第4話 ジャンバラヤ
前回までのあらすじ
無事仲間と合流し最初の敵を倒した海斗。そんな中彼の元にある依頼が入った。
数時間後
「お疲れ」
海斗は一仕事終えて店の前にあるベンチで持参したマテ茶を飲んでいた。そして店から出てきた明星に労働を終えた者への言葉を送った。
「報酬は貰ったのか?」
「いや。報酬はいらない。誰かから見返りを求めて慈善活動するなんて俺にはできないしな」
「お前は相変わらずお人好しだな」
「なんとでも言え。自分でもわかってる」
海斗は誰かに仕事を頼まれても報酬を貰うことはない。特に深い理由や過去があるわけではなく彼のポリシーもしくは本心だからである。故に先程は依頼主から礼をさせてほしいと頼まれた際長時間捕まっていた。
「海斗。お前に聞きたいことがある」
「急になんだよ」
海斗がマテ茶を飲んで寛いでいると明星が突然質問してきた。
「セナに苦労はかけてないか?」
海斗は何か重要なことを聞かれるのかと思い身構えたがそれほど急を要するものではなかったため力が抜けた。
「わかんねぇよ。少なくともあいつの過ごしやすい空間には居させてるつもりだ。そんなに心配か?」
「当たり前だ。お前のような大雑把な奴が人と暮らすとなったら心配になるんだ。ましてや相手は異性だぞ。何か起こるかもしれないだろ」
明星の言う何かとは世間一般で言うとナニかだった。海斗もそれを重々承知の上だったがいざ暮らすと案外何も起きなかった。というか考えなかったのである。
「生活スタイル最悪なお前らと暮らすよりマシだろ。普段無口かつぶっきらぼうで一緒にいたら千パーセント気まずい空気を作る環に家事全般最悪のお前。つい一週間前片付け手伝ってやったのに一昨日にはもう元通り。セナが可哀想だろ」
海斗が明星と環と出会って早二年。海斗は彼女ら二人が自分より社会の厳しさを経験している故に頼もしい先輩だと期待していた。が、それは間違いだった。蓋を開けてみれば曲者揃いおまけにある意味自分とはかけ離れた次元の人間だったため当時の海斗はある意味社会の厳しさを思い知った。
「お前から見てセナってどう見えるんだ?」
海斗の異性との主な交流は中学の部活動だけであり高校時代は寮制の男子校に在籍していたため女性の見方が他人と少々異なるらしいので海斗は明星に質問した。
「悪くない。むしろ良いと言ってもいい。人当たりも良いし、印象も残りやすい。本人の性格も良い方だ。友達はいるんだろう?」
「あぁ。俺がいなくなる当日に勉強会のために家に連れてきてた」
「うん。セナは私にとって近年稀に見る理想的な女性だと思う。あくまで私個人だが。中々いないぞ?」
「まぁ……それは俺も同意だ。お前らと違ってセナと話してると悪い気はしない。高校の時以来だ。セナが男だったら第二の真の友人にしてるところだ。いや、それは良いんだが明星。お前に聞きたいんだがよ。セナの靴について」
「セナの靴がどうかしたのか?」
「あぁ。あまり見たことなくてよ。ブーツなんだろうがブーツにしては大腿部までサイズがあるんだ。普通ブーツって長くても膝の部分までしかないようなイメージでな。お前知ってるか?」
「それはサイハイブーツってやつだな。私もあまり見かけたこと無いんだが友人に履いている人を知ってる。それがどうかしたのか?」
「いつもセナが大学に行く姿を見るとき思うんだ。歩きづらくないかってな。人って歩いたり走ったりする時膝を曲げるだろ。そこに革製のような硬いものが膝を覆ってたら邪魔なんじゃないか?」
「私に聞かずセナに聞いたらどうだ。私は知ってるだけで実際に履いたことはない」
「わかったよ。じゃあ本題に入ろう。進展はあったか?」
すると突然海斗が仕事の話に入った。明星は一瞬にして変わった空気に対応してこれまで入った情報を提供しようとしたが……
