第102話 営業と営業外
山野が黒板に書いたのは、経費とパセンテージだった。
食材費 30%
人件費 30%
賃 料 10%
光熱費 7%
広報費 3%
諸経費 10%
利 益 10%
「何ですか?それは??」
友紀が聞く。
「これは、飲食店を開業する時の目安だ。コンサルなんかが、良く口にする数字だ。全てを合算すると100%になる。これを基本にして、独自色を出すために、それぞれの数字を増減させて店のコンセプトを決めることになる。岡崎みたいに、食材に40%使いたいと言ったら、利益が0%になる。そうなると、他の費用を削って、利益を捻出しなければならなくなる。」
「なるほど。でも、岡崎くんが儲けるのを諦めれば、やって行けるってことですよね。」
「いや、そうはならない。」
「えっ、そうなの?」
直ぐに言い返されて、友紀は首を傾げる。
「売上げから必要経費を差し引いた残りを『営業利益』と言う。赤字なら『営業損失』と言うんだが、この営業利益に、営業外損益を加える必要がある。」
「営業外損益??」
「店を開店するには、最初に店舗の改装や、備品、調度品を調達する必要がある。つまり、雰囲気のある店にする為の壁紙代であったり、テーブルやイス、食器類などを買ったりする費用のことだ。それを借金で賄うなら、利息と元本を返さないといけない。そう言う費用が営業外費用だ。岡崎はどうする?」
「貯金したいけど、そんなに貯められないと思います。」
「それなら、営業外費用が発生するから、プラマイゼロじゃダメだ。」
「そっか。」
頷きながらそう呟く友紀をよそに、山野はまた黒板に書いていた。
営業損益
企業の主たる目的とする営業活動から生じる利益または損失
経常損益
営業活動以外で、通常の事業活動から生じる利益または損失
特別損益
臨時、突発的に発生した利益または損失
「営業活動とは、レストラン経営だな。営業活動外で通常の事業活動とは、難しく考えなくてもいい。銀行への支払いだけでなく、例えばテイクアウトを始めたら、その損益もここになる。」
「最初からテイクアウトをするつもりでもですか?」
岡崎が尋ねる。
「いや、その場合は、営業活動の中に入る。つまり、予定外に始めたことで、それが予定外の間は、営業外活動と言うことになる。」
「内か、外かは、相対的ってことですか?」
友紀が聞く。
「会社なら、設立する時に目的を定める。その目的の範囲内かどうかが営業活動になるかどうかになる。」
「へぇ〜。」
「だから、損益計算書では、本業の結果に基づいて営業損益を書く。ここで利益が出ていなかったら、その本業はやる意味が無いと言うことになる。だから、営業損益が何年も赤字の企業は、本業を抜本的に見直さないといけない。分かるか?」
山野は、チョークで黒板をコツコツと叩きながら、そう言った。
「今の例では、レストラン自体が儲かって無いってことですね。」
友紀が言う。
「そう言うことだ。レストランで儲からないからテイクアウトを始める。このテイクアウトが予想外に儲かった。これが営業外利益だ。これにさっきの営業損失を足して黒字だったら経常利益、赤字だったら経常損失になる。」
「そのテイクアウトを営業外にする意味はあるんですか?」
「岡崎には無いな。でも、投資家にはある。」
「どう言う意味ですか?」
「岡崎がやりたいことは赤字だから、本当の意味での投資価値は存在しない。だから投資家としては、投資対象にならない。ところがテイクアウトを加えると黒字になる。岡崎がテイクアウトもやりたいことに加えれば、投資価値が出て来るってことだ。」
「投資価値?」
「つまり、レストランだけでやって行くなら、岡崎は今のやり方を変えなければならない。が、今のまま続けたければ、テイクアウトは必須になる。そうしないと、岡崎のレストランは潰れる。」
「うん。」
「潰れることが分かっている店には投資できない。だから投資家としては、岡崎に2択を迫ることになる。岡崎がやりたいかどうかは関係ない。店を存続させる為の方策としてレストラン経営を儲かるように変更するか、テイクアウトを本業に含めるかだ。」
友紀はそう教えられて、深く頷いた。
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