第5話 冷凍食品各種によるおつまみ料理
なんか、妹の部屋に遊びに行ったら普通に美味しい焼きおにぎりを出されたんだが。
そんでもって、手作りと来たもんだ。
まさかコレは……男でも出来たか?
姉である私よりも前に、アイツに春が来てしまったのだろうか。
「その話、もう何回目よ……」
「そう言わずに聞いてよぉ。 それに色々と他の人間関係でも問題あってさぁ」
「私は恋愛云々の前に転職考えないと……」
「ドブラックだもんねぇ」
そんな事を言いながら、友人宅で酒を呷る。
昔馴染みの友達と、女二人で宅飲み中。
私は私生活の愚痴を、彼女は職場の愚痴を溢す。
やはりどんな生活を送ろうとも、フラストレーションは溜まる。
仕事でも、人間関係でも。
「流石におつまみもうちょっと買ってくるべきだったかなぁ」
「ん~、何か作る?」
「え、アレ? 料理とか出来るタイプだっけ?」
「いや、料理って程大したものではないけど」
ヒラヒラと手を振りながら、友人はキッチンに立った。
そして冷蔵庫から取り出したるは、コンビニとかに売っていそうな冷凍食品。
あ、なるほどレンチンか。
なんて、思っていたのに。
あろうことか、フライパンやら何やら準備し始めたではないか。
「えぇっと?」
「あぁ、そのですね。 最近ちょっとしたおつまみくらいは作っていると言いますか、ちょっと始めたら楽しくなっちゃって。 それから、後輩に料理好きなのが居まして……その子に度々話を聞いているというか」
あははっと、困った様に視線を外す友人。
あっ、コイツも男か。
すぐさま察せる様な雰囲気を醸し出しながら、彼女は調理を続けた。
「コイツめ……どんなモノを作るのか見てやるわ」
「ホント大したものじゃないから期待しないでね?」
取り出したるは、冷凍食品の焼き鳥。
居酒屋の物に比べれば随分小ぶりだし、品数も少ない。
フライパンの上にクッキングシートを敷き、それらを並べていく。
ゆっくりと火が通り始め、じゅぅぅっと静かな音が上がり始める。
弱火でじっくりな状態らしい。
そしてソレを待っている間にパスタを茹で、更にはマカロニも一緒に茹でていく。
そんでもって、フライパンをもう一つ用意。
アパートなのに三口コンロって凄いよなぁ、なんていつも思っていた訳だが。
初めて全部使っている光景を見た気がする。
続いて出て来たのは“ジャガイモとベーコン”なる冷凍食品。
本来ならレンチンすればすぐ食べられる訳だが……一体どうなる事か。
なんて思っていると、普通にレンジに放り込んでスイッチオン。
あれ? と首を傾げているとレンチンが終わったソレを取り出し、今度はドリア皿に盛りつけていく。
「なんか、手間を掛けるね」
「いや、一から自分で作ってるわけじゃないし。 滅茶苦茶楽だよ」
そんな事を言いながら、友人は調理を続ける。
ここまで来ると、立派な料理な気がするんだが。
冷凍食品は確かに多いけど。
という訳で、次はゆで上がったパスタとマカロニをザルに上げ、マカロニは先程のドリア皿に。
中に入っていたジャガイモとベーコンと一緒に軽く混ぜ、パスタ用のパウチが登場。
ミートソースを投入し、更に混ぜる。
そして、その上からチーズを盛って軽くパン粉をまぶした。
「コレはもう焼くだけ」
「ちゃんと料理してる……」
「いや、だから冷凍食品だってば」
呆れた声を洩らしながら再びレンジに放り込み、今度はオーブンでスイッチオン。
度々焼き鳥をひっくり返しながら、もう一つのフライパンにバターを放り込み、更には冷凍ほうれん草とベーコンなる物を投入。
ジュワァァ! と派手な音と共に、バターの良い香りが広がっていく。
軽く火が通った辺りで、追いバターを放り込んでから今度はパスタ。
焦げない様に箸で混ぜながら、その中に醤油を投入していく。
あ、ヤバイ。
匂いだけでも結構強烈だ。
バターの濃厚な香りと、醤油の焦げた匂いが周囲に広がっていく。
そんな危険な物体をカシャカシャと混ぜ合わせている間にも焼き鳥をひっくり返し、更にはレンジから「ピー! ピー!」と焼けたぜと声が上がる。
そのタイミングでパスタを皿に盛りつけ、焼き鳥もフライパンから上げる。
油を敷いていなかったように見えたのに、クッキングシートをすいただけであんなにも焦げ付かないモノなのか。
なんて、感心していると。
「はいちょっと退いてね。 机に持って行くよー」
「あいあいー」
鍋敷きだけ準備した私は、運ばれてくる料理をただひたすらに待った。
そして、私の目の前に並んだのは。
「すっご……本当に冷凍食品?」
「作ってる所見てたでしょうに」
目の前には見るからにカリッの焼き上がった焼き鳥に、ほうれん草とバター醤油のパスタ。
