第45話 エゴイスティックにラブコール

 

 こつこつ小さな靴音が規則的に鳴っている。

 ここを訪れた時よりも辺りが少し明るくなっているような気がするのは、あまりに真っ暗な書斎にいたから少しの光にも敏感になっているのだろうか。

 自然とそんなことを思いながら、前をゆくニーナの背を追って廊下を歩いていた。


「こっち」

「……あぁ、うん」


 ニーナが小さく呟いて左に曲がるとき、自然と彼女の硬い表情と左腕の火傷が目に映る。

 書斎を出てからのニーナは、行き先を言わずに歩き出し、ときどき思い出したようにこちらに振り返り、詩音こちらの姿を確認しては何も言わずに前方に向き直る。その繰り返しだった。


 澄ました無表情を貼り付けているニーナが今一体何を思っているのだろうとか、そもそも彼女が何故ここにいるのだろうとか、その火傷はどうしたのかとか、今自分達は何処に向かっているのだろうとか、次々と浮かぶ疑問文が答えの出ぬまま流れ出ていく。


 いろいろなことに疲れて、嫌になって、何も考えたくなかった。

 だから何も尋ねずついていく。頭を止めて脚を動かすだけをただ繰り返した。


「……ボクさ、耳がいいんだよね」


 2、3分が経過した頃、前をゆく少女が話をはじめた。

 唐突な発言に反応が少し遅れてしまうけれど、まあ、どうでもいい世間話のようなのであまり問題はない。


「……なんの話?」

「だから、よーく耳を澄ませせればアルラが今どの辺りにいるのかわかる。今は大体あっちの方、4階くらい上」


 ニーナの指が斜め後ろの壁を指した。


「……へー、マジで?…………んー駄目だ、俺には物音一つ聞こえねえんだけど」

「マジです。本当です。……とは言っても、流石にこう離れてると普通は距離までは聞き分けられない。向こうは相当騒がしくしてるみたいだね」

「へぇ」

「多分あの竜にでも襲われてるのかな?元の場所から動いてないし、他にいくつか重たい音がある。いい時間稼ぎになってるね。それで死ぬなんてのは期待できないし、全部片付けたらこっちに真っ直ぐ向かってくるかもしれないって裏返しでもあるんだけど」

「…………ふんふん」

「で、あいつに嗅ぎつけられるまでの時間を少しでも稼ぐために、アルラの反対側に向かってるってこと。風通しの良いとこに逃げたら臭いは一瞬で広がるだろうし、古城から出るわけにはいかないから」

