとも!


 伝説の大陸!


 勿論、行った事も見た事も無いが……。


 それに、実際にはその存在までもが未知なのだ。


 しかし、その名前は雑誌名にもなってるぞ!


 だが確か、海に沈んだとか言われてたような。



「それで、その大陸の場所は何処なんですか?」



 思いもよらない話に食いついてしまう。



「何処と言われましても……」


「あ、やっぱり沈んじゃったのか……」


「いえ、随分昔に大陸ごとエランドールへ移動したと聞いております」


「なっ⁉」



 大陸ごとって、すげーなおい。


 消えた大陸そのものかよ。



「そこは私も~調べたことあるのよ~」



 相変わらずおっとりした口調で、沙織さんが話し出す。



「過去にエランドールの種族とぉ~ムー大陸の種族との交流の話でぇ~」


「うんうん」


「国の未来に悲観したムーの王様がね~私たちの世界へ民を移住させて欲しいと悲願したお話なの」



 そんなことがあったのか。


 しかし、サクッと話してるけど中身は凄い話だな。



「そうそう、アトランティス人と呼ばれていた人たちもエランドールへ来てますよ~」


「おお! その名前も知ってる! アトランティス大陸ね⁉ そうか~」



 思わず声を上げてしまう。


 怪しい学者が唱えている突拍子もない説が、こんな形で立証されているとは、流石に彼らも思うまい。



「ね~? ユーナちゃん」



 そう言って沙織さんが隣に座る悠菜に話かけた。



「ええ」



 悠菜も知ってるのか。


 彼女は単調に返事をしたが、何と無くその表情が柔らかく思えた。



「本題に入りましょう」



 だが、悠菜はすぐに表情を引き締めてそう言った。



「今回の調査状況をセレス、お願いします」



 あれ?


 悠菜はセレスティアをセレスって呼ぶのか?


 すると、セレスティアは軽く座りなおしてから話し出した。



「調査の結果、ここからはオリオン座ゼータ星方向からの飛来物を確認した。その大きさは直径十キロ。数は凡そ二十。その到達予測時間はこちらの時間で七百時間。目的は地球の海水、若しくは大気と予想される」



 絶句してしまった。


 宇宙人が海の水や大気を奪いに来ると言うのか?


 てか、そんなの奪われたら地球の危機じゃん!


 ゼータ星ってどこよ。


 疑問だらけだ。



「ありがとうセリカちゃーん。で、どう対処したらいいかな~?」



 沙織さんが手を合わせながらセレスティアに訊く。



「本来であれば抗戦でしょうが、我々が行うとなれば誅殺ちゅうさつでしょう」



 その問いに腕を組みながらセレスティアは即答した。


 抗戦って、地球の技術で何とかなるの?


 相手にならないでしょ……。


 で、セレスティアが行う誅殺って……処罰みたいなの?


 リビングの空気がピーンと張り詰める。


 そりゃそうだろうな。


 宇宙の果てから、海の水を奪いに侵略者が来るんだからな。


 七百時間って何日だ?


 スマホで計算してみると……三十日、一か月か。


 来月……七月って事か。


 ピーンと張り詰めた空気の中、急にそれは崩された。



「あ、セレスティアさん、シュウマイ食べられる~?」


「はぇ?」



 俺は思い切り拍子抜けした声を上げてしまった。


 唐突に愛美が聞き出したのだ。


 こいつは事態の深刻さが分かっていないようだな。



「しゅうまい? ですか?」


「うんうん。デパ地下のやつ。美味しいですよ~」


「でぱちか? そうですか……では、戴きます」



 愛美はスッと立ち上がり、そのままキッチンへ行った。


 こいつ、話をシュウマイにしちゃったよ。


 あ、終舞(しゅうまい)?


 掛けたの?


