シシ狩り！〜自分の正義を貫いた結果、パーティを追放されたけどまあいいか！俺は自分の夢を信じて突き進むだけだ！〜

第62話 2人なら

「が……ぐ……」

　地面に拳ともに叩きつけられたドンキホーテは、息をするために、必死に呼吸器系の臓器を動かしていた。

　しかし勢いよく叩きつけられためかできるのは呼吸では無い、できるのはただ猛毒により呼吸困難になったな哀れな瀕死者のような呻き声を絞り出すことだけだった。

「ほう……まだ生きているのか？　頭蓋を完全に潰したつもりだったんが」

「全く、慣れない力を使うとこれだな」そう呟きながらザカルは指を一本ずつ、確かめるように手のひらの中心に折り曲げていき、万力を形にするかのように握り拳を作った。

「さようなら、やさしき少年」

　そして、ザカルの拳が一瞬のうちに加速される。ただの拳打を繰り出しただけだと言うのに、加速だけでとてつもない衝撃波が発生する。

　その音を超えた一撃は真っ直ぐとドンキホーテの頭部に向かっていく。

　が、しかし、その一撃はドンキホーテに当たることはなかった。

　甲高い金属音が、白い空間の中に響き渡る。

「やらせるかぁ！！」

　ザカルの拳はドンキホーテの頭ではなく、剣の刃を打っていた。

　咄嗟にレーデンスがザカルの拳とドンキホーテの間に剣を差し込んだのである。

「惜しいな」

　ザカルがそう呟いた瞬間。彼の顔面はレーデンスの剛腕により歪み、体は吹き飛ばされる。

　殴ったレーデンスは気づく。

　ーーなんだ、こいつの肉体の強度は！　アダマンタイトでも殴ったのか？！

　殴った左手に痛みと痺れを覚えながらレーデンスはそのまま、剣を構え直して、突進する。

「うおお！！！」

　未だザカルはよろめいている、体勢を戻される前にレーデンスは剣を薙ぎ払う。

　ザカルから見て左からくる剣の薙ぎ払いを、ザカルは見向きもせず片手で弾く。

　ーーな！？

　心中で、驚きとともに純然たる力の差に気圧されるかけるレーデンス。

　まぐれだ、そう自分に言い聞かせて、再び逆方向から剣の水平斬りを繰り出す。

　しかし剣の刃の無い部分に手の甲を添えられ、剣の起動は、ザカルの頭上をいく。

　ーーバカな！！

「うおおお！！」

　焦りを覚えつつもそれをかき消すようにそのまま、レーデンスはさらに畳み掛ける。

　頭上へと逸らされた剣の刃を返し、まるで稲妻のような一撃をザカルに向けて振り下ろした。

　しかしーー

「いい速さだな、オーク」

　その剣の刃を難なく、ザカルは片手で受け止めた。レーデンスは、言い知れぬ力の差を実感させれた。

　そして同時にレーデンスの勘は危険信号を発する。

　こいつはやばい、信じられないことだが先程までは感じなかった、感じるはずのない独特の威圧感をレーデンスは感じていた。

　レーデンスの感じた威圧感を言い表すとするなら、簡単に、簡潔に、陳腐に言えば武芸の達人。

　先程まではいかにもデスクワーク漬けになっていた、役人という感じだったいうのに、今ザカルから放たれる威圧感は数十年間、修行に明け暮れ人智を超えた力を持つと言われる東の国にいるという仙人のような風格を纏っていた。

