旅館事件

旅館事件

「今日午後4時頃札幌市中央区で性別不明――」

「ポーンくん」

「あ」

「折角旅館に来てるんだし、テレビじゃなくて、あたしを見てよ」


 旅館の部屋にある小さいテレビでニュースを眺めていたら、つばめさんにリモコンで一方的に電源を切られた。


 僕たち3人は今、北海道札幌市にある定山渓温泉の旅館で食事を済ませ、温泉に入った後、部屋でくつろいでいるところだ。数時間前には事件現場に遭遇するというとんでもないアクシデントがあったものの、それもなんとか解決した、というより最早僕たちには祈ることしか出来ないため、僕たちは僕たちで楽しもうということで当初の予定通りのんびりしているという訳である。


「どう……? あたしの浴衣姿……?」

「素晴らしい」

「えへへ、ありがとっ」


 温泉上がりのつばめさんは浴衣姿で僕の目の前に立っているのだが、これがまあ素晴らしい。何が素晴らしいのかというと団子に丸められた艶やかな髪、火照った肌、綺麗な指、無防備な胸元、貴重な生足、何もかもだ。とにかくベリーエレガント。ちなみにエビ子は広縁(窓際の小さい机と二脚の椅子があるあそこ)で真っ暗な外を見て黄昏ている。僕らのやり取りは目にも耳にも入っていないようだった。


「ね、また真実と挑戦、やらない?」

 

 エビ子からつばめさんに視線を戻した直後に、つばめさんはそう言った。この前やったときには結局つばめさんに何か訊いたり挑戦させたりは出来なかったからまたやってみたいと思っていたが、まさか向こうから言ってきてくれるとは好都合だ。だから僕は「やろう!」と即答した。幸いここにゲーム機の類は持参していない。つまり今回は他の方法で質問する側を決めざるを得ないため「ジャンケンで決めよう!」僕はつばめさんが何か言う前に先に仕掛けた。


「ジャンケン? ま、あたしはこれでもいいけど?」

「いいんだね?」

「いいよ!」


 そういう訳で「真実と挑戦」セカンドステージ。


 僕は立ち上がり、気合を拳に込めて叫ぶ。


「最初はグー! ジャンケンポン!」

「ポン!」


 僕はグー。彼女は……チョキ。


「よっしゃああああああああああああああ!!!」


 叫んだ。エビ子がビックリしていたが気にしない、勝った。勝ったぞおおおおおおおお!


「真実か挑戦か!」

「挑戦!」

「即答っ!」

「負けたら挑戦って決めてるもーん」

「なんだとっ!」

「ふっふっふー。ヒミツ、暴けると思ったぁ?」


 くそっ……つばめさんはあまり自分のことは話したがらないからここで色々訊ければと思っていたのだけれども……仕方ない。


「一緒に寝てくれ!」


 これで妥協するとしよう!


「うん! お安い御用だよー!」

「何だお前ら、一緒に寝るのか! なら我も一緒に寝るぞ!」


 なぜかエビ子も便乗してきた。


「エビ子は別に……」

「やだああ! 我も一緒に寝るのだああああ!」


 仕方ないので、エビ子を真ん中に挟み、3人で同じ布団の中で寝た。なんてことだ、これではつばめさんと密着できないじゃないか! そしてそのまま何事もなく朝を迎えてしまった。


 そのため僕も非常に残念であるが、これ以上ネタになるようなことは何も無かったので、北海道旅行の記録はこれで終わりである。

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