歪んだ愛情2

「おはようございます!」

俺は依頼人の田村さんと朝、駅で待ち合わせをしていた。


「朝早いですね。探偵さんって朝弱いイメージを勝手に抱いてました。」


「ドラマとかだと二日酔い状態で、昼過ぎに事務所に現れるみたいな演出がされていたりしますからね。田村さんがそういうイメージを持っているのも仕方ないですよ。じゃあ、行きましょう。」


俺は田村さんと共に改札を通り、人でごった返す駅のホームで電車を待っていた。すると、

「探偵さん。探偵さんにお願いしたら、満員電車を無くすことって出来たりしますか?」

と笑いながら、田村さんが話しかけてきた。


「満員電車を永久に無くすってことは難しいかもしれないですが、『この路線を数ヶ月くらいだけ』と条件を設定すれば、無くすことはできますよ。」


「本当ですか?どうやってやるんですか?」


「それは企業秘密です。もし、田村さんが本気で満員電車を無くしたいと思うであれば、ぜひご依頼ください。まぁ、案件が案件なだけに報酬もそれなりに掛かりますがね。」


「探偵さんの所は本当に実現させちゃいそうだから、依頼したことを後悔することになると思うのでやめておきます。」


「それがいいと思いますよ。」

他愛もない話で談笑していると、電車がホームに入ってきた。すでに電車にはかなりの人数が乗っていたが、そのすし詰め状態の中に俺たちは何とか乗り込んだ。


『田村さん、今回のターゲットとなる人は誰ですか?』

俺たちは乗り込む際に逸れてしまったため、スマホでのメッセージでやりとりを始めた。


『私から10時の方向でつり革を捕まって立っている女性が見えますか?』


『はい、見えます。ロングヘアーの女性ですよね?』


『そうです。あの子のことを全部、知りたいんです。』


『分かりました。じゃあ、事前調査に今日から1週間ほど時間いただきますが、よろしいですか?』


『よろしくお願いします。』


ターゲットを確認できた俺は、次の駅で満員電車から退避した。梅雨も終わり、夏が本格的に始まろうとしている時期の満員電車は、とてもじゃないが我慢できる環境ではなかった。


『さてと、ターゲットの顔も分かったし、とりあえず明日から調査し始めますか。』

俺は反対側のホームからガラガラの電車に乗って事務所へ帰った。

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