「悪いが痕跡ゼロだ。なんとかコンタクトをとれたアレックス博士によればゴーストという組織は複数のダミー会社があって本家にたどり着く前にジ・エンドだそうだ」
「あの爺さんと出会えたのか。十分な成果じゃないか。で他には?」
「例の博士と情報を共有しているけど進展はほとんどなし。せいぜいそのスーツのことしか聞けなかった。はいこれ」
「なんだ?」
明星はカバンから赤い冊子を取り出して海斗に渡した。冊子には
対異生命体多目的スーツ 取扱説明書
と書いてあった。今度はナノツールや武器とは違い家電製品についてくるようなしっかりとした説明書だった。
「渡してくれって。しっかしお前も大変だな。そんな身体になって。人並の生活はほぼ無理じゃないか?」
「お前らと働いてる時点で人並の生活なんて期待してねぇよ。それにこの身体でもあまり不自由は無い。飯は食えるし、風呂にも一応入れる。前と生活の目立った変化はないからセナも安心してる」
スーツの動力源というか海斗の身体を動かす源は人間と同じ五大栄養素である。海斗が摂取したものが身体の中で分解され人間が行うは排泄は行わずそのままエネルギーとして分解、循環する。
「少し話題を戻すがたまにはセナのことを労ってやれよ。お前との出会いは幸なのか不幸なのか。なんとも言えないな」
海斗は本当に何とも言えなかった。これでも普段はセナに不自由なく気遣って生活しているのだが海斗自身いつ命を失うかわからない仕事についているため自分を喪ったセナの未来を考えると腹の底が重くなった。
「まぁ……不幸だろうな。だがセナもいつまでも俺の家にいるわけじゃない。いつか一人で自分の道を歩き始める。それまでは出来る限りのことをするつもりだ」
「ふん。お人好しめ」
明星が鼻で笑いボソッと呟いた。と、次の瞬間海斗がいる椅子から左に十メートルほど離れたところにあるビルから爆発が起きた。さっきまでの和やかなムードは一瞬にして消え去り二人とも仕事モードに入った。
「真昼間からなんだよ」
「気を抜くな海斗。もう昼を過ぎた。みんな仕事で忙しくなる時間帯だ。仕方ないさ」
逃げ惑う人がいなくなると爆発した建物からアルマジアンのようなこの世のものではないような異形の者が現れた。しかしアルマジアンの元となったアルマジロの特徴が目立っていたケースとは違いその者は異形であったがそこから元となった生物を特定するのは困難であった。
「祝え。諸君らは我らの創造主によって新たな世界の住人となれる」
その男は出てくるや否や怪しい宗教のようなことを言い出した。二人は間違いなくゴーストの者と理解したが先程の言葉を無視してダンマリを決め込んでいた。そんな二人に異形の者は二人にある質問をした。
「貴様らは政府の遣いの者か?」
「悪いが政府の遣いの者じゃない。だが自己紹介しないとな。俺は天道海斗。こっちのチビは明星。俺たちはちょっとした会社員だ」
「だ、誰がチビだ!お前らが大きいだけだろ!!」
明星は女性としては決してチビではない。しかし周りが(特に海斗)身長の大きい人物が多いため明星のちょっとした悩みになっている。
「お前が噂の脱走兵か。創造主からお前を連れ戻すよう言われている。一緒に来てもらおう」
「素直にさぁ行こうぜって言うと思ってるのか?」
「思っていない。だから強制的に連れて行く」
相手は海斗をかかってこいと言わんばかりに挑発した。海斗はステルスを解かずそのまま相手に向かって走り出すと勢いよく飛び蹴りをしようとしたが、相手は手を掌を海斗に向けて立ったままだった。すると手のひらに小さな穴が開いたと思いきや中から赤い光と共に爆音と炎が吹き出し海斗は後ろに吹き飛ばされた。結果的に明星の立っている場所に逆戻りしてしまった。
「熱っ!あとくさっ!!」
「熱い!?臭い!?」
