第7話 校長先生

山野と教師たちが言い争っているところに、山野の後ろから、60歳前後の好々爺とした男性が近付いて来た。


「どうしたんですか?廊下で大騒ぎして。」

「あっ、校長!!」

「川村先生、どうしたんですか?下の階まで丸聞こえでしたよ。」

「スミマセン。」

「それで、どうしたんですか?」

「そうだ、暴力団が不法侵入して来たんで、警察を呼ぼうとしていたんです。」


川村は、山野の顔を見ながら、校長にそう説明した。

校長が、その説明を本気にしかけたので、山野は慌てて訂正をする。


「暴力団?」

「ちっ、違います。」

「何言ってんの!こっちには写真と言うレッキとした証拠があります。」


そう言って、川村と呼ばれた女性が、自分のスマホを校長に見せた。

校長は、ポケットからメガネを取り出し、スマホにある写真と、山野を見比べた。


「確かに似てますね。」

「さっき白状したんです。自分だと言い切りました。」

「違うんです、校長先生。私、山野です。お電話でアポを取らせて頂いた・・・。」


やっとのことで、山野は校長先生に自分のことを告げられた。


「やまの?」

「はい、堀井さんからご紹介頂いた・・・。」

「あっ、コンサルティングの山野さんですか!?」

「そうそう。」

「お待ちしてました。約束の時間より少し早いので、ちょっとびっくりしました。」

「5分前行動が体に染み付いてまして。」


そう言って、なんとか校長に分かってもらえて山野はホッとした。

山野は、校長先生に促されるまま校長室に逃げ込んだ。




「あいつ、絶対怪しい!!」


校長に解散と言われて職員室に戻っても、川村は納得していなかった。

川村の下の名は祐香と言う。

皆さんも薄々気付かれていると思うが、先週末、山野とニアミスしたみはなの友人の祐香だ。

2人とも、そんなことは一切気付いていない。

祐香に至っては、華がぶつかった相手だと言われても、『はぁ??』と言う感じだ。

そもそも華が男性にぶつかってモタモタしていたことにすら気付いていなかったのだから。



さて、その祐香も、華に負けず劣らず見た目の偏差値は高い。

大きな目に、長いまつ毛は華と同じだ。

ただ、顔全体的には華と違ってスッキリしていて、本人が唯一気にしているのは、鼻が多少高過ぎるところだ。

こんな悩みも、平均点レベルしかない女子からすれば、贅沢と言われる程度だ。

また、マリンスポーツが趣味だと言うだけあって、四肢が長く、運動に裏付けされた美しい曲線を持ち、すれ違うと男子生徒からも目で追われる。

そして性格の方は、見た目の優雅さとは違って、思い込みが激しく、猪突猛進だ。

そんな祐香が、今日は学生にではなく、山野に対して鼻息を荒げていた。

その煽りを食らっていたのが、学年主任の木島だった。



「川村先生、彼は校長先生が依頼したコンサルらしいじゃないですか!?」

「でも、木島先生。アイツ、あの写真は自分だと認めたんですよ。暴力団だって認めたんですよ。」

「そう言われたら、確かにそうでしたね。」

「もしかして校長先生、騙されてるんじゃありません!?あたしはそれが心配で・・・。」

「まさか、何かの詐欺とか!?」


木島が祐香に続いてそう言うと、職員室内が大きく騒ついた。



その頃、校長室では、職員室での騒ぎをよそに、山野は校長と挨拶を交わしていた。


「改めまして。山野龍馬と申します。」

「校長の今井と申します。」


名刺交換が終わると、校長に促されて山野はソファに座った。

なんとか誤解が解けたと思った山野は、座ると同時に深く息を吐き出した。




「堀井先生から山野先生は、元警察官だと伺っておいて良かった。私も、あの写真だけを見たら、川村先生みたいに勘違いしていたと思います。」

「いや、お恥ずかしい。あんな昔の写真が今頃ネットニュースに出回るとは、思ってもいませんでした。」

「何年前ですか?」

「確か、4〜5年前だと思います。マル暴担当に配属されたばかりの頃で、舐められないようにと、見てくれだけでも強そうにしようと頑張っていた頃です。」

「なるほど。だから、気合いが入った格好をされてるんですな。」

「いや、ホント、お恥ずかしい限りです。」


そう言って、山野は頭をかいた。

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