One Episode

「クラス、同じだね!」


手を握り合いながら、そう言い合う女の子達を素通りして、自分のクラスを確認する。

私の中学校は、廊下にクラス表を張り出す。

混雑している廊下を一生懸命進み、1組から見ていくと


「あった…」


3組に名前があった。

と、同時にチャイムが鳴った。

急に自分たちのクラスへ足を運ぶ同級生の波にのって、3組の教室に入る。

まだ、先生はおらず、適当にみんな話をしている。


黒板に貼ってあった、席順を見て席に座る。

いつものように手提げから、赤色のブックカバーに囲まれた本を開いて、自分の世界を広げる。

私は、1年生2年生と「何か気に食わない」と同性の先輩と同級生にいじめられていた。

そんな人に声をかける人もいるわけなく。


「はーい、席着け」


運動系の先生が教室に入ってきた。


普通のこの世界に、とびきり綺麗な顔立ちの転入生も来ず、別に窓際の席でもないので、頬付きながら話を聞くこともなく、ただぼんやりと話を聞く。

そんな私の生活のスパイスの部分になっていることが1つだけある。


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【今日も好きだよー】


帰宅して、携帯を開くとこんなメッセージが来ていた。

1通ではなく、3通も。

なぜか。

答えはいたってシンプルだ。

男で私は日々遊ばせていただいているからだ。


【ありがとう♡】


そう返す。

相手は誰か。

同じ中学校の人もいれば、ネットで知り合った、名前も顔も知らない人もいる。


なぜ、何股していてもばれないか。

「私と〇〇くんとの秘密だよ」

そう言えば、男は黙る。


いじめが原因で承認欲求が不足した私は、男でその寂しさを埋めようとした。


【今日、電話する?】


返事が早い男を好く。


【いいよー何時がいい?】

【22時とかどう?】

【OK!】


「ご飯できたわよー!」

「はーい、今行く!」


携帯をベッドに投げ捨て、急いでリビングに行く。


「今日の学校はどうだった?」


家族4人でお箸をすすめていると、いつものように質問が飛んできた。

私のお母さんは私の今日あったことを必ず聞いてくる。


「うん!楽しかったよ!みみちゃんと一緒のクラスで!」

「そう!よかったわね」


みみちゃんは架空の友達。

中学1年生の時に仲良くなってそれからずっと一緒にいる設定。


こんな母親にはなりたくないと思う。

子供の嘘ひとつ暴くことのできない、母親に。


「ごちそうさまでした」


別に血が繋がっていないわけじゃない。

正真正銘、私のお母さんだ。

だけど、どこか壁がある。

私が作っているのかもしれないけど。


「お風呂湧いてあるから入ってきなさい」

「はーい」


お母さんは私から私の弟に目線を変えた。


ねぇ、お母さん?

あなたの娘、いじめられているんだよ?

嘘ついてるんだよ?

なんで、気づいてくれないの。


こぼれそうな涙に耐えながら、リビングを後にした。


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どこかの本で読んだことがある。


「怒りは自分の期待したものと違うことが起きた悲しみだ」と。


まさにその通りだと思う。

私がお母さんを嫌いなのは、私の気持ちをもっと深く聞いてくれない言動が私の期待を大きく裏切っているように感じるからだ。


私が話せばいいだけだ。

私ね、いじめられているんだ。と。

だけど、言えるはずもない。

私にだってプライドがあるからだ。


いつからこんな人間になったのだろう。

いつから悲しい時に泣かなくなったんろう。


♪♪♪♪


さっき約束した人から電話が来た。


『もしもし』

『今日も声可愛いね』


こうやって日々を過ごしている。


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一度夢を見たことがある。

それはそれは幸せそうな笑顔で男性と笑っている私がいた。

こんな幸せな日が来るのだろうか。


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「お酒は!!!」


電話を切るとちょうどこんな声が部屋に届いた。

今は日付を回った頃。

承認欲求が高まって幸せに寝れると思ったのに。


布団を体全体にまとって、寝た。


あの声はお父さん。

お母さんはお父さんに逆らえず、こうやって大声が聞こえる日もある。


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学校は特に楽しくない。

ひとつ楽しいことがあるとしたら、同じ中学に通う第1の彼氏に目線を送ること。

決して話さない。


「席替えするぞ」


入学式が終わったと思ったら、運動系の先生がそう言い放った。

ばんざいをしている男の子もいれば、手を握りしめている女の子もいる。


今から、紙を送るから自分の名前を書くように、と言われた紙が届いた。

私は1番右側に自分の名前を記した。

そして、後ろに回す。


「ありがとう」


え?