「はぁー、なるほどなぁ」


 少女の理路整然とした説明に思わず漏らしてしまう溜息。

 一見なんの意味もないようなこの行軍にそんな深大な思慮が込められていたとは。

 流石はニーナだ。感動だ。涙が出そうだ。


 そして、そんな彼女は振り向かず前を歩きながらも、指揮棒のように人差し指を立てて、口を回し続ける。


「それともう一つ」

「へえ、なんだ?」

「ボクはとんでもなく性根が腐ってる」

「あぁ……」


 窓から微細な光が差し込み、うっすらとだけど影を作っていた。


「――――あ?」


 なんだか不穏当な単語が聞こえたような気がして、彼女のほうに目を向けた。

 けれど、依然としてなんでもないように前を行く後ろ姿。


「この先ずっと隠し通せるとも思えないし、ここで言っておこうかなって。ボクってどうしようもないゴミクズなんだ」


 むしろ、妙に軽いような気さえする足取りを見せながら、少女の鈴のような声色が跳ねている。


「…………自虐は反応に困るからやめようぜ」

「事実だから仕方がない。うーん、わかりやすく言えば……なるのをわかってて見過ごしてた、とか」

「…………って?」

「知ってたんだ、アルラがコトノを殺そうとしてるの」


 聞いた途端に足が止まった。何故だかわからないけど、自然と踏み出すはずの次の一歩がまるで凍り付いたように出てこなくなったのである。

 言葉の意味は欠片も理解しないよう努めているのにおかしな話だ。金縛りというやつなのだろうか。

 だから、振り返ったニーナに「……コトノ」と声をかけられると、自分はすぐに正気を取り戻し、また元通りに歩き出す。


「…………あぁうん、知ってたのか。それで?」

「今朝にちょうど気が変わって、こうして助けに来たわけなんだけど……こうしてコトノと喋ってても、罪悪感が全く湧いてこないの」

「……まあ気にすることでもないだろ、結局助けに来てくれたなら、」

「というか罪悪感ってのが全くわかんない。コトノが死んでなくてよかったってのは感じたけど、可愛そうだなとか、ボクが一言えば避けれたことなのに申し訳ないなとかより、会話ができなくなるくらい狂ってたら困るなってのが最初に浮かんだ。吐くほどトラウマになって、ちゃんと傷つけてるコトノを見て、今ボクはすごく安心してる」

「………………へえ」

「お金貰えるなら人だって殺せる。ミアを殺そうとしたのだってなんの問題もないって思ってるし、今からでも処分するのは遅くないと思う。そんなことで怒ってるコトノにすごくイライラする」

「………………」

「こういうのをゴミクズって言うんでしょ?まあそれ自体は別にどうでもいいんだけどね。優しくしてくれる人は好きだけど、優しい人になりたいわけじゃないし。そこから生まれた不利益は別として」


 ニーナは一つの部屋の前で足を止め、軋んだ扉を押して中に入って、彼女の後に詩音も続く。


 辿り付いたここは、礼拝堂のようなものだろうか。

 この世界に宗教的な概念があることは知っていても、その細部になると一切の知識を持たない詩音には、そんな曖昧な印象しか感じとることができないが、とにかく、外の古城とは趣の異なる装飾が散りばめられ、外の古城と同じように古びてくすんだ礼拝堂。

 その中心あたりに至った頃、ニーナの足がようやく止まった。


 少女がくるりと回ってこちらに向き直る。


「………………」

「…………なんだよ」


 真っ暗で無音の礼拝堂の中心、どういうわけか2人で黙って直立し、互いの目を見て向かい合っている。

 その瞳はあまりに真っ直ぐにこちらを見据えていた。

 薄暗い中、少女の金の瞳は綺麗に映えていて、その中に引き込まれるような――


「友達になって」

「……はぁ?」


 ――これまでの文脈の一切を無視した台詞だった。

 間抜けな声をあげた自分とは対称的に、ニーナは静かに言葉を紡ぐ。


「コトノはボクのこと嫌いだろうし、そうじゃなくてもこんなゴミクズとつるむのは相当な負担だと思う。だから、ボクを友達にするのがコトノの得になるように努力する。できる限りのことは協力するし、コトノの価値観にそぐわないことは控えることを約束する。人殺しとか」

「………………控えるって」

「友達になって」


 揺らがぬ瞳が真っ直ぐに向けられていた。


 あれ、友達って何だっけ、と現実逃避気味な疑問が頭に浮かんだ。

 気のせいかと疑いたくなる言葉の羅列にニーナの意図が飲み込めなくて、でも何も考えたくなくなかった。


 賢い自分は適当に相槌を打つことにした。


「……自分を嫌ってる奴にそれ言ってどうするんだよ。『あーこいつはボクのこと嫌いなんだよなー』とか思いながら楽しく楽しくお喋りすんの?」

「……ボクね、年上のカッコかわいいお姉さんに、無理矢理押し倒されるのが夢なんだ」

「…………あ?」

「いや、コトノに恋しちゃえば話が簡単に進みそうだと思って、この数日間どうにかコトノを好きになろうって頑張ってたの。けど駄目だった。ボクはどうやっても男は好きになれないみたい」

