第五十四話「僕のヒーロー」
◇ ◆ ◇
レイドスポットおんも──
あれから
何より、将角が瞬時にあの戦局を見抜いたことが大きかった。
「おい、おまえら。
「く、くそ……! 何なんだよ、てめぇは……⁉」
逃げられないように岡本たちを壁の方へと追いつめて、その目の前に立ち塞がる将角。
一歩後ろに離れて横に陣取っていた中島を前へと連れ出して、もう一度岡本へ警告する。
「ほら! さっさと返してやれよ!」
「ぐっ……」
「これでいいだろ……⁉ 早く帰らせろや!」
当初は複数人いた不良たちも、今やバトルをしていた岡本と
返す物は返したのだが、将角はすぐにふたりを帰らせはせずに説教を始めた。
「おまえら。自分より弱いヤツひとりを数人でイジメて、だせぇと思わねぇのか?」
「う……うるせえ! どうせ俺らがやらなくたって、そいつみてぇなのはいつか誰かにやられんだよ!」
「……だったら、それを助けてやる側に回ろうとは思わねぇのかよ?」
ふたりとも将角の言葉に言い返すことが出来ず黙り込んでしまった。
少しして、うつ向いたままの岡本の横で、田島が口を開いた。
「お、俺は……やりたくなかったんだよ……! 岡本さんがやれっていうから…………」
「て、てめぇ……何裏切って……⁉」
岡本に責任をなすりつけようとする田島。
まさかの田島の言葉に岡本が冷や汗をかきながら反論した。
実際に、リーダー格である岡本の命令があったことは事実だろう。
だが──
岡本の文句を遮って口を開いたのは将角だった。
「てめぇ……仲間に責任を押し付けてんじゃねぇよ!」
「ひっ……⁉」
田島は一瞬びくっと跳ねて、青ざめた顔になる。
岡島は、まさか将角が庇ってくれるとは思っていなかった為、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして見ていた。
「だ、だけど……マジで岡本さん怖いから、俺ら何も言えなくて……! 言うこと聞くしか…………」
「だったら
将角が中島の方を指さして、田島を怒鳴りつけた。
「そ、それは……。だけど、俺らだって仕方なく…………!」
「まだ言い訳すんのか……てめぇ⁉」
将角の拳が田島の左頬を捉えた。
直後──
田島の身体は宙へ浮き、そのまま右側へと吹き飛ぶ。
「い……痛っ…………」
「は……はは! 田島。おまえが俺をハメようとすっからだ……ぞっ⁉」
次の瞬間、今度は岡本の身体が吹き飛び、田島の隣へ倒れ込んだ。
「い……痛てぇな⁉ 何すんだ……てめぇ!」
「うるせぇ! なに主犯格のてめぇが、何の罪もないみたいな顔してんだよ!」
不良ふたりを殴ってしまった将角を見て、慌てて止めに入る桂。
「ちょ……ちょっと将角⁉ 手を出しちゃダメだよ!」
「あ……ああ、すまん……。ついアツくなっちまった」
将角は桂の呼びかけで我に返ったが、それで不良たちを許すわけもなく──
まず田島の方へ歩み寄ると、腰を落として倒れ込んでいる田島に顔を近づけて話しかけた。
「まずは、てめぇだ。リーダーが怖いから嫌々ながら命令に従って、本当はやりたくもないカツアゲしていたってことか?」
「そ、それは…………」
田島は目を逸らして言葉を濁す。
次に岡本の前へと移動して、今度は岡本に語りかける将角。
「てめぇがリーダーだな? さっき逃げてったやつら……仲間なんだろ?」
「う…………」
「おまえが仲間にやらせていたこと、胸を張って自慢できるのか? それで仲間が、おまえのことを心から慕ってくれるって思ってんのか?」
「う、うるせぇ……! 俺は──!」
「恐怖で無理やり従わせることに意味はねぇよ」
岡本は殴られた左頬に左手をあてて、動揺した瞳で将角を見上げている。
すると将角は一度中島の方へ視線を向けてから、再び岡本と田島に問いかけた。
