山の向こうには何がある?

「山の向こうには、何があるのかな?」

彼女は、か細い声で呟いた。

「さあ?海かな?」

僕は、深く考えもせず反射的にそう答えた。

「別の世界が広がってるのかな

 アリスが迷い込んだ国とか。」

彼女は、そう言って窓の外を眺めていた。

「そうだね。きっとそうだよ。」

僕は、その言葉を噛み締めながら言った。

そして、

どうしようもない深いため息を飲み込んで

体の中で後悔の渦を作った。

「きっと、桜がバァーって咲いてて

 雪が降ったみたいに

 桜の花で覆われているんだよ。」

彼女の声は、嬉しそうだった。

まるで、サンタを信じている子供が

枕の近くにあるプレゼントを

親に自慢しているようなそんな声だった。

でも、彼女は、

顔をこっちに向けてはくれなかった。

きっと熱い日照りが 

彼女を殺そうとしていたからだ。

だから僕は、カーテンを閉めた。

僕は、坂を登る。

自転車で息を切らしながら

彼女をカゴに載せて、

全速力で坂を登った。

熱い日照りが、次は僕を殺そうとしてくる。

僕は、お茶を一口飲みペダルに足をかけ

全速力でさかのぼった。

山の向こうには、桜があった。

僕を殺そうとしてきた日照りは、

生意気にも僕を包み込んだ。

僕は、笑った。彼女も笑った。

いつも通り顔は見せなかったけれど。

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