第104話 同じ値段が同じ品質
岡崎がインフレで値上がりしている中で、同じ値段で、同じ品質の商品を探すと言う。
そのことを聞いた山野は、岡崎の努力を否定するかのように倒産すると言った。
「どうだ、分からんか!?」
山野はそう生徒たちに問いかけたが、今回ばかりは友紀も口を閉じたままだった。
そこで山野は、その理由を語り始めた。
この話は、岡崎の仕入れ先だけが値上げをしたという前提の話ではない。
社会全体がインフレの中で値上がりしていると言うものだ。
そんな状況下では、原料高に苦しんでいるのは、岡崎の店だけではない。
全ての店が、値上がりに苦しんでいると言えるのだ。
そうなると、どの店も、同じ品質のものを少しでも安く手に入れようと考え、行動する。
が、そんなことが出来る訳が無い。
社会全体が値上がりしているのだから。
しかし、それが可能だとなれば、どう言うことなのだろうか?
一番考えられるのは、岡崎は元々、品質に見合わない高い材料を仕入れていたと言うことだ。
だから、値上がった時に、他を探せば同等の商品を同じ価格で仕入れることが出来るのだ。
が、このことは、元々の岡崎の料理は、割高だったことを意味している。
品質に見合わない高い原材料で、料理を提供していたのだ。
客からは、料理の質に見合わない値段だと判断される。
すると、当然、客足は遠退く。
「だから、倒産すると言ったんだ。」
「なるほどぉ〜。」
友紀が激しく頷く。
「じゃ、先生。物価が上がってるのに価格転嫁が出来ない場合は、どうするんですか?」
陽菜が尋ねる。
「そうだな。一番分かりやすいのは、小さくすることだな。」
「小さくですか?」
「お前らは気付いてないだろうが、お菓子は小さくなってるんだよ。ブルボンのバームロールやホワイトロリータなんか、昔の大きさの半分だそ!」
「えっ、半分!?」
山野が大げさに言うと、思わず陽菜が驚いた。
「まぁ、お菓子は原材料か変えられないから小さくするしかない。でも、料理なら材料は変えられる。牛肉を豚肉にするとか、ブリをハマチにするとか、色々工夫出来るだろ!?」
「なるほど。」
言われて岡崎が頷く。
「そうやって、価格を維持して、どうしようも無くなったら、初めて値上げするんだ。日本では、そう言う企業努力が求められるんだ。」
「日本ではってことは、海外は違うんということですか?」
「海外はインフレが当たり前だから、普通に価格転嫁することができる。」
「どうしてそうなるんですか?」
「それが、インフレ社会とデフレ社会の差だ。日本人は、価格が騰がることに慣れていないから、品質が伴っていたとしても、値上がりを極端に嫌うんだ。海外は、値上がって当然だから、自然に受け入れてくれる。」
「なるほど。」
再び岡崎が頷いた。
「ちょっと話が逸れたから戻すぞ。つまりだ、損益計算書は、一定期間の企業活動の成果が出る訳だ。本業でどれだけ儲かって、本業外でどれだけプラマイがあるかが分かる。」
「先生!」
「どうした、湊?」
「前回やった貸借対照表があるじゃないですか!?」
「ああ、それがどうした?」
「貸借対照表に1年間の損益計算書の内容を加算すれば、次の年の貸借対照表が出来るんですか?」
「そうだ。よく、気付いたな!」
「どう言うこと??」
山野がそう言うと、陽菜が友紀と山野を交互に見ながら尋ねる。
「つまり、前回やった貸借対照表があるだろ!?」
「はい。」
「それを見比べて異なってる箇所を見つけた。その原因を知りたいと思ったら、損益計算書を確認する。そうすれば原因が分かると言うことだ。」
「あ、そう言うことか。」
「貸借対照表を見て、去年と比べて現預金が減って、固定資産の土地が増えている。これは、その年に土地を購入したと言うことだ。」
「あ、なるほど。」
「で、ここで終わったら、素人だ。」
「えっ!?」
梯子を外されたように陽菜が驚く。
「土地を買ったなら、どこにどんな土地を買ったかを調べる。」
「どうしてですか?」
「無意味に土地を買わないだろ!?どう言う目的で購入したかを探る。岡崎で言えば、新しい店なのか、それとも倉庫として活用する為なのか?」
「倉庫だったら?」
「まずは、今の店との距離とか安全性を確認する。倉庫の場所として適正かどうかを判断するんだ。」
「判断してダメだと思ったら?」
「自分では掴み取れない真意が経営者にはあるかも知れない。だから、聞いてみる。その答えが納得できるモノでなければ、その会社への投資を止めると言うことだ。」
「最初から聞いたらダメなんですか?」
「そら、ダメだ。」
「どうしてですか?」
「自分で確認せずに最初から聞いたら、経営者の話に対して理解が深まらない。そんなモンかと簡単に納得してしまう。先に深く考えているから、経営者の答えの是非が判断できるんだ。」
「なるほどぉ〜。」
そう教えられて陽菜が頷いている時に、5限目終了のチャイムが鳴った。
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