第93話 もう誰も殺させない
「グォォォォォォ!!!」
床から現れたドラゴンは吠える。そしてドンキホーテに噛みつこうと大口を開けた瞬間だった。
「させるか!!」
ロンの黄金のハルバートによって深々と脳天を貫かれる。
「ロンさん!」
「ドンキホーテ! レーデンス! 周囲を警戒しろ!」
「了解!」
「了解です!」
そういってドンキホーテとレーデンスは剣を引き抜いた。
「ドラドスール! いつまで寝ている!!」
「分かっている! ぐっ! 全く痛いところを!!」
一体なんなのだ、死んだドラゴンの死体をロンはまじまじと見つめたロンは呟く。
「下級の、アースドラゴンか」
「アースドラゴン? 馬鹿な、城壁の衛兵は何をしていたのだ!」
ドラドスールは憤慨していた、それもそうだドラゴンなどの強力な種の魔獣は、城壁の衛兵が見つけ次第優先的に、追い払う役目を担っている。
特にアースドラゴンは地中に潜ることができるため、都市に入れば致命的な被害を生み出す。
しかし、このアースドラゴン攻撃の方法として地中に潜るため普段は空にいるはずなのだそれなのにも関わらず、衛兵は見つけられなかったというのだろうか、ロンは疑問に思う。
「しかし、アレン殿がここにいなかったのは僥倖だ、体の脆い魔法使いならば即死だったかもしれん」
そうロンはこぼした、魔女アレンは魔法に汚染された水の調査のために別行動をしておりこの場にはいない。
いた場合恐らく当たりどころが悪ければ魔女アレンはこの場で死んでいただろう、そのことに安心を覚えつつロンは次の行動を思い起こそうとした。
するとドンキホーテが窓の外を見て唖然としているのを、ロンは気がつく。
「どうしたドンキホーテ──」
「ロンさん! まずいぞ!!」
そう叫びドンキホーテは窓から飛び出した。
「おい待てドンキホーテ!」
「ロンさん外! ドラゴンの群れ!」
「何!!」
ロンは窓から空を見上げる、そこにはドラゴンが編隊を組み空を飛んでいた。
─────────────────────────
数十分前、城壁の上の衛兵、カネルはあくびをした今日も今日とて暇な見張り番だ。
驚異的な魔物がくることはくる、人が集まっているのだから魔物の習性的には当然のことだ。
しかし大概、王都ほどの城壁には結界が敷かれているそれは、一流の魔法使いが何年もかけて構築した最上の結界だ。
戦争にも耐えうるそれは、脅威度でいえば最悪に分類される空の魔物の進行を防ぎ、また、突破しようとしてくる最上級の魔物も動きを封じさせ簡単に撃退できるようになっている。
そのため、慣れて終えばなんてことはなかった。
「お!」
ドラゴンが王都の上空を飛んでいる、珍しいなとカネルは思う。
一年に一回ほどドラゴンが空を飛ぶ。恐らく王都の住民を狙っている、群れのリーダーの一匹だろう。
「全く、今日は珍しいことばかりだな」
カネルそうぼやきながら早朝の出来事を思い出していた、今日の早朝、唐突に、騎士団が来たかと思えば、水を飲まないでほしいなどと意味のわからない要求をされた。なんでも、水になんらか異物が紛れ込んでいるというのだ。
そんな雑用のような仕事を騎士団しているのも珍しいと思いつつ、カネルは仕事をしていた。
しかし喉が渇いた。異物が入っていたという水は捨てたしまったため、飲むものがない、そのため先ほど後輩に飲み物取りに行かせたところなのだ。
「全く遅いな」
そう愚痴っていると、唐突にカネルは話しかけられる。
「ようカネル」
「おお、ガラン。どした」
同業者のガランだ。
「さっき親切なおばちゃんが来てくれてな、レモネードの差し入れしてくれてよぉ。わたしに来たぜ」
「お、たすかるねぇ」
カネルは、そう言ってレモネードの瓶をガランから受け取った、たまにこの城壁の上の見張りの仕事を立派だと思い差し入れをしてくれる人々がいる。
彼らの目から見れば恐ろしい魔物に対峙する勇者に見えるのだろう。特段そんなことはないのだが。
カネルはレモネードをガブリと飲む。喉が渇いていたのだ。するとすぐさまカネルは異変に気がついた。
味がない。
「ん! なんだこりゃ! 水じゃねえか!」
カネルは驚き瓶から口を離した。
「ええ! でもおばちゃん、レモネードって言ってたけどなぁ」
ガランは言う。
「全く、ゲホ、びっくりして喉にゲホゲホ!!!」
「おい大丈夫かよ!!」
「ゲホゲホ…………ああ、大丈夫だぜ」
「まあ、でも喉の渇きは癒えるしいいか」
「ああ……そうだな」
「そういえばさ」とカネルが切り出す。
「忘れ物しちまったみたいなんだ、ちょっと外してもいいか?」
「お、いいぜドラゴンは俺が見とくよ」
「ありがとな! ……じゃあ行ってくる」
コトンとカネルは水の入った瓶を置く。
その瓶には精神交換のルーン文字が刻まれていた。
その数分後、人知れず王都エポロの北東の結界は一部機能停止した。
誰も報告をしなかった。
いやできなかったのだ。
その役目の北東の城壁の上の衛兵は全員、死んでいたのだから。
─────────────────────────
「ダメだ! 間に合わない!」