　ーーこの男！　何が！

　その答えを導き出す前に、レーデンスは突如、腹部に爆発のような衝撃を感じる。

「ガァ！！」

　唐突に何かが爆ぜた、そうとしか言いようのない力の奔流に晒されたレーデンスはそのまま、吹き飛ばされる。

　しかし、このまま吹き飛ばされる勢いに任せ、体勢崩したままでは追撃を喰らうことは必然、不恰好ながらもレーデンスは受け身をとる。

　ぶっ飛ばされた勢いが強すぎるそのため、受け身は完全には取れないが、しかし、レーデンスは体勢を整え、再び視界にザカルをとらえることに成功した。

「おお、受け身を取ったか、全く……なかなかどうして」

　ザカルは、余裕綽々とそう呟く。

「こいつ……！」

　間違いない、この男、ザカルはレーデンスにいつでも追撃ができた……はずだ。

　だと言うのに……。

　ーーこの男、全く本気じゃ無いのか……！

　いやそもそも、とレーデンスは改めてザカルを見つめる。

　ーーこいつーー！！

「呆けている場合か？　オークくん！！」

　鋭い蹴りがレーデンスの左腕に直撃する。そのまま衝撃は脇腹に届き再びなされるがまま吹き飛ばされた。

「ぐっ！！」

　レーデンスはまた体勢を立て直す。しかし、ただの一撃でかなりの、ザカルとの距離が開いてしまった。しかし問題はそこではない。

　ーー今の蹴り……全く見えなかった……！　だが！

　やりようはある。レーデンスは目を見開く。レーデンスの灰色の瞳は金色へと変わる。

　そして、彼の瞳から淡い光の膜が二つ広がる。それはやがて一つになりレーデンスを包む光の球体となった。

　半径1メートルほどのその光の球はまるでレーデンスを守るように纏われた。

「ほう……それはなんだ？　君のアビリティは……確か感知……だとするならその光の膜はいったいなんなのか？　闘気の防御壁では無さそうだ……」

「敵の目の前で、思案とは余裕だな！　ザカル！」

「君程度の実力で、警戒をする必要もない。ちがうかなっ！　オークくん！！」

　その言葉とともにザカルは、加速をかける。一撃に全てをかけレーデンスを殺すべく拳に力を込め、拳打をレーデンスに繰り出した。

　ザカルの拳が光の球体に触れる。

　その瞬間、レーデンスは剣でザカルの拳を弾いた。

「っ！」

　ーーほぉ……見切ったのか！

　ザカルは弾かれたことに驚愕と共に感心を覚える。一旦ザカルは数歩ほど退く。

「その、光の球……なるほど、感知の結界か、光の球に触れると、自動的に敵の行動を感知、例え私の攻撃が見切れなくとも、事前に察知できるというわけか」

　ーーバレたか……！　全く、勘がいい！　しかしバレた所で問題はないザカルの攻撃は感知できる！　これならーー

「ではこれならどうかな、オークくん！」

　ザカルは再び瞬時に近づきーー

　ーーっ！　速い！　だが感知さえすれば！！

「受け止めてみろ、人外風情が」

　レーデンスの結界は、全てのザカルの動きを感知した。それが果たして彼にとって幸運だったのか不運だったのか。

　恐らく、後者だろう。

　ーーこれは……！

　凄まじい速度で振り抜かれるザカルの拳を、一度レーデンスは弾く、するとザカルはその弾かれた拳を一瞬で引き戻し、再び打った。

　打つ、打つ、打つ。

　その単純な動作の繰り返しだがそれがーー

　ーー異常にっ！　速すぎる！！

　凄まじい拳の嵐がレーデンスを襲う。全ての攻撃は感知できる。感じ取れるしかし、この暴風雨のような拳の雨を完全に防ぎ切るなど不可能だ。

　レーデンスにとって感知できるが故に、なおさらそう実感できる。

　そしてさらにどうしようもなく、絶望的なのはーー

「ほう、素晴らしいな、ならばーー」

　この攻撃を繰り出すザカルには余力がまだあった、ということだ。

「両手てならどうかな……！！」

　片手で放っていた、拳の嵐はさらに勢いを増し、盾や剣でそれをかろうじて受け流していたレーデンスはついに、その拳の雨を体に受けた。

「ぐあああ！」

　レーデンスの体に、衝撃が稲妻のように駆け巡る。

「終わりだよ、オークくん……ここで死ね！」

　ザカルは最後の一撃と言わんばかりに、右ストレートをレーデンスに向かって放つ。

　レーデンスの顔面を、拳がえぐるかと思ったその時、レーデンスは最後の力を振り絞り、ザカルの拳を加速し切る前に受け止めた。

「な！？」

　レーデンスは崩れ落ちそうになる体を、ザカルの拳に掴むことによりかろうじて堪えてニヤリと笑う。

「例え、私1人で叶わなくても、2人ならどうかな……！？」

「何を言ってーー」

　次の瞬間ザカルの腕が胴から別れを告げた。

「な！！　バカな！！」

　ザカルの腕を切り取った者は叫んだ。

「テメェから貰った！　アドバイスは参考にしなきゃな！！」

「やってくれたな、ドンキホーテ！！」そ