第94話 俺が皆んなを──

 ガブリと汚染された水を飲み干したドンキホーテは、身構える。そして魔女アレンはドンキホーテの肩に乗り耳元で言った。


「発動させるぞ!」


「分かってる!」


 そうしてドンキホーテは、意識を手放した。


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 何もない真っ暗な宙空にドンキホーテは佇んでいた。まるでお湯の中のようだそんなことを思いながら、ハッと意識を覚醒させる。

 一体自分はどうなったのか、ドンキホーテは当たりを見回した。

 暗闇、それがドンキホーテの抱いた感想だった。

 何もない暗闇、それがどこまでも広がっていた。


「ドンキホーテ繋ぐぞ!」


 アレン先生の声が聞こえる。


「ああ! やってくれ! アレン先生!!」


「アビリティがどうのと言っておったの! 勝算はあるじゃろうな!」


「心配すんなよ! 大丈夫だ!」


 ドンキホーテの力強い自信にアレン先生はようやく躊躇いをなくす。


「いくぞ! お主の魂を飛ばす!」


 ドンキホーテの目に光が入り込んでくるそして光は何本もの光の線となってドンキホーテを連れて行く。

 奴の元へと。



 ────────────────────



「これはこれは、驚いたなぁ」


 声を聞いただけでわかる、卑しい心の性根の腐った奴だと。


「まさか、俺の魔法を転換して突撃してくるとはな、でも見ろよ! ここに来たってことはお前は失敗したんだぜ?」


 ドンキホーテは辺りを見回した。砂漠たた、何もない夜の砂漠にぽつんと2人の男が立っている、ドンキホーテと奴だ。

 奴は喋り続ける。


「ここは、俺の心の世界ってやつ? だ。どうだなかなかに感傷的になるだろう?」


「ここにくるのはひさしぶりだなぁ」と、奴は呟いた。


「ここはな精神交換がうまくいかない時にきちまう、心の世界なんだ、相手の心を手中に収められず、自分か相手の心の中に入る。この魔法の初歩的なミスだ」


 ペラペラと喋り続ける奴を殴り殺したい衝動をドンキホーテは必至に抑えた。


「じゃあこれから俺が何をするか、わかるよな?」


「ウルセェな早くやれよ」


「アハ!! 諦めんの早すぎだろぉ!! 潔いなおい! ……ヴァルファーレ!!」


 三つ目と紅水晶の羽をもつ獅子が、奴の隣に現れる。


「盗め! 奴の心を! 思いを! 誇りを! 尊厳をぉ!!」


 下品な笑いと共に、下された命令をヴァルファーレは実行する。牙を剥き出しにし、羽を使って飛んだ。音の速さを超えたその跳躍は、一瞬でドンキホーテの彼我の距離をつめた。

 ドンキホーテは何もしない。

 そしてヴァルファーレはドンキホーテの首に牙を突き立てた。


「勝ったぁ!!」


 奴はそう言って喜ぶ。いいざまだ、と言わんばかりに、口を歪めドンキホーテの目を見る。そして王手をかける。


「ヴァルファーレ! 交換しろ! 精神を!!」


 ヴァルファーレの牙が、羽が、肉体が輝き始める。


「もう逃げられねぇ!! 俺のものだ! お前の体は!!」


 奴は笑う、勝利の笑いだ、勝ち誇るように、見下すように口から漏れるその笑いはどこまでも、どこまでもドンキホーテのことを見下していた。


「そうやって、今まで殺したやつも見下してきたのか……!」


 ヴァルファーレの体が吹き飛ばされた。


「は?」


 奴は、唖然とした一体何が起きたのかもわからずにただ驚く。

 そしてしばらく、ただ戸惑い突っ立ってしまう。

 そのせいで近づいてくるドンキホーテに何も対応ができない。


「な、お、あ!! 近づくな!」


 ようやく、ドンキホーテが近づいてきていると気づいたときに奴はただ尻餅をつくことしかできなかった。


「なぜだ! なぜ精神を盗れねぇんだ!」


 慄く奴に、ドンキホーテは言った。


「「不変」……それが俺のアビリティだぜ、自分以外に、自分を変えることは出来ない、俺が許さない限りはな」


 そしてドンキホーテは奴の襟を掴み無理やり立ち上がらせ、耳元で話し始める。


「なぁ、ここはお前の心の世界ならよぉ、お前は誰なんだ?」


「な、待て!」


「ここがお前の心の世界なら! お前は、本体! 心そのものってことだよなぁ!!」


「何をする気だ!!」


「見せろ! お前の心ン中!」


 ドンキホーテはそのまま奴の頭に頭突きをした。瞬間、流れ込んでくる。奴の記憶が。


「うあぁぁぁぁぁぁ!!」


「くっ!!」


 互いに心が混じり合いそして反発しあった。

 奴とドンキホーテは無限と一瞬ともいえるような苦痛を身に味わい、他者の心の経験を自らの心に刻み込んだ。

 そしてドンキホーテはいつのまにか意識を失った。


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「かはぁ!」


「うお! びっくりさせおって!」


 ドンキホーテはいつのまにか、皆のいる倉庫に戻っていた。

 いや再び目を覚ましたと言ったほうがいいのだろうか。


「どうじゃ? 一瞬で戻ってきたのぅ……失敗か?」


 心配そうに聞くアレン先生にドンキホーテは周りを見渡す。

 レーデンスが心配そうに「大丈夫か?」と聞くがドンキホーテは軽い返事をした後、話を切り出した。


「犯人の場所が……わかった」

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