第11話 ゴールド

 海斗が朝魔術本部に訪れるとエルが忙しそうにあっちこっち動いていた。


「どうした?」


「つい一時間前から様々なマルチバースが壊滅していると報告が来ているんです!無差別に、まるで食い散らかしたかの後のように進行しています!」


 海斗は魔術を使って現在観測可能なマルチバースの全体図を見た。ところどころ穴のようなものが出来ておりそれが壊滅したマルチバースを表していた。


「一個のバースは無数の生命体や未観測の星の集まりだ。一時間でここまでするなんてまるでイナゴだな。他のバースはどうなっている?」


「情報を聞いたバースが次々と対策していますがいずれも……」


「英に行ってくる。何かあったら連絡してくれ」


 海斗は遠方移動専用のゲートを開いてイギリスの魔術本部に訪れた。以前やってきた会議の場にはあの時と同じメンツが揃っていた。


「どういう感じなんだ?頑張ればどうにかなるのか、滅亡に片足突っ込んでるのか」


「マスターカイドウ。君は状況がわかっていないのか?数々のバースが滅亡しているんだぞ。それでも頑張ればどうにかなる?ふざけないでもらいたい」


「それは失言だった。ちょいと失礼」


 海斗は今度は少し変わったゲートを開いた。その世界は雪に覆われ、立っているにもやっとなくらいの銀世界を海斗はまっすぐ進んだ。


「スカアハ。知らせは聞いているよな?」


「えぇ。マーリンがつい先ほど知らせを持ってきてくれました」


「随分と余裕だな。策でもあるのか?」


「戦術ならいくらでもあります。外のジャンピエールは騒いでいますが唯一あなたは他の人と違って冷静でいる。あなたにも策があるのでは?」


「こう見えて心臓がバクバク鳴ってるんだけどな。たしかに戦術はいくらでもあるさ。ただ一か八かだ」


「戦場では何が起きるかわからない。必ず勝てる戦いなんて本当はない。だから確率は一と八なのです。それでは少し招き入れましょう」


 外の世界 同時刻


「マスターカイドウ……どこに消えたんだ」


 ジャンピエールが対策を考えている間に空中に文字となって報せが届いた。


 ーー敵軍、本バースに侵入。


「ついに来たか。場所は?」


 ーー魔術妃スカアハ殿下の世界


「なんだと!?」


 スカアハと海斗


 海斗は空間に武器の類になる物を生み出し射出、スカアハは環境を利用して一定の空間だけ今以上に温度を下げて敵を凍らせていた。敵の姿は一昔前の特撮に出てくる怪獣のような風貌であるが種族のようなものがないのか姿形は一定していなかった。


「想像以上の数だな。イナゴっていう表現は間違っていなかったかもな」


「やはり此奴らだったか。カイドウ、彼奴等には司令塔のような存在がいる。いわゆるマザーだ」


「知ってるみたいだな。あと、戦いになると口調変わるのやめてくれないか?慣れるのに一苦労なんだよ」


「そっちは任せたぞ」


「はいはい」


 海斗は一足先に怪獣がやってきた穴(正確には誘き寄せるためにスカアハがわざと開けた穴)に怪獣の流れが遅れた隙に突入していった。穴の先はどこかの惑星であり、空は赤く、風が吹き荒れていた。海斗が周りを歩いていると人間が座ってもかなりスペースが余る玉座を見つけた。そしてそこに誰かが座っていた。


「ジェフ!こんなところにいたのか!ついこの前会ったばっかなのにもう会えるとはな。俺は嬉しいぜ」


 ーーあの時の地球の魔術師か。お前から受けた背中と左腕とここの傷が疼いて夜も眠れなかったぞ。だが我は辺境の星で手に入れた杖を使いあの怪獣を使役して戻ってきた。全て貴様への恨みを晴らすためだ。そのためにはあの怪獣は最適だった。あの怪獣たちは星の生命を喰らうことが本能だ。


 玉座に座るジェフは一つずつ自分の身体を指さして傷の位置を教えていた。ついでに自慢げに杖を見せびらかしながら。しかし海斗はそんな説明なんて頭に入らずむしろ別のことを考えていた。