「…………は?……えっと、」

「そういう面では一緒だね。好きになれない者同士逆に仲良くやれるんじゃないかな。友達になって」


 じっとしていても見失ってしまいそうな深い深い影の中、少女は真っ直ぐこちらを見ている。


 そろそろわけがわからなくなってきて、形ばかりの返答もできなくなって、仕方がないので少しだけ足りない頭を絞り、考え、考え、ああなるほどそういうことかと理解した。

 理解ができたのは彼女の嗜好くらいなのだけど、とにかく全部がわかったことにした。とてもじゃないくらい疲れていた。


「………………そういう好き嫌いの話をしてるんじゃねえよ」

「……じゃあ、どういう?」

「前も言っただろ、お前を見てると」

「それならいいよ。ボクを見てるとミアのこと思い出して頭痛と吐き気がする死にそうって話でしょ?ボクは別に気にしないから大丈夫。そんな状態でも普通に接してくれててありがとう。もうちょっと我慢して友達になって」

「…………だいじょうぶ……って」


 飛んでくる発言がじんわり自分の理解を超え始める。

 考えても何を言ってるのか分からないのに、堂々とこっちを見つめる視線は一切揺らがない。


 口をつぐんで黙っても、何一つ話は進まない。


「…………魔人の知り合いが1人いる」

「――へぇ?……あぁ、うん」

「どういう方法を使ってるのかは知らないんだけど、その人は魔人なのに自力でちゃんとした生活が送れて、金さえ積めばなんだってやるって言ってくれた。お前と……あと、アルラも、元々その人に面倒みてもらう予定だったんだ」

「……え?」

「……俺はやらなきゃいけないことがあるから、無理だよ。資金も用意できてるし、信用できる人だし、友達作りたいならその人と仲良くしててく」

「――――はぁぁ!?やだよあんなの!!」


 少女の叫び声が、きんと耳に余韻を残す。


「……あんなの?」

「ここに来る前一回会ったけど本当に気持ち悪い!あんなのと一緒に暮らさないといけないなんて絶対やだ!!っていうかよくあれを信用できる人って言えたね頭大丈夫なの!?」

「……えっ。……いや、いい人だぞ……?なんか勘違いしてるんじゃ……」

「――――ああそっか、そういえばそんなこと言ってたなあいつ……!」


 始めてこちらから目を外し、しばらく考え込む様な様子を見ていたニーナだったが、すぐに金の視線が戻ってきた。


「……兎に角あれは絶対に嫌。というか魔人は嫌。今まで何人か魔人に会ってきたけど、ボクも含めてどいつもこいつもゴミみたいな性格してるし、魔人ってだけでもう安心して一緒に過ごせない。よーく考えてみれば魔人は全員クズってのは間違ってないし、なんであのとき不快に感じたのかわからないくらい」

「……な、っ」

「で、魔人じゃない一般人は論外だよね。魔人のボクは姿を見られただけで嬲り殺し。はい、消去法でも残ってるのは1人。友達になって」


 志無崎詩音の息が荒くなっている。


 魔人のくせに魔人を貶すこの姿。吐き気が増した。目眩がする。もう全部なかったことにして目を背けてしまいたい。

 けれど、彼女はそれでも真っ直ぐこっちを見据えていて、見て見ぬ振りを続けていてもこの現実が消えてくれるわけではない。

 頭がおかしくなりそうだった。


「………………」

「………………」

「………………人殺しだ」

「……うん」

「……自分のことを、魔人のことを、ゴミクズだって言ってたけどさ、見る目がないのはお前のほうだよ」

「……うん?」

「……わかってるだけでも、800人は殺した」

「…………………………はぁ……?」

「……………………」

「……………………冗談?」

「……………………」

「……まあどうでもいいよ。正直少し意外だったけど、コトノが人殺しでも特に困ったことは無いしね。指折り数えてうわぁぁ殺しちゃったーってぷるぷるしてるのはらしいと思うし……あははっ!殺したなら殺したで開き直ってればいいのに……ぷっ、あははっ!」

