第7話 プレイ・ウィズ・ザ・ボーイズ
ーー海斗、緊急事態だ。各地で改造兵士が破壊活動を開始した。警察、自衛隊、在日米軍が対応しているが撤退してしまった。しかしその後改造兵士達は破壊活動を停止してその場に座り込んでいる。もしかすればお前を待っているのかもしれん。海斗、今が例の組織に近づくチャンスだ。頼んだぞ。
大空からその連絡を受け取った海斗はすぐに指定のポイントに向かった。現場に到着すると待っていたかのように敵が三人その場に座っていた。
「待っていたぞ。兄弟」
「あ?兄弟?」
「そうだ。我らと同じ目的のために造られた兄弟だ。私の名はベルガ。最初に作られた改造兵士だ。後ろの二人は最初期に造られた同志。ゼルとテル」
男は丁寧に海斗に自己紹介をした。海斗は相手の殺意が感じられない雰囲気に少し戸惑っていた。
「お前達にボスはどこだ」
「その言い方は不適切だ弟よ。お前の父でもあるんだぞ?」
「俺の父はもう死んだ。おっと、スターウォーズみたいに敵の大将が父でしたみたいな展開はお断りだ。そういう展開は古すぎて誰にもウケないからな」
海斗は有り得たかもしれない今後の展開と設定の一つをことごとく潰してくれた。
「で、父親の居場所は教えてくれるのか?」
「お前が我らのホームに降ればな」
「そうか。なら、力ずくで聞くまでだ」
「ゼル、テル」
後ろにいたモノアイのゼル、バイザーのテルが海斗の一瞬で両サイドに接近するとゼルはアッパーでテルは踵落としをすると海斗はゼルのアッパーが来る前に蹴り飛ばしつつテルの踵落としを腕で受け止め蹴り飛ばした。隙ができたところで海斗はナノヘルを装着してベルガに向かって一直線に駆けた。海斗がベルガの顎に膝蹴りをしようとするもベルガはそれを最も容易く受け止め払った。
「お前はまだ完全に改造されてはいない。特に心臓と脳をな。我々の元に来い。完全な改造をしてより強大な力を得ることができるぞ?」
「強大な力なんざ興味ないね。大事なのは自分自身の力だ」
「その身体はお前の作ったものじゃ無いだろう?」
「そうさ。だから身につけてはいるが機能に頼るのはあまり好きじゃないんだよ!」
「ほい」
ベルガはペンライトのようなものを出すと突然飛び出し、海斗の身体に付いた瞬間電撃が全身を襲い海斗は気絶した。
某所
状況は第一話の冒頭と同じなので詳しいことは省く。唯一違うとすれば最初から眠らされていた点である。
「久しぶりだな。ジャック」
「なんでジャックなんだよ。俺には海斗っていう立派な名前があるんだぞ」
ベッドに縛りつけられた海斗は状況を理解しつつもいつもの軽口で対応した。
「ジャックはここでの君のコードネームだ。これから本格的な改造手術を施すのでね」
「あーなるほど。じゃあつまり俺はあと数分もすれば晴れてお前らの仲間入りか」
「その通りだ。わかっていただけたかな?」
むしろ海斗は心身ともに余裕だった。
「こういうケースは前にもあったな。始める前に何か言い残すことはあるか?」
「ある。色んな人がこう思うだろう。何故お前はそんなに余裕なんだ?って。教えてやろう。あの時と状態が違うからさ」
海斗はいとも容易く手足の拘束具を引きちぎり立ち上がる時と同時にロボコップのように大腿部から得意な構造をした銃を取り出すと目の前にいたボスを射殺。ついでと言わんばかりに室内にいた人間全員を射殺。退室して目に入った人物……と言っても全員銃を持って応戦してきたので全員射殺。心残りなのは改造兵士は数人いたがベルガのみ施設にいなかった事だった。しかしその考えは後にして海斗は適当に見つけた爆弾を電子ロックされた出口に取り付けて起爆させて施設を後にした。そこには海斗の仲間達が敵の一人を捕まえて待っていた。
「ボス。来るのが遅い」
「こいつが口を割らなくてね。ついさっき割らせたんだ」
海斗は用済みとなった敵兵士を容赦なく射殺。今の海斗は機嫌の悪い海斗と大空は断定した。
「まぁ良いや。ところでシャワー浴びたらどうだ?血だらけだぞ」
「俺のじゃない」
「じゃあ誰の?」
「クソ野郎だ」
数日後
ーー海斗。施設を調べてみたわ。あなたが殺害した人間の一人はゴーストのボスである本名ウラジミール・ライコフとDNAが一致したわ。改造兵士の造り方が書かれた資料も回収、破棄したわ。けどゴーストはその設計図を色んなところにばら撒いてたみたい。恐らく改造兵士の亜種と思われるものと遭遇するかもしれないわ。それと……何故かあなたのお父さんのことが書かれたものもあったわ。DNA鑑定の資料もあった。それによると……あなたのお父さんはこの星の人間じゃないってことがわかった。詳しいことはわからないし今はこれだけしか言えないわ。じゃあまた連絡するわ。
大空のリポートを聴き終えた海斗はしばらく黄昏た。自分の父が地球人ではない。重く受け止めるべきか彼は迷った。正直今こうして何不自由なく生きているため父が宇宙人だったと言われても狼狽えることはなかった。そして何を思い立ったのか彼は妹の由美に連絡した。
ーーもしもし。お兄ちゃん?どうしたの?