 ーーツッコミ所多いな……意外にノリに乗ってくれるから倒すのに惜しいんだよなぁ。


 ちなみにジェフというのは海斗が勝手に付けた名前で彼の本名は地球人では発音できないものなのでジェフとなった。


「んでジェフ。俺の故郷にクソ多い怪獣送り込んで地球を終わらせようとしたのか?悪いが怪獣は俺とスカアハが対処してしまったんだ。あとはマザーっぽいお前を倒すだけだ」


 ーーそうだな。確かに我とこの杖を破壊すれば怪獣の動きは止まり、お前たちは再び故郷で安寧の生活をできる。だが魔術師。我を以前と同じと思わないことだ。


 ジェフは玉座を立ち上がり海斗より五倍ほど大きい体格を見せつけた。


「そうか。俺にはお前が傷だらけのまま杖を持った以外何も変わってないように見えるがな」


 ジェフが手を海斗に伸ばすとジェフの足から海斗に向かって簡単に刺さりそうなくらい鋭い槍が無数に地面から生えてきた。海斗は回避するために浮遊の魔術を使い回避した。ジェフが今度は手のひらを返すと今度は海斗の目の前に槍のようなものが出現し、海斗が再び避けるとそれを追うかのように槍も至るところから出現した。


「イモみたいな戦い方しやがって。前のやり方の方がもっとマシだ」


 ちなみに前のやり方というのはひたすら殴り合うというものだったが海斗が飽きたのか速攻剣や槍を射出して撃退した。つまり今回海斗はやり返されたというわけである。そして足に槍が接触したせいで海斗のバランスが崩れ、地面に落ち、追い討ちと言わんばかりにジェフが槍を海斗の四肢に突き刺し、磔のように拘束した。


 ーーようやく捕らえたぞネズミ。お前がなぜ射出をしないか我にはわかる。魔力不足であるな?浮遊で回避するのに専念するあまり射出を使う余裕がなかったようだな。今回ばかりは我の方が優勢のようだ。最後は我が直接トドメを刺すとしよう。光栄に思え。


 ジェフが杖に付いている刃を海斗の心臓部分に目掛けて突き刺そうとした。刃は海斗の心臓を貫き、その証拠に刃には海斗の赤い血が流れており、ジェフ自身にも手応えはあった。


 ーーさて、そろそろ新たな兵を率いて地球に侵攻するか。


「そいつはやめておいた方がいい」


 ジェフが声のする後ろを振り向くとそこにはいつのまにか海斗が玉座に座っていた。


 ーーな、何故!?何故生きているんだ!?確かに手応えはあったはずだ!


「お前が見ていたのは一つの結末だ。あくまで見ていたに過ぎない。現実で起きていることはお前が変なところに槍を放ったり、独り言を言っている光景しか見えない。あとこんな硬い椅子よく座れるよな。ケツが痛くて仕方ないんだよ」


 ジェフが再び槍を出そうとすると瞬きする瞬間に海斗はジェフの後方頸の方に回り込み踵落とし、背中を蹴った勢いで一回転、着地と同時に踏みつけようとしてきたジェフの足を跳ね返してバランスを崩させると魔術の力も込めてジェフの胸に掌底を放った。するとあろうことかジェフの身体から心臓だけ飛び出してきた。


「なぁジェフ。正直お前は殺したくない。お前って昔とか本当は良い奴だったんじゃねぇのか」


 海斗は少し名残惜しそうに言った。敵とは言え海斗にとって初めての外のバースで接触した人物でもある。それが海斗にとっては非常に惜しいものだった。


「もっと別の形で出会いたかった。あばよ」


 海斗は手にした心臓を握り潰し、文字通りジェフの息の根を止めた。杖はその後に破壊され、雲のように密集していた怪獣達は去っていった。仕事を終えた海斗はスカアハの下に戻った。


「やったみたいですね」


「まぁな。あいつはもしかしたら良いやつになれたかもしれないがな」


「あなたの言う通りかもしれません。彼は自らこの道を選んだのです。ですが途中で誤った知識を身につけて今の道に堕ちてしまった。もしかしたらマスターハルの導き方を誤れば誤ればあなたもあのジェフという男になったかもしれませんね」


