『プレゼント』

とある日の昼下がり。


僕とソイツは、ある家の前で激しい口論をしていた。


僕の意見はこうだ。


「彼女は、このネックレスを気に入ってくれるに違いない!」


僕は堂々と、その箱を突き出した。『大特化セール商品!』と書かれたシールが中途半端にひっついている。


ソイツの意見はこうだ。


「いーや。彼女はこの温泉チケットを気にいるに違いないね!」


ソイツは不敵に笑うと、その紙を突き出した。『福引券二等』と赤く印字されたチケットがピラピラと揺れた。


「…………ぬぬぬ」


「…………グググ」


僕たちは互いに威嚇しながら睨みあった。





かつて、僕とソイツは親友だった。

しかし、中学二年のある日、僕たちは恋に落ちた。


――同じ女子に。


それからと言うもの、僕たちは仁義なき恋の鞘当て合戦を繰り返した。


そして彼女の誕生日に彼女へプレゼントを送り、彼女に白黒つけてもらおうと言う運びになったのだ。


そして、決戦当日の今日。


僕たちは互いを牽制し合っていたものの、ようやく今日の目的を思い出した。


「……やめよう。不毛だ。僕たちだけで」


「……ああ。そもそも、こう言うのをやめるための今日だったはずだ」


二人とも臨戦態勢を解き、姿勢をただす。


……それにしても、遅いな。彼女。メールで伝えておいたはずなんだけど。


僕たちは、その立派な門構えの扉が開くのを待っていた。

ジリジリと時間が過ぎていく。


二人とも耐えきれず、行動に起こそうとした、その時だった。



――爆音がやってきた。



正確には、一台のバイクが、家の前に乗りつけたのだ。

乗っているのは、学校一の不良の金髪君。


突然の出来事に、僕たちは唖然としていた。


ついで、さっきまで微動だにしなかった扉が開き、少女が姿を現した。


彼女だった。


そして彼女が金髪くんの後ろに跨ると、バイクは何処かへと走り去っていった。


「…………」


「…………」


遠ざかる排気音の残響を聞きながら、僕たちはどちらともなく歩き出し――



――チケットを握りつぶし、ネックレスを全力で放り投げ、僕たちは駄菓子屋に向かった。

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