「まぁ……たまには俺から連絡した方がいいと思ってな」
ーーなるほど。で、何か用事でもある?
「今度久しぶりに飯食いに行かないか?」
ーー急ね……別にいいけど。どこに行くの?
「親父とよく行ったあのバーガー屋だ。お前バーガー好きだろ?」
ーーうん。わかった。いつがいい?
「こっちは何もないし、そっちの都合に任せる」
ーーじゃあ明日会える?
「あぁ。いいよ」
ーーじゃあ明日昼に現地集合ね
「わかった」
翌日
海斗は相変わらず黒い格好をして店内の席で待っていた。海斗が店にやってきて五分経過した時由美がやってきた。いかにも現代の女子大生のような格好で。セナとは靴が違う以外そんなに変わらないと海斗は思った。
「お待たせ」
「こうして顔合わせるのも墓参り以来だな。元気だったか?いや、みたいだな」
「セナさんから色々聞いてるんでしょ?知ってる。お兄ちゃんも元気みたいね。この前セナさんがお兄ちゃんのこと心配してたみたいだけど」
身に覚えのないことで海斗の頭にははてなマークが浮かんだ。
「何かあったか……」
「一週間くらい前仕事から帰ってきて一緒に食事したらなんだか暗い様子だったって。まぁお兄ちゃん昔からそういう面あったからセナさんにはいつも通りって言っといたけど」
そう言われて海斗も思い出した。そういえばそんなことあったなと。
「半年くらい一緒にいるのに人って案外わからないものなのかもしれないな。まぁそれは良いけどよ。由美、聞きたいことがあるんだ。お前最後に親父と会ったのいつか覚えてるか?」
「学校に行った時が最後。いつもみたいに笑って見送ってくれた。そういえばお兄ちゃん寮にいたからわからなかったか」
「あぁ。その時親父に何か変わったことなかったか?」
「え?いつも通りだったよ。どうしたの?」
ーー由美は記憶力が良いから言ってることは間違いないだろう。だが何か引っかかる。
「もしもーし。お兄ちゃーん。聞いてますかー?」
完全に上の空の海斗を由美が現実に引き戻した。
「ん?なんの話だっけ?」
「もう、お父さんの話。お兄ちゃんから聞いてきたんでしょ。まぁいいわ。それより注文決めよう。せっかく来たんだし」
「そうだな」
数日後
海斗はその日の夜中ガレージで作業をしていた。バイクのメンテナンス、銃に油を刺したり、弾倉を大量生産したり色々していた。それが終わるとリビングに戻り椅子に座り読みかけていた本を読んだ。
「海斗さん」
すると寝ていたはずのセナが階段にいた。集中していた海斗には降りてくる音も聞こえていなかった。
「いつまで起きてるんですか?というか前から思ってましたけど海斗さんっていつ寝てるんですか?」
「最後に寝たのは三日前だ。あれ以来寝ようにも眠れない。というか眠りたくない」
「三日!?どうしてそんな……ちょっと来てください!」
セナは海斗を強引に立ち上がらせた。まるで首根っこを掴まれた猫のように海斗は抵抗できずにいた。セナが連れてきたのは自分の寝室だった。
「横になってください」
「お前はどこで寝るんだ」
「一緒に寝るんです。三日も寝てなかったら放ってはおけません。早く横になってください」
海斗はセナの圧に押されて仕方なく横になった。セナが来る前の部屋は客人用の寝室だったのでベットはそれなりに大きかった。そのおかげか海斗が横になってもセナのスペースが確保されていた。
「ゆっくり休んでください」
セナは海斗を子供のように扱っていた。赤子をあやすかのように優しく頭を撫でていた。海斗は心の底から安心したのか瞼が重くなり目を閉じて、夢の中に入った。
数時間後
海斗が改造された時実は僅かながら脳を弄られ、その影響かその昔味わった記憶が鮮明に思い出された。現在の海斗は一種のPTSD状態であり寝ている時は夢として出てくるため彼は今日まで眠りたくても眠らなかったのである。そして今海斗の身体はその夢に反応してうなされていた。海斗がうなされている音を聞いて起きたセナは困惑していた。
