第103話 特別損益
生徒たちは、山野から営業利益、経常利益の説明を受けた。
そのことが理解できた生徒もいれば、出来なかった生徒もいる。
莉央は、実家の鉄板焼き屋を思い浮かべながら、理解していた。
「最後に特別損益だ。これは、その年だけ特別に発生した損益だ。例えば、店を移転させる為に、土地を売った利益とか、逆に土地を買った経費とかだ。だから、事業自体の損益には、ほとんど関係しない。だから特別だ。」
「それじゃ、どうしてそんなものを合算するんですか?」
今度は陽菜が尋ねる。
関係ないモノをわざわざ足して複雑にする意味が無いと考えたからだ。
「この合算した額が、本当の損益になるからだ。土地買って現金が減ってるのに、それが分からなかったら大変だろ!?ただ、事業とは関係ない。だから、最終的に赤字になっても、営業損益が黒字なら稼ぐ力はあるから、おいおい返済できると言うことになる。稼ぐ力さえあれは、一時の赤字も埋められるだろう。だから、最後に計算されるんだ。」
「なるほど。」
「逆に、最終的に黒字でも、営業損益が赤字なら、稼ぐ力が無いと言うことになる。黒字は過去に利益が出ていた時に手に入れた財産を切り売りして出した数字だから、そのうちに財産が無くなって埋め合わせ出来なくなる。」
「そっかぁ〜、そんなことも分かるんだ。」
陽菜は、嬉しそうに言う。
「ただ、営業赤字でも、それが単年、つまり1年だけなのか、複数年続いているのかで、意味はまた全然違ってくる。単年だけなら、なんらかのトラブルで、タマタマ発生したと解釈できる場合があるからな。」
「なるほど。」
「例えば、どんなことがあるんですか?」
陽菜が頷く横で、友紀が具体的に尋ねて来た。
「そうだな。岡崎の店なら、天候不順で原材料費が高騰したが、客のことを考えて、それを商品価格に転嫁しなかった。これなら、天候が戻って原材料費が下がれば、翌年以降の利益回復が期待できるだろ。逆に天候不順が回復しなかったら、翌年も続くけどな。」
「赤字になった場合、その原因が重要ってことですか?」
「そう言うことだ。」
「じゃ、逆にダメな原因って、何なんですか?」
今度はまた代わって陽菜が尋ねる。
「売上げそのものの減少だな。今の例で、無理やり価格転嫁した結果、客足が遠のいてしまうと言うヤツだな。」
「他にもあるんですか?」
「天候不順のような一時的な要因では無いのに、価格転嫁出来ないことだな。普通に原材料費が値上がっているのに、売値は上げられないとかだな。そんな時、岡崎ならどうする?」
「えっ!?」
急に山野から話を振られて、岡崎は戸惑う。
今まで友紀と陽菜が中心だったので、岡崎は油断してほっこりしていたのだ。
すると山野は、更に圧力をかける。
「店のことだから、さすがに考えてるよな!?」
「安い材料を探します。」
凄みに負けたように、慌てて岡崎が答える。
「当然、安い材料はある。ただ、価格と品質は釣り合うと考えるべきだ。安い材料は、その分品質も悪くなる。良いのか?」
「そうならないように、品質を落とさずに済むように考えます。」
「それなら岡崎の店は倒産するな。」
「えっ!」
不意に山野がそう言うと、岡崎だけでなく、生徒全員が驚いた。
祐香も驚き、樋野だけがなぜか笑っている。
「どうして同じ品質のモノを手に入れようとしたら倒産するんですか?」
驚きの中で、最初に口を開いたのは友紀だった。
少しでも良いものを、少しでも安く手に入れようとするのが悪いことだと言われているような気がしたからだ。
どう考えても、それが悪いことだとは思えない。
「そのこと自体は、悪いことじゃない。倒産するのはその前だ。」
「その前・・・、ですか??」
そう言われて、友紀は更に分からなくなった。
当然、陽菜や他の生徒たちも、完全に思考が停止しているような顔をしている。
そんな中で、山野と樋野だけは、ニヤニヤとしていた。
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