第95話 守る、守るんだ、守るために!

 時間にして一秒か二秒。その一瞬で、ドンキホーテは意識を手放しそして戻ってきた。誰もが失敗だと思ったその瞬間だった。

 しかしドンキホーテは告げる。


「皆んな、犯人の場所がわかった」


「本当かドンキホーテ!」


 ロンが驚きの声を上げたそして同時にレーデンスが胸を撫で下ろし、ドラドスールがガッツポーズをする。


「馬鹿な、こんなにもうまくいくとは……。精神も交換されておらん、しかしワシが逆探知する前に戻ってきたが本当に、何かわかったのか?」


 訝しむアレン先生にドンキホーテは頷く。


「ああ、奴の心に触れてきたぜ!」


「な! 馬鹿なことを!!」


 それがどれほどのハイリスクなことかアレンだけは理解していた。

 心と心が交わりあうということそれは、自我の崩壊すらあり得る危険な行為であった。しかしそれを咎めている暇すらない。


「いかれておるのか貴様! だが、今は説教は後じゃ! 小僧! 犯人は頼むぞ! ワシは結界を直しにいく!」


「あんがとなアレン先生!」


「アレン殿! 私が護衛につこう!」


 ドラドスールが名乗りをあげる、外は未だにドラゴンが飛び立っている、状況は全く変わっていない、依然としてドラゴンが飛び交っている。


「ああ、頼むぞ騎士殿!」


「ロンさん私たちは!」


 レーデンスの問いにロンは頷く。


「ああ、ドンキホーテと共に行くぞ! 犯人に引導を渡す!」


 そうしてドンキホーテ達は二手に分かれた。



────────────────────



「本当にここで合っているのか?! ドンキホーテ!」


 ドラゴンの襲撃により、逃げ惑う人々と共にドンキホーテは迷いなく、レーデンスの問いかけに応えることなく大通りを突き進む。

 そしてある店の前で止まった。


「ここだ……」


 人々を背に、ドンキホーテはつぶやく。


「ドンキホーテ?」


 それは古びた酒場だった、ドンキホーテはロンの呼びかけに一瞬遅れて答える。


「ここだぜ、ロンさん。心が混じり合った時に見た、やつが身を隠した場所だ」


 一歩ドンキホーテは踏み出す、そしてもはや騒ぎによって皆が逃げ出し誰もいない酒場に、足を踏み入れた。

 そこは外の喧騒とは隔絶された、寂れた酒場であった。


「レーデンス、ロンさんこの先は俺でもわからない、手分けして探そう」


「どういうことだドンキホーテ?」


 レーデンスの疑問にドンキホーテは直ぐに答えた。


「途中で記憶が途切れたんだ、この酒場にいるそれ以上はわからなかった。でもアイツはここにいる」


「ではまさか、逃げているのでは……」


「いや、それはない。レーデンスは感じないのか? 感知のアビリティが使えるんだろ?」


「いや、私は何も……」


「そうか、何かの魔法で邪魔してるのかもな、でも俺には感じるんだ、やつが間違えなくここにいる感じるぜ、奴の気配を」


 ロンは心配そうにドンキホーテを見つめた、間違いなく影響が出ている。心同士が交わったせいでなんらかの魔法的な変化が生まれているのだ。

 彼の心は引き合っているのだ、まるで血を分けた兄弟のように、奴の犯人の心と。


「手分けして探すしよう」


 ロンはそう提案した。ドンキホーテのことは確かに心配だったしかし、それ以上に元凶を潰すことを優先したかったのだ。

 そうすれば、ドンキホーテの変化も異常もなくなるそう考えていた。


「レーデンスもいいな! ここはまぁまぁ広い3階建てだ、一人一階づつだ」


「……わかりました」


 レーデンスもドンキホーテへの精神面を配慮していたかったが、それでもやはり気持ちを切り替えねばならない。返事と共にレーデンスは仕事へと移る。


「なら俺は一階を見る」


 ドンキホーテは足早に酒場を探し始める。


「わかった任せるぞ、私は三階を見る、レーデンスは二階を!」


「了解です!!」


 そうして、三人はそれぞれ分かれた、犯人を見つけるために。

 ロンは探す、たかが、酒場だ見つけられるはずだ、それに事前にドンキホーテに人相は伝えてもらっている逃げられるはずがない、そうタカを括っていた。

 だがどこを探しても犯人などいない。

 ロンは2階に降りレーデンスを呼ぶ。


「レーデンス! そちらはどうだ!」


「いえ、人はいません!」


 馬鹿な、確かにドンキホーテは言ったのだここに犯人がいると。


「ドンキホーテ!! 上の階にはいないぞ!」


 シンと静まった一階には、外からの逃げ惑う人々の声すら聞こえない、避難が終わったのだ。ドラゴンもどうやら騎士団に抑えられているようで、鳴き声も聞こえない。

 それゆえに余計にわかる以上な静けさに。


「ドンキホーテ?」


 ロンは辺りを見回す。誰もいない、慌ててロンは一階でドンキホーテを探し始める。誰もいない。誰も、ドンキホーテが消えてしまった。


「ドンキホーテ! どこだ!」


 ロンの呼びかけに応えるべきものはもはやそこにはいないだがその事実があまりにも不可解すぎるせいでロンは混乱し、必死に頭を悩ませた。


「ロンさん!」


 レーデンスの一言が来るまでは。


「隠し扉です!!」



────────────────────



「はぁはぁ……ちくしょうアイツのせいでツラが割れたクソ! 逃げられねぇじゃねえか!」


 暗闇に潜む男はそう毒づく、それもこれもアイツのせいだあのガキの、せいなのだ。

 だが男は気を取り直す、そうだ、ことが収まるまでここで身を隠そうと、そうすれば事態は収束する。逃げることができるのだ。

 男は自分に必死に言い聞かせた。今は雌伏のときなのだと。


「そうだ、事が治まれば今度こそあのガキを八つ裂きにして──!」


 ガン、ガン、ガン、と音がし、扉のノブが壊される。

 男は恐る恐る、光が差し込む扉の方向を見た。

 そこに立っていたのはあのガキだった。

 心に土足で入り込む男、ドンキホーテが立っていた。


「よぅ、さっきぶりだなクズやろう」

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