「そんなバースもあるのか?」


「あります」


「今日はなんとかなったが恐らくいつか魔術師だけでは対処しきれない事態が来るだろうな」


「過去に幾度かそのような事態はありました。その時はあらゆるバースから協力的な人材を集めて対処するのです。しかし今日一日だけで無数のバースが失われた。それもほとんどがかつて協力関係だったバースです。損害ははっきり言って甚大です」


「なら、再編成する必要があるな。それにどれがなんの宇宙なのか前から気になってたんだ」


「では任せました。何かあればいつでも連絡してください」


「わかってる」


 海斗はスカアハの国からフランスには戻らずそのまま日本の魔術本部に帰った。


「上手く収集がついたみたいですね」


「あぁ。エル、まずは報告書だ」


 翌日。といっても時間は夕飯時である。いつもの何気ない会話。


「海斗さん。お昼の弁当に入ってたあの豆料理ってなんですか?」


「あれはチリコンカンって料理だ。西部劇の映画でよく見る奴だ」


「ポークビーンズに似てますよね。何が違うんですか?」


「ポークビーンズばスープみたいに汁気が多い。ついでに言うとアメリカ産の料理。チリコンカンはメキシコの料理でイメージ的にはトマトケチャップに近かっただろ?」


「言われてみればそうですね……でも、メキシコの料理なのにチリってつくんですね。チリって南アメリカにあるのに」


「その辺りはよくわからん。弁当のチリコンカン味はどうだった?」


「美味しかったですよ。それに……」


 数時間前 セナの大学 食堂


「せなっちの弁当っていつもおしゃれだよね。自分で作ってるの?」


「ううん。いつも海斗さんが作ってるけど」


「え!?あの人料理できるの!?なんか見た目根暗そうに見えるんだけど」


 無理もないだろう。シリアスな雰囲気でない限り非常にマイペース又は側から見ると気怠そうに生きている彼は落ち着いた雰囲気を出しているのだが落ち着いたを通り越してまるで陰のようなオーラを出している。そのため根暗と言われることに彼は慣れている。ちなみにセナと一緒にいるのはかつて海斗の家で試験の勉強に来ていた友人の一人である。


「そんなことないって。本当は明るい人だから。それに言っておくと多分こはるんと気が合うかも」


「マジっ!?」


 現在


「海斗さん。好きなジャンルの映画ってありますか?」


「ん?特にこだわりはないが。強いていえば恋愛映画は観ないかな」


「ローマの休日は観るのにですか?」


「古き良きものだから観るんだ。それに前から観ようと思っていた作品だからな」


「じゃあこれだけは譲れないってものはありますか?」


 海斗が迷う時。それは好きなものを聞かれた時だ。料理や映画など多くの知識を持っているが多くを知っている分その中から絞り出すとなると逆に迷走するのだ。


「結論から言うとこだわりは無いだ」


「じゃあ何故恋愛系は観ないのですか?あの部屋に置いてある映画どれを観てもローマの休日を除いて全く恋愛映画が無いですよね」


「あまり良い言葉では無いが。人様の色恋の様子を観るのは個人的に少し抵抗があるんだ。俺個人としては友人に好きな恋人ができたとか言われても相談はするがそれ以上の干渉はしない主義なんだ。それくらいは良いんだが人の恋愛を一時間以上観るってなったら……色々言いたくなるんだよ。もうちょっとわかりやすく言うと興味がない」


「そうなんですか。実はちょっと前に友人に海斗さんのことを教えたら映画で気が合いそうだったので好きな映画を聞こうと思ってたのです。ちなみに友人の好きな映画はオースティン・ハワードみたいですよ」


「随分と昔の映画を見るんだな。俺もあれは好きだ」


「気が合いそうですか?」


「あぁ。面白そうだ」


「そうですか。でも、海斗さんは誰にも渡しませんよ」


「俺はお前以外誰かのものになることはねぇよ」


 翌日 太陽の家


「マスター。一階の休憩室に並んでるあの自販機はなんですか?」


「なんだ、コーラ専用自販機知らないのか?」


「実物を見るのは初めてです。せいぜい存在程度なら知っていましたが」


 海斗は太陽の家の表の顔である骨董用品店ということを忘れずにいわゆる古いものを仕入れていた。以前はジュークボックス、古いフランス人形(呪いの類は無し)、蓄音機など今となっては廃れたプロトカルチャーと言えるものを収集していた。どこで仕入れてくるかは本人しか知らない。


「缶の方が良かったか?」


「そういう問題ではありません。なんであんなものが置いているのかと聞いているんです」


「趣味」


「はぁ……先代がいたらなんて言うか……この変わり果てた魔術本部を見てきっと嘆きますよ」


「じゃあなんでここは骨董品店なんだよ。ちゃんとそっちの面にも気を配らないと。お客が入ってきて、」


 ーーここには何があるんですか?


