第101話 岡崎の店

岡崎は、ゆっくりとくつろげる店を目指すと言っている。

それについて山野は、現実的な数字の問題を一つ一つ確認していく。



「ゆっくりくつろぐがコンセプトなら、テーブルも、通路も広くとる必要があるよな。」

「は、はい。」

「広めの店内は、坪当たり1.5席と言われているから、40席だと26.7坪。」

「なるほど。」

「そこに厨房が付く。ホールとの比率はレストランの場合は2対3だから、合わせれば45坪、150平方メートルくらいの広さが要るという計算になる。」

「へぇ〜〜。」


陽菜は感嘆の声を挙げた。

投資家は、こんなことまで当たり前のように知っているのかと思ったからだ。

が、真実は違う。

今日はこの話をしようと山野は決めていたので、予習していたのだ。

ただ、店舗経営では、このような数字は、当たり前のように公表されている。

誰でも、調べれば知ることが出来る数字なのだ。



「結構広い物件になるな。場所にもよるけど、北山近辺なら管理費込みで月70万円程度だな。年間なら、840万円ほどだな。」

「結構、しますね。」


山野がスマホで該当しそうな本物の物件を確認すると、岡崎がちょっと怖気づきながら言う。

840万円なんて数字は、学生である今の岡崎にとっては、途方もない数字だからだ。

それが、空想ではなく、山野がスマホで本物を探したことで、急に実感してしまったのだ。



「これに光熱費がかかる。これは、おおよそ売上げの7%と言われている。だから、700万円だな。」

「えっ、これだけでもう5,554万円が消えてるけど、大丈夫なの?」


今度は、心配そうに友紀が言う。


「さ、さぁ・・・。」


当然、自信なさげに岡崎は答えた。



「次は人件費だ。お前一人で店を切り盛りできないだろ。レストランなら、少なくとも調理補助1人に、ホール担当が2人要る。ただ、週40時間勤務を考えたら、どうだ?」

「どうだって聞かれても・・・。」


山野に聞かれて、岡崎は困ったように言う。

どうだと聞かれても、何がどうなのか全く分からないからだ。

山野は、人の配置のことを聞いたのだった。

週5日営業なら、1日8時間勤務の5日間で問題ない。

しかし、週6日営業なら、1日分の労働力が足りなくなる。

それをどのようにして埋めるかということを山野は聞いたのだ。



「回転なしと言うなら、6時から7時の入店で、コースとして3時間。これなら10時に終わる。片付けと清掃で12時だ。」

「はい。」

「じゃ、始まりは何時だ?仕込みや用意が要るだろう。」

「仕込みは昼からやりたいです。用意は4時くらいからかな。」

「それならホールは途中休憩を含んで、3時から12時の8時間勤務で行けるが、調理補助は12時間勤務になる。となると2交代だな。最繁時間を重ねればいい。それなら合わせて、週6だと5人になる。どうだ??」

「はい、それでお願いします。」


もう岡崎の頭は、山野の頭についていけなくなっていたので、提案のままを受け入れた。



「じゃ、具体的に人件費は、どれくらいを考えている?時給は??」

「1,000円くらい?」


よくわからず岡崎が言うと、山野は速攻に否定した。


「アホ!学生バイトを雇う気か?そこらの居酒屋にする気か?」

「えーっ、じゃ、どれくらいだろう・・・。」


人件費の段になって、岡崎は悩み出した。

さすがにこんなことは全く考えていなかった。

時給1,000円がダメだと言われたなら、2,000円にしようかと思う程度の感覚しか持ち合わせていなかった。



そこで、山野が言う。


「通常は、食材費と同じで、上限30%と言われている。但し、これには岡崎自身の人件費も入れてだ。」

「じゃ、一応、3千万円で。」


岡崎は、山野が言うままに従った。


「次は、リース代。冷蔵庫やオーブン、テーブルや椅子、食器類など、開店時に必要となる備品代。これを大体、6年償却で考える。」

「えっ、それこそ、全く考えられない。」

「他にも広告宣伝費や雑費、消耗品費など、実際に店を経営するとなると、予想外の費用が出て来る。」


矢継ぎ早に言われて岡崎困り顔をしていると、山野はニヤリと意味深な笑いを浮かべながら、黒板に向いてまた書き始めたのだった。

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