『告白』
握られたなら、天国。
握られなかったら、地獄。
実はこういうことだ。
俺は今、とある美しい女性に恋をしている。
その女性とはひょんなことで知り合い、意気投合し、仲を深めていった。
何回か遊びに行った頃、いつか彼女に告白しようと決めた。
しかし昨日、彼女にはもう一人親しくしている男がいることを俺は知った。
俺は焦った。
その男は容姿端麗な優男で、尚且つ大企業に勤めるエリートだったからだ。
対して俺は、リサイクルショップで働く、しがないフリーター。
容姿はお世辞にも整っているとは言えず、今までの数少ない出会いを生かすことができず、過ごしてきた。
このまま何もしなければ、俺の敗色は濃厚だ。
彼女のように美しく気の合う女性とは、この先二度と出会えない可能性の方が高い。
−−これが俺の、最後のチャンスかもしれない。
俺は覚悟を決めた。
*
ある日、彼女に結婚を前提に付き合ってほしいと告白した。
俺は今、顔を伏せ、手を彼女の方に突き出した形で固まっている。
夏特有のもわっととした暑さが体を包み込み、意識が朦朧としてくる。
熱せられたコンクリートに落ちた汗が、黒いシミを作った。
突き出した手が、握られる気配はない。目の前にいるはずの彼女は、動かない。
無限にも思える時間が流れる。
遠くの方で、セミがやかましく鳴いていた。
――もう、だめだ。
そう思った次の瞬間、俺の手が柔らかな感触に包まれた。
そのことが意味する事象に俺は歓喜し、全身が喜びに包まれた。
俺は、弾けるように顔をあげ、彼女の方を見た。
しかし彼女はというと、なぜか申し訳なさそうな顔をしていた。
−−なんだ?
彼女は控えめ伏せていた目を上げ、こう言った。
「ごめんなさい。実は私――男なの」
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