今、この紙受け取った後ろの男の子、私に声をかけた、?

一瞬のことだから、わからない。

そうだ、自分の勘違いだ。空耳だ。


「えー。黒板に名前を書いていくから自分の名前がない場合は申し出るように」


図太い声が教室中に響き渡る。

その瞬間、みんなが固唾を飲み込んで、見守る。

先生がまず、左下に名前を書く。

その瞬間、男の子が「俺、前かよ!!!!」とこれまた大きい声で叫ぶ。

「ドンマイ」とうるさくなっていき、先生が名前を書き終わった後は動物園状態であった。


「はい、移動して」


私は、真ん中の列の後ろから二番目になった。

すぐさま、周りを見て班メンバーになりそうな人の顔を見る。

よかった、今回はリーダー格の人がいなさそうだ。


私の後ろは誰だろう。

振り返ると


「げっ」


漏れた声を抑えるように、手を口にもってすぐに座りなおす。

さっき声をかけてきた(?)男の子だった。

でもとりあえず、平和なクラス替えだ。

ほっと肩を落とす。


「ねぇ、名前なんて言うの?」


は!?

今度は私の右隣の女の子が声をかけてきた。

この子、なんだ?

何が目的だ?

確か、リーダー格の子と友達だったはず。


「ねぇ、名前は?」


しつこい。

下がる様子も見せない。

私はうつぶせになった。

まるで、聞こえてないかのように。


もうこれ以上、傷つくのはごめんだ。

一定時間顔を下げてから、顔をあげると


「私ね、みのりっていうの。よろしくね」


今度は手を差しのべてきた。

は!?

今日は変だ。


さすがに、反応しないとまずい。

もしかしたら、また何か言われるかもしれない。

でも、手を差し伸べることで、きもいと罵られるかもしれない。


迷った挙句、意を決して手を出した。


「よろしくお願いします」


頭も下げた。

これで丁寧な対応をしたつもりだ。

もう何も言ってほしくない。


「あったかいね」


は!?

本日3度目のは!?だ。


「あ、ありがとう」


人の肌に触れたのは久しぶりだ。

こんなに優しいものだったっけ。


いつの間にか先生は消えていた。

不思議がると、またみのりさんが教えてくれた。


「先生、トイレ行ったらしいよ。ごめんね、私が声をかけたばかりに」

「あ、大丈夫です」


いつものように赤色のブックカバーに囲まれた本を開いて自分の世界を広げた。

無理だった。

この非日常を繰り広げてきた、このみのりさんに対する疑念が晴れない。


何が目的ですかと聞くのもおかしい。

でも気になる。

今後の彼女の行動を見てみるか。


「明日の発表って、誰からかわかる?」


みのりさんが今度は後ろの男の子に声をかけた。

あぁ、そうだよな。

私だけではなくて、他の子とも仲良くしたくて話しかけるのよね。


「しらん」


え!?