「おまえら高校生だろ? 喧嘩も出来ないような中学生ひとりを囲ってさ。泣いて震えてるのみて楽しかったのか?」
将角の言葉を聞いて完全に沈黙するふたり。
そして将角は空を見上げてから、まるで自分に言い聞かせるように言葉を口にした。
「なあ──おまえら。『かっこいい』とか『強い』って、どういうことだと思う?」
「は……? な、何が……言いてぇんだ?」
将角の言葉の意味がわからず、混乱する岡本と田島。
すると将角が自信に満ちた笑みを浮かべて答えた。
「──ヒーローって知ってるか? めちゃくちゃカッコいいんだぜ?」
将角はそう言ったあと、さらに言葉を付け加えた。
「恐怖に立ち向かえる強さがあるなら、その強さで誰かを護る側に回れよ? 人から感謝されるのも悪かねぇぜ?」
将角の言葉を聞いた次の瞬間──
岡本の目からは、後悔の涙がこぼれていた。
田島も何か思うところがあったのだろう。
うつむいて、その手を強く握りしめていた。
説教を終えた将角が帰ろうとして振り向くと、中島が自ら不良たちの元へと駆け寄り、控えめな口調で話しかけた。
それを見て、驚いた表情をする将角。
「あ、あの……。返してくれて、あ、ありがとう……。その……。よ、よかったら、この中から好きな駒……ひとつずつ、貰ってくれませんか……?」
「……な、なんだよ? 返して欲しかったんじゃねぇのかよ……」
「そ、そうですけど……。僕は──この駒さえ戻ってくれば、それでよかったんです」
中島が一枚の駒を見せながら答えた。
「それは……?」
「これは、僕の誕生日にお父さんがプレゼントしてくれた特別な駒だから……」
急に話しかけてきた中島に戸惑う岡本たち。
しかも、奪い返したはずの駒とカードをひとつずつくれると言っているのだ。
そこに助け舟を出したのは将角だった。
「もらってやれよ? さっきおまえらはそいつの意思に関係なく無理やり奪ったが、今度はそいつが自らの意思でおまえらにくれるっつってんだから、そりゃ貰ってやらなきゃ逆に失礼だぜ?」
「な、なんだよ……。俺らが憎くねぇのかよ……?」
これまで人から奪うことで欲しいものを手に入れてきた岡本にとって、この中島の行動は新鮮そのものだった。
ただ──
人から好かれたことがない岡本は、どう反応していいのかわからないのだ。
中島は中島で、それ以上の言葉が出てこないようで困っている。
その様子を見かねた将角が、中島に代わって言葉を口にした。
「昨日の敵は今日の友────ってな。そうだろ?」
「は、はい!」
答えたついでに将角が中島に問いかけ、中島がそれに笑顔で答える。
将角の言葉に勇気づけられたのか、中島はさらに一歩踏み出して、岡本たちに語りかけた。
「僕……周りにクロスレイドをやってる友達があまりいないんです……。だから……も、もしよかったら……また僕とクロスレイドで対戦してくれませんか……⁉」
中島の足は震えている。
それを見て、将角が岡本たちに言った。
「いいか、てめぇら。これが『勇気』ってやつだ。覚えとけ。てめぇらよりよっぽど強いじゃねぇか……この子の方がよ」
桂は将角の隣で、自慢のパートナーの雄姿を見て微笑んでいる。
すると中島が桂のもとに駆け寄ってきて、桂にとって思いもよらない言葉を口にした。
「桂さんは僕のヒーローです! これからは桂さんを目標にして……僕も桂さんみたいに強くなれるように頑張って生きます!」
「中島……くん」
驚いたような表情をしている桂の肩を、将角の手がポンっと優しく触れる。
そして将角は笑顔で桂に言った。
「それじゃ、行こうか────────ヒーロー」
「……うん!」
桂の顔には、満面の笑みが浮かんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます