第37話 図書館での戦い
「さあて、次はテメェの番だ!」
ドンキホーテは剣を引き抜き、一人となった暗殺者に切っ先を向けた。
「ちっ、テレポートの魔法か……」
暗殺者の男は舌打ちをしながらそう呟き、ドンキホーテから距離をとった。
そしてちらりと、男は殴られた相方を見る。流石に死んではいない、しかし気を失っているようだ。
「馬鹿が、油断するからだ」
そう男は呟いた。するとドンキホーテはがなる。
「なに、ブツブツ言ってんだ!」
そしてがなりながら、剣を片手で水平に構え、横一線に薙ぎ払うべく、男に向かって突進する。
広大な図書館の地下最下層を、駆け抜けるドンキホーテ、男との距離はだいぶ取られたもののそれを難なく、肉薄していく。
そして、剣を振るう直前に、くるりと翻し刃のない部分を男に向け、平打ちを繰り出した。
しかしその一撃は暗殺者には当たらない、バックステップされ、紙一重で避けられる。
だがドンキホーテの攻撃は終わらない、踏み込み、床を割って、頭をかち割ろうと、上段からの一撃を繰り出す。
「くっ!」
速い、そのドンキホーテの攻撃に男は避けられず、片手に持った銃を両手に持ち、上段から迫る剣をそれで防ぐ。
機関銃と剣がぶつかり合い、空気が揺れた。ドンキホーテは力を込め剣を押し当てる。男は力を込めて剣を押し返していた。
二人の力が拮抗し銃身と剣が鍔迫り合う。
その時だ。ドンキホーテは力を抜いた、拮抗していた、鍔迫り合いが突如崩壊し、男は体制を崩してしまう。
ドンキホーテはそれを見逃さず、男の腹に蹴りを叩き込んだ。
「グハッ!」
暗殺者の男は肺の中の空気を口から無理やり吐き出させられ、後ろに吹っ飛ぶ。男は本棚に激突した。
本のいくつかが棚から落ちた。
ドンキホーテはそのまま追撃をかけようとしたが、とある視線に気がついた。
その正体は螺旋階段の手すりから見下ろしている野次馬達だった。
平日で数少ないとはいえそこそこの人数いる。おそらく図書館の利用者がなにがあったのか、気になり確認をしにきたのだろう。
ドンキホーテは野次馬達の方に向かい、叫ぶ。
「おい、テメェら! あぶねーぞ! 早く逃げねぇと殺されるぜ!」
かなりドスの効いた、少なくともドンキホーテ自身はそう思っている声で、彼は注意を促した。
野次馬達はその言葉を聞くと、恐怖を覚えたのか黙ったまま階段を駆け上がり逃げていった。
ドンキホーテはそれを確認するとやっと戦いに集中できると、暗殺者のいる方に目を向けた。
「あ?!」
しかし、そこに男の姿はない。忽然と消えてしまったのだ。
「な、なんだ? 逃しちまったか!?」
ドンキホーテがそう言った次の瞬間、弾丸がなにもない空間から、射出された。その弾丸はドンキホーテを襲い、身体中に激痛を走らせた。
「ぐおおお!」
呻きながらドンキホーテは遅れて盾を構え、銃弾を防ぐ、やがて、弾丸の雨は止み、カラカラという薬莢の音が聞こえるのみとなった。
「くっそ! いてぇ!」
悪態を吐くドンキホーテ、しかし逆に言えば悪態をつける程の余裕がまだあるということでもある。
しかしどうしたものか、ドンキホーテは考える。
「透明になれるんだったな、そういやぁよ」
そうぼやき、どうすればいいか考えるも、いまいちいい考えが思いつかない。
とりあえずドンキホーテは、急いでその場を離れ、本棚を背にした。
本棚が背中にあれば少なくとも背後に回られる事はなくなり、襲われる方向を限定できるという考えに至ったからである。
「来るならきやがれ!」
するとどこかでカチャンというなにか物が置いたような音がした。ドンキホーテは思わず、その音のした先を見る。
見た先にあったのは機関銃のマガジンだった。マガジンを投げて気を晒したのだ。なんのために、そんな事はドンキホーテ自身、わかりきっていた。
ガチャリ、ちょうどドンキホーテの左耳がそのような音を捉えた次の瞬間。
再びけたたましい音とともに鉛の雨がドンキホーテを襲った。
「くっ!」
ドンキホーテから見て左からくる銃弾の嵐、ドンキホーテは遅れて盾を構えた。胴体に数発、銃弾を食らいつつ盾で残りの弾丸を受け止めた。
「くっそ、卑怯もんが!」
相手が透明になっていることに苛立ちを覚え、悪態を吐くもそれで相手が正々堂々と姿を見せるわけでもなかった。
そして銃弾の雨も止む、ドンキホーテは今すぐにでも打たれた方向に飛びかかりたかったが、おそらくそれは無駄だ、と判断した。
