第8ウマっ!

「うーん。ぷろっとが…。えーっと」


 顔をノートパソコンの画面と手元で何度も往復させながらつぶやく眼鏡ボーイ。大学生らしき眼鏡ボーイが図書館で何やら悪戦苦闘しているようである。


「えっと…、『私は』」


 本人は自覚しているのか。静かな図書館では周りに丸聞こえ状態でつぶやいている。そして両手の人差し指で『W』、『A』、『T』、『A』、『S』、『I』『H』、『A』と打ち込んでいる。そこにツインテールの頭にサングラスを乗っけたかわいい女の子が。ロリポップキャンディーをカコカコ鳴らす女の子は右手に『路上』(ジャック・ケルアック著)を持ちながら、読んでるページに人差し指を挟みながら。


「眼鏡ボーイくん。よっ!ちみは小説を書いているのかい?っす」


「え…。(うわあ、この子すごくかわいいなあー。でもここで『はい、小説を書いてるんです』と答えるのもアレだし…。どうしよう?なんか恋の予感?的な?)いや…」


「そこをどいて、人差し指出すっすなあ」


「え?どく?人差し指を出す?」


 言われるがままに椅子を立ち上がり人差し指を差し出す眼鏡ボーイ。そこに『路上』(ジャック・ケルアック著)を自分が読んでいるところのページで乗せるツインテールの頭にサングラスを乗っけたかわいい女の子。ロリポップキャンディーをカコカコ鳴らす女の子はそのまま空いた椅子に着席。ノートパソコンに正対し


 カタカタカタカタカタカタカタカタ!!


「ブラインドタッチウマっ!」


「ブラインドタッチのコツは両手の人差し指っすよ。右手人差し指は『J』あーるっす。そして左手人差し指は『F』えふ7っすやねんな。ほれ、どっちも『ぽっち』が付いてるっすだろ?そうすると順に右手の小指から『A』、『S』、『D』、『F』、『J』、『K』、『L』、『;』に配置されるんよなっす。『G』は『F』から延長っす。『H』は『J』から出張やねんな。この一列を30分目視しながらでいいからやってごらんっす」


☆今日のウマっ!タイピング☆


 タイピングは短時間で身に付き、一生もののスキルっすなあ。まずは目視しながらで真ん中の段を見ずに正確に打てるようにするっすよ。それが出来たら上の段やねんな。コツはあくまで人差し指は常に出張してないときは『F』と『J』から動かさねえっす。これも真ん中の段と上の段を目視しながらでいいからやるっすね。慣れてきたら見ずにやるのねん。それが出来るようになったら下の段やね。『エンターキー』は右手の小指、『スペースキー』は左手の親指っすだ。紙に書いてやってみるのもええかもなあっす。でも毎日30分を一週間続けたら『ブラインドタッチ』は身につくよっすなあ。慣れてきたらスピードが速くなり、正確さも向上するねんなっす



「へー。なるほどー。いっぺんにやろうとしたら無理ですね。今日からさっそくやってみますね。あと、数字はどうすればいいでしょうか?」


「数字は頑張れば出来るけど、そこは休憩の意味で目視っすね。ほーい」


 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ!!!


「恋せよ乙女っすよなあ。眼鏡ボーイくん」


「え!?(これは恋だ!!)ちょ、ちょっと待って…!」


 そんな言葉を気にせず、『路上』(ジャック・ケルアック著)を持ちながら、ロリポップキャンディーをカコカコ鳴らす女の子はすたすたと立ち去る。


 残された眼鏡ボーイがノートパソコンを見て驚く。ワードで書かれた文字は


『ロリポップキャンディーは穏やかな自殺っすなあ』


 ツインテールの頭にサングラスを乗っけたかわいい女の子。ロリポップキャンディーをカコカコ鳴らす女の子は『路上』(ジャック・ケルアック著)を愛読しているのかは分からないが、タイピングは「ウマっ!」

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