1回戦 Sランク冒険者ゲーム52
さらに、俺と青山と有希と夏目理乃と国吉文絵と安来鮎見の7人は実年齢よりも大幅に高く、20代半ばくらいに見えるように変装することになった。千野はもともと老け顔だが、さらに老けメイクを施したりお腹の前にタオルを詰めたりして、ヒューマンで言えば40代くらいに見えるようになった。ただし、寿命が長いドワーフならば20代くらいに見えるはずである。
逆に、佐古くん、鈴本、夜桜、立花光瑠の4人は実年齢より低く見えるように変装することになった。
これらは、デスゲームの参加者の条件である「全員が15歳の32人の集団」から外れるためだった。
ただし、唯一米崎だけは年齢相応に見えるようにしつつ、できる限り現地人に溶け込むような変装をすることになった。
その日――スプリングワッシャーを旅立った最初の日の夜は、山奥にある寂れた村に辿り着いた。観光客が訪れることは皆無で、旅人も滅多に来ないような村だったので、宿はなかった。しかし村人達の好意で、空き家を貸してもらえることになった。空き家の中には家具は一切なかったが、雨風を凌げるだけでも助かった。俺達は床の上にテントを張り、寝袋に入って寝た。
次の日も同じような感じだった。
この世界にも盗賊はいるが、俺達が通るルートは馬車の通れない道ばかりだったので、遭遇することはなかった。
定期的に馬車が通る道と、脇道がいっぱいある徒歩専用の道がある場合、盗賊がどちらで待ち伏せするかと考えると、明らかに前者なのだ。
スプリングワッシャーの街を出てから2日後――デスゲームの1回戦開始から9日目の夕方に、俺達はギアウィル王国の首都に到着した。
首都はスプリングワッシャーの2倍以上の高さの城壁に囲まれた、大きな街だった。高い建物が多く、街道は狭く、人口密度が高そうだった。
門番はいたが、入門税さえ支払えば後はフリーパスで、冒険者カードのような身分証の提示を求められることもなかった。
ただし、異常なほど高い魔力を持っていないか、という点だけは魔道具によってこっそり確認されたようだった。小柄な魔族が人間に変装していても、人間より高い魔力を隠蔽することはできないから、これで魔族のスパイが潜り込まないようにチェックしているようだった。
もちろん、低レベルで生産職の俺達がチェックに引っかかることはなく、無事に門を通過できた。
東西と南の三方を険しい山に囲まれた首都は、良質な金属を発掘できる鉱山をいくつも抱えていて、転移門を通じて世界中から鍛治屋や職人が集まっているらしい。
そのため、人の出入りも激しく、よそ者の俺達にも街の人達は無関心だった。変装についても、不審に思われる様子はなかった。
まずは、裏道にある宿をとった。20匹の羊の滞在スペースとして、宿にお金を払い、
宿の部屋で、今後の方針について改めて話し合う。
まずは冒険者ギルドを訪れ、敵チームがこの街にいるかどうか確認したいところだった。しかし、今の段階で敵チームと遭遇するのは避けたいので、1番クオリティの高い変装をした千野が代表者となり冒険者ギルドで聞き込みをすることになった。
スプリングワッシャーでやっていたときと同じように、他の冒険者達に混じって酒を飲みながら、「ここ10日ほどの間に15歳くらいで30人前後の集団がギルドにやってこなかったか」というのを確認してもらったのだ。
インターネットやテレビが存在しないこの世界では個人情報の保護が緩いし、人の口も軽い。酒を飲むとさらに口が軽くなる。
千野は1時間もしないうちに、首都には敵チームは来ていない、という結論を持ち帰った。
「ギアウィル国には、冒険者ギルドはスプリングワッシャーと首都の2ヶ所にしかないから、これでこの国にはピラクリウム星人がいないことが明らかになったな。でも、やっぱり敵も最初は強い魔物が少ない地域に転移したと思うんだ」
鈴本はそう前置きし、3つの国の名前を挙げた。それらは1回戦が始まる前に転移先の候補に挙がっていた国だった。俺はすっかり忘れていたが、暗記のプロである鈴本はちゃんと憶えていてくれた。
「俺が1人で順番に転移して、敵チームがいないか確認してこようか?」
千野がそう提案した。
「いや……効率を考えると、同時に3つの国の首都を調べておきたいところだな。千野くんはすでに結構酔ってるみたいだし。僕も行くよ。この中だと、僕が1番戦闘で役に立たないし、死んでも惜しくない」
鈴本が眼鏡のズレを直しながらそう言った。
「じゃあ、私も。私の〈対物鑑定〉と〈計算〉は、どっちもバトルで役に立たないし」
夏目理乃も名乗り出た。
「じゃあ、3人に頼む。敵チームがいてもいなくても、24時間以内に1回この街に戻ってきてくれ。伝言があったら、この宿に伝えておこう」
俺はそうまとめた。
「もし敵チームに捕まってしまったときは、潔く自害しましょう」
夏目理乃はそんな怖いことを言ったが、鈴本と千野は真面目な表情で頷いた。
3人の見送りのために、全員で転移門のある場所まで移動する。転移門は高い塔のようになっていた。初めて転移門に来たことを説明し、犬の獣人の職員に説明をしてもらう。
まず、1階にある中学校の体育館ほどの大きさの部屋が「転移部屋」なのだそうだ。転移部屋は電車の駅のような役割らしい。電車に相当するのが転移魔方陣だ。
転移魔方陣は、予め決められたルートで世界中の転移門を回っている。その転移魔方陣の上に乗ることによって、別の街の転移門に移動できるという仕組みなのだそうだ。1つの転移門の滞在時間は3分程度だ。現存する転移門は18棟なので、1時間もしないうちに1周して元の転移門に戻ってくることもできるそうだ。
「ピーク時には200棟近い数の転移門があったのですが、魔族との戦争によって破壊されてしまい、残っているのはたったの18棟になってしまいました……。戦争によって技術者が亡くなり、建物や魔方陣の設計図も失われてしまったため、もう新たな転移門を建築することもできない状況です」
犬獣人の男性の職員は、悲しげに尻尾を落としてそう言った。
時差の影響もあるので、転移門は24時間営業だ。
運賃は、移動距離ではなく重さによって変わるそうだ。この世界の単位を地球の単位に換算すると、1キログラムあたり2.8コールト(280円)ほどらしい。例えば体重が60キロの人なら、約1万6800円ということになる。地球の感覚だと、随分と安い。
魔族との戦争の勃発や災害など、緊急事態が起こった際には、人道的な理由から無料開放されるそうだった。
「ただし、コールトが使えるのはこの転移部屋に入るときだけです。もしも往復するのなら、帰りはその国の通貨か魔石が必要になります」
職員はそう説明した。
魔石は世界共通の通貨のような役割も果たしているらしい。転移門の中には魔石を売り買いする公式の店もあって、ちゃっかりしてるな、と思った。
行きはコールトで、帰りは魔石で運賃を払おうということになり、とりあえず魔石を3人分購入することにした。さらに、情報収集にはお金がかかるかもしれないので、必要経費の分も含めて多めに買う。
手数料が必要になるため、運賃を魔石で払うと割高になってしまうが、仕方がない。体重によって運賃が違うので、事前に体重も量ってもらった。夏目理乃は値切ろうとしたが、ここではそういうのはやっていません、と断られてしまった。
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