つめたっ。

さっきはあんなに優しい声でありがとうと言ってきたはずなのに。


「あんたね、3年の付き合いになるけど、そんな冷たい態度は無いでしょう!」


へぇ、3年間一緒のクラスなんだ。


「ねぇ、そう思うよね?」

「へ!?」


対して読んでなかった本から急に顔を上げて…目があった。

みのりさんはこんな顔をしているのか。

ノーマークの人だった。


「思うよね!?」

「え、あ…」

「困らせんなよ、初対面の子に」


私が返答に困っていると後ろの男の子が口をはさんできた。


「あぁ、他の女の子を守っちゃって。静ちゃんが嫉妬しちゃうわよ」


しずちゃん…


「あいつはそんなやつじゃない」

「あら、惚気たわね、今」


無言の男の子。

まぁそうだよね、彼女ぐらいいるよね。

今、狙おうと思っていたのにな。


「確かに、静ちゃんも可愛いわ。でもこの子も負けてないわよ」


なんの、話…。

もういいから、静かにしてほしい。

席替えは、地獄のスタートだった。


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朝が来れば「おはよう」

夕方が来れば「またね」


なんなんだ、あの子は。

今まで、誰も話しかけてこなかったくせに。


「おはよう」


今日も当たり前のように、声をかけてくる。

2カ月経った今、みのりさんについてわかったことがある。

誰とでも仲良くなる、いわゆるクラスの中心人物だった。

私としたことが…。全くのノーマークだったなんて。


「おはよう」

「おはよう」


2度目の圧がある挨拶に無視はできなかった。


もうひとつわかったことがある。

静ちゃんのことだ。

静ちゃんは二次元大好きな女の子で、かつとてもかわいい。

あんな根暗の後ろの席の男の子と釣り合わないぐらいの美少女だ。

なぜ、付き合ったのだろうか。

きっと、趣味が合うからだろう。


「今日、班決めだよね、校外学習の」

「うん」


私たちは2週間後に地域を回る校外学習が待っている。

憂鬱だ。

なんたって、班決めがある。

あれは、新手のいじめだ。


「班さ、一緒になろうね」

「え?」


また今日もいつものように赤色のブックカバーに囲まれた本を広げて自分の世界を広げているとそう言い放った。


「いいよね?」

「え、あ、私でよければ」

「よっし!あとはもう1人の男子だね」

「え?」

「あ、ひとりは、こいつ」


指さしたのは私の後ろの男の子だった。


バチっと目が合う。

お互いになんとなく会釈しながら、私は前を向き直る。

もうこのみのりさんはなんなんだ!


そして、その後始まった班分けで正式に4人のメンバーが決まった。

この時、断っていたらよかった。


_____________________________________


校外学習の日まであと3日。

なんと、このタイミングで、みのりさんが風邪をひいた。

運動系の先生が言った。


心の中ではもう十分、頭を抱えた。

絶対に当日来てよ。

神に祈った。

祈り続けた、この3日間。


当日。

彼女が来ることはなかった。


まぁ、そうもあろうと、私は校則を破ることになるが、携帯を持ってきた。

後は、男の子2人で、回っていただいて、集合時間にまた集まれば良い。

私はそう考えた。

というより、こういう行事の時は出席だけしてあとは班と離れ携帯を触っていた。


「では解散!」


公園に集まっていた他の同級生も皆、歩き出した。

私はすぐに後ろにいた男の子に声かけた」


「あのさ、私別行動するから先行っていいよ」


なのに、男の子は無視。

なんなら、他の子と話している。

おい、まじか。

いじめか?

そうだよな、声かけられたくないよね、忘れてた。


「じゃ、行こうか」


話が終わったと思えば、私にこんなことをいう。

いじめてるのではないのか?

私は一応、私の後ろを確認した。

違う子にこえかけたのではないかと思ったから。


なのに、まわりはもう出発していて、誰もいなかった。


「行かないの?」


首をコテンと傾けてくる。


私?と指を自分に指した。


「ほかにだれがいるの?」


確かに。

まぁ、いっか。

少し嬉しくて、一緒に回ることに決めた。


「よろしくお願いします」


深々と頭を下げると、慌てた様子で、顔上げてと言った。


その様子がとてもおかしくて、笑った。

久しぶりに人と笑った。


「なに、笑ってんの!」


男の子は怒った。

私は急いで首を振ったが、もう一人の男の子が


「お前、変なの」


と大声で笑ったから、怒られていた。


よかった、良い人で。

私が虐められていることを知らないのかな。

それでも平等に扱ってくれるのは嬉しい。


ありがとう。後ろの席の男の子。


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陰キャのキミと私のおはなし 菜都 @ILY_77

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