「って聞かれた時に何も無いじゃおかしいだろ。じゃあ何か。魔術の本でも売れって言うのか?お客さん、あなたから魔術の才能を感じます。この本を一冊五百円で売りましょう。この本を読めばあなたも魔術師になれます。って言えばいいのか?」


「昔はそんな感じの勧誘でしたよ」


「嘘!?」


「本当です。第二次大戦まではそんな感じで魔術師になる人が結構いました。しかし機械が本格的に台頭してからは胡散臭いっていう意見が多々あり綺麗さっぱり消えました」


「じゃあ今は何で新しい魔術師を取り入れてるんだ?」


「検討中です」


 ーー近いうちにこの組織衰退の一途を辿りそうだな


「ともかく、あまり変なものを持ち込まないでくださいね」


「お前はお母さんかよ……」


 海斗が小声で呟いた。


「何か言いました?」


 エルが明らかに笑っていない笑顔で聞き返してきた。


「なんでもない」


「そんな言い訳が通ると思いますか?私どうにもわからないんですよねー。なんで聞こえているはずのにわざわざ聞き返すのかなーって」


 今にも腕をパキパキ鳴らして襲いかかってきそうなエルを前に海斗は後ろに退いた。


「あれは後ろでゴニョゴニョ聞き取れなくてもしかしたらまた変なこと言ってないだろうなと感じてそう言わせないための抑止力みたいなものだろ。だからちょっと待て話をしよう」


 この後部屋が大荒れした。あとでやってきたティガンによると今まで見た下らなくとも激しい魔術同士の戦闘だったらしい。


 事後


 海斗とエルは部屋の端と端で互いに疲れたのかその場で仰向けになりながら休憩していた。


「マスター……私……誰かとこうして喧嘩したの初めてなんですよ……」


「家族はいないのか……?」


「十一人家族の末っ子です……ですが、私の家系は代々魔術師の家系で……私はこの国で捨てられた子です」


「捨てられた……」


「家の意向で……血を絶やさないために各国に子供を捨て、その場で魔術師として育てられる……そうして今日まで私の家は存在しているのです……」


「ふーん」


 海斗はその他深いことは考えずに以前こっそり調べた内容をエルに伝えた。


「エルフ・ベックマン。偉大な魔術家系の一つだな」


「どこでその名前を?」


「先代が残した魔術家系十選という本に血を絶やさないために産まれた子供を各国の魔術師に預けて繋いでいくという家系がある。それがベックマン家。お前の言ってることとピッタリ一致してもしかしたらと思ったんだ。色々調べた。ベックマン家の現当主、ハインリッヒの子ら十一人は全員優秀な魔術師になってる」