燃える街の中、ドラゴンを相手取りながらレーデンスは叫ぶ。噛みつこうとするドラゴンの攻撃をレーデンスは避けそのまま断頭した後叫ぶ。
「ドラゴンの群れが北東から来ます!」
「レーデンス! お前の感知のアビリティで数はわかるか!」
「先程見ました! 数は追加で15!」
ロンは焦る、既に数匹のドラゴンの侵入を許している、市民の犠牲も出ている。その上15のドラゴンがまた攻めてくる。騎士団はまだ来ていない明らかに異常事態だ。
「後手に回った……!」
完全に誤算だった、ロンは思い至る、これは恐らく精神交換の犯人の仕業だと、頑張りすぎたのだ自分達は、あまりにも犯人の性格を考えず、追い詰めてしまったそれがこの結果を招いた。
だが後悔の時間はない。
「ロン! 次がくるぞ!!」
「分かっているドラドスール!!」
「ロンさん!!」
ドンキホーテの声にロンが振り向いた。
「応援の騎士団だ!!」
第十三の旗の目印にロンは目を見開く。
「団長!!」
「ロン! これはどう言うことだ何が起こっている?!」
多数の騎馬と騎士を引き連れた、茶色い髪と立派なヒゲそして黄金の鎧を携えた第十三騎士団、団長シキルクはロンにそう話しかけた。
「わかりません恐らく例の事件に関係があるかと!」
「例の報告のか!」
「はい!」
シキルクはロンの返答を聞いた後、間髪入れず言った。
「市民の通報をうけ我らは参った! どうやら結界が破れている様子だ! 諸君は直せる魔法使いを知っているか!」
「アレン先生だ!」
ドンキホーテが叫ぶ。
「ならばはやく、その者を連れて来い! ここは我らに!」
「わかりました!」
ドンキホーテは誰よりもはやくかけていく。向かうは魔女アレンの元だ。
「ロン、そして貴様達もいけ! ドラゴンがどのような動きをするかわからない! 守ってやれ魔法使いを!」
キシルクはロンとレーデンス、そしてドラドスールにも行くよう促した。
「了解!」
ロン達もドンキホーテの後に続きドラゴンの吐息で焼かれた街を駆け抜けていった。
─────────────────────────
ドアがバンと開かれる。
「アレン先生!!」
ここは押収した、汚染水の保管場所、その一つであるとある倉庫だ。大きな音に調査を続けていた魔女アレンはびくりと肩を震わせる。
「なんじゃい! おどろいたわ!」
ドアを開けたのドンキホーテだった。
「説明している暇はねぇんだよ! 王都の結界が破られた! 直してくれる魔法使いを探しているんだ!」
「何!」
「その通りだ! アレン殿!」
続いてロン、レーデンス、ドラドスールが入ってくる。
「時間がない我々が護衛する! 早く結界を!」
ロンは小僧からから急いで魔女アレンを抱えて連れて行こうとする。
「待てワシも、お主達に今テレパシーで伝えようとしたことがあるのじゃ!」
「なんです! そんな時間は!」
ロンの怒号を遮るように魔女アレンも叫んだ。
「奴は犯人はまた潜伏しようとしておる!」
その言葉その場にいる全員が凍りつく。
「それはどう言う……!」
「先程調べたところ魔法のつながりが薄くなっていくのを感じたのじゃ、このまま逃げるかどこか隠れるか騙されたらどうなるか分かっておるの!」
ロン達は青ざめ足を止める。
「そんなでは、この騒ぎは逃げるための!」
レーデンスも気がつく、あまりにもタイミング良すぎる、犯人は逃げるためにこの騒ぎを起こしたのだ。
そうとしか考えられない
「そういうことじゃ!! まずいぞこのままでは奴は消える!」
「なぁ──」
ドンキホーテがつぶやく。
「──逆に奴に魔法をかけることは出来ねぇのか? そのつながりを辿って」
その一言にアレンは驚く。それは考えていたしかし大きなリスクを伴う。
「なにを言っておる! 乗っ取られたいか!」
アレンはそのリスクを充分に理解していた。逆に魔法をかけるとは聞こえはいいが、その実相手の有利な土俵で闘うことを意味する。
しかしドンキホーテは下がらない。
「やるしかねぇだろ! この結界の消失をさせたのは犯人なんだろだったらここでなんとかしねぇと! また繰り返されるだけだろ!」
「じゃがどうするのじゃ! 誰を──」
「俺がいくんだよ!」
ドンキホーテのその言葉に思わずレーデンスは怒鳴りを上げる。
「馬鹿な! 何を考えている」
「その通りだ! ドンキホーテ!」
ロンもレーデンスと同じく賛同をしめす。だが、ドンキホーテは引かない。
それどころか一歩踏み出した。
汚染された水に向かって。その水が入った樽に向かって。
「何を──」
「俺のアビリティなら!」
そしてそのまま走って行きガブリと、水を飲み干した。
「ああ!! 何をやっておる!」
魔女アレンは叫ぶ、しかしドンキホーテは水を既に飲み干している。
「くっ分かった! やればいいんじゃな! やれば!」
「アレン殿!」
レーデンスの怒声にアレンは返す。
「分かっておる! 乗っ取られたらワシがなんとかする! もはやこいつもあの、犯人の被害者になりかねん! ならばいっそ……! いくぞ小僧!」
ドンキホーテは頷いた。
「いいぜ! アレン先生!!」
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