第43話 攻勢に出る

「貴族、か……」


 レーデンスはそう呟き、天井を見上げた。たしかに筋が通っている。

 古代兵器である機関銃を揃えられるのは、ある程度の財力がある者でないと、弾すら買えず宝の持ち腐れとなるだろう。


「しかし、なぜ、敵は機関銃など持ち出したのだ……」


 だがここで同時に、レーデンスはある疑問に行き着く。


「空に、監視用の魔物を放つほどの用意周到さ、だというのに……なぜここで、機関銃という特徴的な武器を用意したのだ? お陰でこうして素性が特定できつつある」


「おそらく」とロランは続ける。


「機関銃は……銃は僕にとって脅威的な武器だからだ」

「どういうことだ? ロラン」


 レーデンスの問いに、ロランは答えた。


「子供の体を持つ僕ではおそらく、銃弾を防ぎきれない、いかに三十年生き、さまざまな魔法が使えると言えども、この体は君たち戦士ほど頑丈じゃない。

 僕を確実に殺すためだけににわざわざ機関銃なんてものを持ち出したと言えるだろうね」


 そうかとレーデンスは考え直した、目の前にいるのは、大人びた雰囲気を持っているといえど、ドンキホーテより年下の少年なのだ。

 少なくとも肉体はという、言葉はつくが、レーデンス達よりも頑丈ではないことはたしかである。


「魔法の防御壁、魔法障壁で、銃弾の威力を低下させることは可能だろうけど、流石に機関銃ともなれば、防ぎきれない」


「まったく、いつもこの体には悩まされる」とロランはそう締めくくる。


「なるほど……つまり敵は、ロラン、君を殺すことに集中し始めているということか……この繰り返しの中で死ぬと君はどうなるのだ……?」


 ロランは、険しい表情をしながら、言った。


「わからない……」


 ロランの表情には、険しさのほかにほのかな恐怖も匂わせている。自分が死ぬそれはロランにとって最悪な結末の一つだ。

 ロランが死ねば、果たしてどうなるのか、不確定要素が多すぎる。

 この特殊な繰り返しの時間の中で、特異点とでもいうべき存在のロランは間違いなく異質だ、そんな中で万が一、死んだらどのような結果をもたらすか。ロランにもわからない。


「そうか、すまない、不吉なことを聞いたな」


 レーデンスが謝る。


「別に良いよ、そんな考えに至るのは当たり前のことさ、ところで、いつになったらドンキホーテ、君は頭が動き出すんだ?」


 ロランは呆れながら、ドンキホーテに向かってそういう。今まで惚けていた少年は、ハッと我に帰った。


「あ、ああ、すまねぇ、サベリン家の衝撃が過ぎてな……」


 ドンキホーテはそう言って、頬を叩き、いつもの調子を取り戻す。そして「俺からも質問があるんだ」と切り出した。


「なぁロラン、どうしてお前は、繰り返す時間を中で記憶が維持できるんだ?」

「ああ、言ってなかったね、そういえば」


 ロランは胸元からペンダントを取り出す、そのペンダントは貴族の子供がつけるには無骨で少々原始的と言わざるを得ない無骨な角が丸い石のペンダントだった。

 その石のペンダントの表面には五芒星が描かれており、その中央には、瞳のようなものが描かれている。


「それは……なんだ?」


 ドンキホーテが不思議そうにその首飾りをまじまじと眺めていう。


「これは、母上からもらった、お守りだ、なんでも旅の商人からもらったらしい、おそらくなんだがこのペンダントのお陰で僕は記憶を保持できているのだと思う……おそらくね」

「なんだそりゃ、もしかして、記憶を保持している理由ってわかってねぇのか?」


 ドンキホーテの問いに、「そうだよ」とさらりとロランはいう。


「でも、原因はこれしか考えられないんだ、結局、図書館で調べてもこのペンダントの模様の意味は分からなかったけどね、でも何かしらの力があるんだと思う」


 そう言ってロランはペンダントを再び胸元にしまった。


「とにかく僕の記憶が保持しているのはそういうわけさ」


 そのまま、話を次に進めようと、ロランは話題を流す、ドンキホーテは納得できなかったが、ロラン自身にわからないことを問い詰めてもしょうがないと、妥協した。


「さて、話を元に戻そうか、おそらく、犯人は貴族か、商人のどちらかだ、答えを知っているであろう刺客は、尋問する前に、衛兵に連れていかれて牢屋の中。

 まあ結局、会いに行っても、口を割りはしないだろう」

「なんで、言い切れんだ?」


 ドンキホーテは首を傾げた。


「前の周回で、刺客の一人を拷問したことがあるんだ」

「まじかよ……」


 まさかの発言で、少々ドンキホーテは引いてしまう。ロランは気にせず続けた。


「刺客は結局、何も吐かなかった、つまり無駄なんだよ、奴らに話を聞くのは」

「では、どうするのだ? どうやって、情報を集める?」


 レーデンスが尋ねる。ロランは、ニヤリと笑った。


「僕達がまずは情報を収集するには、「ルーオ・オホース」が邪魔になる」


「そこで」とロランは続けた。


「僕に考えがある」


 幼い少年は不敵に笑った。






 翌日、繰り返す一週間の二日目、一つ目の化け物、「ルーオ・オホース」は屋敷にいるドンキホーテ達を捉えていた。


 そして、屋敷の北の住宅の屋根の上には不審な二つの人影。それは黒ずくめの服とフードを被った、暗殺者だった。

 その刺客の片方は細長い鉄の筒と木材を組み合わせた無骨な古代兵器、「ライフル銃」を両手で構え、窓から屋敷の中を覗いていた。

 もう片方の暗殺者も同じくライフルを構えて、屋敷の窓を見る。


 すると無用心にもドンキホーテが窓に近づく、暗殺者はニヤリと笑った。標的がここまで無警戒にも近づいてくれるとは、都合がいい。

 黒づくめは引き金を引いた。


 バン、とけたたましい発砲音が聞こえ、銃口から弾丸が回転しながら射出される、それはまっすぐと飛んでいき――


 ドンキホーテの頭を貫いた。


 これで一人は完了だな、暗殺者は、達成感に包まれる。すると相方の黒づくめも、引き金を引いた。どうやらもう一人の標的である。ガキを見つけたようだ。

 暗殺者達の視線の先では胸から血を吹き出して倒れるロランの姿があった。


 あっけないものだ。刺客が帰路につこうしたその時だ。


「まて」


 相方の黒づくめが引き止める。


「なんだよ、もう終わっただろ?」

「いや、見ろ」


 引き止めた方の黒づくめはドンキホーテの死体に指をさした。

 すると、死体はブクブクと皮膚が泡立ち、赤い液体へと変化していった。


「……っ! デコイか!」







「うまくいったようだね」


 ロランは銃声を聞き、そう呟く。


「あの一つ目の化け物の、デコイの魔法だって気付かなかったみたいだな」


 ドンキホーテが「言い様だぜ」と笑う。


「ドンキホーテ、離れるなよ」


 レーデンスが注意を促す。「はいよー」と呑気に注意された本人は返す。

 ドンキホーテ達は今付かず離れずのまま、通りを早歩きで移動していた。


「目的は忘れてないよね」


 ロランが言う。するとドンキホーテは「わかってるよ」と自信満々に答え、続けた。


「ルーオ・オホースを今日ぶっ潰す!」

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