第33話

「これ,ありがとね.

また月曜.」

イヤホンを返した.


「うん,またね.」

リョウが手を振って歩き出した.


バス停に座って,スマホの電源入れた.


リョウのスマホ,言うほど

そんなに立ち上がり時間がかかんなかったな~.


ゲーム入れてると重いし,容量圧迫する.

同じ事の繰り返しなんだけど,

単調で,何も考えなくて良くて,

レベルが上がって,数字が増えただけ,

何か安心する.

上がり緩慢だけど…

時々,知らないやつとゲームの中の会話して,

周回した?とか,あれ持ってる?とか,

それこそガチャゴミひいたわとか,

どうでもいいやり取りして,

何だか満足して終わる.


あ,やっと起動.

ロクさんって言ったよな.

EEEで『ロク』って検索掛けて,

マイウェイブで動画を拾う.


公式チャンネルあるじゃん.


イヤホン付けたら,後悔した.


家帰って聴けばよかった.


何で,この場所で聴いちゃったんだろう.


低く落ち着いた声が,

感情のせて,

歌詞が自分とシンクロして,

メロディーが心を揺さぶる.

心臓がつかまる.




頭抱えて,崩れ落ちた.




ルカとハヤトと,

もうこの場にいない.

あの時の気持ちが蘇って,

二度と戻らない時を想うだけだった.


あぁ,こんな所で泣けない.


だけど,もうなにもかも遅すぎて,

両手で顔を覆った.


隣に誰か座った気配がして…

俺を胸に寄せた.


「大丈夫?」

リョウだった.


「僕ノーマルだからね.」

背中,ポンポンしてくれながらリョウが言う.


「俺も女の子が好き.」


「胸貸すのとか,女子にもした事ないのに.

とりあえず,今はイヤホン外して.」


「うん.」

言われた通りにイヤホン耳から外した.


「何だか,こうなるような気がした.

流れ的に.

だけど,多分ユウの事だから,

下手なこと言っても,

バス乗ったら聴いちゃうだろうなって思って.


ちょっと見てたんだよ.」


「かっこいいな.」


「茶化さないよ.

落ち着いたら言って.」


「塾は?」


「無いって言ったよ.」


「そうだった.」


周りの人の声が聞こえて,

車やバスの音が聞こえて,

時々背中がポンポンした.


「大丈夫.

落ち着いた.」


「そっか,良かった.」

リョウの目が優しかった.


「マスクは持ってるの?」

リョウが言う.


「うん,あん時返さなかった分がカバンに入りっぱ.」


「じゃあ,いいね.

次のバスくるまで一緒にいようか?」


「いや…

本当に大丈夫.

ちょっと恥ずいから,

1人で考えたいかも…」


「ん~分かった.

本当に大丈夫?僕帰るよ?」

リョウが念押し確認をする.


「うん.

本当に有難う.

いてくれて良かった.」


「気をつけてね.」

リョウが手を振って背を向けた.

見えなくなるまで見ていた.












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