第五十五話「銀子救出計画」
◇ ◆ ◇
すめらぎ自動車整備工場──事務所。
お互いが担当した地域の調査結果を伝え合うためだ。
三人のあいだで情報の共有化が済んでから、しばらく沈黙が続いていたが、そこで最初に口を開いたのは将角だった。
「……間違いないのか? 金太郎」
「ああ。念入りに調べたから間違いないぜ」
どうやら金太郎が担当していた地域で、
金太郎の調査によると、すめらぎ自動車整備工場から南に十キロほど離れたところにあるアパートの一室が、角田の住処である可能性が高いというのだ。
ただ──
近隣住民や、同マンションの住人に話を聞いたところによると、なにやら部屋を留守にしていることが多いようなのだ。
──理由は不明とのこと。
また、近くにある人里離れた山奥の方へ向かう道へ入っていく角田を、数人が目撃しているという情報もあったという。
金太郎が調べたところによると、その山道の先には一軒の空き家が存在しており、現在は誰も住んでいないということになっているらしい。
空き家といっても、かつて近隣住民の寄合所として利用されていた簡易的な家屋らしく、いまや所有者が誰かすらわからない状態で放置されているような場所らしいのだ。
当然、電気や水道などが開通しているわけがなく、そこで人が暮らすのは少し厳しいとも思える。
だが不可能ではない。例えば灯りはローソクや焚火。さらには現代では簡易的なライトが安く購入できる時代だ。住もうと思えば住める。
それに今回の件に関しては、角田がここに住み着いているというわけでもなく、あくまで拠点のひとつにしているのだと金太郎たちは考えていた。
なぜなら金太郎の調査によって浮上した〝角田が住んでいると思われるマンションの一室──。そこに出入りしているところを、実際に何人かの住人に目撃されているのだ。
女性を引き連れていたという証言もあった。恐らく
また、金太郎は目撃証言などから総合的に考えて、恐らく山奥の家屋も頻繁に利用しているのでは──と推測していた。
ひと通りの話が終わると、思いだしたかのように将角が疑問を口にした。
「……ところで、この話は
「あ、そうだな。電話してみるよ」
金太郎はそう答えると、響香に電話をかけて将角たちと合流してからの一部始終を話した。
いま将角と桂が一緒にいること。確定的ではないが、角田の居場所が掴めたこと。そして、今から三人でそこに向かおうとしていること──。
特に角田の居場所の話を出した途端、気が動転したかのように何度も聞き返してきたのは、それだけ銀子のことが心配だったのだろう。
最初は、居場所を聞いて自分のV-MAXで向かう予定だったらしいが、金太郎に説得されて将角の車で同行する流れになった。
電話を切った金太郎に、将角が尋ねた。
「話はついたか?」
「ああ。まずは、響香さんを迎えに行こう!」
「よし。それじゃ、いつもの車に乗って待っててくれ」
将角の指示で、外に置いてあるオンボロの軽自動車に乗り込む金太郎と桂。
金太郎は助手席を桂に譲り、自分は後部座席に座った。
将角は、ガレージのシャッターや事務所などの戸締りをしている。
しばらくすると、戸締りを終えた将角がやってきて、運転席に乗り込みエンジンをかけた。
「まずは響香さんのところだな」
こうして三人は、将角の運転で響香の家へと向かうのだった。
◇ ◆ ◇
響香の家に近づくと、すでに響香が門の前に立って待っていた。
その顔には不安と焦りが入り混じっており、ウロウロと落ち着かない印象だ。
金太郎たちの車に気付いた途端、血相を変えて車に駆け寄る響香。
響香に反応して、金太郎が後部座席の窓を開けて対応する。
「……あ、あの! 角田さんという方の居場所がわかったというのは本当ですか⁉ ……その、銀子さんは…………?」
「ぎ、銀姉かどうかはわからないんだけど、角田が女性と一緒にいるところを何人かに目撃されているから、たぶん銀姉なんじゃないかと──」
青ざめた顔の響香が、慌てて将角の軽自動車に乗り込む。
「い、急ぎましょう……!」