「あぁ……ナノヘル(ナノマシンヘルメットの略)が無ければ髪が焦げてた。クソッタレが」
明星は海斗が戦闘中にも関わらずスマホに夢中になっていた。消音モードをオンにしているのかタップ音が周りに響いている。
「何だ?目の前にサイボーグと手から炎出す奴が戦闘ナウって投稿してるのか?写真とハッシュタグ付けとけよ」
「違う。あいつの特徴を元に改造元を調べてるんだ。アレックス博士によれば改造に使うものは皆生物であり無機物はありえないそうだ」
海斗は試しに愛銃のマテバを三発撃ってみたが何と銃弾が当たる前に全て溶けてしまった。海斗はまさかと思い熱探知カメラを起動すると敵の周りに熱で覆われたフィールドが発生していた。つまり銃弾はそのフィールドに入ったことで溶けてしまったのだ。
「多種多様だな。そんなに芸が出来るんだったらマジシャンに向いてるんじゃねぇか?」
「そちらが来ないのならこちらから行かせてもらう」
敵が踵だけを浮かせると突然海斗同等のスピードで一気に後ろに押し出すと頭を鷲掴みにすると地面に叩きつけた。海斗はまたナノヘルを展開して守りを固めたがそれでも熱さが伝わっていた。ついでに臭さも。
「熱熱熱熱熱!!明星いつまでかかってるんだ!?」
「今出たぞ!そいつのベースはへっぴり虫だ!」
へっぴり虫又の名をミイデラゴミムシ。湿った環境に生息している夜行性の虫。その虫の突出した特徴は尾から化学反応が起きた高熱のガスを噴射することである。へっぴり虫というのはその生態から生まれた名前である。今更だが敵の名前はジャックス・オクト。改造前は海兵隊として湾岸戦争やアフガニスタンにも出兵した。しかし怪我が元で退役していたがゴーストに誘拐され隠居生活をしていたところ記憶を消されへっぴり虫の能力を身につけた改造兵士にされてしまった。彼の主な能力は手から火炎放射を出すだけではない。放射のエネルギーをジェットのように噴射して高速移動も可能である。
「なるほど。俺はたかが屁こき虫如きに頭鷲掴みにされて地面に叩きつけられてるのか……少しあそびが過ぎたかもな」
海斗は自由だった足をジャックスの腹を蹴りとばし引き剥がすとすぐさま立ち上がり頭の中でナノマシン攻撃に使うイメージを思い浮かんだ。手を介してナノマシンを解放してそれをジャックスの腕に何層にも張り付かせて封じた。ナノマシンを自らの腕から解除して今度は足にも同じことをした。
「一気に決める」
動けなくなったジャックスに近づき右ストレート、左ストレート、脇腹に一発、怯んだところを頭を掴んで膝にぶつけさせ追い討ちに肘でもう一発。素での鍛え抜かれた戦闘能力が高い上サイボーグになることで強化された海斗の打撃は一発一発が重かった。彼の身長百八十センチの身体から放たれるパンチの威力は逸脱していた。その威力は今の彼ならその気になれば人の頭を握りつぶすことだって可能だ。倒れたジャックスの腹部が戦闘不能の合図である光を放った。改造兵士はこの状態で腹部を破壊されると完全消滅する。
「お前らのボスはどこだ」
ジャックスを倒す前に海斗は情報入手のために尋問を行なった。海斗も最初から尋問する目的で半殺しの状態に留めておいた。
「いずれ辿り着く……道標は……すぐ近くにある……」
「そいつは誰だ!?」
「ふっ……自力で辿り着くが良い……」
ジャックスが高らかに笑い出すとジャックスの身体が徐々に熱くなっていくのを感じた。自爆である。海斗はすぐさまジャックスから離れて爆発から明星を守るためナノマシンの壁を作って爆風を防いだ。威力は手榴弾十個分の威力であり決して小さいものではない。何とか防いだ海斗は明星の服についた汚れを落としながら立ち上がった。
「奴は言った。組織への道標は俺たちのすぐ近くにいると。明星、アレックス博士の素性か何か調べたことあるか?」
「調べた。だが該当データは全く見つからない。まさにゼロだ」
