第6話 オーロ村へ
そして、次の日、オーロ村遺跡調査当日、ドンキホーテ達は特に遅刻することなく、朝早くから集合地点である、王都エポロの外に通じる門の前に集まっていた。
そこにはたくさんの初心者の冒険者達が集まっていた。
「もうすぐ馬車が到着します、冒険者の皆様はもうしばらくお待ちください!」
今回の調査に参加する博士らしい女性がそう呼びかけている。
ドンキホーテ達も指示に従い、適当なところで待つことにした。
「いやあ、それにしても多いな」
ドンキホーテがそういうとレーデンスは頷く。
「初心者向けの依頼とはいえ、まあまあ報酬も良かったからな、それ故にだろう」
「なるほどなぁ」とドンキホーテが納得していると、後ろから下卑た笑い声をあげながら、あるパーティが集団に加わってきた。
気になって振り返り見てみると、そのパーティにドンキホーテは見覚えがあった。
確か、ドンキホーテがパーティを追い出される原因になったジャックとか言う男とその一味だ。
「げ」
ドンキホーテは思わずそんな声を上げてしまう。するとドンキホーテに気がついたのか、ジャックは顔をを歪ませながら言う。
「これは、これは、追放されたドンキホーテ君じゃあないか!」
ドンキホーテは嫌そうに舌打ちする、いちいちカンに触る奴だが、また喧嘩を起こそうものなら、あの時のように自分が悪者にされかねない。
何よりも、ここには依頼主である遺跡調査の博士がいる。こんな堂々と喧嘩を起こすような冒険者パーティを果たして依頼主が見たらどう思うのだろうか。
そう考えるとドンキホーテは、下卑た顔面に拳が吸い込まれるような感覚を覚えたが、必死に堪えた。
「何の用だよ」と努めて冷静に聞き返す。後ろにいたレーデンスも前の自分を虐めてきた男だと気付くとジャックを睨みつける。
「ヘッ、手はださねぇか、お利口ちゃんだねぇ」
ギャハハとジャックとその一味が笑う。
「何の用かって聞いてんだ!」
ドンキホーテが語気を強めて言う。するとジャックがニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら言った。
「この前のオークと組んでるみたいだなぁ! おいオークいいこと教えてやるよ、このガキはなぁ「闘気」が使えねぇんだぜ? だから前のパーティでも万年荷物持ちだったんだってよ!」
再び、ジャックとその取り巻き四人衆が笑い出す。どこからその話を聞いたのか。ドンキホーテは必死に、殴りたい気持ちを我慢する。
「闘気」それは、戦士が使う、肉体から生み出される特殊なエネルギーのことである。
またの名を「チャクラ」「アルトラ」などとも呼ばれるこのエネルギーは、身体能力を強化したり、防御力を高めたり、はたまた免疫力を上げるのに使用される。
他にも、「闘気」を使うものは、様々な技が使える他、稀に特殊能力「アビリティ」を覚える者もいると言う。
とにかく冒険者を続ける上で「闘気」を使えるか使えないかは、大きな差ができることになる。
「闘気」を使えない冒険者というものは大概、戦士の役割に着くことができず、大抵、荷物持ちになるか、魔法使いなどを目指すことになるのだ。
しかしドンキホーテが目指すのは騎士であり、英雄なのだ。決して魔法使いではなかったため、ドンキホーテは魔法を習おうとしなかった。
そのため、荷物持ちという役割に甘んじてきたのである。
「闘気はいつか使えるようになる! 見とけやテメェら!」
ドンキホーテは、そう言い返した。しかしそれはジャック達の笑い声をより一層、大きくさせるだけだった。
「闘気」が目覚めるタイミングは人それぞれである、例えば、死の危機に瀕する時ということもあれば、肉体を鍛え抜いていたらいつのまにかということもある。
だからこそドンキホーテは、自身の「闘気」がいつ発現するのかわからない。しかしドンキホーテは信じていた、いつか自分が「闘気」を使えるようになると。
そう信じてはいるのだが、こうも笑われると流石に腹が立ってくるのは事実だ。ドンキホーテは必死に我慢しようとしたが、もはや我慢の限界だ。
ドンキホーテは自分でもコントロールできないほどの怒りが心の内側で渦巻くの実感した。自然と拳を握りしめる。そしてその拳を振りかぶろうとしたその時。
レーデンスが口を開いた。
「ほう、ではお前は、そんな闘気を使えない者にまんまと負けた、間抜けということだな」
その言葉に、下卑た笑い声が止まった。ジャックは「なんだと」と言うとレーデンスはさらに畳み掛ける。
「もう一度言っておこうか、貴様を倒すのに「闘気」など必要ない。それほどの雑魚だと言ったんだよ」
「て、てめえ!」ジャックは悔しさのあまり顔を真っ赤にしてレーデンスに殴りかかろうとするも、周りの目を気にして、抑える。
「オーク、てめえ覚えてろよ……」
ジャックはそう小声で言った。するとそのタイミングと同時に、こんな声が響いた。
「冒険者の皆様、馬車が到着しました! 遺跡調査に参加される方はお乗りください!」
どうやらオーロ村に出発する時間が来たようだ。ジャックは舌打ちをして一味とともに、馬車に乗り込む。
ドンキホーテ達もまたジャック一味とは違う馬車に乗った。
そして馬車は出発する。揺れる馬車の中ドンキホーテはレーデンスに話しかけた。
「なあ、レーデンス。ありがとうな」
「……礼などいい、それよりもお前をダシにしてアイツを馬鹿にして悪かった……」
「別に気にしちゃいねえさ、本当のことだしな!」
ドンキホーテはダハハと笑い言った。
「俺はまた喧嘩するところだった、レーデンスが言い返してくれなかったら危なかったぜ」
ドンキホーテの感謝に対して、レーデンスは少し照れ臭そうに「そうか」と返した。ドンキホーテは微笑む
――レーデンスとパーティ組めて、よかったな
密かにドンキホーテはそう思った。
こうして馬車は進んでいく、ドンキホーテ達を乗せて。
しかし彼らは知らない、この簡単かと思われた依頼が、後にとてつもない大事件に発展することを。
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