第2話 祖父の秘密
祖母のタンスを直すと私は再びあの工具箱へと道具を戻した。しかし私は工具箱の前からなかなか離れられずにいる。そう、あの手紙がどうしても気になってしまうのです。読みたい!でも他人の手紙を勝手に読むなんて流石に身内でも許されない事だ、しかも開封されてもいない手紙なんてもってのほか!そう自分に言い聞かせ強く瞼を閉じその場離れた。
その日の夕飯はすき焼きだった牛肉が苦手な私の為に豚肉で作られたすき焼きは懐かし味がした。「おじいちゃんも豚すき焼き大好きだったよね」との母の言葉に忘れようとして記憶の隅に押しやっていたあの手紙の差出人の名前を思い出してしまった。木下佳代一体この人はおじいちゃんとどんな関係だったのだろう?不意に私は木下さんって知ってる?っと口をついて出てしまった。
慌ててなかった事にしようとした私に祖母が「木下のてる坊でしょなんでゆきが知ってんの?」っと不思議そうな顔をする
てる坊?いや違うよ!佳代だよとも言えず私はおじいちゃんの工具箱に古い年賀状が挟まっていたからと遠からず近からずの嘘をついたがおばあちゃんはそのまま木下さんの話を始めた。
「木下のてる坊って言っても私は一度も会ったことないのよ、おじいちゃんが若い頃まだばあちゃんと結婚する前の話で東京に何年か働きに出でた時に仲良くなった友達で早くに亡くなったって聞いたけど年賀状なんてあったっけ?」と首を傾げた。慌てて話を変えその場を乗り切ったが祖母がその年賀状を探しに工具箱を見に行くのではと気が気じゃない私は今日は疲れたし眠いわと大袈裟にアクビをし部屋に戻るねと言ってその場を離れ工具箱の手紙をそっと持ち出した。
部屋に戻り持ち出した手紙をテーブルに並べると色褪せた手紙は4通あってその全てが未開封のままになっていた。
私は並べた手紙をどうすることも出来ず眺めるだけ眺めとりあえず枕の下に隠して眠りについた。
朝の目覚めとともに再び手紙を眺める。帰省中にこの手紙をどうするか決めよう。朝の冷え切った自分の部屋から暖房の入った暖かい居間へと移動し祖母の作ってくれた朝ごはんをゆっくり食べながら それとなく祖父の事を探りを入れてみた。
「おじいちゃんって昔は何やっていたの?」
「さぁねぇ小学校を卒業して直ぐに働きに出たって言ってたけど」
「小学校卒業って?」
「おじいちゃんの頃は小学校までが義務教育だったって、おじいちゃんのお母さんはカラダが弱く薬代もかかるし妹達にはみじめな思いをさせたくない、それなら自分が働いて家にお金を入れれば少しは楽になると思い頑張って働いたって話してたなぁ」
私は心底今の時代に生まれて良かったと思う。小学校卒業から働くなんて想像すらしたくない。
「おじいちゃん苦労したんだね」
「あの時代はみんながみんな苦しかったから人の事を同情する余裕もなかったしねぇ」
祖母は遠くを見つめ昔を思い出しているようだった。
無筆の紳士 千未子 @azaka87
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