 まさか……だよな。



「待て待て、その宇宙人の襲来は? 好戦的なんでしょ? 侵略者なんでしょ?」



 そう俺に言われてセレスティアは我に返った様に答えた。



「ええ。彼らはこれまでも侵略、強奪を繰り返してきている種族です。私としては太陽系に到達前に迎え撃つのが得策かと」



 そうセレスティアは言いながら沙織さんを見る。


 迎え撃つって、どうやって?


 遥か宇宙の彼方から、海水欲しさにここまで飛んできちゃう奴らでしょ?


 間違いなくNASAとかの技術水準を、かなり遥かに上回ってるわけだよね。



「ん~そこのところは私たちでは決めかねますね~」



 セレスティアを見ていた沙織さんが、俺に目線を移して言う。



「悠斗くんはどうしたいのかな~?」



 どうしたいって言われても、俺には見当もつかない。



「は、話し合いは出来ないのかな」


「彼らは地球の生命体全てを下等生物と認識しています」



 セレスティアはきっぱりと断言した。



「でもさ、話してみないとさ」


「貴殿はご自身の欲求解消の際に、下等生物の話に耳を傾けてられますか?」



 下等生物って、アメーバやミドリムシくらいか?


 そりゃないな。


 でも、いくら下等生物扱いされても俺達は話が出来る。


 意志の疎通とか出来ないのか?


 何か案はないのか?

 


「でもさ、セレスティアさん達であれば、誅殺とか言ってましたよね?」


「はい」


「それって、今の地球では太刀打ちできないけど、エランドールで何とかしてくれるって事なの?」


「エランドールはどうであれ、私は何とかしたいと考えます」



 セレスティアがそう言うと、ゆっくり沙織さんが話し出した。



「エランドールとしては~こちらの世界に大きく影響してしまう行動は~禁止事項となってるんです~」



 しかし、沙織さんは目をキラキラさせて、悠菜とセレスティアを交互に見た。



「でも~悠斗くんは、大事な検体ですよ~? 何か起きる前に対処は必要ですよね~?」



 検体か……そうだったな。


 俺の成長記録をエランドールに報告してると言ってたな。



「しかし、検体っていうのも――」


「まだここは滅ぶ時ではない」



 セレスティアが話している途中に、珍しく悠菜が遮る様に強く言った。


 そして、ジッと沙織さんを見つめた。


 てか、何か凄いことをサラッと言ったな。


 まだここは滅ぶ時ではないとか……。


 悠菜さんあなた実は神様だったりしませんよね?



「そうですね~ではそういうことで、セリカちゃんお願いね~」



 え?


 何か決定したの?


 誰か俺に分かるようにお願いします。



「承知した。早急に用意する」



 あ、セレスティアには分かったんだね。


 そーかそーか、分からないのは俺だけね。



「もう、決まったー? ご飯の支度しよー! シュウマイはチンしたよー?」


「は~い! 愛美ちゃん、今行きますよ~」



 沙織さんがそう言うと、悠菜が席を立ってキッチンへ向かう。


 あらま……。


 キッチンから愛美が呼びかけたところで、俺が理解できないまま話は終わったようだ。



「今夜はセリカちゃんも一緒にお食事出来ますね~」



 沙織さんが立ちながらセレスティアに向かってそう言うと、そのままキッチンへ向かった。



「お言葉に甘えますか。あ、シューマイと言うのが気になりますね」



 セレスティアもそう言いながら沙織さんの後を追う。


 何、この和やかな雰囲気。


 緊急事態でしょ?


 とは言え、俺に出来る事なんて何も無いよな。


 リビングに一人座った俺は、何とか話を理解しようと先ほどの話を回想するが、結局何だか分からない。


 まあ、夕飯食べながらでも聞いてみるか。


 俺はゆっくり立ち上がると、四人が居るキッチンへ向かった。



 ♢   



 ダイニングに来ると、テーブルの上に所狭しとお惣菜が並んでいる。


 デパ地下で愛美と悠菜が選んだものだ。


 まあ、全て愛美の気分で選んだものであろう。


 だがパックのお惣菜であっても、綺麗な器に盛り付ければ豪華さは半端ない。

 


「あ、お兄ちゃんは、そこ座ってー!」



 ダイニングとキッチンを挟むカウンターの向こうから、愛美が顔を覘かせて言う。


 ダイニングテーブルの椅子には既に、悠菜とセレスティアが向かい合って座っていた。



「はいはい」



 俺は一番奥へ座ったらいいわけだな?