そして見た目も綺麗な焼き目がついているグラタン。
おかしいな、私と同じ料理できない系女子だった筈なのに。
なんて事を思いながら、二人して「いただきます」と手を合わせる。
まずどれから行こうか、なんて迷っていると。
「焼き鳥どうかな、ホントは味付けも追加した方がもっと美味しくなるらしいんだけど。 私にはよくわかんないから、そのまま焼いただけ」
不安そうにしながらも、友人は一本の焼き鳥を手に取り口に運ぶ。
なんとも美味しそうだ。
という訳で、私も焼き鳥から行ってみよう。
一本手に取り、そのまま口に運ぶ。
表面はカリッと焼き上がっており、口の中には焼き鳥の香ばしい香りが広がる。
普通にレンチンしただけじゃこうはいかない。
ペチャっとした感覚に、「あぁ、やっぱり冷凍食品だな」って感想しか出てこない筈のアレ。
だというのに、何だこれは。
普通に美味しい。
そして、当然だがお酒にめっちゃ合う。
「うっま!」
「一味唐辛子とか付ける?」
「つける!」
そして次に、パスタ。
ほうれん草とバター醤油がメインのこやつは、立ち上る湯気が既に美味しい。
二人で一皿から取り分け、ソイツをフォークでパクリ。
「……あぁ、その辺で食べるパスタより全然美味しい」
「それは流石に大袈裟」
なんて事も言われるが、フォークが止まらない。
バターを使っているから結構濃厚なのかと思えば、随分とスルスルいける。
多分凍っているほうれん草とかと一緒にパスタまで炒めたから、その分水分が多かったのだろう。
濃厚な味わいではあるモノの、そこまで脂っこいとは感じない。
本当に“野菜パスタ”って感じだ。
「いやぁ……コレは甘いチューハイとかと合いそう……うっま」
「何よりですよ、次ドリア食べてみようか」
最後に焼き立てドリア。
やはりチーズは焼き立てが一番。
その証明とばかりに、スプーンを突き立てれば「ザクッ」と良い音と共に、ふんわりと湯気が立ち上る。
この時点で美味しそう。
ゴクリと唾を飲み込みながら一番下までスプーンを突き刺し、ゴソッとほじくる様に自身の取り皿まで持ってくる。
そこには。
「すっご……普通にお店にありそう」
「しかし原価は滅茶苦茶安い。 庶民の味方だねぇ」
軽口を叩きながらも、取り分けたグラタンをフーフーしてから一口でパクリ。
焦げたチーズはカリカリパリッと、中のジャガイモはアツアツホクホク。
一緒に入っているベーコンやマカロニも色んな触感を楽しませ、更にはお腹に溜まっていく。
パスタソースのみである味付けも、オーブンで焼かれる事によってまた違う一面を見せている程。
何だこれ、グラタンってこんなに簡単に作れるんだ。
そんな事を思ってホクホクとグラタンを噛みしめながら、更にはお酒を流し込む。
美味しい。
非常に美味しい。
宅飲みなんて、精々お菓子なんかを摘まみながら飲むくらいしかしていなかった。
だというのに、こんな物を味わってしまったら次から色々作りたくなるじゃないか。
そんな感想が出て来てしまう程に、全部美味しかった。
凄い、冷凍食品だからって馬鹿にしたモノじゃない。
簡単お手軽に食べられるコイツ等も、一手間加えるとコレだけ満足させる味に変わるのか。
「ふぅぅ、このパスタとかは初めて作ってみたけどうまくいって良かった。 どうよ?」
ニヤッと不敵な笑いを浮かべる友人に対して、ちょっとだけ悔しくなりながらも、グッと親指を立てて見せた。
「めっちゃ美味しい。 簡単そうなのに、コレだけ作れるって凄いよ」
「いや、実際に簡単なのよ。 そんなのばっかり教わってる」
「例の後輩君から?」
「例の後輩君から……あぁもう! 私の威厳とか大丈夫かなぁ!」
ソレばかりは知らない。
仕事として威厳はあっても、女子力としてはどう見ても負けているだろうし。
しかも、後輩男子に負けているのだ。
コレばかりは、どうフォローした所で負けを認めるしかないのだろう。
「むしろ、今度その子呼んでみる?」
「は? 私の家に?」
「イエス」
「いや、無理です。 ダメです、見せられません」
色々と乙女が残っている友人は、全力で首を横に振ってみせた。
そんな事をしていたらお酒が回るぞ~なんて言いながらも、ケラケラ笑いながら食事を続ける。
いやぁ、最近は料理男子が増えていると聞くが……マジだったのか。
コレは私もウカウカしていられないかもしれない。
今日見せてもらった冷凍食品料理なら私も出来そうだし、今後色々試してみようか。
妹に作ってもらった焼きおにぎりも、普通に美味しかったし。
そんな事を考えながら、私達の晩酌は進んでいくのであった。
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