第四章 悪鬼再来篇
第四十五話「如月響香」
◇ ◆ ◇
金太郎は一昨年、秋のダブルス大会で行われたサプライズ対局のあと、すぐに
もともとクロスレイドで土台は出来上がっており、さらに桐生に認められるほどの才能を持ち合わせていたことから、金太郎は将棋界でもすぐに頭角を現した。
すでにプロ入りを果たし、現在は5段にまでのぼりつめている。
角田との一件で負った心の傷を癒しながら、ゆっくり暮らしたかったこともあるのだろう。
大学への入学を考えていなかったわけではないが、もともと実家を継ぐつもりだったため、特に悩むことはなく決断したようだ。
現在ではすっかり元気に戻って、金太郎の休日にはいっしょにクロスレイドをして遊んでいる。
中学生になって間もない頃から不良まっしぐらだった将角は、家を飛び出して街の自動車整備工場でバイトをしながら生活をしていたのだ。
その経験を生かして、現在では近所で人気の自動車整備工場の社長として活躍をしている。
社員は桂のみ。自分を慕ってずっとついてきてくれた桂とふたりで、一生懸命仕事に励んでいるようだ。
整備工場を開業するにあたっての資金を、桂の実家である
一昨年の時点でもともと大学生だった
大学近くのマンションで、ひとり暮らしを満喫している。
夏休みや年末年始など、長期休暇には実家に帰ってきていたが、最近は大学が忙しいからか家族にもあまり連絡はしていない様子だ。
そして角田はというと──。
例の騒動のあと、ずっと意識不明で病院のベッドに寝ていたが、およそ三か月後、突如として病院から姿をくらましていたのだ。
その後、捜索などの経緯でわかったことだが、角田の両親は幼いころに離婚しており、すでに角田は一昨年の時点で、ひとり暮らしをしていたらしい。
現在ではどこに住んでいるかもわからず、行方は完全に不明。
身内もいないことから、しばらくして捜索も打ち切られ、いつしか世間から忘れ去られていた。
◇ ◆ ◇
今日、久しぶりの休暇をもらった金太郎。
飛鳥と一緒にクロスガレージへ行って、一日中クロスレイドを満喫するため、朝早くから飛鳥に電話をかけていた。
「なぁに、金ちゃん……? こんな朝っぱらから……」
「おはよう、飛鳥! 今日、クロスガレージに行こうぜ!」
「別にいいけど、いま何時だと思ってるのよ……?」
寝ぼけた声で飛鳥が答えた。
現在、時計の針は朝の5時を指している。
「どうせ10時にならないと、お店が開かないでしょお……?」
「そうだけどさ! 久しぶりの丸一日休暇だから、楽しみすぎて待ちきれなかったんだよ! 一日中、飛鳥と遊べるのってなかなかないじゃん?」
眠そうにしていた飛鳥だったが、金太郎の言葉に不意を突かれて嬉しくなり一気に目が覚めた。
もともと飛鳥は楽しそうにしている金太郎を見ているだけで満足できる人種だったが、金太郎が貴重な休日の時間を自分にあててくれたことも嬉しかったし、自分との時間を楽しみにしてくれていることはもっと嬉しかったのだ。
思わずツンデレ的な反応を示す飛鳥。
「べ、別に金ちゃんが早朝からあたしと遊びたいっていうなら、それでもいいけど……⁉ だったらさ。ファミレスでも……寄って行かない?」
「ああ、そうしようぜ。ファミレスでクロスレイド会議だ! そして10時にクロスガレージに到着するようにしようぜ!」
「うん。そうだね!」
「それからさ。最近は将棋の対局でお金もらえるようになったから小遣いも増えたし、何ならレイド・スポットにも行こうぜ! 俺がおごってやるよ!」
「うん! それじゃ支度して待ってるね」
飛鳥との電話を切ると、さっそく外出の準備にとりかかる金太郎。
家の中をバタバタと走り回っている。
すると金太郎に起こされた母親が、眠そうに目をこすりながら寝室から出てきた。
「ちょっと、金太郎……。こんな朝っぱらから何……? どこかに出かけるの?」
「ああ! 飛鳥とファミレス行って、そのまま遊びに行ってくる!」
「夕食までには帰るのよね?」
「もしかしたら飛鳥とどこかで食べてくるかも?」
「はっきりしないわねえ……。だったら飛鳥ちゃんと食べて来なさいよ」
「わかったよ、母ちゃん」
金太郎は母との会話を終えてから再び自室に戻って、持っていくモンスターユニットの選定を始めた。
もともと普段から使っているメインの編成セットが組んであるので、それを持っていけば問題はないのだが、今日はせっかくのフル休日だ。
まだ使ったことのないモンスター、試してみたいと思っていたスキル、いろいろと試してみたいことがあるのだ。
この機会に金太郎は、飛鳥と出来るかぎりのクロスレイドライフを満喫しようとしていた。
身支度を済ませると、金太郎は元気よく家を飛び出した。
「行ってきます!」
「いってらっしゃい。あまり遅くならないようにね」
飛鳥の家に向かうために玄関を出た金太郎が、道路に足を一歩出すか出さないかのタイミング──
飛鳥の家のある方角に顔を向けると、そっちから轟音とともに走ってくる一台のバイクが金太郎の視界に入った。
金太郎の家の前の道はそれほど幅が広くないため、金太郎は無意識で足を止めたのだが、そのバイクは少し離れた位置から減速をはじめ、金太郎の目の前で完全に停止した。
オーバーナナハン──
大男でも手に余りそうなモンスター級の大型バイクにまたがっているのは、全身黒色のライダースーツに身を包んだ華奢な女性。
フルフェイスのヘルメットをかぶっており、ミラーシールドになっているため顔が確認できない。
すでにバイクは停止してはいるが、エンジンはかかったままの状態のため、金太郎まで振動が伝わってきそうなほどの鼓動を刻んで、排気音があたり一面にまで響いている。
バイクの女性がヘルメットをとると、中からバサッと
その黒みがかった深い紫色の髪が、陽の光を受け美しい輝きを匂わせている。
だが、その表情にはどこか余裕がない。何か焦りのようなものが感じ取れる。
そしてその女性は、飴色の瞳をまっすぐ金太郎に向けて言った。
「金太郎さん…………力を、貸してください!」
金太郎の顔には驚きの色が浮かんでいる。
なぜなら金太郎は、この女性のことをよく知っているからだ。
この女性の名は──────
「
────
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