第52話 決行
フェルン家、それは王都エポロの軍事を司る名貴族である。主な仕事は国の防衛を任されている。
また戦争などの有事の際には王都に常駐する騎士団、兵士団を指揮し、辺境伯の軍と連携したり、とかなり重要な位置についている。
また平和な今の世の中でも、冒険者達や騎士団の指揮をとり、驚異度の高い魔物の討伐を行ったりしているため、決して仕事がないわけでは無く、むしろ必要とされている、部類である。
現に一ヶ月前のリヴァイアサン事件では、迅速に騎士団の指揮を取り、被害を最小限に留め都民から高い評価を受けている。
そんな名家が、まさか関わっているとは、ドンキホーテだけでなくロラン、レーデンスもかなり驚きを隠せなかった。
「銃を供給できている時点で、資産のある人物だとは、思っていたがまさかフェルン家のしかも、まさかザカルさんだったなんて」
ロランの言葉に「へ?!」とドンキホーテは驚く。
「お前、知ってんのか!? ザカルってやつのこと!?」
ドンキホーテの驚きように対しロランは冷静に返す。
「知ってるも何も、フェルン家現当主で、防衛の大臣だよ。異例の二十代での就任で、かなり有名なんだけど?」
「フェルン家は知ってるけど、そこまでは知らなかった……」
「ドンキホーテ……君は相変わらずバカだね」
「なんだとぉ!?」と、ロランの言葉にドンキホーテはキレる。しかしロランは無視して、話を続けた。
「僕はその昔にパーティで少し彼と話したこともあってね、印象に残ってる、かなりの好青年だったと思うんだけど、まさか彼が……」
「つまり私たちは……大貴族と戦うことになるのか。はぁ……」
レーデンスはあまりの事の大きさに頭を抱えた。それもその筈だ、花クジラという、化け物だけでなく、まさかそんな厄介そうな相手に戦うことになるとは思っても見なかったのだ。
「しかし、なぜ君はそんなことを知っているんだ?」
当然の疑問をロランはぶつける。
「まず、頭ごなしに君を疑う様な真似はしないと誓おう、まずレーデンスの言う通り君は、堂々とこんなところに、姿を現し話をしてくれた。
その気になれば人気のない、衛兵がいない様な所に誘導することだって出来たはずだ、だからこそ君には敵意はないと仮定できる」
「しかし」とロランは続けた。
「それでも君を完全に、信用したというわけではない。大貴族、フェルン家がこの繰り返す時を作り出しているというのは、僕は道理が通っていると思う。
フェルン家ほどの財力があればそれができると思える。しかしだ、なぜ君がそれを知っているのか、それを教えてくれ」
それを聞くと、スノウは一瞬だけ考える素振りを見せた後、口を開いた。
「いいでしょう、しかし、単純な理由ですよ」
「構わない、君の素性が知りたいんだ、全部は言えないとしても、教えられる範囲で構わない」
するとスノウは「わかりました」と言ったポツポツと喋り始めた
「私は……ただ目が眩んだのです……彼のいう永遠に。
始まりは数年前に開かれたザカルの主催するパーティでした。
その時に彼は言ったのです、「君、永遠の命に興味はないか」と、最初は冗談かと思いました。しかし、私は興味本位ではいと答えてしまったのです。
私はご覧の通り体が弱い、そう寿命が長くないと自分でも思っておりました。そのため、永遠の命というのが嘘だったとしても魅力的に感じてしまったのです。
彼は、私を人気のない個室に連れて行った後言いました、時を繰り返すことのできる邪神を召喚の方法を知っている、そして召喚の為に私に資金を融通して欲しいと。
今聞いてみれば、おかしな話です。でも私は彼の言うことを信じてみることにしたのです、なにせ永遠の命が欲しかったものですから。
そうして私は彼に資金を融通することにしました。そのことに喜んだ彼は見返りに私に繰り返す時の中でも記憶を保持できる能力を授けてくれたのです」
スノウは「これが私がザカルを知る理由です」と締めくくった。
ロランはそれを聞き頭を抱え考えに耽り始める。黙りこくったロランの代わりにレーデンスはスノウに話しかけた。
「それで貴方は、その、時の繰り返しをなぜ止めようと?」
「それも単純なことです」とスノウは言い、続けた。
「冬が……冬景色が見たかっただけなんです……」
「ただそれだけなんですよ」というスノウの言葉にはどこか、哀愁が感じられ、嘘を言っていないように感じた。
スノウはフフと笑い、言った。
「私も、そしてここにいるシャーナも貴方達と同じということです。未来が見たくなった、それだけなのです。
胡散臭いかもしれませんが、でも確かなのです、これ以上の説明を私はできません。
そして何より――」
スノウは、思い詰めた口調で話した。
「誰かの未来を奪い今を貪るというのは、とても居心地が悪いのものなのです。信じてくださいますか……?」
「信じるよ」
黙っていたロランは口を開いた。
「君たちがなぜ今になってこんなコンタクトを、取ってきたのか考えていた。ルーオ・オホースの消滅それが原因だね」
スノウが頷いた。
「はい、その通りです、ルーオ・オホースのあの一つ目の悪魔の消滅……それが私たちにとって、反撃の起点となりました。
消滅を感じとった瞬間、監視が解かれた瞬間、今しかないと思ったのです」
「やはりそうか、これで僕に今までコンタクトを取ってこなかったことも納得できる。
そして、君たちの目的も、納得ができたよ、未来が見たいそれは僕も同じだ。でも何度もいうが完全に信じたわけじゃない」
「しかし」とロランは真っ直ぐスノウを見つめた。
「今は、それでも君たちを信じて動いてみるしかないようだ。どのみち後、一日しか時間はない、迷っている時間は僕たちには無いんだ」
「じゃあよ」とドンキホーテが口を挟んだ。
「とりあえず、納得もできたことだし、乗り込むか? フェルン家によぉ!」
「全く、簡単に言ってくれる。でもそうだね。悠長には言ってられない、乗り込むなら今日、決行すべきだ」
「それに」とロランは言い、ニヤリと笑いながら続けた。
「僕の予想通りなら奴は今、無防備だ」
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