海斗はアレックス博士が組織への道標だと睨んでいた。海斗が助け出されるとき彼は海斗が改造された施設の場所を知っていた。おまけに現代では不可能な技術も持っている。怪しまない方が不自然だと思ったからだ。
「じゃあ親密度を上げていくしかなさそうだな。じゃ、帰るか。お前これからどうする?」
「帰って寝る。バイト疲れたし、勤務時間外なのに仕事させられたし」
「それは俺も同じだ。しかもお前はググってただけだろ。こっちは臭い炎出す素性不明の男と戦ってたんだ。俺も労われても良いと思うがね」
「ダメだ。お前はセナに誠心誠意尽くせ」
「わかったわかった。いいから乗れ。送ってやる」
海斗と明星は店の近くに停めていたバイク「ワルキューレ」に跨った。大きなエンジン音に見合う大きなボディ。海斗のパーソナルカラーである黒に染められたそのバイクは獣のように走り出した。
「お前本当に黒が好きだな。身につけているものもバイクも銃も黒じゃないか」
海斗のスーツの下に来ている服装は革ジャンたまにコート。しかも黒。ワルキューレも黒。愛車のマスタングも黒。愛銃マテバもグリップまで黒。彼が身につけているものは何もかも黒だった。
「セナにも言われた。黒くて何が悪い」
「怪しく見える。せめてもう一色足せ」
「お前にファッション云々を言われたくないな。お前自分の部屋着を鏡で見たことあるか?意味不明な魔法陣が書かれた服だぞ。どこに売ってんのか何故買ったのか意味不明な服だ」
「あれか。リバグリにあった」
リバグリ 正式名称リバーズグリニッジ。合法のものなら何でも売っている販売チェーン店。グリニッジとあるが創業したのは日本。名前は社長の趣味らしい。食品、電化製品、デジタル機器、本、ファッション用品、諸々。何か欲しければここに行けと言われるほど何でも揃っている。あくまで合法のものなら。
「部屋着くらい自由でいいだろ。誰かに見られるわけじゃあるまいし。そういえば知ってるか?今じゃあ世界中にウチらみたいな民間軍事会社が増えていってるのを」
「あぁ。十年前に比較すると小国同士の戦争や紛争が増大したせいで軍事を請け負うサービスの需要も増大した。この国じゃあ憲法改正後は国際支援という名目で他国の戦争紛争に直接介入しない代わりにイロハを教えるくらいに留まってはいる。それにこの国での戦争生活者ことグリーンカラーを増やさないために国内の民間軍事会社は俺たちだけっていう法律もある。この国も変わったな」
「私たちが子供の頃は銃なんて遠い存在だったのにな」
数年前にこの国の日本で起きたテロ事件。それを機に日府内で騒ぎになったのは憲法改正。それも戦後から言われてきた非戦の撤廃。自分の身は自分で守るという声が大きくなり、他国からの攻撃が判明しないと動いてくれない米府には頼らないという一種の独立宣言をした。結果米府や国連の反対勢力を押し切り他国の戦争紛争に直接介入するのではなく大国ではなく充分な知識を持たない小国の正規軍に支援、火器の使い方などを教えるだけになった。それでも非常時での戦闘は許可されている。先程海斗が言ったように国内での戦争生活者を増やさない対策として国に認められた者だけが海斗や明星がいるような民間軍事会社に入社できる。それも民間軍事会社というのは裏の顔であり表向きは何でも屋であるため仕事が入るのは国内からではなく海外から多い。海斗らが様々な地域で仕事をしたおかげで裏の仕事は激減した。その影響か海斗達の裏の仕事も減ったおかげで日本では裏の顔が知られることが少なくなった。
「よし着いたぞ。じゃあな」
「セナによろしくな」
海斗は明星の自宅まで送り届けると自分も自宅に戻ることにした。
続く
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