「海斗さん!海斗さん!」
海斗は今までセナが見た事ない驚き方で起き上がった。
「はぁ……はぁ……」
「」
「セナ……今何時だ……?」
「今……朝の四時です」
海斗は自分の置かれている状況を整理した。
「セナ……俺が眠らない理由……わかったか?」
「海斗さん……私、海斗さんに酷いことしてしまいましたね……」
「言わなかった俺が悪い。それにお前の布団汗だくにしたし。俺が起こすからお前は俺の部屋でもうちょっと寝てろ」
「海斗さん……」
「俺は……シャワーを浴びてくる」
海斗はセナの言葉を碌に聞かずにシャワールームに向かった。一人取り残されたセナはそれからしばらくして海斗の部屋に入った。汗を流すためにシャワーを浴びていた海斗だが彼の本音は一人になりたいだ。シャワーを浴び終えた海斗は適当に着替えて自室に入った。セナも自室にいたが眠ってはいなかった。
「海斗さん。ちょっと来てください」
「また眠らせるのか?」
「ち、違いますよ。いいから来てください」
海斗はセナの言う通りにして近づいた。すると近くに来た瞬間セナは海斗を強く抱きしめた。瞬間海斗の心臓は鼓動が一瞬強くなり、脳の感覚はまるで詰まっていたものが一気に抜けた軽い感覚になった。
「セナ?」
「海斗さん。私じゃ力になれないかもしれませんが、海斗さんが辛くなった時はこうやって近くにいてあげます。だから私を頼ってくれてもいいのですよ?」
海斗は久しぶりの感覚に言葉も出なかった。先程味わった感覚は数年前味わってよく覚えていたからだ。
「セナ……どうしてそこまでしてくれるんだ?俺とお前はあくまで他人みたいなものなのに」
「私にとっては他人じゃないからです。海斗さん。私はあなたが好きだからです」
海斗が予想もしなかった答えだった。そして自分とは無縁だと思っていた言葉でもあった。
「この感覚……前にもあったんだ。海外で仲の良かった女性と別れる時向こうから別れの挨拶として抱きしめられた。その時初めて人の温もりを感じたんだ。そう思えば人間も悪くないものだな」
「そうです。人っていうのは温かさを持っているから素晴らしいのですよ」
「ふっ……今まで考えてたことが馬鹿みたいだ。それにセナ。目覚めたらそばに誰かがいるっていうのも良いものだな」
二日後
海斗はいつも通りセナを見送るとウォークマンにカセットテープを入れてたイヤホンを挿し、バイクを走らせた。向かったのはいつも通りの事務所。
「おはようさん」
「おはよう海斗」
挨拶したのは大空だった。大空は最近海斗の身に起きたことは知らなかったが変化には気づいていた。
「最近良いことでもあったのか?」
「まぁな。ここ数週間の中では良いことだ」
「そうか。それなら良かった。以前より顔色が良くなったように見えたからそう思ったんだ」
海斗がデスクに座ると机に置いているサボテンに水をやり始めた。その後は社内で飼っているウーパールーパーに餌をやったりと色々なことをしていた。
「ボス。ベルガ以外に何か情報は入ってないのか?」
「お前が以前報告した謎の三人組についてならある。お得意様からの情報によると最近名前を決めたらしい。ヴァインローズというそうだ」
「ヴァインローズ……蔓薔薇か。何かのヒントか?」
「色々調べてみた。蔓薔薇。花言葉は色によって様々で情熱、友情、感謝、平和などなど。誕生花は偶然にもお前の誕生日と同じ7月31日だ」
赤色の場合は友情。ピンクは感謝、青色は神の祝福、黄色は友情、白は平和。他にも色々あるが省略する。
「蔓薔薇も7月31日か。てっきりルドベキアだけかと思っていたが。偶然だと思うか?」
ルドベキアの花言葉は正義。海斗にぴったりな言葉だと思う。多分。
「わからん。いずれにしてもいつか会うだろう。その時聞けばいいさ」
「向こうが友好的だったらな。まぁ俺たちと同じ奴らを相手にしていたんだから多少話し合えそうだが……」