響香を乗せた金太郎たちは、角田がいると思われる家屋へ続く山道の入り口を目指して車を走らせた。
まずは車内で角田についての情報を響香と共有する。
その後、どうやって角田に接触するのか──その最善の策を皆で模索していた。
そんな中、まずは金太郎の提案。
角田には自分ひとりで会いに行くと言い出したのだ。
さすがに、これには将角が疑問を口にした。
さらに、響香も必死になって声をあげる。
「わ、私も連れていってください! 銀子さんがいるかもしれないのに──」
金太郎は響香の反応を想定していたようで、落ち着いた様子で理由を話し始めた。
まず、角田がいる可能性が高い場所──
それは調査によって判明したマンションか、山奥の家屋のどちらかだ。
そして金太郎たちは、山奥の家屋の方にいる確率が高いと考えている。
そこで金太郎が考えたのは、二手に分かれる作戦。
将角たちは、角田が住んでいることになっているマンションの方を確認してもらい、そこに角田がいなければ
そして、金太郎が山奥の家屋へ向かうということだ。
今回の件、本当に角田が絡んでいるのであれば、飛鳥をひとりにしておくのは不安があるため、将角たちには飛鳥を護衛して欲しいと考えたそうだ。
「なるほど……そういうことか」
金太郎の考えに一定の理解は示したものの、やはり将角の表情は不満気だ。そこで自分なりの考えを口にする将角。
「まあ──確かに二手に分かれて、片方は姉貴のところへ行くって作戦はいいが、それなら角田のところへは俺が……」
将角が途中まで言いかけたところで、響香が大声を張り上げた。
「ダメです! 銀子さんを助けに行くのは私です! 私に……行かせてください!」
響香の必死な訴えを前に、さすがの将角も沈黙して言葉を失っている。
そこで口を開いたのは金太郎だ。
「……だったら、俺と響香さんで行こう。まず間違いなくクロスレイドで勝負をすることになるのは目に見えている。もし……本当に銀姉が角田側についていたのなら、ダブルスでの対決になる可能性もあるし、ふたりで行くのは理にかなっているかもしれない」
「あ、ありがとうございます……金太郎さん!」
将角は少し考える素振りを見せたが、半分は納得していないという顔で金太郎の提案に同意した。
将角としても、響香の気持ちを汲んでやりたいという想いは同じなのだ。
そして、四人の中で車を運転できるのは将角と響香しかいない。
金太郎はともかく、桂も現在進行形で運転免許の取得中で運転ができないのだ。
そのため、響香と将角は別行動が確定することになる。
響香が山奥の家屋へ向かうのであれば、必然的に将角はマンション経由で飛鳥のもとへ向かう側になるということだ。
また、二手に分かれる場合、金太郎と桂がどちらについて行くか──という問題もあったが、銀子のもとへ行くのは姉弟の関係である金太郎の方がが適任だということ。
それに、将角自身が桂と行動を共にしたいという想いもあった。
結果的に、将角はこの組み合わせに同意したのだ。
金太郎と響香はもちろん、桂も反論はないようだった。
話がまとまったタイミング──
ちょうど山道への入り口が見えてきた。
「ちょうど到着したみたいだな」
将角が車を停めて、金太郎と響香へ声をかける。
「気をつけろよ……金太郎。それに響香さんも──」
「ああ。将角も油断するなよ。それと飛鳥のこと……頼んだぜ」
「任せとけ」
「ありがとうございます。将角さん。必ず、私が銀子さんを……」
金太郎と響香が車を降りると、桂がふたりの安否を気遣うように声をかけた。
「ふたりとも気をつけてね」
「ああ。サンキュ」
「桂さんも気をつけてください」
「それじゃ──またあとでな」
将角はそう口にして、桂とともに車で走り去っていった。
山道の奥──
その先を見据えるように視線を向ける金太郎。
「よし、行くぜ。響香さん!」
「はい!」
金太郎と響香は森林の生い茂る山道へと足を踏み入れ、山奥へと消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます