第2話
騎士団長のリュシオンは、赤い100本のバラを持って今日もプロポーズにやってきた。昨日はガーベラ、一昨日はコスモス、その前はカーネーション、先日はもう何だったかすら覚えていない。私の部屋は花でどんどんと埋めつくされていた。
「ナーラ結婚しよう」
お断わりですと言いたいが、言葉が出ない。
「どうしたんだい。話すことができないほど俺に惚れてしまったかい?」
今度も違いますと言いたいが、言葉が出せないのは仕方がない。
こんなにも痩せて青白い顔の私を見てどういう思考回路をしていればそのような判断になるのだろうか。
私の父も、毎回花束はいらないので帰ってくれと押し返そうとするのだが、力任せに私の部屋まで押し入り勝手に花を飾るのだ。もはやこの人には常識という言葉は通じないのだろう。
しかし、花には罪がないのでこうして花瓶ばかりが増えていくのだけど、だれかこの筋肉バカに常識を教えてあげてと、もはや悲鳴に近い叫びを伝えたかった。
最近、本当に体調が悪くベッドに臥せっていることが多くなっていたので話すこともままならなかったのだ。
医師でもあるアランが私を診察してくれたが、原因がわからなかった。
そして、騎士団長様は今日もノックもなしに私の部屋に入ってきた。私の咳き込みが激しくなる瞬間だ。
「ゲホッゲホッ」
「大丈夫か、ナーラ」
珍しいことがあるものだ。プロポーズの言葉ではなく、初めて私の咳き込みに反応したのだ。今日なら話が通じるかもしれない。そう思うと声が出そうな気がしたので、頑張って声を出してみた。か細い声だったが、なんとか声になっていた。
「……それ以上、ゲホッ、近寄らないで……ゲホッ」
近寄るなと言ってるのに、コイツはなぜ私の目の前にいて今にも口づけしそうな距離まで詰めてきたのだろうか。さすがに、頭痛もひどいし正義感のかけらも失くしてしまい、殺意すら覚えてしまう。
苛立ち始めると、途端に咳き込みがひどくなり、呼吸が浅くなり息が苦しくなってきた。
「はぁ、お医者さ……ゲホッ、呼んで」
「えっ?なんだって。神父様を呼んでくれだって?おージーザス。そんなにも早く式を挙げたかったなんて俺は嬉しい限りだよ。やっとプロポーズの答えをくれたんだ。今日はなんてすばらしい日なのだろう」
私がこんなに苦しんでいるのにコイツはふざけているのだろうか。怒りもあってさらに頭がぼっーとしてきた。私はこのまま死ぬんだと自覚し目を瞑ろうとしたその時、アイツはまだ何やら喋り倒していた。
「君のような病弱な令嬢などと結婚する男などいないだろうし、本当にナーラは運がいいよ」
なぜ人が死にそうな時にコイツは嬉しそうに私を抱きかかえて、クルクルと回っているのだろうか。やはり、頭がおかしいのだろうか。頭は痛いわ、苦しいわ、吐き気はしてくるわもう最悪のコンディションである。
絶対死んだら呪ってやる。そう誓い私は目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます