第34話

休みは,ずっと浴びるほど音楽聴いて過ごした.

乾いた頭に,身体に,沁み込むように…

音程に溺れて,

歌詞を貪った.

音楽の力ってすげぇ.


ジャンルは違うけれど,

あの人たちにとって,吹奏楽が多分,

俺にとってのあれと一緒なんだ.


何だか狂気じみて,

とどまる事が出来ない,

止む事無く降り続ける音,

音楽に病んでる.


狂おしい程

音楽の虜になる.


俺の力が必要なら,

何だって出来るような,

そんな気持ちだった.


サクラと,音楽室の前.

一緒に楽譜を見る.


…なにこれ.

スコアが読めねぇ.


リコーダーとか、合唱とか、

楽譜見てきたはずなのに…

楽器とか無理じゃん。


「サクラぁ。

すげぇやる気満々で来たけど、

1カ月で楽譜見られるようになって、

楽器するとか、まじでありえねぇわ。


要は音ゲーやリズム系と一緒でしょとか

思ってたけど無理。」


「うん、分かってる。」

サクラが仕方ないって顔して言う。


「何で、あんな無茶を堂々と言った?

意地悪?」


「違うっ。」


「じゃぁ何で…」


いつの間にか、八雲が来てたようで、

「先輩方、つんつんし合わないでくださいよ。」

と言った。


「なっ…!」

何言ってんの?

と思ったけれど、

その言葉には、

うるさい、黙って、静かに、

の言葉が込められているようだった。


フルートとクラリネットのハーモニーが流れる。


音が、

やんだ。

中から、コノハ先輩が呼ぶ。


3人で入ると、

「クルミがのってくると走るから、

メトロノームのリズムを教えてあげて。」

とコノハ先輩が言う。


いきなり走るの?

と思うと、

「アカペラで歌う時にノッテくると、

速くなったりしない?

そういう時に、走るって言うのよ。」

サクラが言った。


「サクラちゃんと八雲くんは楽譜見てて。

そこの男の子がクルミの肩をメトロノームと

一緒のリズムで叩いて。」

とコトハ先輩が言った。


え…俺が?

八雲の前で…?

本当に殺されるんじゃないかと思った。


「腕は動かすから、首に近い肩で。」

コノハ先輩が言う。


もう八雲の方は見られなかった。

恐ろしすぎて…


突然,叩かれたら嫌だろうなと思って,

クルミと目を合わせて、

自分の肩を叩いて、

クルミの肩を指差す。


クルミが頷いて、片手を縦にした。


メトロノームが打つ通りに肩を叩く。

ドア前で聴くよりも綺麗に聴こえた。


「楽譜は覚えてる。

次は僕が拍を知らせられる。」

と八雲が言った。


「いつもドア外にしかいないのに?」

コノハ先輩が言う。


只ならぬ空気を感じてか、

クルミは姉さんと八雲を交互に見ていた。


何だ、これは…

ちょっと俺は当て馬にされたんじゃないのかと思った。






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