 俺から見て、右奥に悠菜。


 その手前に沙織さんのお箸が置いてある。


 左奥にはセレスティアが座っており、その手前に愛美の箸が置いてあった。


 俺の正面には蜜柑の箸が置いてあるが、今は愛美がそこに立っている。


 そこへ両手をついて彼女が話し出した。



「今日はこの席順ね~? 一応、お兄ちゃんは上座なんだから感謝してね?」


「へいへい」

 


 ここは普通、来客が上座でしょ。


 だがまあ、今は愛美の思う様にしておくか。


 そこへ沙織さんがお味噌汁とご飯を運んできた。



「さあ、頂きましょ~セリカちゃんとご飯食べるの久しぶりね~」



 にこにこしながら沙織さんが悠菜の横へ座る。普段の食事は沙織さんの手作りであるが、今夜は愛美がお惣菜の買い出しを頼まれていたらしい。



「ご飯とお味噌汁はおかわりあるから遠慮しないでねー」



 そう言いながら、愛美もセレスティアの横へ座った。



「ねね、セレスさん、これが焼売しゅうまいなの! 食べてみて~」



 座った途端セレスティアに話しかける。



「おお、これがシュウマイ! 変わった形だ。では頂きます」



 これに合わせて、それぞれが頂きますと手を合わせる。


 焼売を口にしたセレスティアは目を丸くして驚いた。



「おおー! これは美味しい! 初めて食べる味です!」



 意外にもセレスティアの口に合ったのか、笑顔で愛美にそう言った。


 彼女は両目の色が違うが、それがまた綺麗に輝いている。



「でしょ、でしょー? 絶対気に入って貰えると思ったんだ~」



 愛美はそう言っているが、お前が食べたかっただけではないのか?


 しかしこう見ると、黄金色の将軍に似合わないな、焼売って。


 ミスマッチにも程がある。


 まあ、それを言うなら銀色にした髪の悠菜もそうか。



「ところで悠菜、いつの間に髪の毛染めたんだ? それにカラコンもさ、どっちも似合ってるよ」



 一斉に皆が悠菜を見ると、箸を止めて悠菜が俺を見た。



「ウィッグしていないだけ。今はカラコンはしてない」



 え?


 そうだったの?

 