その時海斗の机に置いてある業務用の電話が鳴った。
「もしもし」
ーー海斗か。明星だ。
「どうした?」
ーーそれが……大変なことになってる。ベルガの遺体が発見された。
「なんだと!?」
ーーただの遺体じゃない。爆発四散したような跡で身体の部位が周辺にある。それも一部は異常なほど冷たかったり、異常なほど熱いものもあるんだ。それともう一つ死体があったんだが身元がわからない。全身に殴られたような痕がある。だがどこかの学校の制服を着ているみたいだからすぐにわかると思う。
「わかった。すぐにそこを離れろ。一旦事務所に戻ってこい」
ーー了解
海斗が電話を切って椅子に身を任せて座った。
「どうした?」
「明星からだ。ベルガの遺体と身元不明の死体を発見。ベルガは変死体でもう一方は何度も殴られた痕があったそうだ」
「変死体?木にでも埋まっていたのか?」
「それはそれで恐ろしいな。そこまでじゃないが、身体の部位が異常に冷たいところもあれば熱いところもあるそうだ。報告を聞いてみないことにはわからん」
大空は窓を開けるとデスクから葉巻を取り出し静かに吸い始めた。
「なんにせよ結果的にゴーストは壊滅か。なんだか実感がないな」
「俺は当分残党がいないか調査する。それでいいよな?」
「情報が入り次第頼むぞ」
翌日
仕事がない一日。海斗は中庭でのんびり過ごしていた。情報が一日で入ってくるはずもなく携帯をそばに置いてくつろいでいた。
「横、いいですか?」
セナが青空を背に海斗の顔を覗き込むようにやってきた。
「あぁ」
セナは海斗と肩を寄せ合って横になった。
「良い空だな」
「そうですね。雲一つない良い空です」
海斗は空を見ながらかつて起きたあることを思い出していた。
「人生って本当にわからないものなんだな」
「いきなりどうしたんですか?」
「俺に恋人なんてできないなんて思ってたのに今じゃこうして中庭で一緒に寝転んでいる」
「自分もあの時死ぬなんて思っていませんでしたし、助からないだろうと思ってました。けど、今こうして生きていられるのは海斗さんのおかげです」
「俺たちが出会ってまだ一年しか経ってないのか。いや、一年もって言えばいいのか?」
「どっちもです」
海斗とセナの出会い。それは鉄血に塗れたものであった。
一年前
セナが家にやってくる前海斗の日常は自由人そのものだった。朝夜問わず好きな時間に起き、仕事のない時は自分の好きな事をして生きていた。そんなある日である。
ーー海斗、仕事が来たぞ。内容はロシアンマフィアに売春目的で誘拐された数名の少女を救出してほしいという依頼だ。このロシアンマフィアは国内のブラックサイトで世界中から集めた麻薬の売買も行なっている筋金入りのクロだ。麻薬だけじゃない。武器の輸出入や詐欺や違法賭博などあらゆる犯罪に手を染めている。人身売買もその一つだ。誘拐された少女たちは……港に停泊している船のどこかに閉じ込められている。人数は三人。依頼主は少女らの両親。ルートは不明だが我々の噂を聞いて最後の賭けに出たらしい。海斗。やる事はわかっているな。一人も死なせるな。ましてや船を出港させるな。救出の手段は私たちが同じ港に停めてある貸船で待機している。危険だが依頼人や人質に少しでも安心してもらうためのやむを得ない手段だ。頼んだぞ。
その夜
雨の中海斗は港に停泊している船に潜入した。
「ボス。それらしい船に潜入した。ロシア人が見張りをしている」
ーーそれで間違いない。状況はどう?
「船そのものは大きくない。少し小さい旅客船程度だ。甲板には四名ほど見張りが見える。中にも何人かいるだろう」
ーー海斗。これは潜入任務だ。絶対に見つかるな。その代わり手段は問わない。殺すのもいいがお前に任せる。
「わかった」
続く
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