第3話
目を開くと、真っ白い天井が見えた。ここは天国なのだろうか。
私の腕には細い管が通されており、その先には水のような液体袋が掲げられていた。どうやらここは病院のようだ。私は死んでいなかったのだ。口元には布切れが巻かれている。口でも切ってしまったのだろうか。
色々と考えていると、カツカツと足音が聞こえてきた。またアイツだろうか。思わず肩を強張らせた。オープンになっているので顔を見ようと廊下側を眺めていた。
病室の壁をトントン軽やかに叩く痩せた白くて綺麗な手を見て、私は安心する。
「アラン……」
「ナーラもう無理しすぎだよ……今回は本当に死ぬ一歩手前だったんだからね。僕かなり焦ったよ」
「ごめんね。だって、アイツ怒らすわけにいかないじゃない? キレたら誰も止められないって言うし……」
「でも、やっとナーラの体調不良の原因が分かったよ」
「えっ? 私何か大きい病気で死んじゃうの?」
「違うよ。ナーラは花アレルギーだったんだよ」
「でも今までもお花を見てもこんなこと一度もなかったわよ?」
「はぁ……それがアレルギーの怖いところでさ。本人がストレスを溜め込んでいたり、体が弱っている時にいきなり発症するんだ。だから、僕もナーラがお花好きだったから、まさかアレルギーだとも思わなかったんだ。気づくのが遅くなってごめんね」
「仕方がないわよ。私だってそんなこと予想もしなかったし。だから、この布で鼻と口を隠しているのね。でも、これからはお花を愛でることができないのね……残念だわ」
アランは考え込むように悩んでいた。
「ねぇ、毒を彼に処方して殺してこようよ。ちょうどうちの病院が今回騎士団の健康診察があるんだけど」
「やめてよ。アランが捕まったら私嫌よ」
「あーもう可愛いな。このままこの病室に監禁しちゃおうかな」
「アランと2人でいられるならどこでもいいけど……ここだと、またあの筋肉バカが私を見つけてお花を持ってくるんじゃないかな……あんなに辛い思いはもう嫌だもの」
「そうだよね。それに婚約者の僕がいるって何度説明しても全然聞き入れてくれないし。もう殺すしかないよ。ナーラを苦しめていた原因がアイツかと思い出しただけでも腹立ってきた」
「う……ん。でも……いくらアランが医者とはいえバレたら騎士団長殺しとか首斬り刑だよ。アランが死ぬのは嫌……」
「もうさ隣国に逃げちゃおうか。もう僕今すぐナーラと結婚したいんだ」
「アラン」
「ナーラ」
2人は抱き合い、口づけをしようとしたその時アランの腕に剣が突き刺さる。
「キャッ、アラン。大丈夫?」
私は誰がアランを傷つけたのか確認する。
「……騎士団長様」
「やぁ、ナーラ探したよ。ご両親もひたすら言おうとしないからさ、ちょっと君の家潰しちゃった。いいよね?もう俺の家で過ごすように手配済みだし。あっ両親はグルグル巻きにしてうちの家にいるからおいで。来ないとどうしようかな……そうそう、君に花を持ってきたよ、今日はスイセンにしたよ」
私はもう我慢ならなかった。花を受け取り、ニコリと笑みを浮かべる。
「今まで苦しめてくれてありがとうございます。ゲホッ。お花部分は頂きますので、葉の部分はシオン様が今お召し上がり下さい。子だくさんになるらしいですよ、ゲホッ」
「おっ、初めてのナーラからのプレゼントが子作りの葉など……感無量だな。俺は幸せだ。ナーラも俺にゾッコンになったようでうれしい限りだ」
嬉しそうに騎士団長様が葉をバリバリ言わせながら食べ始めると、独特の臭い匂いが病室を漂う。
食べ終わると、ゆっくりとナーラに近づき、気持ち悪い笑みを浮かべて押し倒した。
「ナーラッ!!」
アランが叫ぶと、ナーラはうっすらと微笑みを浮かべ片目を閉じた。
片目を瞑ったナーラを見て、今から何が起こるのかをアランは理解したのだった。アランは何も言わず頷いた。
「あーいい眺めだな。それに婚約者の目の前でサラを抱くとか異常に興奮するな」
騎士団長様がナーラに覆い被る。
「腹がっ……キュルュル」
急にお腹を抱え、覆いかぶさるのをやめてどこかへ消えていく。きっとお手洗いにでも行ったのだろう。けど、手足がしびれるのが先か意識昏倒となるのが先かどちらかはわからないが……
ナーラはアランの方へと駆け寄り、剣を抜く。
「大丈夫……血が出ているわ。アランの腕は命の次に大事なのに……」
「僕は、ナーラを救うことができるならこの命なんか惜しくない。また、君は無茶したね。お腹が痛くなるタイミングなんかは人それぞれなんだよ? もし抱かれてしまった後だったらどうするつもりだったんだ。とても心配したんだからねっ」
「ごめんなさい。でも、アランが言っていたもの。スイセンの毒は体が大きくて、脳が単細胞の奴にはよく効くって」
「そんな昔のことよく覚えていたね。さすがはナーラだ。さぁ、君のご両親を連れて隣国で幸せに暮らそう」
「治療院はどうするの?」
「実は隣国の王太子から大きな病院を建てるから来てくれないかって言われていたんだ。父さんと話し合っていたところだったから、何も問題ないよ。入院患者たちもそれを見越してもう誰も入院していないしね」
「だから、私しかいなかったのね。でも、私騎士団長様への傷害罪で捕まってしまうわ。だから、一緒にはなれない」
ナーラは涙を流し、アランを拒んだ。
「ハハハ、大丈夫だよ。スイセンの毒は神経系にもよく回るんだ。それに生のままあれだけバリバリ食べていたし、ましてや一番毒性の強い根の部分も食べていたから、記憶は確実にないと思うよ。それに生きていたとしても、別人レベルに仕上がるんじゃないかな?」
「そうかしら……なんか悪いことしちゃったなって今さらながら後悔してるのだけど……」
「そんなことない。ナーラは病気になって体調崩して生死をさまよいかけたんだ。君の家は潰されて、両親は縄で縛られているんだよ? これのどこが罪悪感を感じることがあるんだよ。自業自得じゃないか」
「まぁ、そうなんだけどね……自分の正義心が痛むの」
「ナーラは優しいなぁ。わかった。ならその罪を僕も一緒に背負ってあげるから。これからは嫌なことや辛いことは半分ずつ。嬉しいことや幸せなことは2倍に共有していこうよ」
「アラン……ありがとう。大好き」
「ナーラ愛しているよ。早く両親を助けに行こう」
2人は口づけをして、ナーラの両親を救い、両家とも隣国へと旅立ちました。
アランとナーラは無事に結婚して、有名なおしどり夫婦となったのでした。
~end~
幼馴染と婚約中なのに騎士団長が迫ってきます SORA @tira154321
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