第42話 真実を探して

 ジェーンが泣き止んだ後、ドンキホーテは荷物を持ち出し、彼女に別れを告げた。冒険者の宿に出ると、すでに身支度を済ませた、レーデンスと、ロランがいた。


「遅かったね、ドンキホーテ」


 ロランがそう言う。たしかに手伝ってもらった割に、時間を食ってしまった。ジェーンが泣き止むまで一緒にいたからだ。しかし、無駄な時間だとはドンキホーテは思わなかった。


「まあ、ちょっとな、約束をして来たのさ」

「大事な約束?」


 ロランは食いつく。


「ああ、大事な、とっても大事な、な!」


 そう言ってニヤッと笑うドンキホーテ、それを見てロランは「そうかい」と言って、それ以上追求しなかった。


「では、行くとしよう、ロラン、案内してくれ」


 レーデンスはそう提案した、ロランは「わかった」と言い、先導する。もう陽が傾き始めていた。朱にそまり始める街はどこか幻想的な風景を醸し出す。

 空に浮かぶ巨大な一つ目の化け物が見下ろしていなければ、ちょうどいい散歩道になったろうとドンキホーテは思っていた。

 あれからドンキホーテは不変のアビリティを絶やしていない、襲撃を受けてからコツを掴み今やほぼ常時発動ができるようになっている。

 しかし、一つ目の化け物が常に見えるという現状、それはあまり気持ちの良いものではない、もう慣れたとはいえ、上から常に視線が降り注ぐのは言いようもない不快感に襲われるものである。


「そういえばドンキホーテ、「ルーオ・オホース」に何か変化はあったか」


 レーデンスが歩きながらそう聞く、ドンキホーテは首を横に振った。


「いんやぁ? 相変わらず俺たちを見下ろしてやがる」


「ハァ」とドンキホーテはため息をついた。


「そうか、やはりただ見ているだけか、気持ち悪いな」


 レーデンスは率直な感想を述べる。「そうだなぁ」なんてドンキホーテ呑気に言い、続けた。


「まったく異常だぜ、なんでここまでするんだろうな?」

「それは僕が一番知りたい」


 ロランは歩きつつ、ため息を吐くように言った。


「なにせ、三十年、僕を閉じ込めてきたんだ、是非その理由を教えて欲しいね」


 皮肉げに、そう語る彼の語気には怒りが籠っているようにも思われた。

 そうだ、知らねばならない敵の目的を、わざわざ刺客まで寄越すほどの執念を抱いているのだ。その理由を探れば、自ずと敵の輪郭というものがわかりかけてくるのではないか。

 ドンキホーテは拳を握りしめる。


 このふざけた時の牢獄から解放するのだ。ロランもレーデンスも自分自身の夢も。




 そしてロランの案内の元、ドンキホーテとレーデンスはついにロランの両親の別荘に到着した。


「うお……」


 ドンキホーテは思わず言葉が漏れる。それもそのはずだろう。ドンキホーテの目に移るは人が何人住めるかという大豪邸それに加えて、巨大な庭。

 その豪邸は住宅地の中にポツンと存在し、異彩を放っていた。

 他の家と違っては四方を鉄の柵で覆われており、どうやら一箇所だけ、鉄のフェンスが取り付けられておりそこが豪邸の敷地への入口となっているようだった。

 ガチャリと、ロランはフェンスの鍵穴に鍵を入れ、開けた。


「さあ、行こう二人とも」


 ロランは慣れた様子で敷地内に入っていく、ドンキホーテとレーデンスも後に続いた。


「巨大だな……」


 レーデンスの呟きにドンキホーテも「ああ……」と惚けた様子で呟く。そのままロランに連れられドンキホーテ達は、豪邸のとある一室へと案内された。

 それは応接室だった、入ってくる途中、ロランの言う通り人っ子一人確認できなかった、本当に特定の期間だけ、使う豪邸なのだろう。

 正直言って信じられない、こんな豪邸を常に使わないなど、ますます、ロランの素性が気になるところだ。

 そしてドンキホーテとレーデンスはロランに促されるまま、応接室のソファに座った。

 ロランは二人の対面のソファに座り、


「じゃあまずは今回起きた事件の整理から始めようか」


 と言って、話し始めようとした時だ。


「ちょっと待った!」


 ドンキホーテは待ったをかける。


「なぁ、約束したよな! お前の正体を教えてくれねぇか?」


「ああ」とロランは思い出したかのように、呟き、さらりと言った。


「僕は、ローラン・オウス・ザベリン、ザベリン家のものだ」

「は?!」


 レーデンスは思わず、そう口に出し、ドンキホーテはアングリと口を開けた。


 ザベリン家、それは王都に住む、大貴族の名である。

 先祖代々王家を補佐し、挙げ句の果てに裏で王家を操っているのではないかと噂されるほどの貴族だ。

 代々、「知は財産なり」と言う座右の銘を掲げており、知識のみで王と国を支えてきたこの一族は、王からの信頼も厚く、政治への影響力も高い。

 王立図書館を作るよう進言したのもこのザベリン家といえば、王政へと影響力の大きさがわかるだろう。

 そんな一家の一員だとこの少年は言った。


「あ、あのザベリン家のご、ご子息でいらっしゃいますか!?」


 レーデンスは思わず畏まった口調でそう言う。通りで金を持っているはずだ、おそらく両親にもらっているのだろう。


「お、おい、じゃあお前、いや貴方様は……」


 ドンキホーテも同じく、畏まった口調にしようと思うも思ったようにできない。それを見てロラン言う。


「やめてくれ、二人とも気持ち悪いな、いつもの口調でいいよ」

「わ、わかった……」

「わかりましたでござりまする……」


 そう言われて、レーデンスは直せたが、ドンキホーテは未だによくわからない敬語のままだ。

「まったく」と、だから言いたく無かったんだ、と言わんばかりの言葉をロランは吐き出した。


「話を元に戻すよ、今回起こったことの事件の振り返りだ」


 そうしてロランは喋り始めた。


「今回、一日目にしてさっそく襲撃が起こった、僕の経験上、いつも通り敵の行動はかなり素早い、それで僕はある仮説を立てている」

「なんだ? ロラン」


 呆けているドンキホーテの代わりにレーデンスが問いかける。


「暗殺者は、僕達と同じく繰り返す時の中での記憶を保持している。花クジラの召喚者と同じくだ」

「なるほど、たしかにそれならばなぜあそこまで敵が素早く私たちの動きに対応できたか、辻褄があう、繰り返される時の中での常に連携を取り合っているのだな」


 ロランは頷く。


「その通りだ、レーデンス、そして今回は機関銃を使ってきた、古代兵器である機関銃をね、そんなもの揃えられるのはごく一部の者だけだ」


「例えば」とロランは続ける。


「商人、それも、大がつくほどの莫大な富を持っているものかもしくは――」


 ロランはうつむきながら言う。


「王都に住む貴族か……」

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