『告白』

握られたなら、天国。


握られなかったら、地獄。


実はこういうことだ。


俺は今、とある美しい女性に恋をしている。


その女性とはひょんなことで知り合い、意気投合し、仲を深めていった。

何回か遊びに行った頃、いつか彼女に告白しようと決めた。


しかし昨日、彼女にはもう一人親しくしている男がいることを俺は知った。


俺は焦った。


その男は容姿端麗な優男で、尚且つ大企業に勤めるエリートだったからだ。


対して俺は、リサイクルショップで働く、しがないフリーター。


容姿はお世辞にも整っているとは言えず、今までの数少ない出会いを生かすことができず、過ごしてきた。


このまま何もしなければ、俺の敗色は濃厚だ。


彼女のように美しく気の合う女性とは、この先二度と出会えない可能性の方が高い。


−−これが俺の、最後のチャンスかもしれない。


俺は覚悟を決めた。





ある日、彼女に結婚を前提に付き合ってほしいと告白した。


俺は今、顔を伏せ、手を彼女の方に突き出した形で固まっている。


夏特有のもわっととした暑さが体を包み込み、意識が朦朧としてくる。

熱せられたコンクリートに落ちた汗が、黒いシミを作った。


突き出した手が、握られる気配はない。目の前にいるはずの彼女は、動かない。


無限にも思える時間が流れる。


遠くの方で、セミがやかましく鳴いていた。


――もう、だめだ。


そう思った次の瞬間、俺の手が柔らかな感触に包まれた。


そのことが意味する事象に俺は歓喜し、全身が喜びに包まれた。


俺は、弾けるように顔をあげ、彼女の方を見た。


しかし彼女はというと、なぜか申し訳なさそうな顔をしていた。


−−なんだ?


彼女は控えめ伏せていた目を上げ、こう言った。


「ごめんなさい。実は私――男なの」 

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