略奪愛(番外編)

社長が依頼人から依頼理由を聞こうとしないので、私は仕方なく自分の足を使って依頼理由を探ることにした。

『まぁ、依頼人から直接聞くのが一番早いか。』


私は依頼人の太田さんと会う約束をした。

「お久しぶりです、略奪愛が成功した感想はどうですか?ちゃんと、上手く行っていますか?」


「はい、おかげさまで。500万円払ってでもお願いして良かったと思ってます。」


「それは良かったです。ちなみに、太田さんだったら収入的にも社会的な地位的にも、部下の奥さんをわざわざ大金払ってまで略奪する必要ないと思いますけど、なんで今回、依頼していただいたんですか?」


「依頼した理由ですか?別にそんなに大した理由はないですよ。」


「その大したことない理由でも聞きたいので、教えてください。」


太田さんは少し話すのを躊躇っている様子もあったが、私の視線に根負けしたのか仕方ないという感じで口を開いた。


「いや、単純に松村が俺より先に結婚したことに腹が立っただけですよ。しかも、奥さんがブサイクならまだしも、可愛く美人で、その上、高校から付き合ってる彼女と結婚って、嫌でも好感度アップするじゃないですか。社内でも、松村の方が俺よりも女性陣の評価が上がってて。それが単純に許せなかっただけですよ。


俺のプライドを傷つけられたから、あいつの大事なものも傷つけて更に奪ってやろうと思っただけですよ。


見ましたか、あいつの『終わった』って顔。傑作でしたよね。しかも、会社内でもあいつの評判もガタ落ちして居場所失って。最高の結果に、すごい満足してますよ。笑いが止まりませんよ。」



私は、『理由を聞かなきゃ良かった』と後悔した。後輩には何一つ悪いところはなく、ただただ依頼人の僻みひがみによる依頼だった。確かに、こんな理由を聞いてしまっていたら、今回の依頼を最後まで実行し切れなかったかもしれない。


「あーあ、他人の幸せを壊そうって思うからには、何か大層な理由があると思ってたのに。このままだと、人間を信じられなくなりそう。人間って本当にクソばっかりだわ。」


私は、事務所に帰る前、帰り道にあった神社に立ち寄った。

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