幼馴染と婚約中なのに騎士団長が迫ってきます
SORA
第1話
侯爵家令嬢のサラベル・ナーラは、幼馴染のクベルト・アランと婚約していた。
ある日、1人の銀髪の大柄な男性が昼間から酒場にて飲み荒らしていたのか道で寝転がっているのを発見した。ナーラはこのままでは邪魔になると思い、その男性に声を掛け、起こすことにした。
「すみません、起きてください。ここは寝るところではありませんよ」
「……そんなこと関係ないんだ。俺は俺みたいな奴はどうなってもいいんだ」
「あなたがどうなろうと関係ありませんが、ここは通行人が多くみなさんも困っていますので」
すると、弱気な態度だった男性は、急に声を荒げて怒り出した。
「おいっ、お前誰に向かってそんな偉そうな口を叩いている。俺と視線を合わせた奴は死ぬと言われているんだぞ。強さでは俺に勝るものはいないと評判の第三騎士隊団長ケトル・リュシオンだぞ」
自分で評判とか言ってしまうとかちょっと痛い人なのだということを理解したのと同時に、名前を聞いてある噂を思い出した。
「第三騎士隊団長は、腕っぷしは強いが頭が弱い。それに本人は最強を名乗っているらしいが、本当に最強なら第1騎士隊、もしくは近衛騎士に任命されているはずなのに……誰が諭しても本人は納得しない、厄介な男だと……」
私は声を掛けてはいけない人に絡んでしまったことを後悔した。
(だから、みんな遠目で見ているだけで近寄らなかったのね。おかしいと思ったわ)
こういう時の自分の正義感が嫌になる。さてと、このまま放置したいのはやまやまだけど、小さい子が今にも泣きそうだし、私が何とかするしかないわね。
私は覚悟を決め、騎士団長様の腕を持ち上げ、無理やり起こしてみようと試みたがやはり、大柄で筋肉マッチョなだけあって、腕すら持ち上げるのも難しかった。
腕を触れられたのが意外だったのか、私と目が合った。彼は目をパチクリとしたかと思うと何度も瞬きをし始めた。砂でも目に入ったのだろうか。心配になり、声を掛ける。
「大丈夫ですか? 目にゴミでも入りましたか?」
私はハンカチを彼に手渡そうとすると、ハンカチごと手を引っ張られ彼の胸板に突っ込んでしまった。そのまま抱きしめられてしまう。慌てて離れようとするもしっかりとホールドされているために動くことができない。
周囲を見渡しても、かわいそうという憐れみの視線を投げかけるだけで、誰も助けてくれない。
「離していただけませんか?」
「君は俺の女神様だ。そうか。俺は君に会うために男爵令嬢レイナと婚約解消することになったんだな。あーそうか。神よ。素敵なご縁をありがとうございます」
何やら不穏なことを言いだしているが、この人頭は大丈夫だろうか。昼間から飲んでいたのは婚約解消したからなのねってそんなところを納得している場合じゃない。私にはアランがいるのだから説明しないといけない。
「あの、とりあえず離していただけないでしょうか。わたくし婚約中の身ですので困ります」
「いや、問題ない。先程婚約を解消されたから困ることはないぞ」
「いえ、わたくしがクベルト治療院のご子息であるクベルト・アラン様と婚約しているのです」
「あーあの治療院は、コンヤクの実を処方するんだったな。それがどうかしたか? どこか怪我でもしたか」
私は頭が痛くなってきた。なぜ「婚約」という単語がこうもわけもわからない変換ばかりされてしまうのだろうか。それにコンヤクの実って聞いたこともないわよ。この人の頭の中どうなっているのかしら。
どうすればいいか悩んでいると、金髪のこの地域では珍しい黒目という特別な瞳を持ったアランが目の前で仁王立ちしていた。
いつもどんな状況でも笑顔を絶やさない彼が珍しく、苛立っているようだ。目の奥が笑っておらず、怒涛の色を滲ませていた。
「たくさん人が集まっていたので何事かと思えば、ナーラじゃないか。何をしてるんだ?」
「あのね、騎士団長様がここで寝ているから起こしたらこのような事態に……」
「そうかい。もう起きているようだから、ナーラ行こう」
アランが私の体を抱きかかえると、再度騎士団長様にも引っ張られてしまい私もアランも騎士団長様の上に座り込んでしまった。
ピキリという青筋を立てた音が聞こえそうなくらい、アランは憤慨しているようだ。口調が荒くなっている。
「騎士団長様、僕の婚約者を離してくれないか」
「今日は、なぜそんなにコンヤクの実の話ばかり聞くのだろうか。そうか、今日はコンヤクの実の祭りなんだね。あー君はナーラというのかい。今から祭りへと行こう」
周囲の人たちもさすがにこのお祭り発言にドン引きしていたようである。集まっていた人だかりはばらばらに消えていき、私たち3人だけになった。本当にこの人噂以上にヤバイ。どうすれば言葉が通じるのだろうか。
「ナーラとアランじゃないか。ほら何をしている?帰るぞ」
「あっ、お父様」
私がお父様と呼んだ瞬間、いきなり騎士団長様は起立して、私の父に敬礼をし始める。
「ナーラのお父様ですか。初めまして。俺、いや私第3騎士隊団長のケトル・リュシオンと申します。この度、ご令嬢とご結婚させていただきたく……」
「あー悪いが、話を聞く時間すらないのだ。私達は至急家に帰らねばならんのだ」
「あっ、はい……しかしですね……」
お父様は話が途中にもかかわらず、話し続けている騎士団長様を無視して、私たちをその場から連れ出した。
私はお父様に尋ねた。
「お父様、今日はどうされたのですか?」
「ナーラ、君があのバカシオンに絡まれていると聞いて、職場から飛び出してきたのだよ。アランくんもいると言うのに何をしているんだ」
「アランは助けに来てくれたのよ。だから、アランを悪く言わないで」
「アランは医者としての腕が良くても、力は女性と同じくらいか弱いからな……ナーラを守れるようにもう少し力を身につけろっ」
「はい……すみません」
アランは自分の腕を眺めショックを受けているようだったが、父はお構いなく続けた。
「ナーラ、アイツと会話が成り立つと思うなよ。話すだけ時間の無駄だ。今後は無視するように」
「あっ、はい」
今後ってもうあの人と関わるのは二度とごめんだわと思っていたナーラだったが、次の日から毎日騎士団長様がやってくることになったのだ。
騎士団長様は毎日花束を持ち我が家に訪れるようになったのだが、なぜか騎士団長様が来てからというもの私の体調はどんどんと悪化していくのであった。
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