第97話 先進7ヵ国中最下位

日本が貧しい国になっている。

日本人としては認めたくないのだが、これは動かし難い事実なのだ。

OECD加盟国の中で、先進7ヵ国中でずっと最下位を独走しているのだ。



「でも、あたし、日本が貧しいと言う実感が無いんだけど。こーんなにいっぱい店があって、こーんなにいっぱい買えるのに、貧しいって!?」


陽菜がそう手を広げながら、大げさに言う。


「実感が無いだろ!?それが問題なんだよ。」


そう陽菜と正反対の冷めたような言い方で、山野はまた説明を始めた。



今の時代、貧しいか、貧しくないかは、相対的な問題になる。

既に日本では、生きるか死ぬかの貧しさ、つまり絶対的な貧しさは、存在しないからだ。

自分だけ収入が減れば、貧しくなったと分かる。

が、周囲も含めて全員が貧しくなれば、貧しくなったと言う実感が希薄になる。

単に、今は我慢のとき、昔で言えば凶作の年だということだ。

こんな時に、自分だけ贅沢するのは良くないと、貧しさを肯定してしまうのが日本人なのだ。



「そうなんだ。」


ため息を吐くように陽菜が言う。

顔にはショックの色が滲んでいる。


「前に言ったろ!?ニューヨークのラーメンは2千円するって!それを高いと思うのは、日本が安いからだ。」

「うん。」

「じゃ、森本。今の日本は貧乏になった。でも、神崎が言ったように、日本の中だけじゃ気付かない程度だ。じや、放置して良いか??」

「いえ、それはダメです。」

「どうしてダメなんだ?」

「えっと、それはですね・・・・・、海外から買う機器が高くなるからです。」

「森本らしい答えだな。確かに、研究機器とか、海外製のものは、海外の物価に比例して値上がりする。日本人としたら、海外製品がドンドン高くなる。海外のブランド品も、高くなるぞ!」

「それは困る!」


山野が陽菜の顔を見てそう言うと、さっきの深刻な表情とは打って変わって、元気に陽菜は言い返した。



「実はな、困るのはそれだけじゃない。一番の問題は、日本が買われることだ。」

「日本が外国に買われるんですか?」

「日本は資本主義国家だ。日本の土地は、国籍に関わらず、誰でも買える。だから、東京のタワマンの半分は、外国人が買ってると言う話もあるくらいだ。」

「そうなんですか?」

「そうだ。特に中国人の富裕層には人気だ。中国は共産主義国家だから、土地の所有は出来ない。与えられるのは使用権。つまり、日本的に言えば、占有権だけだ。だから、真の意味で自分のモノにはならない。だから、金持ちは、日本の不動産を買う傾向が強いんだ。」

「そう言われたら、そうですね。でも、それのドコが問題なんですか?」


続けて友紀が言う。



「想像してみろ。彼らは金持ちだけど日本人ではない。だから、日本に税金は払わない。が、道路や水道などのインフラは、元々税金だ。税金を払わないヤツらに、インフラの整った一等地をくれてやることになるんだぞ!」

「あ、そっか。」

「つまり、このまま日本が貧しくなれば、日本の中心部は中国人に支配され、日本人は周辺のスラムに追いやられる訳だ。戦前の中国と同じだ。異なるのは、日本人と中国人の立場が入れ替わるってことだけだ。」

「いや、さすがにそれはマズいですよ。」


思い余った感じで、後ろから華が口出しする。


「そう、マズい。でも、清朝末期の中国人みたいに、その問題に気づくのはごく一部で、大半は気づかない。だから、ああなった。今の日本人は、このことに気付いて対処していると思うか?」

「いえ。」

「じゃ、『歴史は繰り返される』って、言葉通りだな。」


そう山野が言うと、みんな下を向いて黙り込んでしまった。

山野としては、真剣に考えて学んで欲しいと言う思いから説明したのだが、薬が強過ぎたようだ。



「別にその未来が決まった訳じゃないだろ!?まだ、違う未来になるチャンスはあるし、最悪そうなっても、海外に移住しなら良いだろ!?」


重くなった空気を嫌ってから、横から樋野が言う。


「ま、そうだな。そんなことに巻き込まれないように、お前たちは一年かけて投資を学ぶんだからな。」

「ま、時間も、時間だから昼飯にしよう。隣に『カッパ寿司』があったから、そこ行こう。山野が奢ってくれる。」


そう樋野が言うと、生徒たちだけでなく、祐香や華も、急に笑顔になった。

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