第96話 ディスカウントの問題
百貨店が競合で弱い地位にあることが分かった。
代わりに、ドンキのような安売り店が台頭してきた。
「買うものが決まっていたら、少しでも安い方が良くないか?」
「それは、そうです。」
友紀が答える。
「だから、ディスカウントストアが、増えてるんだ。」
そう山野は、言った。
実は、ここに日本の問題の一端がある。
それは、情報やサービスに金を払う気がないことだ。
良い情報やサービスは、無料で良いはずはない。
しかし、無料が良いことで当たり前だと考えている日本人が多過ぎるのだ。
価値あるものに、価値を認めない。
これが、今の日本が貧しくなっている原因だという説もある。
「ディスカウントストアが増えるのは良いことじゃないんですか?同じものが少しでも安く買えたら良いじゃないですか!?」
「そう思うのは、凡人だ。お前らは、安いのは良くないと考えるタイプの人間にならないといけない。」
そう山野は言って、またまた説明を始めた。
安いと言う感覚は、相対的なモノだ。
通常価格があるから、安いと感じることが出来るのだ。
しかし、安売り店ばかりだと、通常価格が分からなくなる。
そして、安売り価格が、通常価格に置き換わってしまう。
そうなると、通常価格は高価となり、単なり安売り価格では、安いと感じなくなる。
つまり、買い控えの傾向が出て来る訳だ。
ところで、徳川吉宗で有名な『享保の改革』は、全体的には失敗している。
吉宗が8代将軍に選ばれたのは、家康の孫という血筋と、財政赤字だった紀州藩を立て直した実績を買われたからだ。
その吉宗が紀州藩で行った改革は、質素倹約が中心だった。
だから、この成功体験から、将軍になってからも、質素倹約を中心とした改革を行ったのだ。
吉宗は元々、父である光貞の4男だった。
兄3人中2人は健在であった為、普通なら紀州55万石の藩主になることは出来ず、鯖江3万石の小藩主で終わるところだった。
ところが、父、兄、兄が、1年のうちに相次いで急死した。
この為、棚ボタ的に紀州藩主になれたのだ。
だから、元々質素な生活をしていた吉宗としては、倹約が苦では無かった。
だから、質素倹約を実行できたのだ。
その結果、紀州藩は財政赤字を脱し、数十万両と言う余剰金を生み出すまでになったのだ。
しかし、よくよく考えて欲しい。
お金を使わなければ貯まる。
当たり前のことをだが、この事実の大前提にあるのは、収入が変わらなければと言うことだ。
つまり、国民全てが農民なら、コメを食べなければ貯まる。
空腹時に木の実などを食べて凌げば良いのだ。
しかし、木の実などが無く、飢えて作業効率が下がればどうなるか?
当然、収穫が減ることになり、予定通り貯まらなくなる。
更に悪くなれば、収穫が減り過ぎて貯まらないならまだしも、貯めたものを吐き出さなければならなくなる。
実は経済も同じで、収入が変わらなければ、使わなければ貯まる。
しかし、使わないことにより収入が減れば、使わなくても貯められなくなる。
国民全体が、お金を使わずに貯めようと考える。
この時、商売なら、売れなければ値下げするしかない。
値下げすれば、利益が減る。
利益が減れば、収入が減る。
収入が減れば、遣いたくでも遣えなくなる。
これが、経済の悪循環というヤツだ。
このことを吉宗が理解できていなかったから、享保の改革では、予想ほど効果が上がらず、結果的に失敗となった訳だ。
「そうなると、今の日本は国全体にディスカウントストアがあるから、良くないってこと!?」
友紀が山野の話をまとめるように言う。
「そう言うことだ。因みに、既に日本は、世界的に貧しい国になっている。中国人が日本で買い物をするのは、良い商品が中国より安いからだ。」
「中国より安いんですか?」
「そうだ。あれだけ観光客で中国人や韓国人が来てるんだ。日本の物価が高かったら、来れないだろう!?」
「そう言われれば、そうですね。」
友紀は、深く考えながらそう言った。
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