「それが本当の髪の毛? その目も?」



 俺がそう訊くと悠菜は黙って頷いたが、同時にセレスティアが不思議そうな顔をした。



「ユーナは昔から白金髪プラチナヘア白金瞳プラチナアイでしたが?」


「え? そうなの?」



 セレスに俺が訊くと彼女は不思議そうな顔をして頷いた。



「ええ。あ、もしかしたらこちらに合わせて擬態していたとか?」


「擬態って……。まあそっか、目立たないようにか。目も銀色だったとはな」


「お姉ちゃん、すっごく綺麗!」



 悠菜は軽く頷くと食べ始める。


 しかし改めて見ると銀髪の悠菜も、十分うちの食卓に似合ってない。



「セレスティアさんの金色も綺麗ですよね~」


「いえ、私など半分だけが金色なだけで……でも、ありがとうございます」


「それがまた素敵ですよ~?」



 愛美にそう言われたセレスティアだったが、一瞬彼女の表情が曇ったかに見えた。



「それよりも、さっきの話だけどさ。結局どうなったの?」



 話を換えるには丁度良いかもと、俺は一番聞きたいことを聞いてみた。



「はい、このあと食事が済み次第、早速元老院へ直接報告して参ります」



 そこまで言ってから、今度は沙織さんへ向かって話しだした。



「ル、いや沙織、ここでは少々狭いと……」



 沙織さんは味噌汁を啜っていたが、そっとお椀を置きながら言った。



「あ~その辺りは考えてま~す」


「ほう」


「えとね~皆さん、明日からは裏のお家で生活しましょ~ね?」


「え? 沙織さんの家って、裏にある?」


「ええ、愛美さんもお引越し~いいですか~?」


「は~い! やったー! 沙織さんのおうち、お庭が広くて好きなの~!」



 愛美は沙織さんと話すと、やっぱりその話し方が似てしまうな。


 しかし、沙織さんちのあの大きな家か!



「ここのプランターの水やりを、啓子さんから頼まれている」



 急に悠菜がそう言った。


 そうか、母さんに頼まれていたんだった。



「大丈夫よ~おうちはここから近いし、毎日来られるわよ~」



 まあ真裏の敷地だからな。


 ただ、玄関はぐるっと回らないとならないのだ。


 いちいち歩いて行くとなると、案外面倒かも知れない。


 沙織さんと悠菜の家は高い生垣に囲まれていて、この家の裏からは入る事が出来ないしな。



「あ、だったらさ、裏の生垣何本か抜いちゃえば?」



 おいおい、簡単に言うなよ愛美。



「あ~! それはいいですね~!」



 あらま、乗っかったよ沙織さんが。



「うんうん! そしたら出入り自由だし! やっちゃおー!」



 やっちゃおーって、言ってもなあ。


 悠菜も何か言ってやってよ、この二人に。



「悠斗くんはどお~? やっちゃってい~い?」



 沙織さんがそう言うが、こういうのってどんな所に頼めばいいのだろうか。



「まあ、裏から行き来出来たら楽ですよね」



 何しろ沙織さんの家の生垣だし。


 行き来出来る通路とかあったら問題ないが、何処に頼んだら良いの?


 あ、植木屋さんかな……生垣とかって。



「じゃあ、決定ね~!」



 沙織さんがそう言うと愛美も声を上げる。



「けってーい!」



 すると、夕飯を食べ終えたのか、悠菜がスッと席を立った。

 


「扉は後から用意する」



 その手には何か持ってる。


 手に光る……フォークか?


 てか、え?


 なんて言った?


 お前フォーク何に使うの?


 そしてリビングへ向かい、サッシから裏庭へ降りた。


 悠菜ったら生垣食べる気なの?


 まさかな。


 寸法でも図って置いて、植木屋さんにでも明日頼むんだろうな。


 手にしたフォークで……おいおいそれで寸法図るのか?



「お! ユーナの奇跡を久しぶりに見られるのか!」



 そう言ってセレスティアが席を立ち、悠菜の後を追う。


 え?


 奇跡って言った?


 それなにっ⁉



「なになになにー? あたしもいくー!」



 そう言って愛美が後を追うと慌てて蜜柑もその後を追った。


 こうしてはいられない、俺も後を追う。


 振り返ると沙織さんは一人残って、湯飲みのお茶を美味しそうに啜っていた。



   ♢  



 俺は悠菜達の後を追い、リビングから小さな裏庭へ来た。


 辺りはすっかり暗くなっているが、リビングの大きなサッシから明かりが落ちている。


 目の前には沙織さん宅の高い生垣があり、その前に立つ悠菜の後ろ姿があった。


 そして、頬を撫でる様なそよ風が、食後の身体を労わって居るかの様だ。


 さらさらと銀色の長い髪が風になびき、窓から零れる明かりを反射して神秘的に光る。


 その傍らに愛美と蜜柑が立っており、彼女達の後ろにはセレスティアが腕を組んで見守っていた。



「少しだけ離れて」



 愛美達にそう言うと、悠菜は胸の前でフォークを持った手を合わせた。


 そして何やら言葉を唱え始めた。


 俺たちは少し距離を開けてその様子を見守っている。


 何する気?


