『凶弾』
僕は、一刻も早く銀行強盗を倒さねばならなかった。
なぜなら、強盗に飛びかかった高校の友達が足を撃たれ、かなり衰弱しているからだ。早急に救急車を呼ばねばならない。
確かに障害はあった。
一つは強盗が銃をもっていること。
二つは壁際にいる僕と強盗との距離はかなり開いていること。
三つは僕自身の運動神経がとても悪いと言うことだ。
しかし、僕に諦めることは許されていない。
友達の顔色はすでに真っ白で、銀行の床は真っ赤に染まっていた。
もはや一刻の猶予もない。
強盗は今までで三度、発砲していた。
銀行に入っての威嚇射撃で、一度目を。
飛びかかろうとした友人に向けて、二度目を。
先ほど、天井に向けて三度目を発砲した。
そしてそのいずれの場合も、弾を再装填する際に手間取っていた。
そして強盗は思うように袋詰めが進まないことに、かなり焦っているように見えた。
チャンスがあるとするなら、次に強盗が発砲した直後。
そのタイミングで飛びかかれば、ただでさえ慣れていない装填に加え、突然の事態に隙が生まれるはず。
後は、僕の足がうまく動くことを祈るだけだ。
強盗の怒号が飛ぶ。やはり焦っているようだ。
そして銃を、上に掲げ――
銃声が響いた。
その瞬間、僕は陸上競技選手のように壁際から飛び出した。
僕の動きに驚いた様子の強盗は、予想違わず無駄に手元をガチャガチャと動かし、
銃弾の再装填を手間取っている。
見る見るうちに強盗との距離が縮まっていく。
――いける。
それがいけなかったのだろうか、僕は足を縺れさせてしまった。
スローモーションに床が迫り、激しく体を打ち付けた。
失敗の二文字が脳裏に浮かぶ。
−−撃たれる。
見たくないのに、本能的に強盗の方へと顔を向ける。
やはり転んだ隙に再装填は終わったらしく、黒光りする銃口がこちらへ向いている。
僕は無様にも顔をあげたまま、恐怖で動けずにいた。
そのせいか、銃口越しに、強盗と目線がピッタリと、交差した。
直後、強盗は引き金を引く手がピクリと、戸惑うように止まった。
僕は、その隙を逃さなかった。
今度こそ強盗に飛びかかり、銃を持つ手を掴み、激しい揉み合いになった。
強盗は声にならない声をあげていた。
数秒後、一発の銃声が銀行に響き渡った。
強盗は死んでいた。
取っ組み合いの際、暴発した銃弾が頭を貫通していた。
即死だった。
僕は人を殺してしまった罪悪感よりも、めくれかかった強盗の目出し帽からのぞく顔に、酷い違和感を覚えた。
脳は拒否していたが、僕は目出し帽をすっぽりと剥いだ。
強盗は父だった。
先月会社をリストラされ、借金にまみれた家計をどうにかせねば、と苦悩していた父。
父は、ピクリとも動かない。
遠くから聞こえる救急車のサイレンが、やけに大きく聞こえた。
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