「……ああああぁっ―――あ゛ああ゛ああああッッ!」

「――コトノっ!?」


 思わず、叫んだ。

 もう嫌だ。何が嫌なのかわかりたくないもう嫌だ。

 謎の頭痛で頭が割れそうだ、自分がニーナにどんな感情を抱いてるのかもわからなってきた、それでも頭痛は酷さを増していく。きっと頭がおかしくなってしまったのだ。

 逃避の先を無くした自分の体は断末魔と共に地面に這いつくばっていて、衝動を抑えきれずに地面を強くひっかいていた。爪からじわりと液体が滲んで痛みに呻く。


「ぐぅぅぅっ………!あ゛あっ……!!」


 そうしていると、上から降ってくる誰かの声。


「――コトノ。…………コトノっ。おーい」

「……………………ぁあ゛っ」

「……笑ったのはごめん。そうだよね、コトノにとっては大事なことだよね、謝る」

「…………………………」

「でもコトノにはやらなきゃいけないことがあるんでしょ?ボク暇だし馬車馬のように働くよ。コトノの責務に真摯に向き合うのなら、協力者が増えるのは拒んじゃいけないことなんじゃない?」

「…………う゛ぅ、っ」

「……見て、この火傷。コトノをアルラから取り返す時についたんだ。すっごく痛い。死んじゃいそう。こうまでして何度も命を助けてくれた恩人に、コトノは今こそ報いる時なんじゃないでしょうか」

「……………………」

「辛いなら慰めてあげる。ぎゅーって抱きしめて頭を撫でてあげてもいい。いっぱい慰められてきたから、慰めるのにも自信があるよボク」

「…………っ、ぁ――――人殺しはっ、駄目だろ……!?」

「…………そうだね。駄目だね。寛大なボクは駄目なコトノを受け入れてあげる。友達になって」

「……………………っっ」

「友達になって」

「……………………」

「……………………」

「……………………と」

「……………………と?」

「……………………友達なんか作ったら」

「……うん」

「………………またいつか、裏切ってきそうで、嫌だ」

「……あぁ、なるほど。やけに粘ると思ったらそれか」

「……………………」

「なるほどね…………」


 しばらくしんとした静寂が続いた。

 ニーナが黙ると、この場所は本当に静かなところで、ほんの僅かな隙間風の音が聞き取れるくらいに静かだった。

 やがて少女の吐息が徐々に自分に近づいてくる時、側から見ているかのように鮮明に感じられた程に。


「……ね、コトノ」


 至近距離、己の耳元で、ぽつりぽつりと声がする。


「ボク、とんでもなく性格が悪いの」


「だから自分勝手にしか考えられなくて、自分勝手にしか動けないくせに、誰からも見放されてるのに耐えられないの」


「普通の魔人なら人の優しさなんて知らないままに死ねたのに、あの人に助けられて、幸せを無理やり刻み込まれて。忘れようとしてたのに、コトノのせいで思い出しちゃった」


「このままコトノが遠くに消えちゃって……またあの日に戻らなきゃいけないってなったらっ、今度こそおかしくなっちゃいそうでさ……」


 ああ、ニーナの声が細かく細かく、だけど確かに震えている。


「…………やっぱり、いざとなると、1人は、怖いよ。怖い」


 這いつくばった自分の頬に、手の平が優しく触れて、そっとゆっくり撫でてきた。


「…………お願い、助けて」


 呟く様な、小さな声だった。

 らしくない台詞で、似合わない感じがした、けれど泣きそうな声だった。


「…………っっ……!……う゛、うっ!」


 どうにか無理矢理顔を上げると、視界に映るのは泣き顔とはほど遠い無表情。


「……こう言えばコトノは折れてくれるだろうなーって打算で言ってみた」

「……………………お前」

「けど、嘘は1つも言ってない」

「…………………………」

「友達になって」

「…………………………」

「…………………………」

「…………少しは取り繕えよ」

「長い付き合いにしたいから、ここで嘘をつくのはリスクが高い」

「…………………………」

「お願い」


 そうしてニーナは、これ以上何も言うつもりはないとばかりに、じっと黙ってこちらを除いている。

 詩音じぶんの反応を待っていて、圧するでもなく媚びるでもなく、やっぱり真っ直ぐな目で見つめてきている。


「……ハァ」


 考えてみた。

 こいつはミアを殺そうとして、人殺しに何の躊躇もなくて、それは大体仕方のない状況下だったけど、それに自分は耐えられなくて、普段の行動はそんなに悪い奴には見えなかったのに、そもそもどうして自分が裏切り者の死をあれこれ危惧しなくてはならないのか意味がわからなくて、世界が滅亡から遠ざかるならそれも仕方なくて。