 やっぱ、フォークで寸法図るの?


 次第に悠菜の身体が白く光りだしたかと思うと、彼女はゆっくりフォークを生垣に向けた。


 すると徐々に悠菜の光る身体がぼわっと更に白く染まっていく。


 うわっ!


 光ったぞ⁉


 俺と愛美達は唖然としてそれを見ていたが、セレスティアは腕を組み目を輝かせて見ている様だ。


 やはり悠菜は何語か分からないが、何やら言葉を唱えている。


 これって……祝詞って奴?


 そう思った正にその時、急にその言語が頭の中に入って来た。


 えっ⁉


 ……排除する?


 そう、俺は理解出来る事に気付いたのだ。


 頭の中に言語として認識したのだ。


 勿論、今迄聞いた事も無い言語だと思うが、今、間違いなく俺は理解した。

 

 そして悠菜はゆっくりとしゃがみ込むと、手にしたフォークを生垣の根本辺りに刺した様に見えた。


 が、それが予想を反して音も無くススッと生垣の根本に入っていく。


 なっ、なんだ?


 それはまるで、ケーキにフォークを入れたかの様だった。


 目の前の光景が、手品か魔術を見ているかの様な不思議な感覚で、俺はそれを唖然として見ている。


 次第に、フォークを掴んだ悠菜の手が横へ動くと、根本に刺さったフォークが音もなく同じ様に動いていく。


 と、同時にフッと高い生垣が根元から消えたのだ。


 そしてしゃがみ込んだ姿勢のまま、悠菜が横へ二歩、三歩と動くと、フォークが触れた辺りから、高い生垣が根元からさらに消えてゆく。


 数本の生垣が音も無く消えると、その先には沙織さんの広い敷地が広がっている。


 ほどなくしてゆっくりと悠菜が立ち上がった。



「うーん、お見事!」



 たまらずセレスティアが声を出すが、俺と愛美は声にならない。


 蜜柑も同様だろう。


 生垣にはゆったりと人が通れる程の空間が開いた。


 勿論、向こうは沙織さんの裏庭だ。



「うわーお姉ちゃん、すごーい! 手品師みたい!」



 愛美がそう言うが、手品師ってもんじゃないだろ。


 超魔術だろ!


 その違いが分からないが。


 何しろ、フォークで生垣を消すなんてあり得ない。


 ハンドパワーのあの人だって無理だろう。


 さっきセレスティアが奇跡とか言っていたが、まさに奇跡だ。



「ど、どうやったんだ?」


「理屈は簡単。行うのは困難」


「な……」



 な、何かの標語ですか?


