最終話 忙しくなりますね。

 剣崎孝也は研究室のホワイトボードに書かれたメモを見ながらパソコンのプログラムを修正すると、そのプラグラムを装置に転送してリターンキーを押した。


 次の瞬間、装置のLEDランプがせわしなく点滅し、パソコンの画面上ではプログラムコードがもの凄いスピードで現れては消えを繰り返した。


 ほどなくして装置のLEDランプは赤色に点灯したまま動きを止め、パソコンの画面上にはエラーメッセージがズラズラと並んだ。




 「ふぃー、進まないなぁ・・・。」と孝也が呟くと、その様子を後ろで見ていた一条耕介が「どうやって作ったんだろうな?」と言った。


 「はい。でも成功するって事だけは確かですからね。」と孝也が笑って言うと、「そうだな。おっ、もうこんな時間か、とりあえず昼飯にするか。」と耕介も笑って答えた。




 カフェテリアに向かう途中で孝也が、「でも、この装置が完成したら悪用されませんかね?このまま葬ってしまった方がいいのでは?」と耕介に訊ねた。


 耕介は「逆だよ。誰かに作られてしまう前に僕たちが完成させて、使用権利を全て押さえて悪用を防ぐんだよ。」と答えた。




 従業員21名の小さな機器開発会社のカフェテリアは、小さいがキレイでアットホームな雰囲気だった。


 耕介は従業員用に積み上げられたお弁当を2つ取って席に着いた。


 孝也がお茶を2つ淹れてきて耕介の正面に座ると、「剣崎のおじさんとのゴルフは今週末ですからね、前回みたいに忘れないでくださいよ?」と言った。


 「おっと、そうだった。すっかり忘れてたよ、サンキュー。」と耕介は答えた。


 「しっかりしてくださいよー。一条さんが『100切ったらゴルフセットをプレゼントする』なんて言うから、おじさん毎日練習行ってるんですから!」と孝也が言っているそばで、カフェテリアのテレビの前に集まっていた若い女子社員数名から歓声が上がった。




 テレビでは、売れっ子シンガー同士の結婚が電撃発表されたとのニュースが流れていた。


 耕介はテレビに映った鈴木とナツの顔を見て、箸を置いて頬杖をついた。


 ナツの『デビュー前に、同じ作曲家の方に曲を作ってもらったのがきっかけで・・・』というコメントが紹介されていた。


 耕介は、ナツが駐車場で黒い犬と楽しそうに遊んでいる姿を思い出した。


 いつも黒いシャツを着ていて、いつもジョージが黒い車で迎えに来ていた。




 「何でニヤニヤしてるんですか?」と孝也が気味悪そうに聞いてきた。


 耕介は「僕がその作曲家だって言ったら信じるかい?」と孝也に聞いた。


 孝也は耕介の顔をまじまじと見たあと、「・・・きっとそうなんでしょうね。」と言って笑った。




 白衣を着た研究室の女子社員が走ってきて、「一条さん、探しましたよ!ヨミザキセンタン大学の岩波教授が、うちの会社との共同研究提案について是非会って伺いたいそうです!」と耕介に告げた。


 耕介と孝也は顔を見合わせた。




 「さあ、忙しくなりますね。社長!」と、孝也は耕介に言った。








 終わり






 ご愛読いただき、ありがとうございました。


 評価・応援、本当にありがとうございます。とても励みになります。


 次回作にも、お付き合いいただけると嬉しいです。

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