 普段から逃避に狂っていた脳細胞がろくな進展を生むはずもなく、徒労となった思考の中で独り、不恰好に溺れていた。

 ニーナはじっとこっちを見ていた。


「……あぁ、くそっ」


 感想としては、最悪な気分だった。


「ニーナ」

「……っ……なに?」

「やらなきゃいけないことは誰にも知られちゃいけないことだから、」

「絶対言わないしそもそも相手がいない。それに関しては100%大丈夫」

「………………何人殺した?」

「5人。仇打ち。もう絶対しない」

「……そっか」


 逃げる様に天を仰いでも空は見えずに、唯一目に映るのはくすんだ天井。

 最悪な気分だった。


「……で、それだけ?」

「………………」

「………………」

「……………よろしく、お願いします」


 言葉を絞り出した瞬間、ニーナの表情がぱあっと晴れた。


「――――っっ、うん!!うんっ!」


 次の瞬間に現れたのは年相応の無邪気な笑顔。一切の躊躇いもなしに手をとられた。

 ああ、今まであんな平静を振る舞っていたのに、こいつもこいつなりに緊張していたのだなぁ、と、考えるでもなく察してしまうありさま。最悪な気分だった。


「よーしじゃあこれから友達ね、最低一日一回朝昼晩のどれかは付き合ってもらうからちゃんと予定を空けておくように!」

「……なんか違くね?友達ってそんなのだったっけ」

「何言ってんの日に五時間以上一緒にいるような関係を友達って定義するんだよ言い換えるなら友達の義務だよやらなきゃいけないんだよ納税頑張ろう!」

「……そうなの?」

「そうだよ当たり前だよ常識だよシャルさんが言ってた!」


 ぐるぐる目を回した混乱と興奮状態のさなか、弾けるような勢いで詩音じぶんの手をぶんぶん振り回す少女。

 そんな姿を目にして湧いてくるのは、『シャルさんって誰だよ』なんて些細な疑問と、いつもの頭痛、どうしようもない最低な感情。


 少女のあまりに真っ直ぐな様子を見ていると、つらいつらいと泣き喚き、一文にもならない言い訳を並べ、現実から目を逸らすことしかできない哀れな哀れなクソガキのことを考えずにはいられないのだ。

 もしも代わりにこの世界に呼ばれたのが彼女のような人間だったら、とっくに平和は訪れていて、きっとたくさんの人が救われただろうから。


 最悪な気分の正体は多分、劣等感と自己嫌悪。


「そうだそうだよ思い出したボク料理が趣味なんだけどまともな味見役は今までいなかったのわかるよね!?」

「……お前はいいよな、強くて」

「だから客観的な意見が今こそ必――!??……!!???――えぇぇ……もしかして嫌みってやつ……?そこまでムカついたなら謝るけど……」

「違う」

「はぁ……??」


 首をかしげてしばらく目をパチパチさせていたニーナだったけど、やがて、満面の笑みで胸を張った。


「…………まあね!!ボクは世界で2番目にカッコかわいい女の子だから!!」


 少女は心底楽しそうに、いひひと小さく笑っていた。

 大きく一つ溜息をつきながら、手を引っ張るニーナに助けられて立ち上がる。

 蕩けた笑顔で「よろしくね」と呟く彼女の様子がなんだか凄くずるく感じて、「よろしくねもおかしいだろ」なんて投げやりな返答にも、少女は僅かに微笑んでいた。


 そんな中、……ずん、と、どこか遠くで重たい地響きが鳴る。

 途端に引っ込むニーナの笑顔。彼女の視線が横へと逸れる。


「――来るよ」


 えらく真面目な表情へと変わってしまった少女を見て、ああそう言えば『時間稼ぎ』って言ってたなぁとさっきの会話を思い出した。

 地響きが一つ、また一つと、徐々に距離を縮めてきている。

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