 手に持ったフォークを摩りながら、悠菜がこちらに振り返ると、いつの間にか家から出て来ていた沙織さんがこちらへ近づいてきた。



「開いた~? セリカちゃん、もう行っちゃうの~?」


「ええ、すぐにでも報告したいし……」



 そう言うとセレスティアは、沙織さんへ向き直る。



「そうねぇ。じゃあ、あっちでゲート開いたらいいけど~」


「こっちのお屋敷ですね?」



 そう言って、セレスティアは開いた生垣を指差した。



「うんうん~面倒でしょうけれど、ノルンに報告しておいてくれる~?」


「承知した。あ、でしたらノルン神殿へゲートをお願い出来ますか?」


「はいは~い」


「では報告後に再度こちらへご連絡致します。マナミ殿、美味しい食事をご馳走様でした」



 そう言うと生垣の向う側へ抜け、振り返ると深々と頭を下げた。



「いえいえ~大したお構いも出来ませんでした~」



 口調が沙織さんになってるぞ、愛美おまえ



「わたしは、セリカのお手伝いに行ってきますね~」



 沙織さんもそう言いながら屋敷の裏庭へ消えて行った。



「悠菜は行かないのか?」


「夕食の後片付けする」



 彼女はそう言うと家の方を振り返った。



「じゃ、あたしも片づけ手伝うね」



 愛美は悠菜に腕を絡みつけると、満面の笑みで彼女の顔を覗き込む。



「私もお手伝いします!」


「うん、行こ行こ、みかん!」



 愛美が手を指し伸ばしたその手を蜜柑が掴むと、三人は仲良くリビングへ戻って行った。



「そうか、じゃあ頼んだよ。俺は沙織さんちへ行ってくる」


「あたしも、片付けとか済んだらそっち行くね~」


「わかった」



 俺は沙織さんを追う事にした。


 目の前には、ぽっかりと開いた生垣。


 俺は一部始終を見ていたが、未だに半信半疑で生垣の根本を覗き込む。


 まるでそこには元から何も無かったかのように見える。


 裏庭へ入ると高い木々があちこちに生えており、向こうに明かりが点くのが見えた。


 明かりが点いた所は沙織さんの家のガーデンテラスで、そこに長身の女性が立っている。


 やっぱりセレスティアさんだ。


 彼女の目はオッドアイと言われるらしいが、左右の目の色が違う。


 そして母屋の中に沙織さんの姿も見えた頃、セレスティアから声を掛けてきた。



「あ、ハルト殿! ユーナの奇跡は初めて見たようでしたね?」


「ええ、マジびっくりでしたよ。悠菜があんな事出来るなんて」



 今でも心底驚いている。


 無表情で少し変わった子ではあったが、これまで幼馴染として俺が一番近くで接していたはずだ。


 でも、こんな能力があったなんて思いもよらなかった。



「ユーナの奇跡では、あの程度は容易たやすい事でしょう」


「たやすいのっ⁉」


「ええ。エランドールでは、数多く語り継がれておりますゆえ」



 腕組みをしながら誇らしげに語る。


 何故あんたがそんなに誇らしげなんだ?



「そうだ、セレスティアさん。将軍様なんですよね?」


「如何にも。エランドールではジェネラルの職に就いております」


「そうなんですね!」


「ええ」



 やっぱり、この人が将軍なのか。


 すると沙織さんもベランダまで出てきた。



「セリカちゃんはラムウ王不在となっていても、エランドールに生活するラムウ王国民の長も務めてるのよ~」


「え! それって、何だか凄い人だったんだ!」


「ええ~言わば、ラムウ王国のシンボル的な存在でもあるのです~」



 やばいな、結構普通に接してたよ。


 いきなりハグされたし。



「否! 凄いことなどありません。我が王ラムウの名を受け継ぐだけの命でございます。こうしてエランドールに居られるのは、エランドール無くしてはありえません」


「何だか……凄いな」



 生きる使命と言うか、存在理由っての?


 そんなの俺にあるか?


 それこそ、否!


 ってなっちゃうな。恥ずかしい思いになるわ。



「二階のゲートをノルンへ繋げちゃいましょ~」


「そうですか、ではお願いします」



 そう言ってセレスティアが沙織さんに頭を下げた。



「では、ハルト殿。支度してまいります。マナミ殿にもよろしくお伝え下さい」


「あ、お願いします」


「そうそう、後で扉を用意した方がいいよね~?」



 沙織さんにそう言われて指さされた方を見ると、先ほど悠菜が開けた生垣の隙間がある。



「あれ? うちの生垣じゃないし、沙織さんの思う様にして良いと思うけど?」


「あ~そっか~うちの生垣だったね~お姉さん勘違い! てへ♡」



 いやいや、てへじゃないでしょ。



「じゃ、ちょっとセリカちゃん送って来ま~す」


「はい」


「では、ハルト殿!」



 二人はそのまま二階へと上がって行った。


 恐らく俺が沙織さんと異世界へ行った時に入った部屋だろう。


 しかし……。


 生垣消したり、異世界から将軍が来たり……。


 これが異世界の力なんだな。


 セレスティアは支度をしてくると言っていたが、どんな支度だろうか。


 考えても到底見当が付くわけでもなく、俺はただ消えた生垣があった場所を見つめていた。

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