第8話 打合せ

校長は、一通り学校の説明をしてくれた。

そして、最後に、少し言い難そうに山野の意見を聞いた。


「そっち方面の経験が豊富な山野先生なら、我が校の現状は雰囲気だけで既に理解して頂いていると思いますが・・・・。」

「そうですね、荒れてる三流校ですね。進学校だった形跡は感じられますけど・・・。」


山野は、先ほど出会でくわした一件を思い出しながら、答えた。


「ええ、子供が減ると受験生が減ります。受験生が減ると学生数を確保する為に、どうしても合格ラインを下げなければならなくなる。合格ラインを下げると、どうしても学業に不真面目な子の合格も増えて、授業が荒れてしまう。授業が荒れると、ますます受験生が減る。この悪循環にハマっています。我が校は・・・・。」

「そうですね。」


山野は静かに頷いた。



「ここの理事長は、私の古くからの友人なんですよ。だから、なんとか立て直したいと思って、私も去年から校長の職を引き受けたんです。」

「そうだったんですか。」


校長は、この学校での勤めが長いと勝手に思い込んでいた山野にとっては意外だった。


「でも、1年間見て来て、私の手には負えないと言うことが分かりました。立て直すには教育だけじゃ無理な段階に入っています。既に経営も揺らいでいる状態で、だから堀井先生に相談させて頂いたんです。そしたら、うってつけの人材が居ると言うことで、山野先生をご紹介頂きました。」

「いや、私は、今回が初仕事だとお聞きになっていませんか?」

「聞いてますよ。でも、堀井さんは任せて大丈夫だと太鼓判を押されましたから、期待しています。」

「ははは・・・。」

「ははは・・・。」


余りの期待の大きさに、山野の笑いは引きった。

が、校長の笑いは爽快そのものだった。



「学校を立て直すには偏差値をあげるのが一番なんですよね。ドラマにもなったドラ◯ン桜みたいに、京大専科とか考えました?」


山野は、オーソドックスな案を冗談半分で振ってみた。


「ええ、うちの学校も特進クラスはあるので、試しに奨学金制度を創設して授業料0円にしたんですが、期待したほどの学生は集まっていません。」

「ま、そんなもんですよね。そう簡単にはいきませんよね」


冗談半分を真面目に返されて、山野は少し申し訳ない気分になった。

だから、真面目に話すことに切り替えた。



「先ずは、荒れた学生の更生が最優先課題だと考えられていますか?」

「いや、正直、今も申しました通り経営がかなり厳しいんです。指導を厳しくして、中退でもされたら存続問題になります。」

「となると、彼ら自身から変わろうと思わせないといけないんですね!?」

「そう言うことになります。」


山野も、自身の経験から分かっている。

この時代に荒れている子たちは、道が見えていからだ。

ただ、そんな子たちに、道を説いたところで、聞き入れて貰えない。

聞ける耳は、いつも付いている訳では無いからだ。

だから、タイミングが重要になる。

しかし、そんなタイミングが何度も巡って来る訳ではない。

結果、指導にはどうしても時間がかかるのだ。



「そうなると、内部改善より、外部伸長を考えられていますか?」

「はい。」


校長は、山野の問いに明確に答えた。

改革というものは、内と外がある。

内と言うのは、この場合、今居る学生の質を教育によって底上げすることだ。

外と言うのは、新しく魅力的な教育を初めて、優秀な学生を手に入れることだ。



自分自身でそう言ったものの、山野にはまだ考えがまとまっておらず、軽くうつむいて考えていると、今度は校長から話しかけくれた。


「私は元々、この京都の公立高校で校長をしてたんですが、山野さん、ご出身は?」

西宮にしのみやです。」

「京都の公立高校のことはご存じですか!?」

「いえ、殆ど知りません。勉強不足で申し訳ありません。」

「いえ、いえ。京都の高校には、3つのコースがあるんです。俗に特進とくしん普通ふつう特色とくしょくと言われるものです。」

特色とくしょくってなんですか?」

「ええ、スポーツや芸術、英会話などの特技を伸ばすことに特化したクラスです。」

「へぇ〜、珍しいですね。初耳です。」

「それで、これは私の考えなんですが、この特色コースを我が校にも導入してはどうかと考えています。」

「なるほど。一芸に秀でた学生を集めるんですね。それで、どんなコースを考えられているんですか?名前を売るとなると、野球とかサッカーとかですか?」

「いえ、いえ、違います。投資です。」

「えっ、とっ、投資ですか!?」


笑顔で校長に言われたが、山野はまさかと思った。

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