「どうしてそんなこと知ってるんですか?」


「一人一人会ってきた。中には癖のある奴もいたがみんなお前と同じ礼儀正しく、規律を重んじる良い奴だった」


「そう……ですか」


 エルはまるで安心したかのように言った。今まで自分の家族はどんな人物なのか知らずに育ってきた。しかし今信頼できる人物から信頼できる言葉を貰い安心したのだ。


「エル。早速明日から仕事に取り掛かるぞ」


「内容は?」


「この地球を含めたありとあらゆる力になりそうな人材に声をかける。そして今これから起きようとする事態に備えてもらう」


「わかりました。で、目はつけてあるのですか?」


「あぁ。数人心当たりがある。まぁ色々考えて対処しようと思う。じゃ、俺は失礼する。じゃあな」


 海斗はトンネルのようなものを魔術で作ってそこを通って帰宅した。帰宅と言っても家の中にそのまま入れば鉢合わせする可能性があるので玄関前に移動した。


「ただいまー」


 エプロン姿のセナが出てきた。


「おかえりなさい。今ちょうどご飯が出来上がりましたよ」


「作ってたのか。メニューはなんだ?」


「オムライスです」


 ーーなんだろう。家がメイド喫茶みたいに見えてきた。


「海斗さん。ふわとろと普通どっちが良いですか?」


「セナ、ふわとろ出来るのか?」


「できますよ。ふわとろが良いですか?」


「いや、普通がいい」


「わかりました」


 セナが台所に戻ると海斗は部屋に戻り一息ついた。この先どうなるかわからない地球の未来やいつかはバレる海斗が魔術師である秘密など色々考えていた。セナに呼び出されるとすぐに向かった。セナは海斗のリクエスト通りオムライスを作った。そしてちゃっかりケチャップで文字を書いていた。


「セナ。バイトでこのサービス精神を活かしたら絶対重宝されると思う。お客から評判上場で店の利益に貢献できる。最高の展開だろ」


「えーっと、まず私のバイトは飲食店じゃなくてデパートのキッズ広場でのお子様相手なのでケチャップで文字を書いてもいまいちウケないですし、私よりも最高の先輩が一人いるんでその人が現在進行形で最高の展開を作ってます」


「読み聞かせ会でお子様ウケのアドリブすればチャンスあるかもな。長話は終わり。いただくことにする」


 海斗はオムライスの中腹部をスプーンで切り開き、スプーンに乗せ口に入れた。


「すごい美味い。シンプルイズベスト」


「良かったです。海斗さん、ずっと気になってたんですけど今以前の海斗さんってどんな感じだったんですか?」


 セナは興味津々というようなキラキラした目で海斗を見ていた。


「何をそんなに期待してるんだ」


「大空さんから聞きました。海斗の高校時代は同年代と比べたら斜め上だって」


「あいつそんなこと言ってたのか……じゃあうちの高校のことでも話そうかな」


 海斗の通っていた高校。寮制の男子校であること以外特に変わったところはない。しかし


「まぁあそこは中身を知らない人からすれば普通のところだが俺からすれば刑務所だな」


「刑務所!?」


 詳細 寮には約一ヶ月寝泊まりだがその間用事等が無い限り一週間外出禁止。


 近所にコンビニ等は無し。そもそも現金の持ち込みは原則禁止。


 学校の柵には有刺鉄線。ついでに下水道にも鉄の檻。


 最寄りの駅はバスで一時間の場所。ちなみにバスも一時間に一回か二回しかやってこない。つまり周りは都会ではなく緑と田圃が豊かな田舎。


 食事は三食用意され、栄養も完備と謳っていたが味の方はいまいちなのが多く数字だけで味はおろそかなものが多い。一応美味と言えるものはあるにはある。


 立地が最悪。登下校は山のような坂を十五分行ったり来たりする。グラウンドも校舎から離れた場所にあるため外で体育をする時もその坂を使う。


 学校に来る生徒は中学不登校、倫理観が欠如したもの、成績が優れない者が大半である。


「すでに最初の二つの時点で刑務所な気がするのですが……」


「刑務所と違うのは定期的に家に帰れることだな。その間やりたいことをやってまた学校に戻る。ちなみにこの時手荷物検査をされる」


「刑務所の次は空港ですか!?」


「一応学校だから漫画とかゲームはダメなんだが食堂の存在意義が無くなるっていう名目でカップラーメン等のそれ一個で食事が解決するものもダメだったな。だが皆何かしらの手段を使って持ってくるんだ。俺も最後の一年の時はカードゲーム、携帯ゲーム、漫画とか色々持ってきてた」


「で、海斗さんはどんな生徒だったんですか?」


「良くも悪くも無いよ。先生の言うことには大抵従うけど気に入らなかったら裏で反抗もするし、さっきみたいに違反物も平気で持ち込んでた。特に英語兼ゴルフ部の顧問のハゲ教師が……いや、やめておこう」


「えぇっと……何も聞かないことにします」


 ちなみにそんな濃い高校に通っていたせいかこのほかにも滅多に聞けない在校時のエピソードが数多くある。ついでにモデルの高校は実在し、作者自身が通っていた高校です。


 続く

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