もうとっくに相手の移動は済んでいる筈だ。
ドンキホーテのできる事は本棚を背にしていつ来るかわからない、相手を待ち構えることだけだった。
今か今かと、ドンキホーテが相手を待ち構えているとふと首に冷たい感触を感じた。ドンと、銃撃の音がしたかと思うと、ドンキホーテの首筋に一本の細長い針のようなものが刺さっていた。
「な!?」
ドンキホーテは驚く、いつのまにか暗殺者が側にいたのだ。おそらく首に感じた冷たい感触は銃の感触だろう。
そうとわかると、彼は剣をがむしゃらに振るい、空を切り裂いた。手ごたえがないことに気がつくと、ドンキホーテは首に刺さった針を左手で抜く。
幸い、深くは刺さっていなかったためすぐに抜くことができた。
針の刺さった部分を、触りながら、「いてて……」と呟き、暗殺者の男がいないかあたりを見回すドンキホーテ。
すると前の離れた空間が揺らぎ、男が水面から顔を出す魚のように浮かび上がり姿を現した。
「テメェ、やっと、出てきやがったか!」
行くぜ! とドンキホーテは大地を蹴り肉薄しようとしたそのときだ。
「眠れ」
男がそう呟く、するとドンキホーテの視界が揺らいだ。なんだ、とそう言う暇もなくドンキホーテは片膝をつき、小型の盾が装着された左手で頭を抑える。
眠い、強烈な睡魔が突然やってきたのだ。
「て、めぇ、あの針になんか仕掛けをやりやがったな……!」
男はなにも言わない、その代わりに機関銃の弾を装填していた。
まずい、寝てしまえば、防御ができないまま、あの機関銃の銃弾を食らうことになる。
ドンキホーテは必死に闘気を集中させた。
だが、眠気に逆らえない、ドンキホーテはそのまま床に突っ伏してしまう。
「睡眠の魔法が効いたか……」
男はドンキホーテに近づいていく、そして至近距離で、銃口を彼に向けた。
「眠っているときに闘気のガードはできまい」
そして男は引き金に手をかけた。
「ドンキホーテ!! 起きろ!」
その時、一人の男の声が響き渡った、レーデンスだ。男は余裕たっぷりに振り向き、声がした方向、上を向く。
レーデンスもまた落ちてきていた。どうやら元いた場所から飛び降りてきたらしい。
レーデンスはドンキホーテと同じく落下制御の魔法が直前に発動し、体勢を崩しながら着地した。
「ドンキホーテ!」
レーデンスはそう言って男に飛びかかろうとするも、痛みが全身に走り、思わず膝を再び着いてしまう。
それを見て男はいう。
「無駄だ、一度かかれば一日は起きない」
「残念だったな」と男はそう締めくくる。しかし暗殺者はレーデンスに注目が行き気づいていなかった。
背後に立ち上がった者がいることを。
その者、ドンキホーテは無言で剣を上段に構え、振り下ろした。
「何!?」
男は、すんでのところで気がつき再び、銃で剣を防ぐも、すぐさまドンキホーテが繰り出した、回し蹴りをくらい男はドンキホーテから見て右に吹き飛ばされる。
本棚に激突する前に男は片手と両足を地面につき、勢いを殺す。なんとか激突は免れたものの、男は叫ぶ。
「どういうことだ……!」
たしかに、睡眠の魔法は効いたはずだ、しかしドンキホーテは今二本足で立っている。強力な睡眠魔法をなぜ破れたのか、自力で破ることなど不可能なはずだ。
だが、疑問に思う前に、男は早く目の前にいるドンキホーテを始末することにした。この少年は危険だ。たしかに暗殺者としたの勘が告げていたからだ。
暗殺者の男は魔法が込められた石、ルーン石を地面に叩きつける。
すると石は割れ中から、太陽かと言わんばかりの光が溢れ出た。閃光の魔法と呼ばれる。眩い光で相手の目を眩ます魔法が込められていたようだ。
ドンキホーテは瞬時に目を瞑り、閃光を防ぐも、男は再び透明化し姿を消す。
ドンキホーテがあたりを見回していると、レーデンスが叫んだ。
「ドンキホーテ! すぐ近くの後ろだ!!」
ドンキホーテは剣を逆手持ちに切り替え、振り返りながら剣で虚空を薙ぐ。ガシャンというなにかが落ちる音とともに、剣先から鮮血がこぼれ落ちた。
そして突如、ドンキホーテの目の前の空間が揺らぎ、その揺らぎの中から男が現れた、胸の部分の衣服が破れ肌に一直線の傷が入っていた。
男はそのままバタリと倒れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます